【2026年最新】広島県の最低賃金は1,141円へ?56円引上げ目安と初任給21.2万円時代の賃金制度再設計

広島県が属するBランクの2026年度最低賃金引上げ目安は56円。現行1,085円から1,141円になる可能性があります。高卒初任給21.2万円との差、賃金カーブの圧縮、人件費試算、特定(産業別)最低賃金、9月開始の業務改善助成金まで、広島県の中小企業がいま進めるべき実務対応を社労士・人事コンサルの視点で解説します。
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公開日:2026年8月6日/最終更新:2026年8月6日|執筆:ヒューマンリソースコンサルタント(人事制度設計・人事労務コンサルティング)

この記事の結論
  • 広島県の最低賃金は、2026年度に1,141円へ引き上げられる可能性があります(現行1,085円+Bランク目安56円)。ただし確定額ではありません
  • 2026年7月28日の中央最低賃金審議会が示したのは全国の「目安」で、実際の金額と発効日は広島地方最低賃金審議会の答申を経て広島労働局長が決定します。
  • 2025年度の広島県は目安63円を2円上回る65円で決着し、発効日も例年より1か月遅い11月1日でした。目安どおりになるとは限りません。
  • 1,141円を月173時間で換算すると197,393円。2026年度の広島県・高卒初任給平均212,000円との差は約1万5,000円しかありません。
  • 対応すべきは「最低賃金違反の有無」だけではなく、賃金カーブの圧縮(等級間・役職間の賃金差の縮小)です。
目次

はじめに|1,085円への対応は、まだ「入口」にすぎなかった

前編「広島の最低賃金1,085円時代を生き抜く!賃上げを『戦略的投資』に変える人事評価制度の作り方」では、最低賃金の上昇を単なる人件費負担ではなく、採用・定着・育成につなげる経営投資へ転換する必要性を解説しました。

広島県の最低賃金は、2025年11月1日に時間額1,085円へ引き上げられました。2016年度の793円と比べると、9年間で292円の上昇です。

そして企業が1,085円への対応を終えた直後、次の引上げが現実味を帯びています。2026年7月28日に開催された第75回中央最低賃金審議会で、令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安が答申されました。Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円です。広島県はBランクに該当するため、目安どおりであれば次の水準になります。

1,085円 + 56円 = 1,141円※目安どおりに改定された場合の試算値であり、確定額ではありません

この記事でわかること

  1. 広島県の最低賃金1,141円予想の根拠と、確定していない範囲
  2. 10年間で約44%上昇する最低賃金の推移
  3. 見落とされやすい「特定(産業別)最低賃金」との関係
  4. 広島県の初任給上昇と、最低賃金との距離
  5. 56円引上げによる人件費インパクトの試算
  6. 確定前に進めるべき賃金制度の点検5ステップ
  7. 賃上げ原資の確保と業務改善助成金(令和8年度)の活用

1.【重要】1,141円は「予想」であって「確定額」ではありません

まず、実務上いちばん誤解が生じやすい点を整理します。今回公表されたのは全国の「目安」であり、各都道府県に適用される金額そのものではありません。

厚生労働省の発表によると、仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合、全国加重平均は1,176円となり、上昇額は55円(昨年度66円)、引上げ率は4.9%(昨年度6.3%)となります。今後は各地方最低賃金審議会が調査審議のうえ答申を行い、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定します。

表1 いま「確定していること」と「確定していないこと」
項目状況内容
現行の広島県最低賃金 確定 時間額1,085円(2025年11月1日発効)
全国の改定目安 確定 Aランク54円/B・Cランク56円(2026年7月28日答申)
広島県のランク区分 確定 Bランク(56円の目安が示された28道府県のひとつ)
広島県の2026年度改定額 未確定 1,141円は「1,085円+目安56円」の試算値。広島地方最低賃金審議会の答申を経て、広島労働局長が決定
広島県の発効日 未確定 2025年度は11月1日発効(例年より約1か月遅い)。2026年度も同様とは限らない

目安を上回る可能性を織り込んでください

2025年度、広島県に示された目安は63円でしたが、広島地方最低賃金審議会の答申は65円(2円上乗せ)でした。近年は目安を上回る改定が全国的に相次いでいます。1,141円だけを前提とした試算は、実務上リスクがあります。

