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建設業の36協定はどう変わる?時間外労働の監督指導見直しと賃金・評価制度点検の実務
情報基準日:本記事の法令・統計情報は2026年8月31日時点の公表情報に基づいています。
「残業は月45時間以内に収めなさい」。これまで労働基準監督署の窓口や監督指導の現場では、こうした一律の目安を軸にした指導が行われてきました。ところが厚生労働省は2026年8月19日、時間外労働に関する相談・支援と監督指導のやり方を見直すと発表し、2026年9月1日から新しい運用に切り替わります。あわせて2026年7月28日には、中央最低賃金審議会が令和8年度の地域別最低賃金の引き上げ目安を答申しており、建設業の現場では「残業の扱い」と「賃金の底上げ」という二つの実務対応が同時に迫っています。
中小建設業の経営者や労務担当者にとって、これは単なる行政手続きの変更ではありません。36協定の中身が形だけになっていないか、時間外労働を前提にした賃金の組み方をしていないか、現場の安全衛生管理が評価制度にきちんと反映されているか。今回の制度変更は、こうした自社の労務管理の「地金」が問われる機会でもあります。本記事では、総合建設業、専門工事業、工務店、土木、設備工事など業態によって事情が異なることを踏まえながら、経営者・人事担当者・現場責任者がまず何を確認し、どう制度に落とし込めばよいかを具体的に解説します。
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評価シートサンプル・サービス詳細を見るこの記事で分かること
- 厚生労働省は2026年9月1日から、時間外労働の監督指導について「月45時間以内への一律削減指導」をやめ、36協定で定めた健康福祉確保措置の実施状況を重点的に確認する方式へ切り替えます。
- あわせて全国の働き方改革推進支援センターに36協定締結支援の専門相談窓口が設けられ、訪問支援も強化されます。
- 令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,176円、引き上げ幅55円(4.9%相当)が答申されており、各都道府県での確定・10月発効に向けた対応が必要です。
- 建設業は時間外労働の上限規制の適用に加え、工期・天候に左右される特殊な労働時間管理を求められており、36協定の実効性確保がこれまで以上に重視されます。
- 時間外労働に依存しない賃金・評価制度への転換が、監督指導の変化と賃上げの両方に対応する近道になります。
監督指導見直しと最低賃金改定の概要
2026年9月1日から適用される新しい監督指導の柱は二つです。一つは相談・支援の充実で、全国の働き方改革推進支援センターに36協定締結支援の専門相談窓口を設置し、訪問支援やよろず支援拠点との連携を強化するというものです。もう一つは監督指導方針そのものの見直しで、これまでの「時間外労働を一律に月45時間以内へ削減させる指導」から、「36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認し、その状況に応じた必要な指導を行う」方式に転換します(厚生労働省「時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します」2026年8月19日公表)。
健康福祉確保措置とは、36協定の届出様式にもともと記載欄がある項目で、代表的なものに医師による面接指導、深夜業の回数制限、休息時間の確保(勤務間インターバル)、代償休日の付与などがあります。今回の見直しは、時間数だけを機械的に問題視するのではなく、「協定で決めた健康配慮の仕組みが、実際に運用されているか」を監督指導の軸に据えるという方針転換です。これは規制が緩んだという意味ではなく、むしろ「協定した内容を実行しているか」という運用実態への監視が強まる可能性がある点に注意が必要です。
