2026年度最低賃金の目安|A54円・B/C56円|確定前に中小企業が進める賃金の準備

2026年度最低賃金の目安はAランク54円、B・Cランク56円(全国加重平均4.9%=55円)。7月28日の目安小委員会報告の内容と根拠データ、都道府県別の確定までの流れ、中小企業が確定前に進める人件費試算、賃金表の見直し、社員説明、助成金活用を人事コンサルタントが解説します。
中小企業向け賃金動向・春闘・初任給レポート|連載コラム

コラム:中小企業向け賃金動向・春闘・初任給レポート

「今年のベースアップはどうすべきか」「採用競争に勝つための初任給はいくらが妥当か」など、経営者や人事担当者が直面する給与設定の悩みをデータに基づき紐解きます。本連載コラムでは、最新の賃金動向や春闘の結果、初任給の相場について、中小企業向けに分かりやすく解説します。自社の賃金水準の見直しや採用戦略の立案にぜひお役立てください。

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【2026年度最低賃金】目安はA54円・B/C56円|確定前に中小企業が進める賃金の準備

人事コンサルタントのコラム

最低賃金の目安は示された。
それでも、自社に適用される額はまだ決まっていない

2026年7月28日、中央最低賃金審議会の目安小委員会が引上げ額の目安を示しました。Aランク54円、B・Cランク56円。労使の意見は一致せず、公益委員見解としての提示です。ここから都道府県別の審議が始まります。

2026年7月28日公表「中央最低賃金審議会 目安に関する小委員会報告」に基づいて作成

「今年はいくら上がるんですか」——7月に入ると、必ずと言っていいほど顧問先からこの質問をいただきます。今年は7月28日に一つの答えが出ました。ただし、それは「目安」であって、御社に適用される金額ではありません。

2026年度の地域別最低賃金をめぐる審議は、7月23日、27日と結論が持ち越されたのち、28日の会合で目安小委員会報告がまとまりました。労使の意見は最後まで一致せず、目安は公益委員の見解という形で地方最低賃金審議会に示されることになりました。金額はAランク54円、B・Cランク56円、全国加重平均で4.9%(55円)を基準とする水準です。

ここから各都道府県の審議が始まります。昨年度は39道府県が目安額を上回る答申を出し、うち11県は目安を10円以上超えました。発効日も11月以降が27府県、年をまたいで発効した県も6県ありました。目安が出た今も、御社の金額と発効日は決まっていません。

このコラムでは、示された目安額とその根拠を整理したうえで、「都道府県別の確定を待つ間に進めておきたいこと」を、人事制度の設計・運用に携わる立場から具体的に整理します。

結論:2026年度の目安はA54円・B56円・C56円(全国加重平均4.9%=55円が基準)。ただし確定額と発効日は都道府県ごとにこれから決まります。企業が待つ必要があるのは「給与計算への金額反映」だけで、対象者の洗い出し、人件費試算、賃金表の点検は今日から進められます。

この記事で扱うこと

  1. 7月28日に示された目安額と、その根拠となったデータ
  2. 「目安」と「確定額」を混同しないための決定プロセス
  3. 目安が出た今こそ動くべき3つの理由
  4. 実務で外せない最低賃金の基本ルール
  5. 賃金表の下から効いてくる「見えないコスト」
  6. 確定前にできる準備と、確定後にやること
  7. 見直しが必要な社内ルールと助成金の位置づけ
  8. よくある誤解と、人事コンサルタントからの提言

1.示された目安額と、その根拠(2026年7月28日)

2026年度の改定目安を議論してきたのは、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会の「目安に関する小委員会」です。直近の経過は次のとおりです。

  • 7月23日:目安がまとまらず持ち越し 労働者側は、物価上昇と今春闘の高水準な賃上げ結果を踏まえ、大幅な引上げを主張しました。
  • 7月27日:5回目の小委員会でも結論に至らず 使用者側は、中東情勢の影響による原材料費の高騰や価格転嫁の遅れを挙げ、中小企業の支払能力を慎重に見極めるべきだという立場を崩しませんでした。
  • 7月28日:目安小委員会報告を取りまとめ 労使の意見は一致せず、小委員会として目安を定めるには至りませんでした。そのうえで、地方最低賃金審議会の円滑な審議に資するよう、公益委員の見解として目安額が示されることになりました。労使双方が、この公益委員見解に対して不満の意を表明しています。

