【介護事業所向け】介護事業所のカスタマーハラスメント対策|2026年10月義務化までに整えるべき人事労務の仕組み

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    介護事業所のカスタマーハラスメント対策|2026年10月義務化までに整えるべき人事労務の仕組み

    法令・行政情報は2026年8月31日時点で公表されている内容に基づいています。

    利用者やご家族からの過度な要求、暴言、威圧的な態度への対応は、介護の現場で長く課題とされてきました。2026年10月1日からは、改正労働施策総合推進法の施行により、業種や事業所規模を問わず、すべての事業主にカスタマーハラスメントへの防止措置が法律上の義務として課されます。

    スタッフ数100名以下の中小介護事業所では、人事や労務を専任で担当する部署がなく、施設長や管理者が現場業務と兼務しながら対応しているところが少なくありません。この記事では、義務化の具体的な内容を整理したうえで、等級・評価・賃金制度や教育研修と連動させながら、無理のない体制を整えるための実務手順を解説します。

    この記事の要点

    • 2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、業種を問わずすべての事業主にカスタマーハラスメント防止措置が法的義務となります。
    • 介護保険の運営基準では、これまでカスタマーハラスメント対策は「推奨」にとどまっていましたが、業種横断の労働法が上乗せされる形で義務水準に引き上げられます。
    • 義務の中心は「方針の明確化と周知」「相談体制の整備」「事実確認と再発防止」「プライバシー保護・不利益取扱いの禁止」の4本柱です。
    • 利用者の疾患に由来する言動(BPSD等)と、悪質なハラスメント行為を一律に扱わない設計が、虐待防止・身体拘束適正化の観点からも欠かせません。
    • 相談・報告の件数をそのまま人事評価に反映すると、報告そのものを控える職員が出てくるおそれがあるため、評価設計には注意が必要です。

    「まず自法人の等級・評価制度がこの義務化にどこまで対応できているか確認したい」という方は、介護事業所向けの評価シートサンプルをご覧いただくと、役割別に求める行動が具体的に把握できます。

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    目次

    制度変更の概要|何が、いつから、どう変わるのか

    施行日と根拠法令

    今回の義務化の根拠は、改正労働施策総合推進法および改正男女雇用機会均等法です。施行日は2026年10月1日で、対象は業種・規模を問わずすべての事業主とされています。厚生労働省が公表している資料では、事業主が必ず講じるべき措置として、次の5つが示されています。

    表1:事業主に義務づけられるカスタマーハラスメント防止措置(2026年10月1日施行)
    措置区分具体的な内容
    方針の明確化と周知毅然とした対応姿勢を明確にし、カスタマーハラスメントの内容とあらかじめ定めた対処の内容を労働者へ周知する
    相談体制の整備あらかじめ相談窓口を定めて周知し、担当者が適切に対応できる体制を構築する
    事後対応事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた職員への配慮措置と再発防止策を講じる
    プライバシー保護・不利益取扱いの禁止相談者のプライバシーを保護し、相談したことを理由に不利益な取扱いをしないことを明示する
    抑止対策特に悪質なケースへの対処方針をあらかじめ定めて周知する

    なお、罰則の有無については、確認した厚生労働省の資料の中に具体的な記載を見つけることができませんでした。措置義務を怠った場合の行政指導や是正勧告の可能性については、所轄の都道府県労働局へ確認することをおすすめします。

    介護の現場は、他の業種と比べてカスタマーハラスメントが起こりやすい構造を持っています。入浴介助や排せつ介助など身体に直接触れるケアが多く、利用者の自宅という密室性の高い環境で一人対応になる場面もあります。さらに、認知症の周辺症状による言動と、意図的なハラスメント行為との見分けが難しいという特有の事情も抱えています。こうした背景を踏まえると、今回の義務化は単なる法令対応にとどまらず、職員が安心して長く働ける職場をつくるための土台として捉えることが重要です。