一方、賃金面では令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について、中央最低賃金審議会が2026年7月28日に答申を行いました。全国加重平均額は1,176円で、引き上げ幅は55円(前年度66円)、引き上げ率は4.9%(前年度6.3%)です。ランク区分ごとの目安額は、東京・神奈川・大阪・愛知・埼玉・千葉のAランクで54円、北海道を含む28道府県のBランクで56円、青森・岩手など13県のCランクで56円となっています(厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」2026年7月28日公表)。この目安を踏まえ、各都道府県の地方最低賃金審議会が実際の金額を答申する段階に入っており、確定額は例年10月に発効します。目安の段階と確定・発効の段階を混同しないよう、自社が拠点を置く都道府県の労働局から出る確定情報を必ず確認してください。
中小建設業に与える具体的な影響
時間外労働の監督指導が「健康福祉措置の実施状況」重視に変わることで、建設業では次のような影響が想定されます。第一に、36協定の届出書に記載した健康福祉措置が「書いただけ」で終わっている会社ほど、実態確認の対象になりやすくなります。第二に、工期に追われる繁忙期に時間外労働が集中する建設業の特性上、代償休日や勤務間インターバルの運用実績を記録・提示できる体制がないと、指導の場で説明に窮する可能性があります。第三に、最低賃金の引き上げは、特に地方の中小建設会社で若手や見習いクラスの初任給水準に直接影響し、賃金テーブル全体の底上げを迫られる会社が増えると見られます。
総合建設業では複数の下請・協力会社を含めた工程全体の労働時間管理が課題になりやすく、専門工事業や工務店では少人数の現場で担当者に業務が集中し、記録が属人化しやすい傾向があります。土木工事は屋外・天候依存の作業が多く繁忙期の偏りが大きいこと、設備工事は納期直前の追い込み作業が発生しやすいことなど、業態ごとに時間外労働が発生する構造が異なる点も踏まえて対応を検討する必要があります。
経営・人事・現場で起こりやすい課題
現場責任者や工事部長からは「36協定は総務が出しているだけで、現場では見たこともない」という声が聞かれることがあります。職人や施工管理者は日々の作業に追われ、労働時間の記録が自己申告任せになりがちです。事務職員は36協定の届出自体は行っていても、健康福祉措置の項目を「面接指導の実施」など形式的な記載にとどめ、実際の運用ルールまで整備していないケースも見られます。若手社員には「先輩が残っているから帰りにくい」という職場の空気が残っていることもあり、時間管理の問題は制度だけでなく現場文化にも根差しています。
経営者にとっては、最低賃金の引き上げに対応しつつ利益を確保するという、賃上げと収益性の両立が最大の悩みどころです。人件費が上がる一方で、下請単価や工事代金への転嫁が思うように進まなければ、原資なき賃上げになりかねません。人事評価制度が整っていない会社ほど、賃金改定を「一律ベースアップ」でしのぐしかなく、頑張った社員とそうでない社員の差がつかないという不満が現場に蓄積しやすくなります。
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建設業向け無料相談に申し込む等級・評価・賃金・労務管理への反映方法
今回の制度変更への対応は、単発の書類整備で終わらせず、等級・評価・賃金の仕組みに組み込むことが実務上の近道です。まず等級制度の面では、施工管理、職人、事務それぞれの等級基準に「安全衛生・労務管理の順守」を評価項目として明記します。工程管理や品質管理の評価軸と並べて、時間外労働の記録・申請ルールを守っているか、36協定の範囲内で作業計画を組めているかを評価対象にすることで、現場責任者の意識づけにつながります。
評価制度の面では、評価者研修の中に「時間外労働と健康福祉措置の基本」を組み込み、評価者ごとに労務管理への理解度がばらつかないようにします。評価者による評価のばらつきは、頑張っている現場ほど残業が多く評価が下がる、といった逆転現象を招きかねません。賃金制度の面では、最低賃金の引き上げ分を機械的に上乗せするだけでなく、等級ごとの賃金レンジを見直し、時間外労働に頼らず基本給と諸手当で処遇できる設計に近づけていくことが、ベースアップと利益確保の両立につながります。
実務対応の手順
第一に、自社が届け出ている36協定の内容を確認し、健康福祉確保措置として何を選択しているかを洗い出します。第二に、選択した措置が実際に運用されているか(面接指導の実施記録、代償休日の取得実績、インターバルの確保状況など)を確認し、記録が残る仕組みに整えます。第三に、最低賃金の改定目安を踏まえて自社の賃金テーブルの最下限を点検し、都道府県労働局から確定額が公示され次第、必要な改定を行います。第四に、等級・評価制度に安全衛生・労務管理の順守項目を組み込み、評価者研修で運用ルールを統一します。第五に、これらの見直し内容を就業規則や賃金規程に反映し、社会保険労務士など専門家に確認したうえで従業員へ周知します。
