がん検診の受診を会社が後押しするには?時間・費用・休暇の決め方と就業規則の整え方
この記事でわかること
- 2026年10月19日に改正された健康保持増進の指針が、がん検診について示している内容
- 検診のための時間、費用補助、特別休暇の中から、自社に合う方法を選ぶ考え方
- 就業規則や運用ルールに定めておきたい項目
- 検診結果を人事の判断に使ってはいけない理由
結論
改正された健康保持増進の指針は、胃・肺・大腸・乳房・子宮頸部の5つのがんの検診を推進するとし、職場での検診機会の提供、受診のための有給の時間、費用の補助などを例示しています。法的な義務ではなく努力義務の枠組みです。会社は「時間」「費用」「周知」のどれから始めるかを決め、就業規則と公平な運用ルールを整えましょう。
指針はがん検診についてどのように示しているか
厚生労働省が2026年10月19日に公示した「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の新旧対照表では、二次予防に関する取組として、検診の推進が新たに加わりました。胃・肺・大腸・乳房・子宮頸部の5つのがんについては、健康増進法にもとづき市町村が実施する検診の対象とされているものを念頭に、職場での検診の実施、受診のための有給の時間の付与、費用の補助、ポスターや個別の案内による周知などが、取り得る方法として挙げられています。あわせて、女性特有の健康課題、歯科疾患、骨粗しょう症、眼科疾患に係る検査と、結果にもとづく専門医への受診勧奨も示されています。
これらは、指針の中で「考えられる」「望ましい」といった表現で示された取組の例です。全ての項目を実施しなければならないという意味ではありません。
なぜ中小企業の実務で重要なのか
がん検診は、法律で事業主に実施が義務づけられている定期健康診断とは別の位置づけで、受診するかどうかが従業員個人の判断に委ねられがちです。受診の機会や時間の確保は、会社の配慮によって差が出やすい部分です。
従業員の高齢化が進む会社ほど、病気の早期発見は長期離脱の防止につながります。一方で、制度をつくるときに費用、勤務時間の扱い、公平性を整理していないと、運用が混乱する原因になります。
実務上起こりやすい課題
- どの検診を、誰を対象に後押しするのか決まっていない
- 受診日を勤務扱いにするか、休暇にするか、無給にするかが曖昧で、上司によって対応が違う
- 費用補助の上限や対象の範囲を決めずに始め、後から見直しが難しくなる
- パート・有期雇用の従業員が対象から外れてしまう
- 受診結果を会社が把握しようとして、従業員が不安を感じる
課題別の対応策
時間の扱いを決める
受診のための時間の扱いには、勤務時間として扱う、有給の特別休暇とする、年次有給休暇の取得を促す、時間単位の取得を認める、などの選択肢があります。賃金の支払いに関する扱いは、会社の規程で定めることになるため、運用前に社会保険労務士など専門家に確認すると安心です。
費用の補助を設計する
全額補助か一部補助か、年度ごとの上限額、対象とする検診の種類、領収書による精算の方法を決めます。市町村や加入している医療保険者が提供する検診を利用できる場合は、それとの重複を整理します。
対象と公平性を整える
正社員だけでなく、パート・有期雇用の従業員も対象に含めるかを検討します。待遇に差を設ける場合は、その理由を説明できるようにしておきます。
結果の取扱いを限定する
会社が把握するのは、受診の有無の確認や、本人が任意で伝えた内容にとどめます。指針は、健康情報を、その労働者の健康保持増進に必要な範囲を超えて使ってはならないとしています。
具体的な対応ステップ
- 現在、従業員が検診を受けている状況と、会社が用意している支援を確認する
- 加入している医療保険者や自治体が提供する検診の内容を調べる
- 支援の方法を「時間」「費用」「周知」の中から、優先順位をつけて選ぶ
- 対象者(雇用形態)、対象となる検診、上限額、申請の手続を文書にする
- 就業規則や賃金規程、休暇規程に必要な記載を加え、従業員に周知する
- 結果の取扱いルールを定め、管理職に伝える
- 1年後に、利用状況と費用を確認して見直す
支援方法の比較
| 方法 | 特徴 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 周知(ポスター・個別案内) | 費用が小さく、すぐに始められる | 案内の時期、対象者、問い合わせ先 |
| 受診のための時間の付与 | 従業員の受診しやすさが高まる | 勤務扱いか休暇か、時間単位か、有給か無給か |
| 費用の補助 | 受診の経済的な負担を軽くできる | 上限額、対象の検診、精算の手続 |
| 職場での検診の実施 | まとめて実施でき、受診の機会をつくりやすい | 委託先、費用負担、日程、個人情報の管理 |
注意点・法的リスク
がん検診の支援は、指針に例示された努力義務の範囲の取組で、導入する義務があるわけではありません。ただし、導入した制度は、会社が定めた規程として従業員に対する約束になります。内容を後から不利益に変更する場合は、労働条件の変更に関する手続が必要になるおそれがあります。
検診の結果や受診の有無を、昇進、配置、評価の判断に使うことは、不利益な取扱いや個人情報保護の観点から避ける必要があります。個別の判断は、社会保険労務士や労働局にご確認ください。
中小企業ならではの対応方法
従業員数が少ない会社では、まず「検診を受ける日は、半日分を特別休暇として認める」「協会けんぽや健康保険組合の検診を案内する」など、小さな取組から始める方法が現実的です。利用が少ない場合も、制度があること自体が、従業員に安心を与えます。
費用補助は、年間の上限額を決め、予算の範囲で運用するのがわかりやすいです。経営者や管理職が率先して受診する姿勢を見せることも、制度が使われる職場づくりにつながります。
まとめ
改正された健康保持増進の指針は、がん検診を含む二次予防を、会社が後押しする取組として位置づけました。努力義務の範囲ですが、導入する場合は、時間の扱い、費用補助、対象者、結果の取扱いを、規程として明確にすることが大切です。周知から始め、利用状況を見て段階的に広げましょう。
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検診の支援は、特別休暇や賃金の扱い、パート・有期雇用の従業員との均衡など、人事制度の設計と深く関わります。制度をつくったあとに、運用が不公平になっていないかを点検する場面も出てきます。
現状の休暇・賃金規程の確認から始めるのか、福利厚生を含めて制度全体を見直すのかは、会社の状況によって異なります。有限会社ヒューマンリソースコンサルタントでは、中小企業の人事制度の分析・設計・運用を支援しています。進め方を相談したい場合は、お問い合わせページよりご連絡ください。
関連するよくある質問
がん検診を従業員に受けさせることは、会社の義務ですか。
指針は努力義務の枠組みで、会社に一律の義務を課すものではありません。定期健康診断など、法令で別に定められた義務は従来どおりです。
検診を受ける時間は、有給にしなければなりませんか。
指針は、受診のための有給の時間を取り得る方法の一つとして例示しています。賃金の扱いは会社の規程で定めるため、導入前に社会保険労務士に確認してください。
従業員に検診結果の提出を求めてもよいですか。
結果は重要な健康情報です。指針は、その労働者の健康保持増進に必要な範囲を超えて使わないことを求めています。提出を求める場合は、目的、範囲、保管方法を明確にし、本人の意思を尊重してください。
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