また今年度の目安は、労使の意見が一致せず公益委員見解として取りまとめられました。地方審議会での議論が例年以上に流動的になる可能性があります。

2.広島県の最低賃金は10年間で約44%上昇する可能性

2016年度793円起点
2025年度(現行)1,085円+292円
2026年度(目安どおりの場合)1,141円+348円/約43.9%
広島県の最低賃金の推移グラフ(2016年度793円から2025年度1,085円、2026年度は目安どおりの場合1,141円)
図1 広島県の最低賃金の推移(2016〜2026年度)※2026年度はBランクの引上げ目安56円を加算した試算値(未確定)
表2 広島県の地域別最低賃金の推移
年度時間額前年からの引上げ額
2016年度793円
2017年度818円25円
2018年度844円26円
2019年度871円27円
2020年度871円0円
2021年度899円28円
2022年度930円31円
2023年度970円40円
2024年度1,020円50円
2025年度1,085円65円
2026年度(試算)1,141円56円

※2026年度はBランクの目安どおりに改定された場合の試算値です(未確定)。2025年度の広島県は目安63円に対し65円で答申され、発効日は11月1日でした。

注目すべきは、2024年度から2026年度予想までのわずか2年間で、最低賃金が121円上昇する可能性があることです。時給1,000円の従業員が10名いれば、この2年で年間の直接人件費が約250万円増える計算になります。

最低賃金の引上げは、もはや数年に一度の特別対応ではありません。毎年の経営計画・採用計画・昇給予算にあらかじめ織り込むべき、恒常的な経営条件になっています。

3.広島県の製造業は「特定(産業別)最低賃金」も同時に確認が必要

広島県には、地域別最低賃金とは別に特定(産業別)最低賃金が設定されています。製造業の集積地である広島県では、この確認漏れが実務上のリスクになります。

大前提:地域別と特定の両方が適用される場合は「高いほう」が適用されます

特定最低賃金が地域別最低賃金を下回る場合、その事業場では地域別最低賃金(=高いほう)を支払う必要があります。

表3 広島県特定(産業別)最低賃金と、地域別1,141円になった場合の関係
産業時間額発効日1,141円になった場合
製鉄業、鋼材、銑鉄鋳物、可鍛鋳鉄製造業、その他の鉄鋼業 1,179円2025年12月31日 引き続き特定最賃が上回る
電子部品・デバイス・電子回路、電気機械器具、情報通信機械器具製造業 1,110円2025年12月31日 地域別が上回るため地域別を適用
自動車・同附属品製造業 1,105円2025年12月31日 地域別が上回るため地域別を適用
建設用・建築用金属製品/はん用・生産用・業務用機械器具/船舶製造・修理業/自動車小売業/各種商品小売業 1,085円2025年11月1日 地域別と同額(=地域別を適用)

出典:広島労働局「広島県特定(産業別)最低賃金」。特定最低賃金には「特定の軽易業務に従事する者」などの適用除外があります。自社の対象範囲は必ず個別に確認してください。

実務上の注意点

  • 発効日が異なります。地域別は11月1日、特定最賃の一部は12月31日発効でした。年をまたぐ給与計算では適用単価の切替日に注意が必要です。
  • 鉄鋼業は特定最賃1,179円が現在も上位です。地域別が1,141円になっても、この事業場では1,179円が下限のままです(特定最賃自体の改定があれば、さらに上がります)。
  • 特定最低賃金が地域別に「追い越された」状態が続いている産業では、事実上、地域別の動向だけを見て賃金設計すれば足ります。

4.初任給も急上昇|最低賃金だけを見ていると採用できない

最低賃金と同時に確認すべきなのが、新規学卒者の初任給水準です。広島県内の初任給平均は、2022年度から2026年度にかけて、すべての学歴区分で大きく上昇しています。

広島県の新規学卒者初任給平均の推移グラフ(2022年度から2026年度、高卒・短卒・大卒)
図2 広島県 新規学卒者・初任給平均の推移(2022〜2026年度)
表4 広島県全体の新規学卒者・初任給平均
年度高卒短卒大卒
2022年度181,000円192,000円213,000円
2023年度183,000円194,000円216,000円
2024年度191,000円202,000円225,000円
2025年度202,000円212,000円238,000円
2026年度212,000円220,000円249,000円
4年間の上昇額+31,000円+28,000円+36,000円

