中小企業のための人事制度ニュース
【2026年8月16日号】最低賃金地方答申・実質賃金・メンタルヘルス対策|人事ニュース5選
8月前半は、各地で地域別最低賃金の答申が相次いだほか、実質賃金の増加、メンタルヘルス不調による休業・退職、自動車運転者の労働時間管理、教育訓練給付の対象講座追加が公表されました。中小企業にとっては、秋以降の人件費だけでなく、採用競争力、休職予防、物流管理、人材育成を一体で見直すべきタイミングです。
1.地域別最低賃金の地方答申が相次ぐ―確定額と発効日の確認を
公表日:2026年8月4日~14日/各地方最低賃金審議会「地域別最低賃金の改正決定に関する答申」
全国共通の引上げ目安に続き、8月前半には各地方最低賃金審議会から2026年度の地域別最低賃金に関する答申が相次ぎました。例えば、東京都は8月5日に現行1,226円から54円引き上げる1,280円、大阪府は8月7日に1,231円、静岡県は8月12日に57円引き上げる1,154円が適当と答申されています。国の目安を上回る答申もあり、地域によって引上げ額や発効予定日が異なる点に注意が必要です。ただし、答申額は公表された時点で直ちに適用される最低賃金ではありません。異議申出等の手続きを経て都道府県労働局長が決定・公示し、定められた発効日以後の労働に適用されます。前号で扱った全国目安から、今回は地域別の具体的な答申へ進んだことが更新点です。
出典: 代表報道:ナレビ「2026年全国最低賃金目安」 一次資料:東京労働局 一次資料:大阪労働局 一次資料:静岡労働局
このニュースのポイント
勤務地別に確定額と発効日を管理する
最低賃金は本社所在地ではなく、原則として労働者が勤務する事業場の地域別最低賃金が適用されます。複数県に店舗・営業所・工場がある会社は、都道府県ごとに「答申額」「正式な決定額」「発効日」を分けて一覧化してください。答申の段階で新額に変更する法的義務はありませんが、給与計算や雇用契約の変更準備には時間が必要です。管轄労働局の公示を確認後、発効日前に時給、日給・月給の時間額換算、求人票、雇用契約書、給与計算システムを更新します。広島県については、当社の最低賃金見通しに関する解説もあわせてご確認ください。
基本給だけでなく月給者の時間額を再計算する
最低賃金との比較では、月給総額をそのまま見るのではなく、最低賃金の対象となる賃金を所定労働時間で時間額に換算します。通勤手当、家族手当、精皆勤手当、時間外・休日・深夜割増賃金、賞与などは原則として比較対象から除外されるため、総支給額が高く見えても最低賃金を下回ることがあります。固定残業代を含む社員についても、基本給部分と固定残業代部分を明確に区分して確認してください。改定後の金額だけでなく、職位間の賃金差が縮まりすぎる「賃金の逆転・圧縮」も点検し、必要なら等級別賃金表を調整します。
人件費増加を価格・配置・生産性の計画に落とし込む
対象従業員の時給差額に予定労働時間を掛け、法定福利費や割増賃金への波及も含めて月次・年間の増加額を試算します。最低賃金に近い人だけを引き上げると、経験者やリーダーとの賃金差が縮小し、評価への不満や離職につながる可能性があります。最低賃金対応を単なる給与計算上の修正で終わらせず、等級ごとの役割、昇給幅、採用時賃金、短時間勤務者の配置を同時に見直すことが重要です。原資が不足する場合は、価格転嫁、業務工程の削減、設備投資を検討し、利用できる支援策は要件と申請時期を個別に確認してください。
法令確認:最低賃金法(e-Gov法令検索)。地域別最低賃金は、正式な決定・公示と発効日を管轄労働局で確認してください。
2.実質賃金が6か月連続でプラス―所定内給与も3.4%増
公表日:2026年8月5日/厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年6月分結果速報」
2026年6月の実質賃金は、持家の帰属家賃を除く消費者物価指数で実質化した現金給与総額が前年同月比1.6%増となり、6か月連続のプラスでした。名目の現金給与総額は1人平均53万1,677円で3.4%増、きまって支給する給与は29万9,232円で3.4%増、所定内給与は27万9,189円で3.4%増となっています。パートタイム労働者の所定内給与の時間当たり額も1,444円で4.3%増でした。ただし、6月の現金給与総額には賞与などの特別給与が大きく含まれ、速報値は確報で改訂される場合があります。この統計は個別企業に同率の賃上げを求めるものではありませんが、採用市場で提示する賃金や既存社員の昇給水準を検討する重要な比較材料になります。
このニュースのポイント