2026年度(令和8年度)地域別最低賃金額改定の目安

ランク 対象都道府県 引上げ額の目安 引上げ率
Aランク 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 54円 4.5%
Bランク 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 56円 5.2%
Cランク 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 56円 5.4%

目安額の検討は、全国加重平均で4.9%(55円)を基準として行われました。現在の全国加重平均は1,121円ですので、仮にすべての都道府県が目安どおりに改定した場合、全国加重平均は1,176円となります。また、最高額に対する最低額の比率は83.4%から84.3%へと改善し、地域間格差は比率の面で縮小する見込みです。

目安の根拠となった3要素データ

最低賃金は、最低賃金法第9条第2項に定める3要素(労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力)を考慮して決められます。今年度の主なデータは次のとおりです。

要素 主な指標 今年度の状況
労働者の生計費 消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合) 2025年10月〜2026年6月の平均で2.1%。前年同期の3.9%から上昇率は鈍化。
食料/基礎的支出項目 食料は4.3%と依然高い水準。基礎的支出項目は2.2%。エンゲル係数は勤労者世帯で26.3%、収入が最も低い層では27.0%。
賃金 春季賃上げ妥結状況(連合最終集計) 全体5.01%、中小4.69%で3年連続の高水準。中小は比較可能な2013年以降で最も高い。有期・短時間・契約等労働者は6.18%。
賃金改定状況調査 第4表 30人未満企業の賃金上昇率は3.0%で、時間額表示となった2002年以降で最大。継続労働者に限った集計では3.4%。
通常の事業の
賃金支払能力
企業収益・労働生産性 売上高経常利益率や従業員一人当たり付加価値額は改善傾向。労働分配率は全体で64.2%、資本金1,000万円未満では81.5%と規模が小さいほど高い。
価格転嫁・倒産 コスト全般の転嫁率は54.2%、労務費は50.0%で原材料費(55.7%)より約5ポイント低い。2026年上半期の物価高倒産は556件で過去最多。

報告では、賃上げの流れが中小企業まで及んでいることや企業収益の改善が評価される一方、価格転嫁が進まない企業の存在、小規模事業者の支払能力、中東情勢による国内企業物価の上昇にも留意すべきとされました。最低賃金は経営状況にかかわらず全企業に適用され、下回れば罰則の対象になることから、引上げ率の水準には一定の限界があるという認識も明記されています。

実務上の注意:ここで示されたのは、あくまで地方最低賃金審議会が審議する際の目安です。本記事の記載は2026年7月28日時点のものです。実際に賃金へ反映する際は、必ず事業場所在地の都道府県労働局の公示を確認してください。

2.「目安」と「確定額」は別物である

毎年この時期に最も多い誤解が、「中央の目安=自社に適用される最低賃金」という受け止めです。中央最低賃金審議会が示すのは、各都道府県の地方最低賃金審議会が審議を行う際の目安にすぎず、地方の審議決定を拘束するものではありません。地域別最低賃金は、次の流れで決まります。

  1. 厚生労働大臣が中央最低賃金審議会へ諮問する
  2. 中央最低賃金審議会が引上げ額の目安を示す(=2026年7月28日に完了)
  3. 各都道府県の地方最低賃金審議会が、地域の実情を踏まえて審議・答申する
  4. 都道府県労働局長が最低賃金額を決定し、公示する
  5. 公示された発効日から、新しい最低賃金が適用される

目安どおりに決まるとは限りません。昨年度(2025年度)は、39道府県が目安額を上回る答申を出し、うち11県では目安を10円以上上回る引上げとなりました。目安63円に対し、全国加重平均の実績は66円です。今年度も、地方審議会の自主性が発揮された結果として上振れする県が出る可能性があります。

