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定員充足率87.7%に低下―定員割れに直面し始めた保育所・幼稚園が「賃金制度の持続可能性」を今すぐ点検すべき理由
情報基準日:統計は2026年8月25日公表分・2026年8月31日公表分、制度・法令情報は2026年9月1日時点
はじめに
「園児募集の手ごたえが年々弱くなっている」「定員は埋まっているはずなのに、賃上げの原資が増えない」。地方や郊外部の認可保育所、認定こども園、小規模保育事業所の理事長・園長から、こうした声を聞く機会が増えています。こども家庭庁が2026年8月25日に公表した最新統計では、保育所等全体の定員充足率が87.7%まで低下しました。定員割れは一部地域・一部施設だけの問題ではなく、多くの園にとって「いずれ自園にも及ぶかもしれない経営指標」になりつつあります。本記事では、この統計と埼玉県教育委員会の学校基本調査速報値を出発点に、園児数・収入の変動が賃金制度の持続可能性にどう影響するかを整理し、法人統合を検討する前段階として、単独の園・法人がまず着手できる自己点検の方法を解説します。
この記事の要点
- 全国の保育所等の定員充足率は87.7%(前年比0.7ポイント低下)まで下がり、待機児童数増加と利用児童数・利用定員の減少が併存する地域間ミスマッチが全国集計にも表れています。
- 埼玉県教育委員会の速報値では、県内の幼稚園数が14年連続減少、幼保連携型認定こども園が11年連続増加しています。ただし埼玉県のデータであり、全国一律の傾向とは断定できません。
- 園児数の減少は公定価格・処遇改善等加算の算定基礎の縮小に直結するため、年功的な賃金カーブを維持している園ほど、持続可能性を早期に点検する必要があります。
- M&Aや園統合の是非を判断する前段階として、まず自園・自法人単独で「園児数・収入・人件費率」の関係を可視化することが、その後の選択肢を広げます。
ニュース・統計の概要
こども家庭庁は2026年8月25日、「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」を公表しました。全国の保育所、認定こども園、小規模保育事業所等を対象に、毎年4月1日時点の状況を集計したもので、令和8年4月1日時点の全国の状況は次のとおりです。
- 待機児童数:2,435人(前年比181人増加)
- 利用定員:302万人(前年比1.3万人減少)
- 利用児童数:265万人(前年比3.2万人減少)
- 定員充足率:87.7%(前年比0.7ポイント減少)
全国の保育所等 定員充足率の推移(こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ」より)
令和7年の数値は、こども家庭庁公表資料の「前年比0.7ポイント減少」との記載から算出した値です。定員充足率=利用児童数÷利用定員として公表されています。
待機児童数の増加と利用定員・利用児童数の減少の併存は、地域間ミスマッチの表れと考えられます。87.7%は保育所等全体の全国合計値であり、施設類型別・地域別の内訳は本記事執筆時点で未公表です。この数字は、裏を返せば「園によっては定員割れの水準まで利用児童数が下がっている」ことを示す一般的な傾向として受け止め、自園の状況は市区町村の保育担当窓口や入所実績で個別に確認してください。
あわせて埼玉県教育委員会は2026年8月31日、「令和8年度学校基本調査(速報値)」を公表しました。県内で幼稚園数は14年連続減少、幼保連携型認定こども園は11年連続増加しています。これは埼玉県内のデータであり、全国値ではありません。同様の傾向は他地域でも報告されることがありますが、増減の背景は自治体ごとに差があるため、自園が所在する自治体の学校基本調査等で個別に確認することをおすすめします。
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主対象となる施設類型と、他の施設類型への影響・適用できない範囲
本記事が主に対象とするのは、地方・郊外部で定員割れの兆候が出ている認可保育所、認定こども園(幼保連携型・保育所型・幼稚園型・地方裁量型)、小規模保育事業所です。いずれも児童福祉法・子ども・子育て支援法に基づき市区町村の認可・確認を受け、公定価格(施設型給付費・地域型保育給付費)を主な収入源とします。園児数が減れば収入が直接減少し、連動する処遇改善等加算の配分原資も縮小する構造は3類型に共通します。
