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待機児童が9年ぶりに増加―都市部の保育所・認定こども園が「採用力のある賃金・評価制度」で選ばれる園になる方法
はじめに
2026年8月25日、こども家庭庁は「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」を公表し、全国の待機児童数が9年ぶりに増加したことを明らかにしました。一方で同じ取りまとめでは、利用定員・利用児童数・定員充足率がいずれも前年を下回っており、「都市部を中心とした待機児童の増加」と「全国的な利用児童数の減少」が同時に起きているのが令和8年4月時点の状況です。
この記事では、この状況が都市部の認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所の採用活動にどのような影響を与えるのか、専任の人事担当者を置きにくいスタッフ100名以下の法人・園が、限られた原資の中で「選ばれる園」になっていくために何を整えればよいのかを、等級・評価・賃金制度の観点から整理します。
この記事の要点
- こども家庭庁の令和8年4月1日時点の集計で、待機児童数は9年ぶりに増加し2,435人となった一方、利用定員・利用児童数・定員充足率はいずれも前年を下回っています
- 待機児童は一部地域に集中しており、待機児童が生じている市区町村は189、100人以上の自治体は3にとどまるため、地域差を踏まえた対応が必要です
- 都市部の認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所では保育士・保育教諭の採用競争が続く一方、施設や地域によっては定員に対する充足の課題も存在します
- 採用広告や人材紹介への依存だけでなく、等級・評価・賃金制度という「土台」を整えることが、応募者に選ばれ、かつ定着してもらえる園づくりにつながります
- 処遇改善等加算の配分ルールや初任給水準、キャリアパスの見える化は、専任人事部門がない小規模法人でも段階的に着手できます
こども家庭庁が示した待機児童9年ぶり増加と「量的な二極化」
こども家庭庁は2026年8月25日、令和8年4月1日を基準日とする「保育所等関連状況取りまとめ」を公表しました(出典:こども家庭庁ウェブサイト)。この集計による主な数値は下表のとおりです。待機児童の増加は全国一律ではなく、待機児童が生じている市区町村は189、100人以上の自治体は3にとどまっており、都市部を中心とした一部地域への偏りであることがうかがえます。
なお、施設類型別(認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所等)の待機児童数や定員充足率の内訳は、本記事執筆時点で確認できた公表資料の範囲では確認できていません。施設類型ごとの状況は、こども家庭庁の詳細資料や自治体の最新公表情報をあわせてご確認ください。あわせて東京都福祉局も2026年8月28日に「都内の保育サービスの状況について」を公表しており、都内の詳しい数値は同局の発表資料をご確認ください。
| 指標 | 令和8年4月1日時点 | 前年からの変化 |
|---|---|---|
| 待機児童数 | 2,435人 | +181人(増加) |
| 利用定員 | 302万人 | ▲1.3万人(減少) |
| 利用児童数 | 265万人 | ▲3.2万人(減少) |
| 定員充足率 | 87.7% | ▲0.7ポイント(低下) |
| 待機児童のいる市区町村数 | 189市区町村 | ― |
| 待機児童100人以上の自治体数 | 3自治体 | ― |
待機児童数の増減だけでなく、自園の採用力そのものを点検したい理事長・園長の方は、保育園向けの評価シートサンプルをご確認いただくと、等級・評価・賃金の現状を整理する手がかりになります。
保育園向け評価シートサンプル・サービス詳細を見る主対象となる施設類型と、他の保育・幼児教育施設への影響
本記事は、都市部(東京都をはじめ待機児童が生じている地域)に所在する認可保育所、認定こども園、小規模保育事業所を主な対象としています。これらの施設は、児童福祉法や子ども・子育て支援法に基づく「公定価格」を財源の柱とし、処遇改善等加算をはじめとする加算制度も公定価格の枠組みの中で適用されます。
企業主導型保育事業についても、都市部での保育士確保という共通課題があるため本記事で言及していますが、財源の仕組みは異なります。同事業は公益財団法人児童育成協会等を通じた助成金による運営であり、公定価格や処遇改善等加算とは別制度です。参考にする場合は、自施設に適用される助成要綱や加算要件を児童育成協会・こども家庭庁の最新資料で必ず確認してください。
