従業員の健康診断・検診結果はどこまで扱える?健康情報の取扱いルールと中小企業の整え方
この記事でわかること
- 2026年10月19日に改正された健康保持増進の指針が、健康情報の取扱いについて求めていること
- 会社が健診結果やがん検診の結果を、どこまで把握し、何に使ってよいか
- 人事担当者・管理職・産業保健スタッフの間での情報の分け方
- 中小企業が最低限整えておきたい社内ルールの項目
結論
改正後の指針は、健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮することが極めて重要であるとし、健康情報は、その労働者の健康保持増進のために必要な範囲を超えて利用してはならないとしています。会社は、目的、取り扱う人、保管方法、本人への説明を文書で定めたうえで、健診や検診の結果を人事評価や処遇に使わない運用を徹底する必要があります。
指針は健康情報の取扱いについて何を示しているか
厚生労働省の改正指針の本文によると、推進にあたっての留意事項として、個人情報の保護への配慮が挙げられています。要点は次のとおりです。
| 項目 | 指針の内容(要旨) |
|---|---|
| 基本の考え方 | 健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮することが極めて重要 |
| 法令・指針の遵守 | 個人情報の保護に関する法律と、労働者の健康情報の取扱いに関する指針に従う |
| 利用の範囲 | 本人の同意があっても、その労働者の健康保持増進のために必要な範囲を超えて利用してはならない |
| 医療保険者への提供 | 法令にもとづき医療保険者から求められた健康診断の記録の写しの提供は、本人の同意を要しない場合がある |
| 記録の管理 | 記録を保存・管理する担当者を定め、電子的に管理する |
この指針は努力義務の枠組みですが、個人情報の保護に関する法律など、別の法令に関わる部分は、法令としての義務が及ぶ場合があります。
なぜ中小企業の実務で重要なのか
従業員数が少ない会社では、経営者や総務担当者がほぼすべての書類を扱うため、健診結果や診断書を、そのまま社内で見られる状態にしてしまうことがあります。担当者が従業員の病名を知ってしまうと、その後の配置や評価に影響が出ているのではないか、という疑念を従業員に持たれやすくなります。
指針の改正で、がん検診や女性特有の健康課題、治療と就業の両立支援といった、よりデリケートな情報に関わる取組が増えるため、情報の取扱いのルールがあらためて重要になります。
実務上起こりやすい課題
- 健診結果が、人事担当者の机や共有フォルダに保管され、誰でも見られる状態になっている
- 診断書の内容を、上司や同僚に詳しく共有してしまう
- 受診の有無や結果を、配置や評価の参考にしてしまう
- 医療保険者から結果の提出を求められたとき、どの範囲で応じてよいか判断できない
- 退職した従業員の健康情報の保存期間と廃棄方法が決まっていない
課題別の対応策
情報の種類ごとに取り扱う人を分ける
産業医や保健師など医療職が扱う情報と、人事担当者が扱う情報を分けます。人事には、就業上の配慮に必要な内容(たとえば、残業を制限する、重い荷物を持たせないなど)だけを伝え、病名や検査値は伝えない運用にします。
利用目的を限定して本人に説明する
健康診断や検診の結果を何のために集め、誰が見て、どのくらいの期間保管するかを、事前に従業員に説明します。目的外の利用は行わないことを明記します。
保管と廃棄の方法を決める
紙の書類は施錠できる場所に保管し、電子データはアクセスできる人を制限します。保存期間が法令で定められている健診結果などは、その期間を確認し、期間後の廃棄方法も決めておきます。
不利益な取扱いをしないことを明文化する
健診や検診の受診結果、治療の状況を理由に、不利益な取扱いをしないことを、社内の規程に記載します。
具体的な対応ステップ
- 現在、どの健康情報を、誰が、どこに保管しているかを一覧にする
- 取り扱う人の範囲を最小限に絞り、アクセス権限を整理する
- 利用目的、取扱者、保管期間、廃棄方法を定めた取扱規程を作成する
- 管理職に、診断書を受け取ったときの対応と伝えてよい範囲を説明する
- 従業員に、取扱いの方針を周知し、問い合わせ先を伝える
- 医療保険者や委託先とのやり取りの記録を整理する
- 年に1回、運用状況を点検する
情報の取扱いチェックリスト
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 取扱者 | 健康情報に触れる人を、必要最小限に限定しているか |
| 利用目的 | 目的を従業員に説明し、目的外に使っていないか |
| 保管 | 施錠、アクセス制限、保存期間が決まっているか |
| 人事への伝達 | 病名ではなく、就業上の配慮内容のみを伝えているか |
| 外部への提供 | 提供の根拠(法令・同意)を確認しているか |
| 不利益取扱い | 結果を理由とした不利益な取扱いを禁止しているか |
注意点・法的リスク
健康に関する情報は、個人情報の保護に関する法律上、特に慎重な取扱いが求められる情報に当たる場合があります。取得や第三者への提供に本人の同意が必要になる場面もあるため、個別の対応は専門家に確認してください。本記事では、個人情報保護法の条文や、労働者の健康情報の取扱いに関する指針の本文は直接確認できていません。
情報の漏えいや目的外の利用は、従業員との信頼関係を損なうだけでなく、損害賠償などの問題に発展するおそれがあります。社会保険労務士や弁護士に、取扱規程の内容を確認してもらうと安心です。
中小企業ならではの対応方法
専任の産業保健スタッフがいない会社は、健診機関や外部の産業医に、結果の取りまとめと就業上の意見の作成を依頼する方法があります。会社側には「就業上の配慮の内容」だけが届く形にすると、人事担当者が詳細な病名を知らずに済みます。
経営者自身が従業員の結果を詳しく知りたくなる場面もありますが、知ったうえで評価や配置に影響しない自信がない場合は、知らない仕組みにすること自体が、公平性を守る手段になります。
まとめ
改正された健康保持増進の指針は、健康情報の保護と目的外利用の禁止を重ねて示しています。健康づくりの取組が広がるほど、会社が扱う情報は増えます。取扱者の限定、利用目的の説明、保管と廃棄のルール、不利益取扱いの禁止を、文書として整えましょう。
HRCへの相談案内
健康情報の取扱いは、就業規則、個人情報の管理規程、評価や配置の運用と連動して整える必要があります。どこまで人事が知るべきか、評価面談で健康状態にどう触れるかなど、判断が難しい場面も出てきます。
現状の運用の確認から始めるのか、規程や評価の仕組みを含めて見直すのかは、会社の状況によって異なります。有限会社ヒューマンリソースコンサルタントでは、中小企業の人事制度の分析・設計・運用を支援しています。進め方を相談したい場合は、お問い合わせページよりご連絡ください。
関連するよくある質問
本人が同意すれば、健診結果を人事評価に使ってもよいですか。
指針は、本人の同意があっても、その労働者の健康保持増進のために必要な範囲を超えて利用してはならないとしています。評価や処遇の判断に使うことは避けてください。
医療保険者から健診結果の提供を求められたら、応じる必要がありますか。
指針は、法令にもとづき医療保険者から求められた健康診断の記録の写しの提供は、本人の同意を要しない場合があると示しています。求めの根拠を確認したうえで対応してください。
診断書の内容を、上司に共有してもよいですか。
共有は、業務の調整に必要な範囲に限ります。病名や検査値ではなく、就業上必要な配慮の内容を伝える運用が一般的です。
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