    介護保険制度上の位置づけとの違い

    介護保険の運営基準では、令和3年度介護報酬改定の時点で、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメントへの対策は事業者の義務とされていた一方、カスタマーハラスメントへの対策は「防止のための方針の明確化等の必要な措置を講じることを推奨する」という位置づけにとどまっていました。今回の労働施策総合推進法の改正は介護保険制度そのものの改正ではありませんが、業種を問わない一般的な労働法として上乗せされることで、介護事業所を含むすべての事業主にとって、カスタマーハラスメント対策が「推奨」から「法的義務」へと引き上げられる点が、実務上の大きな変化です。

    対象となる介護サービス・事業所規模・職種と、中小事業者への影響

    今回の義務化は特定の介護サービス種別に限定されたものではなく、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、特定施設、認知症対応型共同生活介護、訪問介護、通所介護、短期入所、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、居宅介護支援など、すべての介護保険サービスと、社会福祉法人・医療法人・株式会社・NPO法人などすべての法人形態が対象です。労働施策総合推進法は業種を限定していないためです。

    その一方で、実務上の影響の受け方はサービス種別や事業所規模によって異なります。

    表2:サービス種別ごとのリスク特性と優先して整えたい対応
    サービス種別起こりやすい場面優先して整える対応
    訪問介護・訪問看護等の訪問系利用者宅で職員が一人で対応するため、その場で相談・エスカレーションがしにくい緊急連絡先の明確化、訪問中でも管理者・サービス提供責任者に連絡できる体制
    通所介護・通所リハビリ等の通所系送迎時や複数職員の目がある場面が多いが、家族対応の窓口が曖昧になりがち家族対応窓口の一本化、相談内容の記録・引き継ぎルール
    施設系(特養・老健・特定施設・グループホーム等)夜勤帯は少人数対応となり、エスカレーション経路が限られる夜勤帯の緊急連絡フロー、オンコール担当者への報告基準
    居宅介護支援(ケアマネジャー)利用者・家族との個別面談が多く、一人で抱え込みやすい面談記録の共有、上司への定期報告のタイミング設定

    スタッフ数100名以下の法人・単独事業所では、専任の人事・法務担当者がいないまま、施設長や管理者が相談窓口を兼務しているケースが多く見られます。複数拠点を運営する法人では、拠点ごとに対応窓口や記録方法がばらばらになりやすく、法人としての一貫した方針が伝わりにくいという課題も生じます。また、パート・有期雇用職員、外国人介護人材、定年後再雇用者を含め、すべての雇用形態の職員に相談窓口の存在を周知しないと、「相談してよいと知らないまま我慢する」職員が出てしまう点にも注意が必要です。

    拠点ごとに対応がばらついている、相談窓口はあるが誰も使っていない、といったお悩みがあれば、制度設計の考え方を無料相談でご確認いただけます。

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    経営・人事・介護現場で起こりやすい課題

    制度を整える段階で、次のような課題に直面する事業所が少なくありません。

    • 相談窓口を「設置しただけ」で終わり、実際の対応フローや記録様式が整備されていない
    • 管理者が多忙で、相談を受けても記録に残らず、再発防止の検証につながらない
    • 利用者の認知症に由来する言動と、悪質なカスタマーハラスメントとの線引きが現場任せになり、職員の心理的負担だけが増していく
    • 家族からの苦情をすべて「クレーム対応」として現場の判断に委ね、法人としての方針が共有されていない
    • 相談件数をそのまま人事評価の減点材料にしてしまい、報告そのものを避ける空気が生まれる
    • 複数事業所を運営する法人で、拠点ごとに対応の質にばらつきが出て、職員から「同じ法人なのに扱いが違う」という不満が生まれる
    • 制度導入直後は関心が高くても、半年、一年と経つうちに研修が形骸化し、新しく入った職員に周知されないまま放置される

    等級・評価・賃金・採用・育成・労務管理への反映方法

    義務化への対応は、単発の研修や規程整備だけで終わらせず、人事制度の各要素に落とし込むことで定着しやすくなります。

    • 就業規則・ハラスメント防止規程にカスタマーハラスメントの定義と対応方針を明記し、全職員に周知します。
    • 等級制度上の役割(管理者・主任・サービス提供責任者等)に、一次対応の窓口機能を紐づけ、誰が最初に相談を受けるかを明確にします。
    • 評価制度では、本人の落ち度によらない被害そのものを減点対象とせず、むしろ適切な報告・エスカレーションをプロセス評価の加点要素として位置づけます。
    • 教育研修体系に、初期対応の仕方、記録方法、エスカレーション基準を組み込み、新任研修とOJTの両方でカバーします。
    • 外国人介護人材や再雇用者、パート職員にも伝わるよう、やさしい日本語や図解を用いた周知資料を用意します。