※広島・広島東(広島市地域)では、2026年度の平均が高卒210,000円、短卒223,000円、大卒252,000円となっています。

最低賃金を守るだけでは、人材を採用できる賃金水準にはなりません。企業は、次の二つを明確に区別して考える必要があります。

表5 二つの「床」を区別する
賃金水準意味性格
法定最低賃金最低賃金法上、下回ることが許されない下限法律上の床
採用市場賃金応募者から選ばれるために必要な実際の募集水準採用市場の床

この二つの床が同時に上がっていることが、現在の賃金問題を難しくしています。法令対応(最低賃金)と市場対応(初任給)は、別々のロジックで検討しなければなりません。

5.最低賃金1,141円になると、高卒初任給との差は約1万5,000円

最低賃金1,141円を、月173時間勤務としてモデル換算すると、月額は次のようになります。

1,141円 × 173時間 = 197,393円※年間休日約105日・1日8時間のモデル。実際の判定は各社の1か月平均所定労働時間で行います
最低賃金1,141円の月額換算197,393円と、広島県の高卒・短卒・大卒初任給平均を比較した棒グラフ
図3 2026年度予想:最低賃金の月額換算と初任給平均の距離
表6 最低賃金月額換算と初任給平均の差
比較対象月額最低賃金月額換算との差
最低賃金1,141円×173時間197,393円
広島市地域・高卒初任給210,000円+12,607円
広島県・高卒初任給212,000円+14,607円
広島県・短卒初任給220,000円+22,607円
広島県・大卒初任給249,000円+51,607円

月給制の最低賃金判定は「総支給額」では行いません

最低賃金の対象となる賃金には、次のものは算入されません(最低賃金法・同施行規則、広島労働局公表)。

  • 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
  • 所定時間外労働・所定休日労働・深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
  • 臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)

月給制の場合は、「最低賃金に算入できる賃金 ÷ 1か月平均所定労働時間」で時間額に換算して判定します。基本給が低く諸手当の比率が高い会社は、総支給額が高くても最低賃金を下回る可能性があります。

差の縮小は、新卒採用だけの問題ではありません

たとえば、現在の賃金が次のようになっている企業を考えてみましょう。

表7 賃金カーブ圧縮の例
社員区分現在の月給下位区分との差
入社予定の高卒社員(市場水準に合わせた場合)212,000円
勤続3年の一般社員215,000円わずか3,000円
後輩を指導する中堅社員225,000円10,000円
班長・リーダー235,000円10,000円

新卒社員の初任給を市場水準に合わせて212,000円にすると、勤続3年の社員との差はわずか3,000円です。さらに最低賃金対応として既存の低賃金層を引き上げれば、一般社員・中堅社員・班長の間でも賃金差が縮小します。

これが、最低賃金の上昇によって起こる賃金カーブの圧縮です。

6.「対象者だけ56円上げる」対応では、既存社員の不満が残る

最低賃金が56円上がったからといって、法律上、すべての社員の時給を一律56円上げる必要はありません。しかし、最低賃金を下回る社員だけを機械的に引き上げると、次の問題が連鎖的に起こります。

  • 新入社員と勤続社員の賃金差がなくなる
  • 未経験者と熟練者の賃金差が小さくなる
  • 一般社員とリーダーの責任差が賃金に表れなくなる
  • 採用時給が既存社員の時給を上回る(逆転現象)
  • 昇給しても最低賃金の上昇に吸収される
  • 評価が高い社員と低い社員の賃金差が縮まる

最低賃金への対応は、給与計算担当者だけに任せる作業ではありません。経営者・人事担当者・現場責任者が一緒になり、次の三つを同時に確認する必要があります。

最低賃金改定時に確認すべき3つの視点

  1. 法令適合:法律上の最低賃金を満たしているか
  2. 市場競争力:採用市場で競争できる賃金になっているか
  3. 社内公平性:役割・能力・責任の差が賃金に表れているか

7.56円引上げによる人件費インパクトの試算

月173時間勤務の社員について、時給を56円引き上げた場合の直接的な増加額は次のとおりです。

1人あたり月額増9,688円56円×173時間
1人あたり年額増116,256円9,688円×12か月
法定福利費込み(試算)約133,700円事業主負担15%と仮定
表8 対象人数別・年間人件費増加額(時給56円引上げの場合)
対象人数月間増加額年間増加額法定福利費込み(試算)
5人48,440円581,280円約668,000円
10人96,880円1,162,560円約1,337,000円
20人193,760円2,325,120円約2,674,000円
30人290,640円3,487,680円約4,011,000円
50人484,400円5,812,800円約6,685,000円

