「治療と仕事の両立支援」が努力義務に。中小企業はどう対応すればいい?
この記事でわかること
- 治療と仕事の両立支援が努力義務化された経緯と内容
- 努力義務であって法的な義務ではない点の正しい理解
- 中小企業が実務で直面しやすい課題
- 体制整備の具体的な対応ステップ
結論
治療と仕事の両立支援は、労働施策総合推進法第27条の3に基づき、令和8年4月1日から企業規模を問わずすべての事業主の努力義務になりました。中小企業は、相談体制の整備、休暇・勤務制度の見直し、主治医・産業医の意見を踏まえた個別支援という3つの観点から、無理のない範囲で対応を進めることが重要です。
治療と仕事の両立支援とは
治療と仕事の両立支援とは、がんや脳血管疾患、難病などの病気の治療を受けながら働く労働者が、治療を続けながら仕事を継続できるよう、事業主が必要な配慮や制度整備を行う取り組みです。労働施策総合推進法第27条の3(令和7年法律第63号により新設)に基づき、事業主の努力義務として令和8年4月1日から施行されています。努力義務とは、実施に向けた努力を求めるものであり、実施しないこと自体が直ちに法的な違反となる法的義務とは性質が異なります。厚生労働大臣が「治療と就業の両立支援指針」を告示として公表し、事業主の取り組みを促進する仕組みになっています。詳しい定義は、用語集記事「治療と仕事の両立支援とは」もあわせてご確認ください。
なぜ中小企業の実務で重要なのか
治療を続けながら働く従業員が、適切な配慮を受けられないまま離職に至ると、企業にとっては貴重な人材・ノウハウの流出につながります。特に人員に余裕のない中小企業では、一人の従業員の離職が事業運営に与える影響が大きくなりがちです。努力義務とはいえ、休暇制度や柔軟な働き方(時間単位有給休暇、テレワーク等)の整備が不十分なまま何も対応しないでいると、実際に治療が必要な従業員が出た際に、その場しのぎの対応となり、従業員・会社双方にとって望ましくない結果を招くおそれがあります。
実務上起こりやすい課題
- 治療中の従業員から相談を受ける窓口や担当者が明確になっていない
- 時間単位の有給休暇やテレワークなど、柔軟な働き方に対応する制度が整っていない
- 主治医・産業医の意見をどのように業務調整に反映すればよいかわからない
- 本人のプライバシーに配慮しながら、周囲の従業員へどこまで情報共有すべきか判断に迷う
課題別の対応策
相談窓口が未整備の場合は、既存の人事労務担当窓口や産業医と連携する形で相談ルートを明確化し、従業員に周知します。柔軟な働き方の制度が不足している場合は、時間単位の有給休暇制度やテレワーク制度の導入・拡充を検討します。主治医・産業医の意見の反映方法については、本人の同意を得たうえで、就業上の配慮事項を書面で確認し、それを踏まえた業務調整(勤務時間の短縮、業務内容の一時的な変更等)を行う流れを整理しておくことが有効です。情報共有の範囲については、本人の意向を確認しながら、必要最小限の範囲にとどめる方針をあらかじめ定めておくことが望まれます。
具体的な対応ステップ
- 治療中の従業員からの相談窓口・担当者を明確にし、社内に周知する
- 時間単位の有給休暇やテレワークなど、柔軟な勤務制度の整備状況を点検する
- 主治医・産業医の意見を業務調整に反映する際の手順(本人同意、情報共有の範囲等)を整理する
- 就業規則等に両立支援に関する規定を追加することを検討する
- 管理職向けに、両立支援の考え方と相談対応の基本を周知する
体制整備チェックリスト
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 方針の明確化 | 両立支援に取り組む基本方針を社内で共有しているか |
| 相談体制 | 治療中の従業員が相談できる窓口・担当者を明確にしているか |
| 研修・意識啓発 | 管理職等に両立支援の考え方を周知しているか |
| 休暇・勤務制度 | 時間単位有給休暇、テレワーク等の制度を整備しているか |
| 個別支援の手順 | 主治医・産業医の意見を踏まえた業務調整の手順があるか |
注意点・法的リスク
治療と仕事の両立支援は努力義務であり、未実施自体が直ちに法違反となるものではありません。ただし、努力義務であっても、実際に治療中の従業員に対して合理的配慮を欠いた対応を行った場合、他の法令(安全配慮義務、障害者差別解消法等)との関係で問題となる可能性はあります。努力義務という性質を正しく理解したうえで、自社でできる範囲から着実に取り組むことが重要です。厚生労働大臣が公表する両立支援指針の詳細については、公開前に厚生労働省の公式情報でご確認ください。
中小企業ならではの対応方法
専任の産業医を置けない中小企業では、地域産業保健センターなど公的な支援機関を活用しながら、主治医の意見書をもとに業務調整を行う方法が現実的です。すべての制度を一度に整備するのではなく、まずは相談窓口の明確化と、既存の休暇制度の柔軟な運用から始めることで、無理なく取り組みを進めることができます。
まとめ
治療と仕事の両立支援は、令和8年4月1日から事業主の努力義務になりました。法的な義務ではありませんが、相談体制の整備、柔軟な勤務制度の検討、主治医・産業医の意見を踏まえた個別対応という基本的な取り組みを、自社の規模に合わせて段階的に進めることが望まれます。
HRCへの相談案内
治療と仕事の両立支援を実効性のある形で進めるには、相談窓口の設置だけでなく、休暇制度・勤務制度を自社の等級制度や評価制度と矛盾しない形で整備することが求められます。特に、業務調整を行った従業員の評価や処遇をどう扱うかは、既存の人事制度全体との整合性が必要な論点であり、自社だけで判断するのが難しい場合があります。まずは現状の休暇・休職関連の規程を確認する制度分析から始めるか、両立支援を前提とした規程の新設・改定である制度設計から着手するかは、自社の状況によって異なります。ヒューマンリソースコンサルタントでは、中小企業の就業規則・人事制度の設計と運用を支援しています。自社の対応について相談したい場合は、お問い合わせページからご連絡ください。
関連するよくある質問
努力義務なので、対応しなくても問題ありませんか。
法的な罰則が直ちに科されるものではありませんが、実際に治療中の従業員が生じた場合の対応の質や、離職防止・人材確保の観点からは、可能な範囲での準備をおすすめします。
どのような病気が対象になりますか。
特定の疾病に限定されるものではなく、がん、脳血管疾患、心疾患、難病、精神疾患など、治療を続けながら就労を希望する労働者全般が対象になると考えられています。個別の運用は厚生労働省の指針をご確認ください。
本人の病名を他の従業員に伝える必要がありますか。
本人のプライバシーに配慮し、業務調整に必要な範囲を超えた情報共有は避けるべきとされています。共有する情報の範囲は、本人の意向を確認しながら決めることが望まれます。
関連記事・関連サービス
- 用語集:治療と仕事の両立支援とは(新設・両記事の公開後にリンクを設定予定)
- 用語集:休職制度とは
- FAQ:メンタルヘルス対策として、産業医やEAPサービスはどこまで活用できますか
- サービス:制度設計支援
- サービス:制度運用支援
本記事の内容は2026年8月22日時点で確認できた情報に基づいています。指針の詳細は変更される場合があるため、最新情報は厚生労働省の公式情報でご確認ください。
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