週刊NEWS|夏のボーナス平均97万6,043円は誰の数字?|対象365社の実態と、中小企業が冬賞与を見直す4つの視点

賃金・賞与 2026年9月13日更新

夏のボーナス平均97万6,043円は誰の数字?|対象365社の実態と、中小企業が冬賞与を見直す4つの視点

厚生労働省が公表した2026年の民間主要企業の夏季一時金は、平均妥結額97万6,043円で過去最高でした。ただし、対象は資本金10億円以上、従業員1,000人以上で労働組合のある企業です。中小企業の賞与をこの金額に合わせる必要があるという発表ではありません。本記事では、数字の読み方を整理したうえで、冬賞与の原資、評価、説明方法を点検します。

1.今回の発表の要点

厚生労働省は2026年9月11日、令和8年民間主要企業夏季一時金妥結状況を公表しました。平均妥結額は97万6,043円で、前年の94万6,469円より2万9,574円、率にして3.12%増加しています。厚生労働省によれば、平均妥結額は3年連続で過去最高額を更新しました。

企業経営者が最初に確認したいのは、「誰を対象に、何を平均した数字か」です。この調査は、労使交渉の実情を把握するためのもの。妥結額などを把握できた、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業365社が対象です。見出しの金額は全企業の平均でも、全国の全従業員の手取り額でもありません。

また、今回の公表は統計発表であり、賞与額を一律に引き上げる法改正ではありません。中小企業には、外部の平均額をそのまま採用するより、自社の支払能力と賃金方針を合わせて検証する実務上の意味があります。

2.平均妥結額と前年との差

厚生労働省・民間主要企業夏季一時金の公表値

項目 2025年 2026年 差・見方
平均妥結額946,469円976,043円29,574円増、3.12%増
平均要求額997,430円997,612円182円増、0.02%増
集計対象企業数342社365社両年で集計社数が異なる

前年の数字は厚生労働省の2025年の公表資料で照合できます。平均要求額はほぼ横ばいで、平均妥結額の上昇幅と同じ動きではありません。ただし、この集計だけから「要求水準は変わらなかったのに個々の企業の支給余力が増えた」とまでは言えません。対象社数が前年と異なり、業種ごとの状況も一様ではないためです。

妥結額は労使交渉で明らかになった金額であり、個々の社員の賞与明細を集めた平均値とは性格が違います。したがって「自社の社員の賞与が97万円未満だから市場水準に劣る」という判断には使えません。自社比較をするなら、同じ職種・等級・雇用形態について、月例賃金と年間賞与を合わせた年収を把握することが出発点です。

3.三つの調査を混同しない

賞与のニュースでは、97万円、104万円、47万円といった異なる数字が同じ年に並びます。いずれも出典に即した数字ですが、母集団や質問の仕方を外した比較は誤解につながります。

2026年夏季賞与に関する三つの公表値

公表元・時期 公表値 対象・指標 読み方
厚生労働省・9月11日976,043円条件を満たす主要企業365社の平均妥結額主要企業の労使交渉の動向
経団連・8月公表、9月3日解説1,042,537円集計可能な大手企業163社の平均妥結額対象企業と集計条件が異なる
帝国データバンク・6月11日47.7万円回答企業が示した正社員1人当たりの平均支給額6月の企業アンケートであり、全国の確定支給額ではない

帝国データバンクの調査は、全国1,043社に6月5日から9日まで実施したアンケートです。回答企業のうち、従業員1人当たり平均支給額が前年より増えるとした企業は37.1%。内訳では大企業44.4%、中小企業36.0%、小規模企業31.4%でした。同じ「賞与増」のニュースでも、企業規模によって状況が異なることが分かります。ただし、この調査の区分を厚生労働省の365社に当てはめることはできません。

比較で大切なのは金額の大小より、対象企業、算定単位、調査時点の三点をそろえることです。自社の制度を議論するときには、大手の妥結額を採用候補にするのではなく、人材確保の圧力や従業員の期待を知る参考情報として扱うのが妥当です。

4.中小企業への影響――採用、定着、説明の三つの視点

採用では「賞与込みの年収」を説明する

求職者は求人票の月給だけでなく、年収や賞与の実績も比較します。月給が同程度でも、賞与の支給実績や対象者が分からなければ、入社後の収入を予測しにくくなります。「年2回」とだけ記載している場合は、支給制度の有無、算定対象期間、直近の実績を混同していないか確認してください。将来の金額を保証していない場合は、実績と予定を区別して説明します。

定着では「金額の納得感」を確認する

同じ金額でも、何を評価し、どの期間の貢献に対して支給したかが分かるかによって受け止め方は変わります。部門の業績、個人の成果、仕事の質、役割の大きさなどを後から都合よく使い分けないことが重要です。評価者の説明が食い違っていないか、夏賞与の面談や従業員からの質問を振り返ると、冬賞与に向けた改善点が見えます。