※「法定福利費込み」は、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の事業主負担を合計15%と仮定した概算です。実際の料率は年度・保険者・業種により異なります。

これは基本賃金の直接増加分にすぎません。実際には、次の費用もあわせて増加します。

  • 時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金(割増単価の基礎が上がるため)
  • 基本給に連動する賞与
  • 基本給や等級に連動する退職金(ポイント制・別テーブル方式でも要検証)
  • 最低賃金に近い既存社員への調整昇給
  • リーダー・管理職層との賃金差を維持するための追加昇給

したがって経営計画上は「最低賃金対象者数×56円」だけで予算を組むのではなく、少なくとも次の三つのシナリオを作成してください。

表9 人件費試算の3シナリオ
シナリオ試算内容想定される副作用
最小対応最低賃金を下回る社員だけを引き上げる賃金カーブの圧縮、既存社員の不満
標準対応最低賃金に近い社員まで調整する中堅層との差は依然縮小
戦略対応初任給・一般社員・中堅社員・リーダーまで賃金表を再設計する初期コストは最大だが、採用力と定着率に反映

8.広島県で賃金問題がより深刻になる四つの理由

8-1.製造業の集積と、価格転嫁の難しさ

日本銀行広島支店の資料によると、広島県の製造品出荷額等(2022年)は10兆6,923億円で全国シェア3.0%(全国10位)。業種構成では自動車クラスターや造船業を中心とする輸送用機械のウエイトが最も高く、次いで鉄鋼、はん用・生産用・業務用機械が続きます。製造品出荷額等を市町村別にみると、広島市と福山市の2市で県内全体の5割弱を占めています。

大手企業が高い賃上げを実施すると、県内の採用市場全体の賃金水準が引き上げられます。一方で下請・協力会社では、原材料費や人件費の上昇を取引価格へ十分に転嫁できないケースがあります。採用競争に対応する賃上げは必要だが、その原資を確保できないという矛盾が、広島県の中小企業に強く表れやすい構造です。

8-2.人手不足がすでに経営上の制約になっている

広島県商工会議所連合会が県内13商工会議所の管内企業を対象に実施した調査(2026年3月調査・4月公表)では、次の結果が示されています。

人手が不足している51.7%全体
運輸業85.7%業種別で最多
建設業68.4%業種別2位
正社員の賃上げ予定企業のうち「防衛的な賃上げ」69.5%業績改善なしでの賃上げ

正社員の賃上げを実施予定とする企業は64.0%(非正規社員は48.7%)でしたが、そのうち69.5%は業績が改善していないにもかかわらず賃上げを行う「防衛的な賃上げ」でした。賃上げ理由では「人材確保・定着やモチベーション向上のため」が88.5%と最多です。

つまり多くの企業が、利益の増加を社員へ還元しているのではなく、人材流出を防ぐために賃上げせざるを得ない状況にあります。この状態で最低賃金がさらに56円上がれば、原資の確保はいっそう厳しくなります。

8-3.広島市周辺と中山間・島しょ地域で採用条件が異なる

広島県には、広島市・福山市・東広島市・呉市などの都市/産業集積地域がある一方、中山間地域や島しょ部も広く存在します。広島県は「中山間地域振興条例」および「広島県中山間地域振興計画」に基づき、人口減少、担い手・後継者の不足、生活サービスの供給力低下といった課題への対策を進めています。

都市部では大手企業や成長企業との採用競争が発生します。一方、中山間地域では人口減少、後継者不足、通勤手段の制約などが採用をさらに難しくします。県内全事業所を一律の採用条件で管理するのではなく、地域別の採用難度・通勤条件・職種別の需給状況を踏まえた賃金設定が必要です。

8-4.設備投資と人材の奪い合いが同時に進む

製造業の集積地では、設備投資や生産拠点の拡張が地域経済にとって好材料である一方、技術者や現場人材の需要を押し上げます。中小企業が大企業と給与額だけで勝負するのは困難です。そのため、次の要素を組み合わせた採用・定着策が重要になります。