発効日も全国一律ではありません。昨年度は11月以降を発効日とした地域が27府県に達し、2026年1月1日以降を発効日とした地域も6県ありました。「10月1日から一律で変わる」という前提で給与計算システムを設定するのは危険です。

現場から

複数県に事業場を持つ会社ほど、この発効日のずれで事故が起きます。本社所在地の発効日で全社一斉に切り替えてしまい、他県の事業場だけ数か月分の差額精算が発生した、という相談は珍しくありません。事業場ごとの「適用最低賃金・発効日」一覧表を1枚作っておくだけで防げます。

3.目安が出た今こそ、動くべき3つの理由

理由1:最低賃金の上昇は「単年度の法令対応」ではなくなった

今回の目安審議は、2026年7月に閣議決定された「日本成長戦略」および「経済財政運営と改革の基本方針2026」に配意して行われました。そこでは、2020年代に全国平均1,500円という目標の達成に向けて努力を継続し、労働生産性の向上を図ることで、遅くとも2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円を達成するという方針が示されています。

仮に今年度が目安どおりの1,176円で着地しても、1,500円まではまだ320円あります。これは、今年いくら上がるかという話ではなく、今後数年にわたって毎年数十円規模の引上げが続くことを前提に、賃金制度を設計し直す必要があるということを意味します。単年度の穴埋めを繰り返すほど、賃金表は下から圧縮されていきます。

理由2:目安が出た今から発効までが、実務の勝負どころ

目安が示されると、各都道府県の審議は8月に集中します。答申、公示を経て発効という流れを考えると、給与計算・規程・雇用契約書・求人票・社員説明を整える時間は限られます。対象者の洗い出しと人件費試算だけでも、規模によっては数週間を要します。金額の幅がおおむね見えた今が、試算を回すのに最も適したタイミングです。

理由3:助成金の申請時期が前倒しの準備を要求している

厚生労働省は令和8年度(2026年度)の業務改善助成金について交付要綱・要領を公開し、交付申請の受付開始日を2026年9月1日と案内しています。今回の目安小委員会報告でも、最低賃金引上げの影響を強く受ける中小企業・小規模事業者が業務改善助成金をしっかり活用できるよう、制度の充実と具体的事例を用いた周知の徹底が政府に要望されました。あわせて、キャリアアップ助成金、働き方改革推進支援助成金、人材確保等支援助成金などについても、賃上げ加算の充実が求められています。

制度が充実するほど申請は集中します。設備の選定や見積取得は8月中に済ませておくことが、事実上のスタートラインになります。

確定を待つべきものは「金額の反映」だけです。対象者の把握、人件費のシミュレーション、賃金表の点検、社員説明の設計は、いま進められます。

4.実務で外せない最低賃金の基本ルール

適用対象に例外は少ない

地域別最低賃金は、原則として事業場で働くすべての労働者に適用されます。正社員、パート、アルバイト、有期契約社員といった雇用形態や呼称による一般的な除外はなく、会社の規模が小さいことを理由とする免除もありません。

実務で見落としやすいのが次の3点です。

  • 派遣労働者:派遣元の所在地ではなく、派遣先の事業場に適用される地域別最低賃金(または特定最低賃金)が適用されます。
  • 試用期間中の労働者:原則として最低賃金が適用されます。都道府県労働局長の減額特例許可を受けずに、会社の判断だけで下回る賃金を設定することはできません。
  • 特定最低賃金が設定されている業種:地域別最低賃金と両方が適用される場合、原則として金額が高い方を適用します。

比較するのは「総支給額」ではない

最低賃金との比較に用いるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。次の賃金は原則として比較対象から除外されます。

  • 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  • 時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金
  • 精皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当

手当を厚く設計している会社ほど、支給総額は高いのに算入できる賃金は低い、という状態が起こります。「うちは総額で払っているから大丈夫」という感覚的な判断が、最も危ういパターンです。

賃金形態別の換算方法

賃金形態 確認方法
時間給制時間給を最低賃金額と比較します。
日給制日給を1日の所定労働時間で割ります。
月給制最低賃金に算入できる月給を、1か月平均所定労働時間で割ります。
出来高払制・請負制対象期間の賃金総額を、その期間の総労働時間で換算します。
複数方式の組合せそれぞれ時間額に換算して合計します。