幼稚園(学校教育法に基づく教育施設)や認可外保育施設も、採用競争の観点では共通課題がありますが、所管官庁、職員配置基準、財源、キャリアパス要件の適用の有無が異なります。本記事の等級・評価・賃金制度の考え方は施設類型を問わず応用できる部分がありますが、処遇改善等加算等の固有制度をそのまま当てはめることはできません。
| 施設類型 | 主な財源の仕組み | 処遇改善等加算の位置づけ |
|---|---|---|
| 認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所 | 公定価格(児童福祉法・子ども・子育て支援法等に基づく) | 公定価格の加算として適用 |
| 企業主導型保育事業 | 児童育成協会等を通じた助成金 | 公定価格の処遇改善等加算とは別制度。助成要綱上の賃金改善要件を個別に確認 |
| 幼稚園 | 私学助成等(学校教育法に基づく) | 公定価格の処遇改善等加算の対象外。関連する処遇改善施策は別途確認が必要 |
| 認可外保育施設 | 施設ごとの利用料等(都道府県等への届出制) | 公定価格の処遇改善等加算の対象外 |
園経営・人事・保育現場で起こりやすい課題
待機児童が生じている都市部では、園見学や採用面接で「他園と比べてどう違うのか」を尋ねられる機会が増えています。求人サイトに掲載された初任給や賞与の水準だけで比較検討する応募者も少なくなく、近隣園の募集条件を意識せざるを得ない園も多いはずです。
一方で、採用の入り口を整えるだけでは定着にはつながりません。評価制度がない、または評価基準が園長・主任の主観に委ねられている園では、頑張りが賃金や役職に反映されていると感じられず、若手保育士や中堅の主任保育士が「この園で何年も働き続けるイメージが持てない」と感じてしまうことがあります。
また、早番・遅番、土曜保育、行事対応の負担が一部の職員に偏っている、正規職員とパート保育士の役割・処遇の違いが説明できない、複数園を運営する法人で園ごとに等級・評価基準がばらばらといった課題も、採用競争が激しい地域ほど職員の離脱につながりやすくなります。処遇改善等加算を受け取っていても、配分ルールを職員に説明できなければ、加算そのものが定着の後押しになりにくい点にも注意が必要です。
等級・評価・賃金・採用・育成・労務管理への反映方法
待機児童の増減という外部環境の変化に対応するには、採用広告の工夫だけでなく、等級・評価・賃金という園の「内側」の仕組みを整えることが土台になります。
等級制度―役割と期待水準を明確にする
園長、主任保育士・主幹保育教諭、副主任・専門リーダー、保育士・保育教諭、栄養士・調理員、看護師、事務職員等、職種ごとに求められる役割と経験年数の目安を等級として整理します。等級が明確になれば、応募者にも「入職後どのような役割を担い、どう昇格していくのか」を具体的に説明できます。
評価制度―結果だけでなくプロセスも見る
子どもの安全や保育の質、保護者対応、チーム保育への貢献、後輩指導、業務改善といった行動面を評価基準に含めることで、園児数や行事の見栄えだけに評価が偏ることを防ぎます。評価者による甘辛のばらつきを抑えるため、評価者研修や評価会議でのすり合わせも欠かせません。
賃金制度・処遇改善等加算―配分ルールを説明できるようにする
処遇改善等加算による賃金改善分を、等級・役職・評価とどう連動させるかを整理し、職員に説明できる状態にすることが重要です。算定要件やキャリアパス要件は年度によって変わり得るため、最新の公定価格に関する通知を確認しながら設計する必要があります。
採用広報・育成・労務管理―一貫性を持たせる
求人票に記載する初任給・昇給の考え方は、実際の等級・評価制度と一致させる必要があります。あわせて、キャリアアップ研修の受講計画、シフトを踏まえた公平な労務管理、就業規則・賃金規程の整備も、採用力と定着力を支える基盤になります。
実務対応の手順
- 直近1〜2年の応募数・内定辞退・早期離職の状況を、職種別・園別に整理する
- 近隣の認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所の求人票を確認し、初任給・諸手当・休日数の水準を把握する
- 現行の等級・役職の有無と、職種ごとの役割・期待水準が明文化されているかを確認する
- 処遇改善等加算の受給状況と、加算による賃金改善分の配分方法を法人内で整理する
- 評価基準の有無と、園長・主任の主観に偏っていないかを点検する
- 早番・遅番、土曜保育、行事対応等のシフト負担が特定の職員に偏っていないかを確認する
- 正規職員とパート保育士・非常勤職員の役割・処遇の違いを言語化する
