HR NEWS / 2026.08 第1号
【2026年8月1日号】最低賃金・賃上げ・育休|人事ニュース5選
今回、最も優先して確認したいのは、2026年度の地域別最低賃金改定の目安です。全国加重平均は、現在の1,121円から55円引き上げられ、1,176円となる見通しが示されました。ただし、これは都道府県別の確定額ではありません。中小企業には、確定を待つのではなく、人件費の試算、賃金表の確認、価格転嫁や生産性向上策の検討を同時に進めることが求められます。あわせて、賃上げ、男性育休、採用市場、人材育成に関する最新調査を実務の視点から解説します。
📌 この記事でわかること
- 2026年度の最低賃金は、全国加重平均1,176円となる目安が示されたこと
- 主要企業の春闘賃上げ率は5.18%で、前年を下回っても高水準にあること
- 男性の育児休業取得率が初めて50%を超えたこと
- 有効求人倍率が1.18倍となり、業種によって求人動向に差があること
- 人材育成に問題があるとする事業所が80.1%に達したこと
1. 2026年度最低賃金、全国加重平均1,176円となる目安を答申
🗓 公表日:2026年7月28日/厚生労働省・中央最低賃金審議会
中央最低賃金審議会は、2026年度の地域別最低賃金改定について、Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円の引上げ目安を答申しました。目安どおりに改定された場合、全国加重平均は現在の1,121円から55円上昇し、1,176円となる見通しです。前年度の引上げ実績を下回るものの、約4.9%に相当する高い引上げ水準です。ただし、1,176円は全国一律の最低賃金でも、都道府県別の確定額でもありません。今後、地方最低賃金審議会の審議を経て、各都道府県労働局長が正式な金額と発効日を決定します。最低賃金法上、使用者は地域別最低賃金以上を支払う必要があり、パート、アルバイト、契約社員を含む原則すべての労働者が対象です。
🎯 このニュースの3つのポイント
1,176円は確定額ではなく、人件費試算の基準です
解説:今回示されたのは中央最低賃金審議会による「目安」であり、最終的な地域別最低賃金は都道府県ごとに決まります。Aランクは54円、B・Cランクは56円の引上げ目安ですが、地方審議会が目安を上回る答申を行う可能性もあります。まず、パート・アルバイトを含む全社員について、基本給と最低賃金の算定対象となる手当を基に時間換算額を一覧化してください。そのうえで、現行額に少なくとも目安額を加え、対象人数、月間増加額、社会保険料を含む年間人件費への影響を試算しておく必要があります。
最低賃金直上だけでなく、上位層との賃金差も確認します
解説:最低賃金に近い社員だけを引き上げると、新人と経験者、一般社員と指導担当者の賃金差が縮小する「賃金の圧縮」が起こります。経験や責任の違いが処遇に表れなくなると、既存社員の不公平感や離職につながりかねません。最低賃金対象者を確認した後は、その上位の号俸や等級まで影響を試算し、必要に応じて賃金表全体を調整してください。昇給原資が限られる場合は、一律の増額だけでなく、役割、技能、資格、評価結果に応じた配分を組み合わせ、社員に説明できる根拠を整えることが重要です。
発効日前に賃金改定と社内周知を完了させます
解説:正式な地域別最低賃金と発効日が公示された後は、発効日以降の労働分から新しい最低賃金が適用されます。月途中で発効する地域では、給与計算期間と発効日が一致しない場合があるため注意が必要です。確定後すぐに、賃金台帳、雇用契約書、労働条件通知書、求人票、給与計算システムの設定を確認してください。最低賃金を下回る合意は無効となり、地域別最低賃金違反には50万円以下の罰金が定められています。正式決定後に慌てないよう、8月中に試算と改定案の準備を進めることをお勧めします。
2. 主要企業の春闘賃上げ率は5.18%、3年連続で5%台
🗓 公表日:2026年7月31日/厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」
