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令和8年度最低賃金改定と介護職員等処遇改善加算|中小介護事業所の賃金逆転防止と原資確保
法令・統計情報は2026年8月31日時点で公表されている内容に基づいています。
2026年7月28日、中央最低賃金審議会は令和8年度の地域別最低賃金改定の目安を答申しました。全国加重平均は1,176円となる見込みで、8月に入ってからは各都道府県の地方最低賃金審議会で答申・決定が進んでいます。同じ時期に、介護職員等処遇改善加算も令和8年6月以降、加算区分と配分ルールが見直されています。
この二つが重なる中小介護事業所では、初任者の時給を最低賃金に合わせて引き上げるだけでは済まない問題が起きやすくなります。勤続年数や役職の違いによる賃金差が縮まる「賃金逆転」です。この記事では、最低賃金改定と処遇改善加算の現在の仕組みを整理したうえで、スタッフ数100名以下の事業所でも実行できる賃金表の見直し手順を解説します。
この記事の要点
- 令和8年度地域別最低賃金の目安は、Aランク54円、B・Cランク56円の引き上げで、全国加重平均1,176円(上昇率4.9%)と公表されています。
- 各都道府県の答申・決定は8月中に進み、発効は例年10月頃が目安ですが、都道府県ごとに時期が異なります。
- 介護職員等処遇改善加算は令和8年6月以降、加算Ⅰイ・ロ、Ⅱイ・ロ、Ⅲ、Ⅳの区分に再編され、配分ルールも「経験・技能のある介護職員に重点配分しつつ柔軟に配分できる」方式に変わりました。
- 最低賃金の引き上げに合わせて初任給だけを機械的に上げると、リーダー層・中堅層との差が縮まり、モチベーション低下や離職につながりかねません。
- 賃金表の見直しは、最低賃金・処遇改善加算・自法人の収支の3つを同時に確認しながら進める必要があります。
自法人の賃金表が最低賃金改定と処遇改善加算の両方に対応できているか確認したい方は、評価シートサンプルと合わせて賃金制度の考え方をご確認いただけます。
介護事業所向け評価シートサンプルを見る制度変更の概要|最低賃金改定と処遇改善加算の現状
令和8年度地域別最低賃金の目安
厚生労働省が2026年7月28日に公表した内容によると、第75回中央最低賃金審議会は、6月26日の諮問を受けて小委員会で6回にわたる審議を重ねたうえで、令和8年度の地域別最低賃金改定の目安を答申しました。目安額は、埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪のAランクで54円、その他の道府県が含まれるB・Cランクで56円です。全国加重平均は1,176円となる見込みで、上昇額は55円(前年度は66円)、引上げ率は4.9%(前年度は6.3%)と公表されています。この目安をもとに、各都道府県の地方最低賃金審議会が調査審議を行ったうえで、都道府県労働局長が実際の地域別最低賃金額を決定する仕組みです。発効日は都道府県によって異なるため、自事業所が所在する都道府県の決定内容を必ず確認してください。
介護職員等処遇改善加算の現在の仕組み
厚生労働省老健局長通知(老発0313第6号、令和8年3月13日付「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方」)によると、令和8年度は4月・5月に加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳの4区分、6月以降は加算Ⅰイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ・Ⅲ・Ⅳの区分に再編され、訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援など新たに対象となったサービスも加わりました。配分については、従来の職種ごとの配分ルールが廃止され、「介護従事者を対象に幅広く賃上げを行いながら、特に経験・技能のある介護職員に重点的に配分しつつ、事業所内で柔軟な配分を認める」方式に変わっています。
| 要件区分 | 主な内容 |
|---|---|
| キャリアパス要件Ⅰ | 職位・職責に応じた任用要件と賃金体系の整備 |
| キャリアパス要件Ⅱ | 資質向上のための研修計画・機会の確保 |
| キャリアパス要件Ⅲ | 経験・資格に応じた昇給の仕組みの構築 |
| キャリアパス要件Ⅳ | 経験・技能のある介護職員のうち1人以上の賃金額が年額440万円以上であること |
| キャリアパス要件Ⅴ | サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士等を配置していること |