一方、幼稚園は学校教育法に基づく「学校」であり、都道府県の認可を受け、文部科学省が制度所管である点が保育所とは異なります。新制度に移行し施設型給付を受ける幼稚園と、移行せず私学助成を受ける幼稚園とでは収入構造そのものが異なります。埼玉県の速報値が示す「幼稚園減少・認定こども園増加」は認定こども園への移行例を含むと考えられますが、本記事の点検の考え方を私学助成園へそのまま当てはめることはできません。私学助成幼稚園の処遇改善に関する制度は処遇改善等加算とは別建てであり、都道府県の私学担当部署等への確認が必要です。
また、企業主導型保育事業と認可外保育施設は本記事の主対象に含みません。企業主導型保育事業は児童育成協会等を通じた助成制度、認可外保育施設は都道府県等への届出施設であり、いずれも公定価格・処遇改善等加算とは異なる補助制度で運営されています。該当施設は所管窓口に個別に確認してください。
| 施設類型 | 根拠法・所管 | 主な収入の枠組み | 本記事の適用範囲 |
|---|---|---|---|
| 認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所 | 児童福祉法・子ども子育て支援法/市区町村認可・確認 | 公定価格(施設型給付費等) | 直接適用(主対象) |
| 幼稚園(施設型給付園) | 学校教育法/都道府県認可・文科省所管 | 施設型給付費 | 一部参考、加算要件は別途確認 |
| 幼稚園(私学助成園) | 学校教育法/都道府県認可・文科省所管 | 私学助成 | 加算関連の記載は対象外 |
| 企業主導型・認可外保育施設 | 児童福祉法(届出等)/別制度 | 独自の助成制度 | 対象外、所管窓口へ確認 |
園経営・人事・保育現場で起こりやすい課題
定員充足率の低下が続く地域の園では、次のような課題が連鎖的に生じやすくなります。第一に、園児数の減少が収入減となり、人件費率が上昇しやすくなります。職員数をすぐには減らせない一方で収入が先に減るため、賃上げの原資を確保しにくくなります。第二に、年功的な賃金カーブを維持している園ほど負担が重くなります。勤続年数に応じて基本給が上がり続ける設計は収入増加期には機能しますが、横ばい・減少に転じると若手・中堅の昇給原資を圧迫しかねません。
第三に、加算配分が不透明なまま運用されていると、定員割れ局面で不公平感が表面化しやすくなります。加算額自体が減少する園では、従来の配分ルールを維持できるのか疑問が出やすくなります。第四に、複数園法人では、園ごとの充足率の差が処遇バランスの崩れにつながることがあります。都市部と郊外の園に同じ賃金テーブルを機械的に適用すると、収益力に見合わない処遇差が生じやすくなります。第五に、採用面にも影響が及びます。定員割れが進む園は先行き不安の印象を候補者に与えかねません。これらの課題は保育の質や安全管理の水準を下げてよい理由にはならず、人員体制を維持しながら持続可能性を検討することが求められます。
等級・評価・賃金・採用・育成・労務管理への反映方法
定員充足率の低下を踏まえた賃金制度の見直しは、「限られた原資を役割・貢献に応じて公平に配分する仕組みへの転換」として進めることが基本です。
等級制度の簡素化と役割の明確化
スタッフ数100名以下の園・法人では、園長、主任保育士・主幹保育教諭、副主任・専門リーダー、一般職員、パート職員程度の少ない階層で等級を設計し、各等級が担う役割(安全管理、保護者対応、後輩指導、業務改善への貢献等)を明文化することが現実的です。細かく分けすぎると、昇格ポストが増やせない局面でキャリア展望を描きにくくなります。
評価制度は「結果」だけでなく行動・プロセスも見る
園児数や行事の見栄えといった結果指標だけを個人評価に直結させると、子どもの最善の利益やチーム保育への配慮が後回しになりかねません。安全管理、保護者対応、チーム保育への貢献、後輩指導、業務改善への取り組みを評価項目に含め、育児・介護等の事情による勤務制約を不当に不利益評価しないよう設計することが重要です。
賃金カーブと処遇改善等加算配分ルールの見直し
年功的な賃金カーブを等級・役割に応じた賃金テーブルへ段階的に移行させると、収入が伸び悩む局面でも昇給原資を若手・中堅へ配分しやすくなります。処遇改善等加算は、賃金改善計画・実績報告の要件を踏まえ、配分基準を職員に開示できるルールへ整理することが不公平感の解消につながります。
採用・育成・退職金制度への波及
採用面では、持続可能性が明確な園ほど候補者に安心感を伝えやすくなります。育成面では、キャリアパス要件に沿った研修計画と等級・評価を連動させます。ポイント制退職金等を導入している場合は、将来受給額が積み上がる仕組みになっていないか、将来負担の観点から点検が必要です。
実務対応の手順
専任の人事部門を置けない小規模な園・法人でも、次の手順であれば理事長・園長・事務担当者が中心となって段階的に進められます。
- 過去3年分の園児数・収入・人件費の推移を並べる。在籍園児数、公定価格収入、処遇改善等加算額、人件費総額を一覧にし、人件費率の変化を確認します。