- 等級・評価・賃金制度の見直し案を作成し、優先順位をつけて段階的に導入する
- 制度導入後は評価会議やフィードバック面談を通じて運用状況を確認し、必要に応じて修正する
初任給や処遇改善等加算の配分方法を見直す際は、等級・評価制度の設計を専門家と点検すると、無理のない賃金改定につながります。制度づくりでお悩みの際は、下記からご相談いただけます。
保育園に特化した等級・評価・賃金制度づくりのご相談はこちら採用力点検チェックリストとモデル例
自園の採用力が「等級・評価・賃金制度」という土台に支えられているかを確認するため、以下のチェックリストをご活用ください。数値の当てはめではなく、確認の有無を点検する目的の一覧です。
| 分野 | 確認項目 |
|---|---|
| 求人票・採用広報 | 初任給・昇給モデル・キャリアパスを具体的に説明できるか |
| 等級制度 | 職種ごとの役割・期待水準が明文化されているか |
| 評価制度 | 評価基準に安全管理・保育の質・チーム貢献等の行動面が含まれているか |
| 賃金制度 | 処遇改善等加算の配分ルールを職員に説明できるか |
| シフト・労務管理 | 早番・遅番・土曜保育の負担が公平に配分されているか |
| 非正規職員の処遇 | パート・非常勤保育士の役割・処遇の違いを説明できるか |
| 複数園運営 | 園ごとの等級・評価基準に整合性があるか |
以下は、都市部で定員90名の認可保育所を運営する法人(架空のモデル例)が、制度見直しに着手した際の検討の流れです。特定の園の実例ではなく、対応の順序を示す目的で構成しています。理事長・園長が応募状況と近隣園の求人条件を確認したうえで主任保育士・事務長を交え等級案を作成し、処遇改善等加算の配分ルールを整理、評価基準に安全・保護者対応・チーム保育への貢献を含めたうえでパート保育士を含む全職員向けの説明会を実施しています。制度変更は一度に完成させず、優先順位をつけて段階的に進めることが現実的です。
人事コンサルタントからのアドバイス
等級・評価・賃金制度の見直しに着手する前に、理事長・園長の方にまず確認していただきたいのは、直近の園児数・利用定員に対する充足状況、収入と人件費率の推移、処遇改善等加算の受給状況と配分実績、そして現行の等級・評価に関する資料や勤務実態、職員の声です。これらを整理しないまま賃金表だけを見直すと、原資と改定内容が見合わず、後で調整が難しくなることがあります。
優先順位としては、まず等級と評価基準を明確にし、次に処遇改善等加算による賃金改善分を連動させる順番が現実的です。早番・遅番や土曜保育、パート保育士との役割分担が複雑な保育現場では、対象範囲を絞った試行や評価者向けの説明・研修を挟みながら段階的に定着させることが重要です。
また、子どもの安全や保育の質を損なわない範囲で職員の納得感を高めるには、成果だけでなく、安全管理や保護者対応、チーム保育への貢献といったプロセスを評価に反映する視点が欠かせません。処遇改善等加算の算定要件やキャリアパス要件、就業規則の変更に伴う不利益変更の可能性については、自園・自法人だけで判断せず、所管の自治体窓口や社会保険労務士、必要に応じて弁護士・税理士に相談するタイミングを早めに設けることをおすすめします。
用語集
- 等級制度
- 職種・役職ごとに求められる役割や経験・能力の水準を段階に分けて整理する仕組みです。昇格の基準や賃金の土台となり、採用時にキャリアパスを説明する際にも活用されます。
- 評価制度
- 職員の業務遂行や行動を一定の基準に基づいて確認し、賃金・昇格・育成に反映させる仕組みです。結果だけでなく、安全管理や保護者対応等のプロセスも評価対象に含めることが重要です。
- キャリアパス
- 職員が採用後にどのような役割・役職を経て成長していくかを示す道筋のことです。処遇改善等加算のキャリアパス要件では、研修体系や賃金体系との連動が求められます。
- 処遇改善等加算
- 保育士等の賃金改善を目的として公定価格に加算される仕組みです。対象施設・職種、算定要件、賃金改善の実施方法は年度ごとの通知で定められており、最新の公式資料での確認が必要です。
- 定員充足率
- 利用定員に対して実際に利用している児童数の割合を示す指標です。こども家庭庁の集計では令和8年4月1日時点で全国87.7%となっており、地域や施設によって差があります。
- 有効求人倍率
- 公共職業安定所における求職者1人あたりの求人数を示す指標です。全産業の数値と保育士等の職種別の数値は異なるため、混同せず確認することが必要です。
- 公定価格
- 認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所等の運営費を算定する際の基準となる価格のことです。国が定める仕組みで、施設類型や地域区分等によって算定方法が異なります。