    実務対応の手順

    1. 現状把握:過去のクレーム記録やヒヤリハット報告、離職理由の聞き取りから、カスタマーハラスメントの実態を洗い出します。
    2. 方針の策定:「職員を孤立させない」という法人としての基本方針を文書化し、経営者・施設長が自らの言葉で周知します。
    3. 相談窓口の設置:事業所規模に応じて、法人統括窓口とするか拠点ごとの一次窓口を置くかを決め、就業規則や重要事項説明書等に明記します。
    4. 対応フローの整備:受付、事実確認、対応、記録、再発防止までの流れを様式化し、誰が担当しても同じ手順で動けるようにします。
    5. 教育・研修の実施:管理者向けと一般職員向けに分け、BPSDとの線引きも扱う内容で研修を行います。
    6. 記録・振り返りの仕組み化:四半期ごとに件数と対応状況を確認し、必要に応じて方針を見直します。管理者一人の記憶に頼らず、簡単な様式でよいので必ず書面またはデータで残すことが、再発防止の検証と職員保護の両方に役立ちます。
    7. 評価制度への反映:適切な報告・対応を行動評価に位置づけ、被害そのものを減点しない運用であることを職員に周知します。評価者研修の中で、この考え方を評価者全員に共有しておくと、運用のばらつきを防げます。

    導入前チェックリスト

    • □ 就業規則・ハラスメント防止規程にカスタマーハラスメントの定義があるか
    • □ 相談窓口の担当者と連絡方法を全職員(パート・外国人材・再雇用者含む)が知っているか
    • □ 訪問中・夜勤帯でも管理者へ連絡できる緊急連絡フローがあるか
    • □ 相談・対応内容を記録する様式が統一されているか
    • □ 利用者の疾患由来の言動と悪質な行為の線引きについて、現場と共通認識があるか
    • □ 相談・報告をした職員が不利益な評価を受けない運用になっているか

    架空のモデル事例:訪問介護と通所介護を運営するスタッフ数80名のA社(複数の事例をもとに再構成した架空の設定)では、相談窓口を法人統括の人事担当者に一本化し、拠点ごとの一次対応者を主任・サービス提供責任者に定めました。訪問中の緊急連絡先を統一し、対応記録を月1回の管理者会議で共有することで、対応のばらつきを減らす体制を整えています。効果を保証するものではなく、体制づくりの一例として紹介するものです。

    人事コンサルタントからのアドバイス

    制度を見直す前に、まずは就業規則・ハラスメント防止規程・重要事項説明書の現状、過去のクレーム記録の有無、管理者がどれだけの対応負担を抱えているかを確認してください。優先順位としては、①法人としての方針を文書化し窓口を明確にすること、②記録様式を整えること、③評価制度への反映、という順で進めると混乱が少なくなります。多拠点・シフト制の事業所では、夜勤帯や訪問中でも電話一本で管理者に繋がる体制を作ることが定着の鍵になります。特に訪問系のように職員が一人で利用者宅に向かうサービスでは、緊急時にどこへ連絡すればよいかを誰もが即答できる状態にしておくことが、実効性のある対策になります。利用者の尊厳や安全を損なわないよう配慮しながら、職員保護とのバランスを取ることも忘れてはいけません。就業規則の変更や、相談記録の法的な取扱い、不利益取扱いに該当するかどうかの判断は、法人だけで抱え込まず、早い段階で社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。