月給者について、「月給÷当月の実労働時間」で計算しているケースを時折見かけますが、これは正しい方法ではありません。年間所定労働日数と1日の所定労働時間から1か月平均所定労働時間を算出して用います。変形労働時間制を採用している場合や手当構成が複雑な場合は、社会保険労務士へ確認することをおすすめします。

5.賃金表の下から効いてくる「見えないコスト」

最低賃金の引上げを「対象者の時給を書き換える作業」と捉えると、予算が確実に足りなくなります。実際には、次のような波及が同時に起こります。

  • 最低賃金を下回る社員の基本給調整
  • 最低賃金に近い社員の賃金引き上げ
  • 等級間・役職間の賃金差の縮小(賃金カーブの圧縮)
  • 採用時給と既存社員の賃金の逆転
  • 時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の増加
  • 会社負担の社会保険料・労働保険料の増加
  • 基本給に連動する賞与・退職金への影響
  • 商品・サービス価格や外注費の見直しの必要性

影響範囲は、思っているより広く見積もる必要があります。2025年の改定では、5人以上の事業所で10.8%の労働者が改定後の最低賃金を下回ることになりました。30人未満(製造業等は100人未満)の事業所に限れば、その割合は27.7%です。4人に1人が改定の直接の対象になる計算で、この影響率は年々上昇しています。

2025年度の改定で、企業は何を実感したか

2025年度改定による影響(中小企業・複数回答) 割合
影響は受けていない38.5%
事業所の経営が苦しくなった25.1%
最低賃金引上げを理由に発注先からの仕入価格が引き上げられた13.9%
従業員の貢献度に応じて適切な賃金差を付けることが難しくなった12.2%
社員のモチベーションが上がった9.8%
就業調整のため労働時間・日数を減らす従業員が生じ、人手不足が強まった8.6%
採用による人手確保や社員の定着につながった2.0%

注目したいのは、「賃金差を付けることが難しくなった」が12.2%にのぼる一方、「採用や定着につながった」は2.0%にとどまるという結果です。賃金を上げても人材面の効果を実感できた企業は少なく、むしろ制度の歪みとして跳ね返っている。ここが、最低賃金対応を給与計算だけで終わらせてはいけない理由です。

法律上の最低額を満たすだけの対応を続けると、入社したばかりの社員と、経験を積んだリーダーや主任との賃金差が数十円しかない、という状態が生まれます。役割・能力・経験・責任の違いが賃金に表れなくなれば、既存社員のモチベーションは確実に下がります。最低賃金対応をきっかけに中堅層が離職する、というのは制度設計の失敗であって、法改正のせいではありません。

最低賃金対応は、給与計算の作業ではなく、賃金制度・人材確保・生産性・価格設定を含む経営課題として検討すべきテーマです。

6.確定前にできる3つの準備

準備1:全従業員の時間換算額を一覧化する

雇用形態を問わず、全従業員の賃金を時間額へ換算します。「最低賃金に近そうな人」を担当者の感覚で選ぶと、月給者や固定手当の多い社員を必ず取りこぼします。30人未満の事業所では4人に1人が対象になり得る、という前提で洗い出してください。

一覧に入れる項目:氏名/勤務地(事業場)/雇用形態/基本給/算入できる手当/算入できない手当/1か月平均所定労働時間/換算時給。派遣労働者を受け入れている場合は派遣先事業場の所在地も記録します。

準備2:目安額を起点に、複数の引き上げ幅で人件費を試算する

目安が示された今は、試算の前提を具体的に置けます。ただし目安どおりに決まるとは限らず、昨年度は39道府県が目安を上回りました。「目安どおり」「目安+5円」「目安+10円」の3案を置いて感度分析を行うのが実務的です。

たとえばAランク(東京・大阪・愛知など)なら+54円/+59円/+64円、B・Cランクなら+56円/+61円/+66円が目安になります。

試算に含める項目:基本給の差額だけでなく、割増賃金の単価上昇分、法定福利費、賞与への連動分、賃金逆転を防ぐための上位者調整分まで含めます。ここを基本給だけで計算すると、実際の負担は1.3〜1.5倍程度に膨らみます。