賞与込みの総額と毎月の基本的な賃金を分けて見る
6月の現金給与総額53万1,677円には、賞与など「特別に支払われた給与」23万2,445円が含まれています。自社の月例賃金を検討する際は、総額だけで判断せず、基本給や職務手当等に相当する所定内給与、残業代を含む定期給与、賞与を分けて比較してください。特に賞与支給月は前年比が大きく振れやすいため、少なくとも直近12か月の推移を確認します。また、全産業・事業所規模5人以上の平均値は、自社の地域、業種、職種、年齢構成と一致しません。地域別求人賃金や離職率と組み合わせることで、実務に使える判断材料になります。
賃上げ率より「誰に、何の対価として払うか」を明確にする
一律のベースアップは物価上昇への対応として分かりやすい一方、会社が期待する役割や能力との関係が曖昧になりやすい面があります。まず最低賃金への対応額を確保し、そのうえで生活防衛を目的とする一律部分、職務・技能の向上に応じる昇給部分、成果に応じる賞与部分を整理してください。評価結果を昇給へ反映する場合は、評価段階ごとの昇給額や昇給率を事前に定め、管理職の裁量だけで決めないことが重要です。賃上げの目的と算定根拠を社員へ説明できれば、同じ原資でも納得感を高め、採用時の賃金と既存社員の賃金逆転も防ぎやすくなります。
採用賃金と既存社員の処遇を同時に点検する
市場賃金の上昇に合わせて求人票の初任給だけを引き上げると、同じ仕事を担う既存社員との賃金差が縮小・逆転することがあります。新規採用者の予定賃金を決める前に、同じ職種・等級・経験年数の在籍者と比較し、差が生じる理由を説明できるか確認してください。対応策は既存社員全員の一律引上げに限りません。職務の再評価、技能手当、等級昇格、担当業務の拡大など、役割と処遇を連動させる方法があります。賃金改定後は人件費率だけでなく、応募数、採用単価、定着率、時間当たり付加価値を四半期ごとに追い、施策の効果を検証します。
統計上の平均値は賃上げ義務を示すものではありません。個別の賃金変更では、労働契約、就業規則、最低賃金などの適用関係を確認してください。
3.メンタルヘルス不調による休業・退職がいた事業所は13.5%
公表日:2026年8月7日/厚生労働省「令和7年労働安全衛生調査(実態調査)」
過去1年間にメンタルヘルス不調で連続1か月以上休業した労働者、または退職した労働者がいた事業所は13.5%となり、前年調査の12.8%から上昇しました。メンタルヘルス対策に取り組む事業所は63.0%で、規模別では50人以上が93.7%、30~49人が72.0%、10~29人が54.6%です。対策に取り組む事業所のうちストレスチェックを実施した割合は64.0%でした。調査は常用労働者10人以上の民営事業所を対象とする統計で、数値自体が個別企業の義務を決めるものではありません。一方、50人未満の事業場にも2028年4月1日からストレスチェックが義務化されます。小規模企業は、休職者が出てから対応するのではなく、相談、早期発見、職場改善、復職支援の流れを今から整える必要があります。
出典: 代表報道:アドバンスニュース 一次資料:厚生労働省・労働安全衛生調査 制度確認:厚生労働省・ストレスチェック制度
このニュースのポイント
小規模事業場は2028年4月の義務化から逆算する
2026年8月16日現在、常時使用する労働者が50人未満の事業場におけるストレスチェックは努力義務ですが、2028年4月1日から義務になります。事業場単位で人数を確認し、実施者となる医師・保健師等、実施事務従事者、外部委託先、結果の保存方法、面接指導への対応を検討してください。結果は本人の同意なく会社へ提供できず、人事評価や不利益取扱いに利用してはいけません。まず厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルを基に、年間スケジュールと個人情報の取扱規程を作成し、予算と委託先を2027年度までに確保すると円滑です。
休職規程と復職判定の手順を先に整える
不調者が発生した後に対応を決めると、休職期間、賃金・社会保険料、診断書の提出、復職可否を巡る認識違いが起きやすくなります。就業規則の休職事由、期間、延長、満了時の取扱い、復職判定、試し出勤、再休職の扱いを確認してください。主治医の「復職可能」という診断だけで即時復職を決めず、本人の同意を得て必要情報を確認し、会社が求める職務遂行能力と安全配慮の観点から判断します。従業員ごとに対応がぶれないよう、人事、所属長、産業医等の役割と連絡経路を定め、面談記録は閲覧権限を限定して保管します。
個人へのケアと職場要因の改善を分けない