比較表・チェックリスト・試算例
監督指導方針の比較
| 項目 | これまでの運用 | 2026年9月からの運用 |
|---|---|---|
| 主な着眼点 | 時間外労働時間数(月45時間以内への削減) | 36協定の健康福祉確保措置の実施状況 |
| 指導の方法 | 一律の削減指導 | 実施状況に応じた必要な指導 |
| 相談体制 | 個別の労働局窓口が中心 | 36協定締結支援の専門相談窓口を新設、訪問支援を強化 |
自社点検チェックリスト
- 36協定の健康福祉確保措置の選択項目と、実際の運用実態が一致しているか
- 時間外労働の記録が自己申告任せになっていないか
- 最低賃金改定の確定額を都道府県労働局の公表情報で確認したか
- 等級・評価基準に安全衛生・労務管理の順守項目があるか
- 評価者研修で36協定や健康福祉措置についての説明を行っているか
計算例(架空のモデル事例)
従業員30名の専門工事業A社(実在の企業ではなく、説明のために作成した架空の設例です)を例に考えます。見習いクラスの時給が現在1,140円で、所在地の最低賃金が改定目安どおり55円引き上げられ1,176円台になった場合、下限を下回らないよう時給を最低でも36円引き上げる必要があります。見習いクラス10名分で試算すると、月160時間勤務として月額で1人あたり約5,760円、10名で約57,600円の人件費増となります。この増加分を等級2〜3階級まで連動させて一律に引き上げると原資はさらに膨らむため、A社では見習いクラスの引き上げを先行させつつ、中堅・熟練クラスは評価結果に応じた昇給に切り替えることで、原資を評価にメリハリをつけて配分する方法を検討しました。このように、最低賃金引き上げの影響範囲を等級ごとに試算してから配分方法を決めることが、賃上げと利益確保を両立させる第一歩になります。
人事コンサルタントからのアドバイス
制度改定への対応でまず確認していただきたいのは、直近1年分の36協定届と時間外労働の実績記録、そして現在の賃金テーブルの三点です。この三つを突き合わせるだけで、健康福祉措置が形骸化していないか、最低賃金の引き上げでどの等級・号俸が影響を受けるかが具体的に見えてきます。制度を見直す優先順位としては、まず記録・運用面の是正(健康福祉措置の実態確認)を先行させ、その後に等級・評価基準への反映、最後に賃金テーブル全体の改定という順序が現場の混乱を抑えやすいでしょう。
運用を現場に定着させるうえでの注意点は、通達や規程の変更を書面で配るだけでは浸透しないという点です。工事部長や職長クラスへの説明会を設け、なぜ運用を変えるのかという背景(監督指導の方針転換、最低賃金の引き上げ)を共有することが欠かせません。なお、就業規則や賃金規程の変更、36協定の再締結にあたっては、不利益変更に該当しないか、割増賃金の計算方法に誤りがないかなど、個別の法的判断が必要な場面が出てきます。こうした点は自社だけで判断せず、早い段階で社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。
用語集
- 36協定
- 労働基準法第36条に基づき、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働をさせる場合に、労使間で締結し労働基準監督署へ届け出る協定のことです。上限時間や健康福祉確保措置などを記載します。
- 健康福祉確保措置
- 36協定の届出様式に定められた、時間外・休日労働をさせる労働者の健康と福祉を守るための措置の総称です。医師による面接指導や代償休日の付与、勤務間インターバルの確保などが代表例です。
- 時間外労働の上限規制
- 働き方改革関連法により、時間外労働に罰則付きの上限が設けられた制度です。建設業は2024年4月から本格適用され、原則月45時間・年360時間などの上限が課されています。
- 地域別最低賃金
- 都道府県ごとに定められる、産業や職種を問わず適用される賃金の最低基準です。中央最低賃金審議会が示す目安をもとに、各都道府県の地方最低賃金審議会が金額を審議し決定します。
- 賃金テーブル
- 等級や号俸ごとに定めた基本給や手当の水準を一覧化した表のことです。昇給や賃上げの原資配分を検討する際の基礎資料になります。