厚生労働省が公表した2026年の民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況によると、平均妥結額は18,167円、現行ベースに対する賃上げ率は5.18%となりました。前年の18,629円、5.52%をそれぞれ下回りましたが、平均妥結額は2年連続で18,000円台、賃上げ率は3年連続で5%台を維持しています。集計対象は、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上で、労働組合があり、妥結額等を把握できた428社です。このため、5.18%をそのまま中小企業の賃上げ相場とみなすことは適切ではありません。一方、大企業の高水準な賃上げは採用市場や取引先企業の賃金期待に影響するため、中小企業も自社の支払能力と人材確保の両面から賃金方針を検討する必要があります。
🎯 このニュースの3つのポイント
5.18%は義務でも、中小企業の直接的な相場でもありません
解説:今回の集計は、大企業かつ労働組合のある企業が対象です。中小企業が同じ率で賃上げしなければならない法的義務はありません。自社の賃上げ率を決める際は、売上高だけでなく、粗利益、人件費、労働分配率、価格転嫁の進捗、今後の採用計画を確認する必要があります。ただし、求職者や社員は大企業の賃上げ報道も見ているため、「実施できない」で終わらせず、自社がどの範囲なら継続できるかを説明することが大切です。金額、率、実施時期、対象者を分け、複数の賃上げ案を比較してください。
定期昇給とベースアップを分けて管理します
解説:定期昇給は、年齢、勤続、能力、評価などに応じて賃金表上の位置を上げる仕組みです。ベースアップは、賃金表そのものの水準を引き上げる対応です。両者を区別せず「賃上げ率」だけで管理すると、制度上の昇給と物価・採用相場への対応が混在し、翌年度以降の原資計画が不明確になります。給与改定時には、定期昇給分、ベースアップ分、最低賃金対応分、個別調整分を分けて集計してください。社員への通知でも内訳を示すと、会社がどのような考え方で処遇を決めたのか伝わりやすくなります。
賃上げを評価制度・生産性向上と結び付けます
解説:原資の裏付けがないまま固定費だけを増やすと、賃上げの継続が難しくなります。賃金改定と同時に、各等級に期待する役割、成果、技能を明確にし、評価結果が昇給へ反映される仕組みを整えてください。価格転嫁、業務の標準化、設備投資、業務分担の見直しなど、生産性を高める施策も必要です。賃金水準だけでなく、「何ができれば昇給するか」を社員が理解できる状態にすると、人件費の増加を能力向上や業績改善につなげやすくなります。人事制度の見直し手順も併せて確認してください。
3. 男性の育児休業取得率が初めて50%を超え、50.9%に
🗓 公表日:2026年7月31日/厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」
厚生労働省の令和7年度雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は50.9%となり、前年度の40.5%から10.4ポイント上昇しました。調査開始後、初めて50%を上回っています。女性の取得率も88.3%で、前年度の86.6%から上昇しました。企業調査では、女性の正社員・正職員に占める総合職の割合が41.0%となり、一般職の40.1%を初めて上回りました。女性管理職比率は部長相当職9.2%、課長相当職13.2%、係長相当職20.9%です。育児休業の取得拡大は、規程を整備するだけでなく、代替要員、引継ぎ、復帰後の配置、評価の公平性まで含めた運用体制が必要な段階に入ったことを示しています。
🎯 このニュースの3つのポイント
男性の育児休業を例外ではなく通常の人員計画に組み込みます
解説:男性の取得率が50%を超えたことで、育児休業は一部の社員だけが利用する制度ではなくなっています。中小企業では一人の休業が業務へ与える影響が大きいため、申出後に対応を考えるのでは遅れます。主要業務の手順書、担当者間の相互代行、取引先への連絡方法、権限移譲、復帰時の面談をあらかじめ定めてください。本人または配偶者の妊娠・出産の申出を受けた場合には、制度の個別周知と取得意向の確認が必要です。取得を控えさせるような説明は認められないため、上司向けの対応手順も統一する必要があります。