相談窓口やセルフケア研修だけでは、業務量、役割の曖昧さ、上司との関係、長時間労働などの原因が残ることがあります。残業時間、有給休暇の取得、欠勤、離職、従業員面談の声を部署別に確認し、負荷が集中している工程や管理職を特定してください。ストレスチェックを実施する場合は、個人結果の通知だけで終わらせず、一定規模の集団ごとに分析し、会議時間の削減、業務配分、応援体制、管理職教育へつなげます。ただし、少人数集団の分析では個人が推測されないよう配慮が必要です。改善策には担当者と期限を設定し、半年後に再評価します。
法令確認:労働安全衛生法(e-Gov法令検索)。50人未満の事業場へのストレスチェック義務化日は2028年4月1日です。
4.自動車運転者の監督対象事業場で81.2%に法令違反
公表日:2026年8月6日/厚生労働省「自動車運転者を使用する事業場に対する令和7年の監督指導、送検等の状況」
労働基準監督署等が2025年に監督指導を行った、トラック、バス、タクシーなどの自動車運転者を使用する4,123事業場のうち、3,346事業場、81.2%で労働基準関係法令違反が認められました。改善基準告示違反は2,188事業場、53.1%です。主な法令違反は労働時間39.3%、割増賃金の支払19.7%、労働時間の状況把握6.3%。改善基準告示では最大拘束時間40.2%、休息期間28.3%、総拘束時間27.4%が上位でした。重大・悪質な違反による送検は67件です。監督対象を母数とした結果であり、業界全体の違反率を示すものではありませんが、運送事業者には日々の運行・勤怠記録の照合が不可欠です。荷主企業も、恒常的な荷待ちを発生させない発注管理が求められます。
このニュースのポイント
勤怠、デジタコ、運行日報の時刻を照合する
自動車運転者の労働時間は、タイムカードだけでは正確に把握できない場合があります。始業・終業、点呼、車両点検、荷積み・荷下ろし、待機、洗車、日報作成まで、使用者の指揮命令下にある時間を確認してください。勤怠システム、デジタルタコグラフ、運行日報、配送受付記録に不一致がある場合は、最も短い記録を機械的に採用せず、実態を調査します。毎月、拘束時間、運転時間、休息期間、時間外・休日労働、割増賃金を同じ担当者またはチェック表で横断確認し、上限接近時に配車担当者へ警告が出る運用を整えることが有効です。
改善基準告示と36協定を別々に確認する
36協定の範囲内で時間外労働を行っていても、改善基準告示の拘束時間や休息期間を満たしているとは限りません。反対に、運行計画上の拘束時間だけを見て、労働基準法上の割増賃金計算を省略することもできません。運転者ごとに、法定労働時間、36協定の限度、改善基準告示の1日・月・年の基準、連続運転時間、休息期間を分けて点検してください。長距離運行や繁忙期の特例を利用する場合は、要件や労使協定の有無を確認し、特例を恒常的な人員不足の埋め合わせにしないことが重要です。違反が見つかった場合は、未払賃金と運行計画の双方を是正します。
荷主企業も荷待ち時間を発注工程の問題として扱う
厚生労働省は「荷主特別対策チーム」を通じ、恒常的な長時間の荷待ちを発生させないよう発着荷主等へ要請しています。荷主企業は、指定時刻と実際の受付・荷役開始・終了時刻を記録し、曜日、拠点、取引先別に待ち時間を分析してください。予約受付枠の設定、検品・伝票処理の電子化、荷役担当者の配置、パレット利用、納品時刻の分散などは、運送会社だけでは実行できない改善です。契約書や発注書には運賃と荷役・待機等の付帯作業を可能な限り区分して記載し、急な変更や無理な到着指定を減らします。調達部門と物流部門が共同で月次レビューを行うことが有効です。
法令確認:労働基準法(e-Gov法令検索)および厚生労働省公表の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を確認してください。
5.教育訓練給付の対象に289講座を追加―2026年10月から
公表日:2026年8月6日/厚生労働省「専門実践教育訓練・特定一般教育訓練の指定講座」
厚生労働省は、2026年10月1日付けで教育訓練給付の対象となる講座を、専門実践教育訓練で138講座、特定一般教育訓練で151講座、合計289講座新たに指定しました。10月1日時点の対象講座は、専門実践が3,485講座、特定一般が1,532講座となります。新規講座にはデジタル分野、看護師等の養成課程、介護支援専門員、大型自動車免許等が含まれ、オンライン講座も専門実践58講座、特定一般90講座が追加されます。専門実践は支給要件を満たす本人に受講費用の50%、特定一般は修了後に40%を支給するのが基本で、資格取得・就職や賃金上昇等に応じた追加給付があります。これは従業員本人への雇用保険給付であり、会社が受け取る助成金ではありません。