  • 分かりやすい昇給ルール(何をすればいくら上がるかが見える)
  • 技能や資格が賃金に反映される仕組み
  • 若手社員への教育計画・OJT体制
  • 柔軟な勤務時間や休日
  • 通勤支援・住宅支援
  • 転勤の少なさ、地域密着性
  • 経営者や上司との距離の近さ
  • 将来の役割やキャリアの見える化

9.最低賃金確定前に進めるべき賃金制度の点検(5ステップ)

STEP 1

全社員を時間額へ換算する

パート・アルバイトだけでなく、月給制の正社員、契約社員、嘱託社員も対象です。月給制の場合は「最低賃金に算入できる月給 ÷ 1か月平均所定労働時間」で時間額を算出します。

通勤手当・家族手当・精皆勤手当・賞与・時間外割増賃金などは、原則として最低賃金との比較から除外されます。総支給額だけを見て「最低賃金を上回っている」と判断してはいけません。嘱託再雇用者は、定年時より基本給が下がり手当構成が変わっているケースが多く、特に確認が必要です。

STEP 2

1,141円と1,150円の二つで試算する

広島県の確定額はまだ決まっていません。2025年度は目安を2円上回って決着しました。そのため、現時点では少なくとも次の二つの金額で人件費を試算してください。

  • 目安どおりの1,141円
  • 目安を上回る場合を想定した1,150円

確定後に試算を始めると、賃金表の修正、就業規則・賃金規程の確認、社員説明、給与システムの設定が間に合わない可能性があります。

STEP 3

初任給と既存社員の逆転を確認する

新規採用予定者/入社1〜3年の若手/一人で仕事を完結できる社員/後輩を指導する中堅社員/班長・主任・リーダー/店長・現場責任者を、横並びで比較します。

確認すべきは最低賃金違反の有無だけではありません。「経験・技能・役割・責任の違いが、社員本人にも分かる金額差になっているか」という視点が重要です。

STEP 4

賃金を三つのゾーンに分けて設計する

ゾーン目的
法定最低ライン最低賃金(地域別・特定)を確実に上回る
採用競争ライン初任給・求人相場に対応する
成長・役割ライン能力・経験・責任の上昇を処遇に反映する

最低賃金や採用相場だけを基準にすると、賃金表の下段だけが毎年引き上げられ、中堅社員やリーダーの賃金が相対的に低下します。最低賃金の上昇に合わせて、賃金表全体のレンジ幅と等級間差(ピッチ)を見直す必要があります。

STEP 5

昇給を評価制度と連動させる

最低賃金対応による一律調整と、本人の成長・成果による評価昇給は分けて管理します。社員への説明でも、次の二つを明確に区別してください。

  • 法令・市場対応として行う賃金調整(=会社の義務・環境対応)
  • 評価結果や能力向上に基づく昇給(=本人の成果への報酬)

この区別が曖昧なままでは、評価の高い社員から「頑張っても最低賃金の引上げと同じではないか」という不満が必ず出ます。評価制度では、売上や利益などの成果だけでなく、担当業務の習熟度/品質と正確性/生産性と業務改善/顧客対応/後輩指導/資格・技能の習得/チームへの貢献/責任範囲の拡大なども昇給判断に反映させます。

10.広島県の中小企業に適した賃金見直しの考え方

すべての企業が、大企業と同じ初任給や昇給率を設定できるわけではありません。重要なのは、自社が支払える総額人件費の範囲で、賃金に明確な意味を持たせることです。

表10 賃金差の設計例
社員区分賃金設定の考え方
未経験・新入社員地域の初任給・求人相場を基準とする
一人前社員新入社員よりも明確に高い水準を設定する
中堅社員技能、顧客対応、後輩指導を反映する
リーダー人員、品質、納期、安全などの管理責任を反映する
管理職部門成果と組織運営責任を反映する

初任給だけを単独で引き上げないでください

初任給を上げる場合は、少なくとも入社5年程度までの賃金カーブを同時に確認してください。新入社員の初任給を上げても、2年目以降の昇給額が小さければ、数年後に再び他社との賃金差が広がり、離職につながります。