休業取得によって評価や昇格で不利益が生じないよう確認します
解説:評価期間中に育児休業を取得した社員について、勤務していない期間の成果がないことだけを理由に、機械的に低評価とする運用は避ける必要があります。実際に勤務した期間の目標、成果、行動を基準に評価できるよう、目標の再設定や評価対象期間の調整ルールを定めてください。休業取得そのものを理由とする解雇、降格、減給その他の不利益な取扱いは法律で禁止されています。評価者ごとの判断差を防ぐため、休業前、休業中、復帰後の評価方法を評価規程や運用手引きに明記し、管理職研修で共有することが重要です。
女性管理職比率は採用・配置・育成の流れで分析します
解説:女性管理職比率が低い場合、管理職登用の場面だけを見直しても改善しません。採用、初期配置、担当業務、教育機会、転勤要件、評価、昇格候補者の選定という一連の流れを男女別に確認する必要があります。2026年4月1日施行の改正女性活躍推進法により、常時雇用する労働者が101人以上の企業では、男女間賃金差異と女性管理職比率等の情報公表義務が拡大されています。100人以下の企業でも、採用力や定着力を高める観点から、管理職候補者の育成状況を見える化することをお勧めします。
4. 2026年6月の有効求人倍率は1.18倍、正社員は1.00倍
🗓 公表日:2026年7月31日/厚生労働省「一般職業紹介状況」
厚生労働省が公表した2026年6月の一般職業紹介状況によると、有効求人倍率は1.18倍で、前月から0.01ポイント上昇しました。新規求人倍率は2.16倍で0.05ポイント上昇し、正社員有効求人倍率は1.00倍で0.01ポイント上昇しています。新規求人は前年同月比3.1%増でした。産業別では、サービス業が11.5%増、製造業が10.4%増、宿泊・飲食サービス業が5.4%増となる一方、情報通信業は6.4%減、卸売・小売業は2.6%減、教育・学習支援業は2.2%減となりました。全国値が上昇していても、地域や業種、職種によって採用環境は異なります。自社の応募状況と地域別データを併せて分析することが重要です。
🎯 このニュースの3つのポイント
全国平均ではなく、自社の地域・職種別に判断します
解説:有効求人倍率1.18倍は、ハローワークに申し込まれた求人と求職の全国的な関係を示す指標です。民間求人媒体だけを利用する層や職種別の細かな需給をすべて表すものではありません。自社の採用方針を決める際は、都道府県別の求人倍率、職業別の求人・求職状況、競合企業の求人条件、自社の応募実績を併せて確認してください。「人が採れない」という感覚だけで賃金を変更するのではなく、閲覧数、応募率、面接移行率、内定承諾率のどこに問題があるかを分けて把握することが、効果的な改善につながります。
求人増加業種では、仕事内容と成長像の明確化が必要です
解説:製造業、サービス業、宿泊・飲食サービス業などで新規求人が増えているため、該当業種では求職者が複数の求人を比較しやすくなっています。賃金や休日だけで差別化することが難しい企業は、入社後に担当する具体的な仕事、教育の流れ、習得できる技能、昇格・昇給の基準を求人票に記載してください。「未経験者歓迎」「丁寧に指導します」といった抽象的な説明だけでなく、入社1か月、3か月、1年後に任せる業務を示すと、応募者が働く姿を想像しやすくなります。中途社員の育成と戦力化も採用設計と一体で考える必要があります。
採用数だけでなく、入社後の定着率まで管理します
解説:採用競争が続く状況では、欠員が出るたびに募集を繰り返す方法では採用費と教育負担が増えます。採用人数、採用単価だけでなく、3か月・6か月・1年後の定着率、配属後の評価、退職理由を確認してください。早期離職が多い場合は、求人内容と実際の仕事の違い、上司の受入れ態勢、初期教育、目標設定に原因がないかを点検します。採用担当者だけに責任を負わせず、配属部門の管理職を採用面接や受入れ計画に参加させることで、入社前後の説明のずれを減らし、採用した人材の戦力化につなげることができます。
5. 人材育成に問題がある事業所は80.1%、教育制度の課題が鮮明に