- 処遇改善等加算の配分実績を棚卸しする。配分基準を職員に説明できる状態か確認し、口頭運用のみの場合はこの機会に文書化します。
- 雇用形態別の人件費構成を確認する。正規・非正規職員(パート保育士等)別の人数・人件費を整理し、処遇差の妥当性を点検します。
- 賃金カーブと等級制度を突き合わせる。勤続年数だけで基本給が決まる仕組みになっていないか、昇給の仕組みが機能しているかを確認します。
- 退職金制度の将来負担を概算する。ポイント制退職金等の将来支給見込みを社会保険労務士等に相談します。自法人単独での試算が難しい場合はこの段階で相談することをおすすめします。
- 職員への説明とフィードバック面談の準備を行う。変更の背景を丁寧に説明し、評価会議で運用を定着させる計画を立てます。
賃金制度の持続可能性 点検チェックリスト
| 点検分野 | 点検項目 | 確認欄 |
|---|---|---|
| 園児数・収入 | 過去3年間の充足率と公定価格収入・加算額の推移を把握しているか | □ |
| 人件費率 | 人件費総額を収入で割った人件費率の推移を確認しているか | □ |
| 賃金カーブ | 勤続年数だけで基本給が上がり続ける仕組みになっていないか | □ |
| 等級・評価 | 等級ごとの役割・期待行動が文書化され周知されているか | □ |
| 加算配分 | 処遇改善等加算の配分基準を職員に説明できるか | □ |
| 雇用形態 | 正規・非正規、フルタイム・短時間の処遇差が職務に見合っているか | □ |
| 退職金 | ポイント制退職金等の将来支給見込みを専門家に確認したか | □ |
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人事コンサルタントからのアドバイス
実務ポイント:まず理事長・園長にご確認いただきたいのは、過去3年分の「在籍園児数」「公定価格収入」「処遇改善等加算額」「人件費総額」「賃金台帳」の5点です。これらを並べるだけで、収入と人件費のバランスがどう変化してきたかが見えてきます。優先順位としては、①賃金カーブと等級制度の整合、②加算の配分ルールの明文化、③退職金制度の将来負担確認、の順に着手することをおすすめしています。多職種・シフト勤務が前提の保育現場では、制度を変えても現場に浸透しなければ意味がありません。園長・主任だけで決めず、早番・遅番やパート職員も含めた職員の声を面談で集め、評価会議で継続的にフィードバックする体制をつくることが定着の鍵になります。あわせて、子どもの安全・保育の質を左右する人員配置を削って原資を捻出することは避け、業務改善による時間創出と、評価に基づく公平な配分の両輪で職員の納得感を高める視点が欠かせません。公定価格や加算の算定方法、退職金の将来債務、労働基準法上の論点など自法人だけでは判断しにくい事項は、自治体の保育担当部署や社会保険労務士、税理士、必要に応じて弁護士に早めに相談することをおすすめします。
用語集
- 定員充足率
- 保育所等の利用定員に対する実際の利用児童数の割合のことです。こども家庭庁の集計では利用児童数を利用定員で割った値として示され、下がることは実際に入所している子どもの数が少なくなっていることを意味します。
- 公定価格
- 認可保育所、認定こども園、小規模保育事業所等が子ども・子育て支援法に基づき国の基準で算定される、施設型給付費・地域型保育給付費の算定基礎となる価格のことです。施設類型、定員規模、地域区分等によって算定方法が異なります。
- 処遇改善等加算
- 保育士・保育教諭等の賃金改善等を目的として公定価格に上乗せして算定される加算のことです。キャリアパス要件や賃金改善計画・実績報告等の要件があり、対象施設・職種・要件は年度により変わり得るため最新の公式資料での確認が必要です。
- 賃金カーブ
- 勤続年数や年齢に応じて基本給や賃金総額がどう変化するかを示す線のことです。上昇し続ける年功型のカーブは、収入が伸びる時期には機能しやすい一方、収入が横ばい・減少に転じると原資を圧迫しやすくなります。
- ポイント制退職金
- 等級や役職、勤続年数等に応じて毎年ポイントを付与し、退職時に累計ポイントに単価を掛けて退職金額を算定する制度のことです。将来の支給見込額を定期的に確認し、法人の将来負担を管理する必要があります。
- 人件費率
- 収入(公定価格収入や処遇改善等加算額を含む)に占める人件費総額の割合のことです。高くなりすぎると経営の余力が縮み、新たな賃上げや設備投資の原資を確保しにくくなります。
- 賃金台帳