説明では「外部平均との距離」だけを理由にしない

報道を受けて「大手は100万円近いのに自社はなぜ少ないのか」と質問されることもあります。その際は企業規模の違いだけを強調せず、自社の賞与総額を何に基づいて決め、個人への配分にどのような基準を用いているか説明してください。前年からの増減があれば、業績、月例給の改定、評価期間の違いを区分して示すことが有効です。

5.冬賞与は「先に総額、次に配分」で設計する

賞与原資は、会社が無理なく支払える総額として先に検討します。売上だけを基準にすると、材料費や外注費の上昇で粗利益が減っていても、前年と同じ金額を約束しやすくなります。粗利益、営業利益、資金繰り、今後必要な投資、月例給の改定費用を一緒に見てください。支給額には会社負担の社会保険料なども伴うため、資金計画は額面の賞与総額だけで完結しません。

例えば対象社員20人で賞与総額を仮に600万円とした場合、単純平均は1人30万円です。しかし、20人全員に30万円を支給するという意味ではありません。勤務期間、職務、部門、評価の違いを反映する場合は、総額の範囲内で分配ルールを設計し、金額の偏りが説明可能か確認します。この600万円はあくまで計算例であり、公表統計から導かれた標準的な予算ではありません。

会社全体が厳しいときは、一律に個人評価を下げて賞与原資を抑える方法は避けたいところです。業績による総額の変動と、個人の仕事に対する評価は別の判断として残す方が、本人への説明も次期への改善も容易になります。

6.個人への配分は、成果とプロセスの役割を分ける

賞与考課を導入している企業では、成果指標と、成果を得るための仕事の進め方を分けて扱います。営業職なら売上や粗利益に加え、既存顧客の維持、新規案件の開拓、見積品質などが考えられます。製造職なら生産計画の達成だけでなく、不良の抑制、納期遵守、安全手順への対応などが候補になります。実際に採用する項目は、本人が担当する仕事と管理できる範囲に合わせて選びます。

事務職や医療・介護の現場など、個人売上だけで成果を測りにくい職種では、正確性、期限、引継ぎ、利用者・関係者への対応を具体化します。「努力した」「協力的だった」のような抽象語だけでは評価者間で差が生じます。評価項目ごとに、何を確認したら良い評価になるかを例示すると、説明しやすくなります。

人事考課を昇格・昇給に使い、賞与考課を一定期間の成果とプロセスに使う制度では、同じ行動を二重に点数化していないかも確認します。職種ごとの共通項目をそろえながら、配点まで全職種一律にする必要はありません。等級の高い管理職ほど部門の成果責任を重くみる設計も考えられますが、期初に任せた権限と評価責任を対応させることが前提です。

7.月例賃金と賞与を合わせて年収を点検する

基本給を引き上げると、月例賃金だけでなく賞与算定基礎額にも影響する制度があります。例えば、賞与算定基礎額が月28万円で、年間賞与をこの基礎額の合計2カ月分として試算するなら、年間の月例給336万円と賞与56万円を合わせた年収は392万円です。賞与算定基礎額が月1万円上がり、同じ支給月数を維持した場合、月例給は年間12万円、賞与は年間2万円増え、額面の年収増は合計14万円になります。実際の支給額は会社の規程、評価、業績等に従い、社会保険料等の負担も別に検討します。

このように、基本給の見直しと賞与の見直しを別々に決めると、予定より総人件費が増えることがあります。逆に賞与だけで物価上昇への対応を続けると、社員にとって安定した月収が上がらないこともあります。人材確保に必要な固定的な処遇改善と、業績や期間の成果を反映する変動部分を整理してください。

2026年9月8日に公表された毎月勤労統計調査・7月分速報は、事業所を対象とする別の賃金統計です。主要企業の夏季一時金妥結調査と調査方法が異なるため、月間給与をそのまま倍にしたり、同一集団の年収とみなしたりしないでください。

8.賞与規程と雇用条件で確認すること

厚生労働省のモデル就業規則は、賞与そのものが法律で一律に義務付けられているわけではないと説明する一方、支給する場合には、支給対象時期、算定基準、査定期間、支払方法などを明確にしておく必要があると示しています。モデルの文言をそのまま写すより、既存の就業規則・賞与規程・個別契約・求人時の説明と、実際の運用が一致しているかを優先して確認します。

賞与制度の確認事項

確認項目 点検する内容 主な対応
対象者雇用区分、勤続期間、在籍要件の定め規程と個別契約の整合を取る
対象期間いつの業績・勤務を評価するか期間外の成果を混入させない
算定方法基礎額、支給月数、評価係数、出勤の扱い計算例で運用可能性を試す
業績による調整減額・不支給の条件と決定手順過去の約束や慣行との関係を確認する
説明評価結果と支給額の理由を伝えられるか管理職の説明資料を用意する