準備3:賃金表と採用条件への波及を確認する

「最低賃金を下回る人だけを改定する案」と「近接する社員まで調整する案」を並べて比較し、職務や等級の差をどこまで残すのかを経営者と人事部門で決めておきます。金額が確定してからこの議論を始めると、必ず時間切れになります。

確認する数字:最低賃金と各等級の下限額との差/等級間の差/地域の求人時給相場/採用時給と既存社員の賃金差。法令対応ではなく、人材確保と定着の観点から判断します。

7.確定後から発効後までにやること

確定後:一次情報で金額と発効日を確認する

中央の目安が出ても、それだけで給与計算を変更してはいけません。事業場が所在する都道府県労働局の公示で、金額と発効日を確認します。複数地域に事業場がある企業は、事業場別の確認表を作成し、給与計算システムの変更日と法律上の発効日が一致しているかを必ず突き合わせます。昨年度は発効日が10月から翌年1月以降まで分かれました。

発効前:社員への周知と説明を行う

改定対象者には、変更額・変更日・変更理由を分かりやすく説明します。あわせて、最低賃金法第8条に基づく最低賃金の概要(適用範囲、金額、算入しない賃金、発効日)の周知も必要です。掲示、社内システム、書面配布などの方法で、作業場の見やすい場所に周知します。

発効後:初回の給与計算を検証する

発効日をまたぐ給与計算、欠勤控除、残業単価、年次有給休暇取得日の賃金などを確認します。初回の給与計算後に対象者を抽出して再計算し、設定漏れがないかを検証してください。単価の設定漏れは、割増賃金の未払いという形で後から表面化します。

目安公表後/都道府県別の確定後/発効前/発効後の4段階に分けると、対応漏れを防ぎやすくなります。

目安公表後(現在)

  • 全従業員の時間換算額を計算したか
  • 勤務地と適用ランクを確認したか
  • 算入できない手当を除外したか
  • 目安額を起点に複数案で試算したか
  • 上位等級への影響を確認したか

地方審議会の答申前後

  • 目安を確定額と誤認していないか
  • 地方審議会と都道府県労働局の情報を追えているか
  • 目安超えの答申が出た場合の予算を更新したか

都道府県別の確定後

  • 金額と発効日を一次資料で確認したか
  • 給与規程・賃金表・雇用契約書を更新したか
  • 求人票と採用条件を更新したか
  • 対象者へ変更内容を説明したか

発効後

  • 初回の給与計算を再点検したか
  • 残業単価などへ正しく反映したか
  • 最低賃金の概要を作業場で周知したか
  • 賃金差の縮小による不満が出ていないか

8.見直しが必要な社内ルールと、助成金の位置づけ

最低賃金の改定では、給与計算システムだけでなく、賃金の根拠となる書類と社員への説明を一体で見直す必要があります。

対象 確認内容 具体策
就業規則・給与規程基本給、等級別下限、手当、昇給規定最低額だけでなく等級間の整合性を確認します。
雇用契約書・労働条件通知書賃金額、手当、所定労働時間変更対象者へ変更内容を書面等で明示します。
賃金表初任給、号俸、等級別範囲最低賃金に近い複数の号俸をまとめて確認します。
給与計算基本給、割増賃金、欠勤控除発効日を反映し、初回計算後に再点検します。
求人票採用時給・月給、試用期間中の賃金発効日前後の募集条件を更新します。
社員周知適用対象、金額、算入しない賃金、発効日掲示、社内システム、書面配布等で周知します。
記録保存試算、改定決定、説明、給与計算結果判断経緯と確認結果を残します。
助成金申請申請前の着手制限、対象経費、賃上げ要件設備購入や賃上げの実施前に最新要領を確認します。