- 同一労働同一賃金
- 正規職員と非正規職員の間で、職務内容や責任の程度に応じた不合理な待遇差を禁止する考え方です。パート保育士・非常勤職員の処遇を検討する際の基本的な考え方となります。
よくある質問(FAQ)
Q1.待機児童が増加した地域以外でも、賃金・評価制度の見直しは必要ですか
必要と考えられます。待機児童が生じている市区町村は全国189にとどまり地域差が大きい実情ですが、都市部以外でも保育士の採用競争や早期離職の課題は各地で見られます。定員充足率が全国的に低下している状況を踏まえ、待機児童の有無にかかわらず制度を点検しておくことは経営基盤を守るうえで有効です。地域の詳しい状況は自治体窓口等でご確認ください。
Q2.企業主導型保育事業や幼稚園にも、同じ賃金・評価制度をそのまま導入できますか
そのままの導入はおすすめできません。企業主導型保育事業は助成金による運営、幼稚園は私学助成等の仕組みで、いずれも公定価格や処遇改善等加算とは異なります。等級・評価の考え方は応用できますが、加算の算定要件や適用対象は施設類型ごとに異なるため、所管官庁や関係団体の最新資料で確認したうえで設計してください。
Q3.専任の人事担当者がいない小規模な園でも、制度見直しに着手できますか
着手できます。スタッフ100名以下の法人・園では、まず等級・評価基準の明確化から始め、賃金への反映は処遇改善等加算の配分整理とあわせて段階的に進める方法が現実的です。園長・主任・事務長等、既存の体制の中で担当を決め、必要に応じて社会保険労務士等に部分的に相談する形でも進められます。全職員への説明や評価会議を通じた運用の定着もあわせて行ってください。
Q4.処遇改善等加算による賃金改善分を、賃金制度見直しの原資にそのまま使ってよいですか
加算ごとに定められた賃金改善の実施要件を満たす範囲で活用できますが、算定要件や届出・報告義務は年度によって変わり得るため、最新の公定価格に関する通知を確認する必要があります。趣旨に沿わない使い方は後年度の指導監査で指摘を受ける可能性もあるため、具体的な配分方法は所管の自治体窓口や社会保険労務士に事前確認をおすすめします。
Q5.賃金制度を見直すと、既存職員の賃金が下がることはありますか
制度設計次第では一部の手当や等級区分が変わる可能性はありますが、既存職員の賃金を一方的に引き下げることは、就業規則の不利益変更に関するルール上、慎重な手続きが必要です。多くの場合、制度整備は処遇改善等加算等の原資を活用し賃金の底上げや配分の適正化を図る形で進められます。個別の該当性は社会保険労務士や弁護士に確認してください。
出典・参考情報/留意事項
- こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」(2026年8月25日更新公表) https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/torimatome/r8
- 東京都福祉局「都内の保育サービスの状況について」(2026年8月28日公表) https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/8/082804
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」(2026年8月28日公表) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75707.html
まとめ
こども家庭庁が公表した令和8年4月1日時点の集計では、待機児童数が9年ぶりに増加した一方、利用定員・利用児童数・定員充足率はいずれも前年を下回り、都市部の保育ニーズの逼迫と定員充足の課題が同時に進行しています。都市部の認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所にとって、保育士・保育教諭の採用競争は今後も続くと考えられ、求人条件だけでなく、等級・評価・賃金制度という土台を整えることが、応募者に選ばれ定着してもらえる園づくりにつながります。
処遇改善等加算の配分ルールを説明できる状態にすること、評価基準に安全・保護者対応・チーム保育への貢献を含めること、早番・遅番やパート保育士との公平な処遇を整理することは、専任の人事担当者がいない小規模な法人・園でも段階的に着手できます。自園の制度が今の採用環境に合っているか点検したい方は、評価シートサンプルのご確認、または制度づくりのご相談をご検討ください。
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