11.賃上げ原資は「価格転嫁」と「生産性向上」の両輪で確保する

賃上げを継続するには、評価制度や賃金表を整えるだけでは不十分です。会社側には、賃上げ原資を生み出す経営改善が求められます。

価格転嫁のために確認すること

  • 商品・サービス別の原価を把握しているか
  • 人件費上昇分を見積価格へ反映しているか
  • 長期間、同じ単価で取引を続けていないか
  • 値上げの根拠を顧客へ説明できる資料があるか
  • 採算の低い業務を漫然と継続していないか

生産性向上のために確認すること

  • 紙や手入力の業務を減らせないか
  • 二重入力や重複確認がないか
  • 属人化した業務を標準化できないか
  • 会議、移動、待ち時間を削減できないか
  • 設備、システム、AIを活用できないか
  • 高付加価値業務へ人員を移せないか

前述の広島県商工会議所連合会の調査では、人手不足対策として「採用活動の強化」が77.7%と最多である一方、「デジタル・機械・ロボットの活用」は26.6%にとどまり、3割に達していません。採用だけに頼るのではなく、少ない人数でも事業を継続できる仕組みへの転換が必要です。

令和8年度の業務改善助成金(2026年9月1日 受付開始)

賃上げと設備投資をセットで行う中小企業・小規模事業者向けの制度です。厚生労働省は、令和8年度の交付申請受付開始日を2026年9月1日と公表しています。

表11 業務改善助成金(令和8年度)の主なポイント
項目内容
制度の内容生産性向上に資する設備投資等を行うとともに、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、設備投資等の費用の一部を助成
受付開始2026年(令和8年)9月1日
事業場内最低賃金事業場で最も低い時間給。ただし本助成金では、雇用保険被保険者で雇入れ後6か月を経過した労働者の事業場内最低賃金を引き上げる必要があります
助成率引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満か否かで区分(4/5または3/4)
助成上限額引上げ額と引上げ労働者数によって変動(最大600万円)
特例事業者ア 賃金要件:事業場内最低賃金1,050円未満/イ 物価高騰等要件:直近6か月平均の利益率が前年同期比3%ポイント以上低下。該当すると助成上限額が拡大(イはパソコン・タブレット等の新規導入も対象経費に)
事業完了期限交付決定の属する年度の1月31日(やむを得ない理由がある場合は事前申請により3月31日まで延長される場合あり)

広島県の企業が特に注意すべき2点

  • 申請期間が実質的に短い可能性があります。申請期限は「地域別最低賃金の発効日の前日」または国が定める期限のいずれか早い日とされています。広島県は2025年度に11月1日発効でしたので、同様であれば9月1日〜10月31日の約2か月が実質的な申請期間になります。9月からでは間に合いません。8月中に設備投資計画と賃上げ計画の骨格を固めてください。
  • 賃上げ・設備投資は「交付決定後」に実施したものが対象です。先に設備を発注・購入すると助成対象外になります。交付申請 → 交付決定 → 発注の順序を必ず守ってください。
  • 広島県の事業場内最低賃金は現在1,085円のため、多くの事業場は助成率3/4の区分となり、賃金要件による特例事業者には該当しない見込みです。物価高騰等要件の該当可否を確認する価値があります。

※コース区分・助成上限額・申請期限の詳細は、厚生労働省の令和8年度リーフレット及び交付要綱・交付要領で必ず最新情報をご確認ください。

12.【補足】2026年10月1日からカスハラ・求職者等セクハラ対策も義務化

賃金対応と同じ時期に、もう一つ実務対応が必要になります。改正法(令和7年法律第63号)に基づき、2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります。根拠法が異なる点に注意してください。

表12 2026年10月1日施行の2つのハラスメント対策義務
対象根拠法主な対応
カスタマーハラスメント労働施策総合推進法方針の明確化・周知啓発、相談体制の整備、事後の適切な対応 等
求職者等に対するセクシュアルハラスメント男女雇用機会均等法採用面接・インターンシップ等の場面を含む防止措置

いずれも就業規則・ハラスメント防止規程の改定、相談窓口の設置、管理職研修が必要です。最低賃金対応(10〜11月)と重なるため、規程改定を一度にまとめて行うほうが効率的です。指針本文の詳細は、厚生労働省の公表資料でご確認ください。

13.よくある質問(FAQ)

広島県の最低賃金1,141円は確定していますか?