- 労働基準法に基づき、使用者が労働者ごとの氏名、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、基本給・手当等の内訳、控除額等を記載して作成・保存する帳簿のことです。賃金制度の点検を行う際の基礎資料になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 定員充足率が下がっている園は、すぐに賃金制度を見直すべきですか。
すぐに全面的な見直しが必要とは限りませんが、まずは現状把握から始めることをおすすめします。認可保育所、認定こども園、小規模保育事業所では園児数の減少が公定価格収入・加算額の縮小に直結するため、過去3年分の推移を確認し、人件費率が上昇傾向なら賃金カーブと等級制度の整合を優先的に点検してください。
Q2. この記事の内容は、幼稚園や企業主導型保育事業にもそのまま当てはまりますか。
そのまま当てはまるとは限りません。幼稚園は学校教育法に基づく学校であり、施設型給付を受ける園と私学助成を受ける園とで収入構造が異なります。企業主導型保育事業・認可外保育施設は、公定価格・処遇改善等加算とは別の助成制度で運営されています。加算・助成の算定方法は施設類型ごとに所管窓口へ個別に確認してください。
Q3. スタッフ数100名以下の小さな法人でも、賃金制度の点検はできますか。
可能です。専任の人事部門がなくても、理事長・園長・事務担当者が中心となり、等級を園長・主任・専門リーダー・一般職員・パート職員程度の少ない階層に簡素化し、園児数・収入・人件費の推移を一覧にすることから始められます。複雑な制度を一度に導入せず、点検・可視化から段階的に着手するのが現実的です。
Q4. 処遇改善等加算の配分を見直す場合、原資はどこから確保すればよいですか。
処遇改善等加算は、賃金改善計画・実績報告等の要件に沿って処遇改善に充てることが前提の加算であり、法人が自由に使途を変えられる資金ではありません。原資を新たに生み出すというより、既存の加算額を等級・役割に応じた配分基準に沿って整理し直すことが基本です。具体的な算定要件は年度により変わり得るため、最新の公式資料で確認してください。
Q5. 賃金制度を見直す際、どのタイミングで社会保険労務士等の専門家に相談すべきですか。
退職金制度の将来負担の概算、賃金規程の変更、同一労働同一賃金への対応など、法的判断を伴う場面では早めの相談をおすすめします。特に基本給の引き下げを伴う変更は労働条件の不利益変更にあたる可能性があるため、方針が固まる前の検討段階で社会保険労務士や弁護士に相談することが望ましいといえます。
出典・参考情報/留意事項
- こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」(2026年8月25日公表)
URL:https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/torimatome/r8 - 埼玉県教育委員会「令和8年度学校基本調査(速報値)」(2026年8月31日公表)
URL:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0206/news/page/news2026083101.html
留意事項:本記事中の全国統計(待機児童数、利用定員、利用児童数、定員充足率)は、こども家庭庁公表資料の全国合計値であり、施設類型別・地域別の内訳ではありません。埼玉県の学校基本調査速報値は埼玉県内の傾向であり、全国共通の傾向として一般化できるものではありません。公定価格、処遇改善等加算、退職金制度、労働条件の変更等の個別判断は、本記事の一般的な解説だけで行わず、自治体の保育担当部署、社会保険労務士、税理士、弁護士等の専門家に必ず確認してください。
まとめ
こども家庭庁の最新統計で、全国の保育所等の定員充足率は87.7%まで低下し、埼玉県では幼稚園の減少と認定こども園の増加が続くなど施設類型間の移行も進んでいます。地方・郊外部の認可保育所、認定こども園、小規模保育事業所では、この傾向を「自園にも起こり得ること」として受け止め、園児数・収入・人件費率の関係を早めに可視化しておくことが重要です。特に年功的な賃金カーブや不透明な加算配分をそのままにしていると、収入が伸び悩む局面で若手・中堅の昇給原資を圧迫し、職員の不公平感や離職につながりかねません。統合や事業譲渡の是非を判断する前段階として、まずは自園・自法人単独での制度点検から始めることをおすすめします。HRCでは、保育園に特化した等級・評価・賃金制度づくりを、完全請負・2年無償サポート付きで支援しています。チェックリストで気になる項目があった方は、評価シートサンプルで自園の制度との違いを確認し、必要に応じて無料相談へお進みください。
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