🗓 公表日:2026年7月31日/厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」
令和7年度能力開発基本調査によると、能力開発や人材育成について何らかの問題があると回答した事業所は80.1%となり、前回から0.2ポイント上昇しました。教育訓練費用を支出した企業は54.4%で0.5ポイント低下した一方、業務を離れて受講する研修であるOFF-JTへの一人当たり平均支出額は2.0万円となり、0.5万円増加しています。計画的なOJTを実施した事業所は、正社員で60.6%、正社員以外では25.1%でした。教育訓練休暇制度を導入している企業は5.7%、教育訓練短時間勤務制度は4.7%にとどまっています。研修費を増やすだけでなく、必要能力、対象者、実施方法、評価への反映を体系化することが課題です。
🎯 このニュースの3つのポイント
研修メニューより先に、職種・等級別の必要能力を定めます
解説:人材育成が進まない企業では、研修が不足しているというより、「誰に、何を、どの水準まで身につけさせるか」が決まっていない場合があります。まず職種ごとに主要業務を整理し、等級別に必要な知識、技能、判断、顧客対応、管理能力を定めてください。そのうえで、OJT、外部研修、資格取得、自己学習のどの方法で育成するかを割り当てます。研修を受けた事実だけでなく、実務で何ができるようになったかを上司が確認し、評価や次の教育計画へ反映する流れを作ることで、教育費を成果につなげやすくなります。
非正社員も含めた計画的OJTを整備します
解説:計画的OJTの実施率は、正社員60.6%に対して正社員以外は25.1%と大きな差があります。パートや契約社員が重要な業務を担う中小企業では、雇用区分だけを理由に教育機会を限定すると、品質のばらつきや特定社員への負担集中が起こります。業務習熟表、指導担当者、習得期限、確認方法を定め、雇用区分ではなく担当業務に必要な教育を実施してください。正社員転換を行う場合にも、転換後に求める役割と教育内容を事前に示すことで、本人の成長意欲を高め、転換後の役割不一致を防ぐことができます。
能力開発計画と助成金要件を混同しないことが重要です
解説:事業内職業能力開発計画の作成は、職業能力開発促進法第11条に基づく事業主の努力義務です。一方、人材開発支援助成金の一部では、計画の作成や職業能力開発推進者の選任などが支給要件になります。計画を作れば自動的に助成金を受けられるわけではありません。訓練開始前の計画届、対象訓練、受講時間、経費負担、賃金支払い、支給申請期限など、コースごとの要件を確認してください。研修実施を先行させると対象外になる場合があるため、活用を検討する段階で所管労働局や専門家へ確認することが安全です。
経営者・人事担当者向けFAQ 5選
今回のニュースに関して、実務で生じやすい疑問を整理しました。
全国加重平均1,176円は、2026年度の最低賃金として確定した金額ですか?
中小企業も春闘の賃上げ率5.18%に合わせる必要がありますか?
小規模企業にも育児休業制度の整備や個別周知は必要ですか?
有効求人倍率が上昇している場合、採用活動では何を見直すべきですか?
事業内職業能力開発計画の作成は義務ですか?
今回のニュースは、最低賃金への対応だけでなく、賃金表全体の見直し、育児休業を支える職場体制、採用後の定着、人材育成の体系化を一体で進める必要性を示しています。有限会社ヒューマンリソースコンサルタントでは、中小企業の経営状況と人員構成を踏まえた等級・評価・賃金制度の設計、採用基準や求人内容の見直し、管理職・社員研修、教育体系の構築を支援しています。助成金についても制度活用の可能性を整理し、必要に応じて社会保険労務士等と連携しながら準備を支援します。制度改定を個別対応で終わらせず、人材の採用・成長・定着につながる仕組みへ整えたい場合は、お気軽にご相談ください。
※本記事は2026年8月1日時点で公表されている公的資料および報道を基に作成しています。最低賃金額、助成金の要件・期限等は今後変更される場合があります。実際の対応時には、厚生労働省、都道府県労働局等の最新情報をご確認ください。
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