出典: 代表報道:Reskilling.com 一次資料:厚生労働省・専門実践教育訓練 一次資料:厚生労働省・特定一般教育訓練
このニュースのポイント
対象講座と本人の受給資格を受講前に確認する
教育訓練給付は、講座が指定されているだけで自動的に支給される制度ではありません。受講開始日時点の雇用保険加入期間、過去の受給歴、離職からの期間など、本人側の要件があります。特定一般・専門実践では、受講前のキャリアコンサルティングや受給資格確認などが必要になる場合があるため、申込みや受講料の支払い前に、本人が住所地を管轄するハローワークへ確認してください。会社が制度を案内する際も「必ず給付される」「最大額を受け取れる」と断定せず、指定番号、指定期間、受講開始日、修了要件、申請期限を本人と講座実施者が確認するよう案内します。
会社の人材育成計画と本人の主体的な学びを接続する
対象講座が増えても、業務との関係が曖昧なまま受講を勧めると、修了後に能力を活用できません。今後2~3年で必要になる職務と技能を整理し、対象講座の内容、到達水準、受講時間、修了後に任せる仕事を紐付けてください。例えばデジタル講座であれば、単に資格取得を目標にせず、受講後3か月以内に自社の業務改善テーマを担当してもらう設計が有効です。受講は原則として本人の意思を尊重し、勤務時間外の受講を事実上強制しないよう注意します。会社命令で受講させる研修は、労働時間該当性や費用負担を別途検討する必要があります。
会社向け助成金とは制度・申請主体を分ける
教育訓練給付金は労働者本人が受け取る制度です。一方、会社が従業員へ職業訓練を実施し、訓練経費や訓練期間中の賃金について支援を受ける制度として、人材開発支援助成金等があります。両制度は対象者、訓練、費用負担、申請者、期限が異なるため、名称だけで判断したり、同じ経費を重複して申請したりしないよう注意してください。研修を決める前に、誰が契約し、誰が費用を払い、受講時間をどう扱うかを文書化します。助成金を検討する場合は、計画届等の期限を確認し、必要に応じて管轄労働局や社会保険労務士へ相談してください。
法令確認:雇用保険法(e-Gov法令検索)。給付率は支給要件を満たす場合のもので、実際の受給資格と手続きはハローワークで確認してください。
よくある質問
地方最低賃金審議会の答申額は、すぐに支払う必要がありますか?
いいえ。答申の段階では新しい最低賃金はまだ発効しておらず、都道府県労働局長による決定・公示を経て、地域ごとに定められた発効日から適用されます。ただし、発効日以後に働いた時間について新額を下回ることはできません。勤務地を基準に、管轄労働局が公表する確定額と発効日を必ず確認してください。
実質賃金が上昇したため、自社も一律3.4%賃上げする義務がありますか?
いいえ。毎月勤労統計の3.4%は全国平均の前年同月比であり、個別企業に同率の賃上げを義務付けるものではありません。法的には最低賃金や労働契約、就業規則等を守る必要があります。一方、採用競争力や定着率を保つため、同業・同地域の相場と自社の支払能力を比較することは推奨されます。
従業員50人未満の事業場でも、今すぐストレスチェックが義務ですか?
2026年8月16日現在、常時使用する労働者が50人未満の事業場は努力義務で、義務化は2028年4月1日です。50人以上の事業場では、現行制度に基づき年1回の実施等が必要です。小規模事業場も義務化を待たず、実施者、外部委託先、情報管理方法、相談窓口を準備することが推奨されます。
運送会社でない荷主企業も、改善基準告示への対応が必要ですか?
改善基準告示が直接規制する中心は自動車運転者を使用する事業者ですが、荷主企業にも無関係ではありません。厚生労働省は、恒常的な長時間の荷待ちを発生させる荷主等への要請を行っています。荷待ち時間の記録、予約受付、荷役分担、無理な納品指定を確認し、運送事業者と改善することが推奨されます。
教育訓練給付金は、会社が申請して受け取る助成金ですか?
いいえ。教育訓練給付金は、要件を満たす労働者本人が指定講座を受講・修了し、ハローワークへ申請する雇用保険の給付です。会社向けの人材開発支援助成金とは別制度です。対象講座であることだけでは支給は確定しないため、受講開始前に本人がハローワークで受給資格や必要手続きを確認してください。
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