| 職場環境等要件 | 入職促進、資質向上、両立支援、健康管理、やりがい醸成の各区分から、加算区分に応じた数の取り組みを実施 |
| 月額賃金改善要件 | 加算Ⅳでは加算額の2分の1以上を、基本給または毎月支払われる手当の改善に充てること |
また、令和8年度の特例として、ケアプランデータ連携システムの利用、生産性向上推進体制加算の算定、社会福祉連携推進法人への所属のいずれかを満たす場合には、上位区分の算定が可能になる仕組みも設けられています。加算区分や要件の詳細は事業所の状況によって当てはまり方が異なるため、最終的な適用可否は最新の告示・通知や指定権者への確認が必要です。届出についても、体制等状況一覧表は居宅系サービスで前月15日まで、施設系サービスで当月1日までに提出することとされており、処遇改善計画書は算定月の前々月末までの提出が求められています。スケジュールを誤ると加算が算定できない月が生じるおそれがあるため、年間の届出スケジュールをあらかじめ一覧化しておくと安心です。
対象サービス・法人形態・事業所規模と、賃金設計への影響
最低賃金の引き上げは、介護保険サービスの種別を問わずすべての介護事業所に関係します。特に、パート・有期雇用職員の比率が高い訪問系・通所系サービスでは、時給で働く職員の割合が多いため、影響を強く受けます。施設系サービスでは、夜勤専従者や早出・遅出のある職員について、基本給や諸手当を時給換算した場合に最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。居宅介護支援では、常勤のケアマネジャーが中心となるため直接的な影響は限定的ですが、処遇改善加算の対象拡大により賃金体系の見直しは必要になります。
介護職員等処遇改善加算は全サービス種別で算定できるわけではなく、対象となるサービス、対象となる職種の範囲、加算率は、サービス類型ごとに告示で定められています。自事業所がどの区分に該当するかは、最新の告示・留意事項通知で個別に確認してください。スタッフ数100名以下の法人では、賃金表を細かく分けすぎると管理が煩雑になるため、等級ごとに「最低賃金+一定額」の下限ラインを設定し、加算による賃金改善分をどの等級・役職に重点配分するかをあらかじめ決めておくと、改定のたびに慌てずに対応できます。
法人形態による違いにも触れておく必要があります。社会福祉法人・医療法人・株式会社・NPO法人のいずれであっても、労働基準法・最低賃金法の適用や処遇改善加算の算定要件そのものに違いはありません。ただし、法人内に複数の介護サービス・障害福祉サービスを運営している場合は、サービスごとに加算区分や配分対象が異なることがあるため、事業所単位で要件を整理する必要があります。単独事業所で運営している小規模法人ほど、賃金表がシンプルな分だけ最低賃金の影響を直接受けやすいという特徴もあります。
経営・人事・介護現場で起こりやすい課題
- 最低賃金が上がるたびに初任給だけを機械的に引き上げ、勤続者やリーダー層との賃金差が縮まる「賃金逆転」が起きる
- 処遇改善加算の配分を「全員一律」にしてしまい、経験・技能のある職員への重点配分ができていない
- 職場環境等要件を満たす取り組みを書類上整えるだけで、実際の運用が伴っていない
- 加算や介護報酬による収入増と、人件費の増加スピードのバランスが崩れ、翌年度の資金繰りが厳しくなる
- 複数拠点を持つ法人で、拠点ごとに賃金表の運用がずれ、同じ等級なのに実際の待遇が異なる状態になる
- 毎年の最低賃金改定のたびに賃金表を場当たり的に修正し、数年経つと等級間の差額に一貫性がなくなる
- 賃金改定の理由や配分の考え方が職員に十分説明されず、「なぜ自分の給料は上がらないのか」という不満につながる
等級・評価・賃金・採用・育成・労務管理への反映方法
- 等級ごとの下限額を、最低賃金改定を前提に再設計し、最低賃金と等級テーブルの間に一定のバッファ(余裕幅)を持たせます。
- 処遇改善加算の配分ルールを、キャリアパス要件(任用・賃金体系、研修、昇給の仕組み等)と連動させ、等級・役職に応じた配分基準を明文化します。
- 職場環境等要件の取り組みを、実際の教育研修計画や両立支援制度、健康管理の仕組みと結びつけ、書類と実態を一致させます。
- 採用時賃金を最低賃金改定に合わせて見直す際は、既存職員の賃金表も同時に点検し、逆転が起きていないかを確認します。
- 賃金台帳・処遇改善計画書の記載内容を、実際の等級・評価制度と整合させ、届出内容と運用実態にずれが生じないようにします。