パート・有期雇用労働者に賞与を支給するか、正社員と異なる取扱いをするかについては、雇用区分だけで機械的に判断しないでください。短時間・有期雇用労働法は、基本給や賞与を含む待遇ごとに、不合理な相違を禁じています。職務内容、責任、配置変更の範囲などの実態を踏まえ、待遇の目的と差の理由を個別に整理する必要があります。

既存の制度に賞与の支給時期や計算条件の約束がある場合、統計を見たことだけを理由に一方的に減額・不支給とできるわけではありません。変更を検討する際は、規程と契約の文言、これまでの支給実績、労使の説明・協議の状況を確認してください。

9.冬賞与までの進め方

1

夏賞与を職種・等級別に振り返る

支給総額と1人当たり額だけではなく、職種、等級、雇用区分、入社年次ごとに分布を見ます。大きな差が生じた社員について、役割や評価で説明できるか、管理職間で判断が食い違っていないかを確認します。小規模の部署では個人が特定されないよう、集計の見せ方にも配慮します。

2

秋の業績見通しから原資を試算する

粗利益と資金繰りの見通しを更新し、月例給の引上げ、採用、設備投資の予定も織り込みます。「昨冬の何カ月分」と先に固定せず、最低限守るべき約束と、業績に応じて調整できる範囲を区分します。複数の見通しを置く場合も、社員に伝えた金額や条件との整合を確認してください。

3

評価期間と配分ルールを確定する

部門目標と個人目標、役割期待、成果指標の達成状況を整理します。評価項目が多すぎて判定できない場合は、期中に確認できる少数の項目を優先します。評価者会議では、同じ評価ランクが職種によって極端に異なる意味になっていないかを確認します。

4

規程を照合し、対象者へ説明する

決裁前に就業規則、賞与規程、雇用契約書、求人時に提示した条件を突き合わせます。支給時期、対象者、評価期間を一覧化し、説明できない個別差を修正します。支給時の面談では、額面だけでなく、評価された仕事と次期に期待する役割を簡潔に伝えます。

10.実務チェックリスト

  1. 報道された97万6,043円の対象が主要企業365社であると理解した。
  2. 自社の賞与支給実績を、月例賃金を含む年収で把握した。
  3. 冬賞与の総額を、粗利益、資金繰り、会社負担の社会保険料等を含めて試算した。
  4. 基本給改定が賞与算定基礎額に連動するか確認した。
  5. 賞与の評価期間、指標、配分方法が職種と等級の役割に合っている。
  6. 正社員、パート、有期雇用労働者の待遇差について説明できる。
  7. 就業規則、賞与規程、雇用契約、求人票の記載が食い違っていない。
  8. 管理職が支給額の理由と今後の期待を具体的に伝えられる。

11.FAQ

Q1

97万6,043円は中小企業を含む全国の平均支給額ですか?

A. いいえ。厚生労働省が妥結額を把握できた主要企業365社の平均です。資本金10億円以上、従業員1,000人以上、労働組合ありという対象条件があります。自社の賃金水準を直接判断する全国平均としては使えません。

Q2

帝国データバンクの47.7万円と、厚生労働省の97万6,043円はどちらが正しいですか?

A. 両方とも各調査の公表値です。前者は6月の企業アンケートで回答企業が示した正社員1人当たりの平均支給額、後者は条件を満たす主要企業の労使交渉による平均妥結額です。対象、時点、指標が異なるため差額を「大企業と中小企業の賃金格差」と単純計算することはできません。

Q3

業績が悪化したら冬賞与を支給しなくてもよいですか?

A. 自社の規程と契約の内容を確認して判断します。法律が賞与制度そのものを一律に義務付けているわけではありませんが、就業規則や雇用契約で支給条件を定めている場合があります。過去の運用や個別の約束も踏まえ、減額や不支給の可否を確認してください。

Q4

賞与を「基本給×支給月数」で決めれば公平ですか?

A. 式だけでは判断できません。基本給の決め方、役割の違い、対象期間、評価の反映方法によって結果は変わります。支給月数が同じでも、何を評価する賞与か説明できない場合は制度を見直します。計算式の分かりやすさと評価内容の妥当性を両方確認してください。

Q5

パート社員に賞与を支給しない規程なら、常に問題ありませんか?

A. 規程があるだけでは十分とはいえません。正社員との待遇差について、賞与の目的、仕事の内容と責任、配置変更の範囲などから不合理な相違がないか検討します。実態の確認と説明が必要です。

12.まとめ――外部の平均額より、自社の支給根拠を明確に

2026年夏の主要企業の平均妥結額97万6,043円は、賃金をめぐる動向を知る材料です。一方、365社の調査値だけで中小企業の冬賞与の適正額を決めることはできません。自社の粗利益と資金繰りから原資を検討し、成果と仕事の進め方の評価基準を明確にしたうえで、月例賃金を含む年間処遇を点検してください。

賞与制度を見直す際は、支給額の増減だけでなく、誰が対象で、どの期間の仕事を、どの基準で評価したのかを社員に説明できる状態を目標にします。採用時の約束と支給時の説明が一致することは、人材の定着にもつながります。

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