退職所得控除の「10年ルール」で、中小企業の退職金設計はどう見直すべき?

人事労務に関するFAQ

退職所得控除の「10年ルール」で、中小企業の退職金設計はどう見直すべき?

目次

この記事でわかること

  • 退職所得控除の調整規定が見直された経緯と、いわゆる「10年ルール」と呼ばれる理由
  • 企業型DC・iDeCoの一時金と退職金を両方受け取る従業員にどのような影響があるか
  • 2026年1月からの適用開始に向けて、中小企業が確認すべき実務対応
  • 従業員への説明で誤解を招かないためのポイント
  • 公開前に一次情報で確認すべき事項

結論

令和7年度税制改正により、企業型DC・iDeCoの老齢一時金を受け取った後に退職金(退職手当等)を受け取る場合の「勤続年数の重複排除」を判定する調整期間が、従来の4年以内から9年以内に延長されます。2026年1月1日以後に支払われる一時金・退職手当等から適用されるため、退職金規程や従業員への説明資料を早めに点検する必要があります。

退職所得控除の調整規定見直し(10年ルール)とは

退職所得控除は、勤続年数に応じて退職所得から一定額を差し引ける仕組みで、退職金にかかる税負担を軽減する役割を持っています。企業型DCやiDeCoの老齢一時金を受け取った後、同じ勤続期間を通算するような形で会社から退職金(退職手当等)を受け取る場合、勤続年数を重複してカウントしないよう「調整規定」が設けられています。

これまでは、DC一時金の受給から4年以内に退職手当等を受け取った場合にこの調整規定(重複排除)が適用される仕組みでした。令和7年度税制改正(所得税法等の一部を改正する法律、令和7年法律第13号)により、この調整期間が4年以内から9年以内に延長されます。適用は2026年1月1日以後に支払われるDC一時金、および同日以後に支払われる退職手当等が対象です。調整期間が実質的に「5年」から「10年」に延びる形になることから、実務上「10年ルール」と呼ばれています。

あわせて、退職所得の源泉徴収票について、これまで一部で提出が省略されていたケースを含め、すべての居住者分を税務署へ提出することが一律に義務化される見直しも、同じく2026年1月1日以後に提出する源泉徴収票から適用される予定です。本記事作成時点で確認できた範囲の整理であり、詳細な条文・施行日は公開前に国税庁・財務省の一次情報でご確認ください。

なぜ中小企業の実務で重要なのか

中小企業では、退職金の一部または全部を企業型DCでまかなっている企業や、企業型DCと確定給付企業年金(DB)・自社の退職一時金を併用している企業が少なくありません。従業員が60歳でDC一時金を受け取り、65歳の定年時に退職一時金を受け取るという受給パターンは、これまでは調整期間(4年以内)の対象外であったため、退職所得控除をそれぞれの受取時に別々にフル活用できるケースがありました。

今回の見直しにより、この一般的な受給パターンの多くが新たな調整期間(9年以内)の対象に含まれることになり、退職手当等を受け取る際に控除額が圧縮される可能性があります。従業員本人の手取り額に直接影響する変更であるため、制度の周知が不十分なまま従来どおりの説明を続けると、退職時になって「聞いていた説明と違う」という不満やトラブルにつながりかねません。

実務上起こりやすい課題

  • 自社の退職金制度がDC・DB・自社積立のどの組み合わせで、どの受給パターンが該当するのか整理できていない
  • 退職金規程や従業員向け説明資料が、旧ルール(4年以内)を前提とした記載のままになっている
  • 企業型DCの運営管理機関からの案内と自社の退職金規程の記載内容にズレがないか確認できていない
  • 制度変更を従業員にいつ、どのように説明すべきか判断がつかない
  • 税務上の論点であるため、社内の人事労務担当者だけでは正確な影響を判定しきれない

課題別の対応策

自社の受給パターンの整理

まず、自社の退職金制度が企業型DCのみか、DC・DB・自社積立のいずれを組み合わせているかを確認し、従業員がDC一時金と退職手当等をどのようなタイミングで受け取ることが想定されているかを整理します。定年年齢とDC受給開始年齢の組み合わせによっては、新ルールの適用対象になるかどうかが変わります。

規程・説明資料の更新

退職金規程や従業員向けの説明資料に旧ルールを前提とした記載がある場合は、2026年1月以後の適用ルールに沿った内容へ更新します。企業型DCの運営管理機関が提供する説明資料と、自社独自の退職金規程・案内資料の記載に矛盾がないかもあわせて確認します。

専門家との連携

退職所得控除の計算は個々の受給履歴によって結果が変わる税務上の論点であるため、社内の人事労務担当者だけで判断せず、顧問税理士や社会保険労務士に自社の制度を踏まえた影響の確認を依頼することが望まれます。