- キャリアパスの説明資料を用意し、初任者からリーダー層まで、経験・資格に応じてどのように賃金が上がっていくのかを職員が具体的にイメージできるようにします。
実務対応の手順
- 現状確認:現在の賃金表、最低賃金の影響を受ける職員の範囲、処遇改善加算の届出内容を確認します。
- 影響シミュレーション:新しい最低賃金の目安を反映し、複数のモデル月給で影響額を試算します。
- 等級ごとの下限額の再設定:最低賃金との間に一定のバッファを設けた新しい下限額を決めます。
- 加算要件の充足状況の確認:キャリアパス要件・職場環境等要件を満たしているか、不足があれば何を追加するかを整理します。
- 配分ルールの見直し:経験・技能のある職員への重点配分の基準を決め、等級・評価と紐づけます。
- 職員説明・評価者研修:改定内容と配分の考え方を職員に説明し、評価者には運用の統一を図る研修を行います。
- 届出スケジュールの確認:体制等状況一覧表や処遇改善計画書の提出期限を確認し、遅れが生じないようにします。
| 職員区分 | 改定前の時給目安 | 最低賃金引き上げ後の下限目安 | 見直しの考え方 |
|---|---|---|---|
| 新任・初任者研修修了者 | 地域の最低賃金+数十円程度 | 新最低賃金+従来と同程度の差額を維持 | 最低賃金と同水準まで下げず、一定の差額を確保する |
| 実務者研修修了・経験3年程度 | 初任者より一定額高い水準 | 初任者との差額を維持できるよう調整 | 初任者との差が縮まりすぎていないか確認する |
| 介護福祉士・リーダー層 | 経験・資格に応じた上乗せ | 処遇改善加算の重点配分対象として設計 | 加算のキャリアパス要件Ⅳ等を踏まえ、資格・経験に応じた水準を確保する |
上表は架空のモデル事例であり、実際の金額は事業所の所在地、サービス種別、加算区分、収支状況によって異なります。具体的な金額は自事業所のデータで試算してください。
見直し前チェックリスト
- □ 新しい最低賃金額を反映した場合、現行の賃金表のどこに影響が出るか把握しているか
- □ 初任者とリーダー層・中堅層の賃金差が、改定後も一定水準を保てているか
- □ 処遇改善加算のキャリアパス要件・職場環境等要件を満たしているか
- □ 加算の配分ルールが等級・評価制度と結びついているか
- □ 人件費の増加分と介護報酬・加算による収入増のバランスが取れているか
- □ 体制等状況一覧表・処遇改善計画書の提出期限を把握しているか
人事コンサルタントからのアドバイス
賃金制度を見直す前に、まず賃金台帳、直近の処遇改善加算の届出書類、収支状況(人件費率・稼働率)、職員の声(アンケートや面談記録)の4点を確認してください。優先順位としては、①最低賃金の影響を受ける職員の範囲を特定すること、②等級ごとの下限額を再設計すること、③処遇改善加算の配分ルールを等級・評価と結びつけること、という順で進めると、原資と制度のバランスを取りやすくなります。複数拠点を持つ法人では、拠点間で賃金表の運用がずれないよう、改定内容を一斉に周知し、評価者会議で運用ルールをすり合わせることが定着のポイントです。利用者へのケアの質や事業の継続性を犠牲にしてまで賃金を引き上げることは本末転倒であり、原資が確保できる範囲での改定を心がける必要があります。加算の算定要件の解釈や、就業規則・賃金規程の変更手続き、社会保険料への影響については、社会保険労務士や指定権者への確認を早めに行うことをおすすめします。また、賃金改定は職員説明会や個別面談とセットで進めることで、なぜこの配分になったのかという納得感が生まれ、制度への信頼につながります。特に、経験の浅い職員が多い事業所ほど、将来の昇給イメージを具体的に示すことが定着率に直結します。
用語集
- 賃金制度
- 社員の給与や賞与などの報酬を決定する仕組みで、等級制度・評価制度と並んで人事制度を構成する要素の一つです。最低賃金や処遇改善加算の変更は、この賃金制度の見直しと直結します。
- 介護職員等処遇改善加算
- 介護従事者の賃金改善を目的とした介護報酬上の加算です。加算区分ごとにキャリアパス要件・職場環境等要件が定められています。
- キャリアパス要件
- 処遇改善加算を算定するために満たすべき、任用要件・賃金体系、研修計画、昇給の仕組みなどに関する要件のことです。
- 職場環境等要件
- 賃金改善以外の職場環境の改善に関する要件で、入職促進や資質向上、健康管理などの区分ごとに取り組みが求められます。
- 賃金逆転
- 最低賃金の引き上げなどにより初任給が上昇した結果、勤続年数や役職による賃金差が縮まり、経験の浅い職員と中堅・リーダー層の賃金がほぼ同水準になってしまう状態のことです。
- 体制等状況一覧表