業務改善助成金は「賃上げ原資」ではなく「生産性向上の呼び水」

2026年度の業務改善助成金について、厚生労働省は交付要綱・要領を公開し、交付申請の受付開始日を2026年9月1日と案内しています。事業場内で最も低い時間給を一定以上引き上げ、生産性向上に取り組んだ場合に支給される制度で、今回の目安小委員会報告でも、中小企業・小規模事業者が活用しやすいよう制度の充実と周知徹底を政府に求める内容が盛り込まれました。

2026年度はコース構成や申請受付期間の見直しが行われているため、前年度の記憶で進めるのは危険です。とくに、交付決定前に契約・発注・支払いを行うと対象外になる可能性がある点は、毎年もっとも多い失敗です。対象事業場、賃金の引上げ幅、申請時期、設備の導入時期などの要件は、必ず最新の交付要綱で確認し、申請可否は都道府県労働局または社会保険労務士へ個別に相談してください。

考え方

助成金は一時金であり、継続的に発生する人件費を賄うものではありません。助成金は生産性向上のための設備投資や業務改善に充て、その効果によって翌年以降の賃上げ原資を自力でつくる。この順番を崩すと、翌年また同じ資金繰りの相談を繰り返すことになります。

9.毎年繰り返される5つの誤解と、法令上のリスク

誤解1:示された目安額がそのまま適用される

目安は、地方最低賃金審議会が審議する際の参考であり、その決定を拘束するものではありません。昨年度は39道府県が目安を上回り、11県では10円以上の上乗せがありました。中央の目安、地方審議会の答申、都道府県労働局長の決定・公示は、それぞれ別の段階です。

誤解2:総支給額が高ければ問題ない

通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与、割増賃金は比較対象から除外されます。総支給額では判断できません。

誤解3:試用期間中は最低賃金を下回ってもよい

試用期間中も原則として最低賃金が適用されます。減額を行うには都道府県労働局長の許可が必要で、会社の判断だけで低い金額を設定することはできません。

誤解4:発効日は全国一律で10月1日である

発効日は都道府県によって異なります。昨年度は11月以降が27府県、翌年1月1日以降も6県ありました。必ず事業場所在地の情報を確認してください。

誤解5:最低額の社員だけ直せば対応は終わる

法律上の最低額を満たしても、上位社員との賃金差が失われれば、人事制度上の問題は残ります。むしろ、ここからが人事の仕事です。

法令違反となった場合

最低賃金を下回る賃金について労使で合意しても、その部分は無効となり、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます。会社には不足額の支払義務が生じます。地域別最低賃金を下回った場合には、最低賃金法により50万円以下の罰金が科されることがあります。特定最低賃金については、違反の内容に応じて労働基準法上の賃金全額払いの問題として罰則が科される場合があります。

10.人事コンサルタントからの提言

最低賃金対応を毎年の「対象者だけを直す作業」にすると、賃金表は下から押し上げられ、等級間の差が少しずつ失われていきます。

今回の目安審議の資料には、人事の現場にとって見過ごせないデータがあります。中小企業がパート・アルバイトの賃金を決めるときの考慮要素は、「地域別最低賃金」が63.5%で最多でした。一方、正社員では「職務(役割)」46.6%、「経験年数」46.5%が上位で、地域別最低賃金は26.1%にとどまります。

つまり多くの企業で、パート・アルバイトの賃金は自社の制度ではなく、法定下限が事実上決めている状態です。毎年の改定に合わせて時給を書き換えるだけの運用を続けている限り、賃金は上がっても、そこに「誰にどう報いるか」という意思は乗りません。実際、2025年度の改定で「賃金差を付けることが難しくなった」と答えた企業が12.2%あったことは、その帰結だと考えています。

最低賃金の上昇が構造的に続く局面では、単年度の法令対応ではなく、3年程度の人件費計画と賃金制度の見直しをセットで考える必要があります。とくに点検したいのは、初任給、最低等級の上限・下限、等級間の昇格時昇給、役職手当、評価による昇給幅の5点です。この5つが噛み合っていれば、最低賃金が上がっても賃金カーブは崩れません。