確定していません。1,141円は、現行の1,085円にBランクの引上げ目安56円を加えた試算値です。実際の金額は広島地方最低賃金審議会の答申を経て、広島労働局長が決定します。2025年度は目安63円に対して65円で決着しており、目安を上回る可能性もあります。

広島県の新しい最低賃金はいつから適用されますか?

発効日も未確定です。全国的には10月1日発効が一般的ですが、広島県は2025年度、中小企業の経営状況に配慮して例年より約1か月遅い11月1日発効となりました。2026年度も同様になるとは限りません。広島労働局の公表を必ず確認してください。

月給制の社員も最低賃金の確認が必要ですか?

必要です。最低賃金は、雇用形態や支払形態を問わず県内で働くすべての労働者に適用されます。月給制の場合は、最低賃金に算入できる賃金を1か月平均所定労働時間で割って時間額に換算します。通勤手当・家族手当・精皆勤手当・賞与・割増賃金は算入されないため、基本給が低く手当比率が高い会社は、総支給額が高くても最低賃金を下回る可能性があります。

最低賃金が56円上がる場合、全社員を56円分昇給させる必要がありますか?

法律上、一律56円の昇給義務はありません。ただし最低賃金に近い社員だけを引き上げると、経験者やリーダーとの賃金差が縮まり、賃金カーブが圧縮されます。「最低賃金への適合」と「社内の賃金バランス」は、分けて確認・設計してください。

製造業ですが、特定(産業別)最低賃金も確認が必要ですか?

必要です。広島県には鉄鋼業(1,179円)、電気機械器具製造業等(1,110円)、自動車・同附属品製造業(1,105円)などに特定最低賃金が設定されています。地域別と特定の両方が適用される場合は高いほうが適用されます。地域別が1,141円になれば、電気機械や自動車は地域別が上回りますが、鉄鋼業は引き続き特定最低賃金1,179円が下限です。発効日も地域別と異なる場合があるため、注意してください。

初任給平均と同じ金額にしなければ採用できませんか?

絶対に合わせなければならない金額ではありません。業種、職種、勤務地、休日数、勤務時間、手当、福利厚生、教育制度などによって、応募者が感じる魅力は異なります。ただし自社の初任給が地域平均を大きく下回る場合は、応募数が減少する前提で採用戦略を検討する必要があります。

正式な最低賃金が決まるまで、何もしなくてよいですか?

いいえ、確定前に着手すべきことがあります。給与システムへの最終的な金額設定は正式決定後で構いません。一方で、対象者の抽出、人件費試算、初任給との比較、賃金表の点検、価格転嫁の準備、業務改善助成金の計画づくりは、確定前から進められます。むしろ確定を待ってからでは、制度全体の見直しも助成金申請も間に合わない可能性が高くなります。

まとめ|1,141円予想を、賃金制度改革の起点にする

2026年度の地域別最低賃金について、広島県が属するBランクには56円の引上げ目安が示されました。目安どおりであれば、広島県の最低賃金は1,085円から1,141円になります(確定額ではありません)。

しかし、中小企業が本当に確認すべきなのは「最低賃金を下回る社員がいるか」だけではありません。

  • 高卒初任給が月額21万円を超えている
  • 新入社員と既存社員の賃金差が縮小している
  • 人手不足を理由とした防衛的な賃上げが約7割を占めている
  • 都市部と中山間地域で採用環境が異なっている
  • 製造業、建設業、運輸業などで人材獲得競争が激しくなっている

こうした環境を踏まえると、最低賃金への対応は、賃金表・初任給・昇給・評価制度・採用・価格転嫁・生産性向上を一体で考える経営課題です。賃金表の下だけを持ち上げるのではなく、社員の成長・技能・役割・責任が処遇に表れる仕組みへ再設計することが重要です。

ヒューマンリソースコンサルタントの支援メニュー

広島県内の中小企業を対象に、次の支援を行っています。

  • 最低賃金改定による対象者の確認(地域別・特定の両面)
  • 初任給と既存社員賃金の逆転分析
  • 複数シナリオによる総額人件費の試算
  • 等級制度・評価制度・賃金表の再設計
  • 昇給・賞与ルールの整備、退職金制度・嘱託再雇用制度への波及検証
  • 社員説明会の実施と、制度導入後の運用支援
  • 管理職向け評価者研修・賃金制度説明研修

最低賃金の確定後に慌てて対応するのではなく、1,141円を一つの想定値として、いまから自社の賃金構造を確認することが、採用力と収益力を両立させる第一歩になります。まずはお気軽にご相談ください。