- 処遇改善加算の算定にあたり、事業所の体制や要件の充足状況を届け出るための書類です。居宅系・施設系でそれぞれ提出期限が定められています。
賃金表の見直しと処遇改善加算の配分ルールを、自法人の等級・評価制度に落とし込みたい方は、無料相談で現状の課題を整理できます。
介護事業所向け無料相談・お問い合わせよくある質問(FAQ)
- Q1. 最低賃金が上がったら、まず何をすればよいですか。
- A. まず、現在の賃金表のどこが新しい最低賃金額を下回るかを洗い出してください。次に、初任者だけでなく中堅・リーダー層との賃金差が縮まっていないかを確認し、必要であれば等級全体の下限額を見直します。改定前に自事業所のデータでシミュレーションを行うことが重要です。
- Q2. 処遇改善加算はすべての介護サービスで算定できますか。
- A. サービス類型によって対象となる加算区分や要件が異なります。令和8年度からは訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援なども新たに対象化されていますが、具体的な適用可否は最新の告示・留意事項通知で確認してください。
- Q3. 加算の配分は全職員に均等にしないといけませんか。
- A. 現在の配分ルールでは、職種ごとの配分ルールは廃止され、経験・技能のある介護職員に重点的に配分しつつ、事業所内で柔軟に配分することが認められています。均等配分にする義務はありませんが、配分の考え方を等級・評価制度に基づいて説明できるようにしておくことが望まれます。
- Q4. パート職員の時給も処遇改善加算の対象になりますか。
- A. 対象になり得ます。令和8年度の見直しでは、パートや派遣職員も含めて配分対象とすることが可能になりました。対象職種の範囲や配分方法は事業所の運用ルールとして定め、就業規則や賃金規程に反映してください。
- Q5. 賃金を引き上げる原資が確保できるか不安な場合、どこに相談すればよいですか。
- A. まずは自事業所の人件費率や収支状況を確認し、介護報酬・加算による増収分と人件費増のバランスを試算してください。判断が難しい場合は、社会保険労務士や税理士、指定権者、または人事制度の専門家に相談することをおすすめします。
出典・参考情報/留意事項
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(令和8年7月28日公表) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74920.html
- 厚生労働省老健局長通知「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方」(老発0313第6号、令和8年3月13日付) https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)について」(令和8年8月28日公表) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75707.html
- 厚生労働省「介護職員の処遇改善」制度概要ページ https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/
実際の最低賃金額・発効日は都道府県ごとに決定される内容をご確認ください。処遇改善加算の適用可否・加算率はサービス類型や事業所の状況により異なるため、最新の告示・留意事項通知や指定権者への確認が必要です。本文中の賃金シミュレーションは架空のモデル事例であり、特定の法人・事業所の実例ではありません。
まとめ
令和8年度の最低賃金改定は、7月28日の目安答申を経て、8月から各都道府県で答申・決定が進んでいます。同じ時期に、介護職員等処遇改善加算も加算区分と配分ルールが見直され、経験・技能のある職員への重点配分が可能になりました。この二つの動きが重なることで、初任給の引き上げだけに気を取られると、勤続年数や役職による賃金差が縮まる「賃金逆転」が起きやすくなります。等級ごとの下限額を最低賃金改定を前提に再設計し、処遇改善加算の配分をキャリアパス要件や職場環境等要件と結びつけることで、限られた原資の中でも納得感のある賃金制度を維持できます。人件費の増加と介護報酬・加算による収入増のバランスを取りながら、自事業所の状況に合わせたシミュレーションを行うことが、持続可能な賃上げの第一歩です。自法人の賃金表を具体的に点検したい方は、評価シートサンプルのご確認や無料相談をご活用ください。
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