もう一つ、実務で軽視されがちなのが説明の仕方です。「法律が変わるから上げます」とだけ伝えると、対象者以外の社員には「自分は評価されていない」というメッセージとして届きます。最低賃金対応で下位層だけが大きく上がる年は、必ず中堅層の納得感が下がります。職務や役割に応じて賃金が決まるという考え方を、改定のタイミングで改めて伝えてください。制度を語る絶好の機会でもあります。

人件費の原資が限られる企業では、次の順序で検討すると実行しやすくなります。

  1. 法令上必要な引上げ額を確保する
  2. 賃金逆転を防ぐために調整が必要な社員を特定する
  3. 採用市場で必要となる賃金水準を確認する
  4. 業務の廃止・簡素化・設備投資による生産性向上を検討する
  5. 商品・サービス別の採算を確認し、価格転嫁の必要性を判断する

とくに5番目は、もはや経理や営業だけの話ではありません。労務費の価格転嫁率は50.0%で、原材料費の55.7%より低い水準にとどまっています。人件費の上昇分を取引価格に反映できているかどうかは、翌年の賃上げ原資を左右する人事のテーマでもあります。この5つを別々の会議で扱っている限り、最低賃金対応はいつまでも「面倒な事務作業」のままになります。

11.よくある質問

Q1.2026年度の最低賃金はいくらになりますか?

2026年7月28日に示された目安は、Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円の引上げです。全国加重平均で4.9%(55円)を基準に検討されました。現在の全国加重平均1,121円が、目安どおりなら1,176円になります。ただしこれは目安であり、都道府県別の確定額と発効日はこれから地方最低賃金審議会の審議を経て決まります。

Q2.自社の都道府県はどのランクですか?

Aランクは埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪の6都府県です。Bランクは北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡の28道府県、Cランクは青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の13県です。複数県に事業場がある場合は、事業場ごとに適用される最低賃金を確認してください。

Q3.月給が最低賃金以上かどうかは、どう確認すればよいですか?

最低賃金に算入できる月給を、1か月平均所定労働時間で割って確認します。通勤手当、家族手当、精皆勤手当、時間外割増賃金、賞与などは比較対象から除外します。年間所定労働日数や手当の取扱いが複雑な場合は、社会保険労務士へ確認してください。

Q4.目安が発表されたら、すぐ給与を変更する必要がありますか?

目安が示された段階では、各都道府県の最低賃金は確定していません。地方最低賃金審議会の審議と都道府県労働局長による決定・公示を確認し、公示された発効日から新しい金額を適用します。昨年度は39道府県が目安を上回る答申を出しており、目安どおりの金額で規程を確定させるのは避けてください。ただし、社内の試算や規程改定の準備は先に進められます。

Q5.最低賃金対応に業務改善助成金は使えますか?

要件を満たす中小企業・小規模事業者であれば、活用できる可能性があります。2026年度は交付申請の受付開始が9月1日と案内されており、コース構成や受付期間も見直されています。交付決定前に契約や設備購入を行うと対象外になる場合があるため、実施前に最新の交付要綱を確認し、都道府県労働局または社会保険労務士へ相談してください。

Q6.最低賃金を上げたら、上の等級の社員も上げなければいけませんか?

法律上の義務はありませんが、実務上は検討が必要です。2025年度の改定では、12.2%の中小企業が「従業員の貢献度に応じて適切な賃金差を付けることが難しくなった」と回答しています。下位層だけを引き上げると等級間の賃金差が縮小し、経験者や役職者の納得感が下がります。人件費の制約もあるため、「全員一律に上げる」のではなく、賃金逆転が生じる範囲を特定して調整するのが現実的です。

12.まとめ

2026年度の目安は示されました。しかし、企業が確定を待つ理由はありません。

7月28日の目安小委員会報告により、Aランク54円、B・Cランク56円という目安が公益委員見解として示されました。全国加重平均で4.9%(55円)が基準です。ただし労使の意見は一致しておらず、都道府県別の金額と発効日はこれから地方最低賃金審議会の審議を経て決まります。昨年度は39道府県が目安を上回りました。

この1〜2か月の間に、従業員別の時間換算額の一覧化、目安額を起点とした複数シナリオの人件費試算、賃金表への波及確認、求人条件と規程の点検、社員説明の設計を進めておけば、答申後の対応は格段に楽になります。むしろ、確定してからでは間に合わない作業です。