具体的な対応ステップ

  1. 自社の退職金制度(企業型DC・DB・自社積立の組み合わせ)と、従業員の一般的な受給パターンを整理する
  2. 定年年齢とDC受給開始年齢の組み合わせから、新しい調整期間(9年以内)に該当する従業員がどの程度いるかを把握する
  3. 退職金規程・就業規則・従業員向け説明資料の記載内容を点検し、旧ルールの記載がないか確認する
  4. 企業型DCの運営管理機関に、2026年1月以後の制度変更に関する最新の案内資料の有無を確認する
  5. 顧問税理士・社会保険労務士に、自社の制度を前提とした影響の確認を依頼する
  6. 制度変更の内容と自社の対応方針について、従業員への説明時期・方法を検討する

改正前後の比較

項目改正前改正後(2026年1月1日以後適用)
調整期間(重複排除の判定期間)DC一時金受給から4年以内DC一時金受給から9年以内
影響を受けやすい受給パターン4年を超える間隔がある場合は対象外になりやすい5年〜9年程度の間隔でも対象になるケースが増える
退職所得源泉徴収票の提出一部で提出が省略されるケースがあったとされるすべての居住者分の提出が一律義務化される予定
申告書等の保存期間7年10年に延長される予定

注意点・法的リスク

本記事で紹介した改正内容は、令和7年度税制改正として法律が成立している事項ですが、具体的な計算方法や源泉徴収票提出義務化の詳細な運用については、本記事作成時点で国税庁・財務省の一次情報本文を直接確認できていません。特に、自社の退職金制度における実際の税額への影響は、従業員ごとの勤続年数・受給時期によって異なるため、断定的な説明を行わず、必ず税理士等の専門家に個別の試算を依頼することをおすすめします。制度変更を従業員に説明する際も、「控除額が必ず減る」といった一律の説明ではなく、個々の受給パターンによって影響が異なる旨を丁寧に伝える必要があります。

中小企業ならではの対応方法

専任の税務・年金担当者を置いていない中小企業では、企業型DCの運営管理機関や顧問税理士からの案内を待つだけでなく、自社から能動的に「自社の退職金制度は今回の改正の対象になるか」を問い合わせることが実務上の近道です。退職金規程が古いまま更新されていない企業も多いため、この機会に退職金規程全体を見直し、DC・DB・自社積立の役割分担や受給時期の目安を改めて整理しておくと、今後の制度変更にも対応しやすくなります。

まとめ

退職所得控除の調整規定は、2026年1月1日以後に支払われるDC一時金・退職手当等から、調整期間が4年以内から9年以内に延長されます。中小企業は、自社の退職金制度がこの改正の影響を受けるかどうかを整理し、規程・説明資料の更新と、専門家への確認を早めに進めることが重要です。

HRCへの相談案内

退職所得控除の見直しは税務上の論点ですが、その背景には「退職金をいつ、どのように受け取ってもらう設計にするか」という、自社の退職金制度そのものの設計課題があります。企業型DCと自社の退職一時金・確定給付企業年金をどう組み合わせるべきか、定年年齢や再雇用後の処遇とあわせてどう見直すべきかは、税務の視点だけでなく人事制度全体の視点から検討する必要があり、自社だけで判断するのは容易ではありません。

現状の退職金制度がどのような設計になっているかを確認する「制度分析」から始めるのか、DC・DB・自社積立の役割分担を見直す「制度設計」から着手するのかは、企業ごとの状況によって異なります。有限会社ヒューマンリソースコンサルタントでは、中小企業の退職金制度・嘱託再雇用制度の設計を含めた人事制度全体の支援を行っています。自社の退職金制度の見直しについて相談したい場合は、お問い合わせページよりご連絡ください。

関連するよくある質問

すべての企業型DC加入者が影響を受けますか。

影響の有無は、DC一時金の受給時期と退職手当等の受給時期の間隔によって異なります。間隔が新しい調整期間(9年)の範囲内に収まる場合に影響が生じ得るため、一律にすべての加入者が影響を受けるわけではありません。

2026年1月より前に退職金を受け取った従業員にも適用されますか。

改正は2026年1月1日以後に支払われるDC一時金・退職手当等から適用される予定であり、それより前に支払いが完了している場合は原則として対象外と考えられます。個別の判断は税理士にご確認ください。

自社に企業型DCがなく、退職一時金のみの場合も関係がありますか。

今回の調整規定は、DC一時金と退職手当等を両方受け取る場合の重複排除に関する見直しです。企業型DCを導入していない企業では、直接的な影響は生じにくいと考えられますが、自社の制度を前提に個別にご確認ください。

従業員への説明はいつ頃行うべきですか。

適用開始が2026年1月1日であることを踏まえ、対象となり得る従業員がいる場合は、規程・説明資料の更新が完了した段階で、早めに周知することが望まれます。

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公的情報源・参考資料

    本記事の内容は2026年9月5日時点で確認できた二次情報(税理士法人の解説記事等)に基づいています。調整期間の年数・施行日・源泉徴収票提出義務化の詳細は、公開前に必ず国税庁・財務省の一次情報でご確認ください。

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