- 働き方改革推進支援センター
- 中小企業・小規模事業者の働き方改革の取り組みを支援するため、各都道府県に設置されている相談窓口です。就業規則の整備や36協定の締結支援などを無料で行っています。
- 勤務間インターバル制度
- 終業時刻から次の始業時刻までに一定時間以上の休息を確保する仕組みです。健康福祉確保措置の一つとして36協定に定めることができます。
よくある質問(FAQ)
Q1.36協定の健康福祉確保措置は、必ず届出書に記載した内容どおりに運用しなければなりませんか。
A.はい、届出書に記載した措置は労使で合意した内容であり、実施することが前提です。2026年9月からの監督指導では、この実施状況が重点的に確認されます。記載内容と実態が食い違っている場合は、届出内容の見直しか、運用の是正のいずれかが必要になりますので、早めに点検してください。
Q2.最低賃金が引き上げられたら、全社員の賃金を一律に上げなければなりませんか。
A.最低賃金は「これを下回ってはならない」という下限であり、下限を上回っている社員まで一律に上げる法的義務はありません。ただし、最低賃金付近の等級の賃金を据え置くと等級間の差が縮まり、評価制度への不満につながりやすいため、賃金テーブル全体でのバランス確認をおすすめします。
Q3.監督指導の方針が変わったことで、時間外労働の上限規制自体が緩和されたのでしょうか。
A.いいえ、緩和されたわけではありません。月45時間・年360時間などの上限規制は引き続き有効で、罰則付きの規制であることに変わりはありません。今回変わったのは指導の着眼点であり、健康福祉確保措置の実施状況がより重視される点にご注意ください。
Q4.36協定の見直しには、どのくらいの費用や期間がかかりますか。
A.社内での点検・再締結だけであれば大きな費用は発生しませんが、就業規則や賃金規程の改定を伴う場合は、社会保険労務士への相談費用が発生することがあります。期間は、記録の洗い出しから再締結まで、規模にもよりますが1〜2か月程度を見込んでおくと現実的です。
Q5.評価制度に安全衛生や労務管理の項目を追加する場合、誰を対象にすればよいですか。
A.現場を管理する施工管理職や職長クラスを中心に導入し、段階的に職人・事務職まで対象を広げる方法が現実的です。管理職層の評価に組み込むことで、現場全体の労務管理意識が底上げされやすくなります。
出典・参考情報/留意事項
- 厚生労働省「時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します」(2026年8月19日公表)
厚生労働省 報道発表資料 - 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日公表)
厚生労働省 報道発表資料 - 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)」(2026年7月28日、中央最低賃金審議会)
答申PDF - 厚生労働省「建設業 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
厚生労働省 解説資料PDF
まとめ
2026年9月からの監督指導見直しは、時間外労働の規制が緩んだという話ではなく、36協定で定めた健康福祉確保措置を「実際に運用しているか」が問われる転換点です。あわせて最低賃金の引き上げも進んでおり、建設業の中小企業は「残業に頼らない働き方」と「賃上げに耐えられる収益構造」を同時に整える必要に迫られています。36協定の点検、賃金テーブルの見直し、評価制度への安全衛生項目の組み込みは、どれも単独では効果が限定的で、等級・評価・賃金の仕組みとして一体的に設計することで初めて現場に定着します。有限会社ヒューマンリソースコンサルタント(HRC)では、建設業に特化した人事評価・賃金制度の設計支援を行っており、評価項目に安全衛生や労務管理の順守を組み込んだ評価シートのサンプルもご案内しています。自社の36協定や賃金テーブルの点検から始めたい方は、まず評価シートのサンプルで自社に合う評価項目の作り方を確認し、制度設計まで踏み込みたい場合は建設業向けの無料相談をご活用ください。総合建設業か専門工事業かによって現場の労働時間管理の課題は異なりますので、自社の業態に合わせた優先順位づけから着手することをおすすめします。
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