    用語集

    カスタマーハラスメント
    顧客・利用者・家族等から受ける、社会通念上相当な範囲を超えた要求や言動のことです。介護現場では、利用者本人の疾患由来の言動と区別して扱う必要があります。
    労働施策総合推進法
    職場におけるパワーハラスメント防止措置などを定める法律で、2026年10月1日施行の改正によりカスタマーハラスメント防止措置が新たに義務化されます。
    BPSD(行動・心理症状)
    認知症に伴って現れる、不安・興奮・暴言などの行動・心理症状のことです。疾患由来の言動であり、悪質なハラスメントと同列に評価すべきではありません。
    身体拘束の適正化
    やむを得ず身体拘束を行う場合に、要件の確認や記録、解除に向けた検討を継続して行い、利用者の尊厳を守る取り組みのことです。
    職場環境等要件
    介護職員等処遇改善加算の算定要件の一つで、入職促進、資質向上、健康管理などの区分ごとに職場環境改善の取り組みを行うことを求めるものです。
    等級制度
    経営理念や事業計画を個人の役割に落とし込み、求められる職務の基準を等級として定義する仕組みです。相談窓口の役割分担を等級に紐づける際の土台になります。

    よくある質問(FAQ)

    Q1. 小規模な訪問介護事業所でも、2026年10月からのカスタマーハラスメント対策義務は避けられませんか。
    A. 避けられません。改正労働施策総合推進法による防止措置義務は、業種・事業所規模を問わずすべての事業主が対象です。訪問介護のようにスタッフ数が少ない事業所でも、相談窓口の設置と周知、緊急連絡フローの整備は必要です。まずは管理者を窓口とし、就業規則や重要事項説明書に対応方針を明記することから始めてください。
    Q2. 利用者の認知症による言動もカスタマーハラスメントとして扱うべきですか。
    A. 一律に扱うべきではありません。BPSDなど疾患に由来する言動は、利用者本人の意図的な悪質行為とは性質が異なります。ケアプランや個別支援計画に基づく対応を優先し、職員の安全確保と利用者の尊厳保持を両立させる視点で線引きを行う必要があります。判断に迷う場合は、多職種でのケースカンファレンスを活用してください。
    Q3. 相談窓口は法人でひとつにまとめるべきですか、拠点ごとに置くべきですか。
    A. 事業所規模と拠点数によります。スタッフ数100名以下で拠点が少ない法人であれば、法人統括の窓口を一つ設け、各拠点に一次対応者(管理者・主任等)を置く形が運用しやすい傾向にあります。拠点が多い場合は、報告ルートを明確にしたうえで拠点ごとの一次窓口を設けることも検討してください。
    Q4. 相談件数が多い職員を人事評価で不利に扱ってもよいですか。
    A. 避けるべきです。被害を受けたこと自体を減点対象にすると、職員が報告を控えるようになり、再発防止の情報が集まらなくなります。評価制度では、適切な報告・記録・エスカレーションといった行動そのものを評価する設計に見直してください。
    Q5. 義務に違反した場合、罰則はありますか。
    A. 確認した厚生労働省の資料には、罰則に関する具体的な記載を見つけることができませんでした。措置義務を履行しない場合の行政指導等の可能性については、詳細を所轄の都道府県労働局に確認することをおすすめします。

    出典・参考情報/留意事項

    本文中のモデル事例は、複数の事例をもとに再構成した架空の設定であり、特定の法人・事業所の実例ではありません。就業規則の変更、記録の法的な扱い、罰則の有無等の個別判断が必要な事項については、社会保険労務士・弁護士・所轄の都道府県労働局にご確認ください。

    まとめ

    2026年10月1日、改正労働施策総合推進法の施行により、業種を問わずすべての事業主にカスタマーハラスメント防止措置が法的義務となります。介護保険制度ではこれまで「推奨」にとどまっていたカスタマーハラスメント対策が、法律上の義務として明確化される点は、中小規模の介護事業所にとって見過ごせない変化です。方針の明確化、相談窓口の整備、事実確認と再発防止という基本の流れを、等級制度・評価制度・教育研修と結びつけて設計することで、専任の人事担当者がいない事業所でも無理なく運用を定着させることができます。同時に、利用者の疾患由来の言動と悪質な行為を区別し、報告を萎縮させない評価設計にすることが、職員の定着とケアの質の両立につながります。自法人の等級・評価制度が今回の義務化にどこまで対応できているか整理したい方は、介護事業所向けの評価シートサンプルをご確認ください。具体的な体制づくりについてご相談されたい場合は、無料相談も承っております。

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