出典・参考

  • 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日/第75回中央最低賃金審議会答申)
  • 広島労働局「広島県の最低賃金について」「広島県特定(産業別)最低賃金」
  • 厚生労働省「業務改善助成金」(令和8年度交付要綱・交付要領、令和8年4月22日公開)
  • 広島県商工会議所連合会「中小企業等の人手不足、賃金引上げに関する調査結果」(2026年4月公表)
  • 日本銀行広島支店「広島県経済の特徴」
  • 広島県「広島県中山間地域振興計画」
  • 初任給データは、広島県内の新規学卒者初任給に関する調査資料をもとに当事務所が整理したものです。

※本稿は2026年8月6日時点で公表されている資料に基づいています。広島県の2026年度最低賃金額および発効日は、広島地方最低賃金審議会の答申・広島労働局の公表後に更新します。個別の判断は、必ず所轄労働局・労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。

広島県特化の賃金情報連載コラム

連載コラム|【広島県版】最新賃金動向レポート

地域密着データで紐解く、広島県の中小企業が取るべき賃金戦略

広島県の中小企業経営者、人事担当者の皆様へ。
最低賃金の大幅な引き上げ、初任給の高騰など、企業を取り巻く賃金環境はかつてないスピードで変化しています。2026年には広島県の最低賃金が1,141円に達する可能性があり、初任給も21.2万円時代へと突入しようとしています。このような「新・賃金時代」において、従来の相場感や横並びの賃金設定では、優秀な人材の確保や定着は困難です。

本連載コラムでは、広島県内の最新の賃金データ(最低賃金、初任給、昇給動向など)に特化し、地域密着型のリアルな情報をお届けします。大企業の動向だけでなく、地域の中小企業が直面する「採用難」「既存社員との給与逆転」「人件費の高騰」といった課題に焦点を当て、データに基づいた具体的な人事戦略を解説します。

単なる統計データの紹介にとどまらず、限られた原資をいかに有効活用し、社員のモチベーション向上と業績アップに繋げるかという、人事コンサルタントならではの実践的なノウハウを凝縮しました。広島県で持続的な成長を目指す企業の皆様にとって、自社の賃金制度を見直し、競争力を高めるための指針としてぜひご活用ください。

連載コラム一覧

【2026年最新】広島県の最低賃金は1,141円へ?56円引上げ目安と初任給21.2万円時代の賃金制度再設計

2026年の広島県の最低賃金が1,141円へ引き上げられる可能性と、それに伴う影響を解説します。初任給21.2万円時代を迎え、中小企業はどのように賃金制度を再設計すべきか。最低賃金上昇が既存社員の給与バランスに与える影響を防ぎ、人材確保と利益確保を両立するための具体的な対策をお伝えします。

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広島県の新規学卒者「初任給」最新動向(令和8年3月速報版対応)|中小企業が勝つための賃金戦略

令和8年(2026年)3月卒向けの広島県内における初任給の最新動向を分析。大手企業の賃上げに追随できない中小企業が、採用競争を勝ち抜くための戦略を考察します。給与額だけでなく、働きがいやキャリアパスといった総合的な魅力付けにより、優秀な若手人材を獲得し定着させるためのポイントを解説します。

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広島県の初任給最新動向

広島県|令和6年度 新規学卒者の初任給と内定率から人事課題を読み解く

過去データとして令和6年度の広島県における新規学卒者の初任給と内定率の相関を紐解きます。初任給の水準が採用活動にどのような影響を与えたのかを客観的なデータから振り返り、採用難を乗り切るための人事課題を浮き彫りにします。今後の採用計画や賃金設計の基礎となる、地域特有の傾向を把握できる記事です。

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令和6年度 初任給と内定率

【広島県】2024年昇給予測と人材確保戦略|過去5年間の求人賃金動向から読み解く

広島県内の過去5年間の求人賃金データを基に、昇給のトレンドと人材確保の戦略を分析した記事です。市場の賃金変動を正しく捉え、自社の給与水準が適正かどうかを見極める視点を提供します。既存社員の離職を防ぎ、求職者に選ばれる企業になるための、根拠に基づいた計画的な昇給ルールの作り方をアドバイスします。

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昇給予測と人材確保戦略

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