そして、政府が掲げる全国平均1,500円という目標を踏まえれば、この対応は今年限りのものではありません。最低賃金への適合を出発点として、等級・評価・賃金の3つが噛み合った制度に整えることが、これからの数年を乗り切る現実的な備えになります。

最低賃金対応から、その後の制度運用まで伴走します

ヒューマンリソースコンサルタントは、社員10名から1,000名までの中小企業を中心に、人事評価制度・賃金制度の設計と運用を支援しています。最低賃金への適合だけで終わらせず、等級間の賃金差、採用時給と既存社員のバランス、将来の人件費まで一体で確認し、企業ごとの経営状況や人材課題に合った仕組みを検討します。

制度をつくって終わりではなく、社員への説明、評価者の目線合わせ、昇給・賞与の運用、導入後の見直しまで継続して伴走できることが私たちの特徴です。

  • 最低賃金改定による対象者と影響範囲の確認
  • 複数シナリオによる人件費シミュレーション
  • 賃金表・等級制度・評価制度の整合性確認
  • 社員説明や導入後の運用までを含む継続支援

「どこまで賃金を調整すべきか分からない」「採用時給と既存社員の賃金が逆転している」「将来の人件費を見通したうえで制度を見直したい」とお考えでしたら、まずは現在の状況をお聞かせください。課題を整理する段階からご相談いただけます。

最低賃金対応・賃金制度について相談する

参考資料

資料名 公表主体 確認時点等 主な確認内容
中央最低賃金審議会 目安に関する小委員会報告(資料No.22) 厚生労働省 令和8年7月28日 ランク別の引上げ額の目安、公益委員見解、3要素データ、政府への要望、地方最低賃金審議会への期待
最低賃金法(昭和34年法律第137号) e-Gov法令検索 現行法(2026年7月28日確認) 最低賃金以上の支払い、契約の効力、減額特例、周知義務、罰則、第9条第2項の3要素
最低賃金法施行規則 e-Gov法令検索 現行規則(2026年7月28日確認) 周知事項、減額特例等の具体的な手続
最低賃金の対象となる賃金 厚生労働省 2026年7月28日確認 算入する賃金と除外する賃金
最低賃金額以上かどうかを確認する方法 厚生労働省 2026年7月28日確認 時間給、日給、月給等の換算方法
最低賃金の周知義務 厚生労働省 2026年7月28日確認 適用範囲、金額、算入しない賃金、発効日の周知
令和8年度地域別最低賃金額改定の目安に係る審議資料 厚生労働省 2026年7月21日閣議決定分を含む 遅くとも2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円という政府方針
業務改善助成金 厚生労働省 令和8年度制度(交付申請受付開始2026年9月1日) 事業場内最低賃金の引上げと設備投資等への支援
中小企業における最低賃金の影響に関する調査の紹介 労働政策研究・研修機構 2026年5月号 前年度改定による中小企業の賃上げ状況と負担感

調査・法令確認に関する注意書き

本記事は、2026年7月28日に公表された「中央最低賃金審議会 目安に関する小委員会報告」および同日時点で確認できた公的資料、現行法令に基づいて作成しています。記載した目安額は地方最低賃金審議会の審議に際して示されるものであり、都道府県別の最低賃金額および発効日は、本記事作成時点で確定していません。公開後に地方最低賃金審議会の答申、都道府県労働局の公示が行われた場合は、最新情報へ更新してください。

本文中の統計値(消費者物価指数、春季賃上げ妥結状況、賃金改定状況調査、労働分配率、価格転嫁率、影響率、企業アンケート結果等)は、同報告および別添参考資料に掲載された数値を要約したものです。定義や集計対象の詳細は原資料をご確認ください。

賃金の算入範囲、変形労働時間制における時間額換算、減額特例、未払い賃金、就業規則の変更、助成金申請などは、各社の労働条件によって判断が異なります。個別の法的判断は社会保険労務士または弁護士へ、税制上の取扱いは税理士へご確認ください。

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