価格交渉促進月間(9月)に、労務費の転嫁を賃金制度へどう反映すべき?

人事労務に関するFAQ

価格交渉促進月間(9月)に、労務費の転嫁を賃金制度へどう反映すべき?

目次

この記事でわかること

  • 「価格交渉促進月間」とはどのような取り組みか
  • 「労務費の適正な転嫁のための価格交渉に関する指針」の位置づけ
  • 価格転嫁によって得られた原資を賃金制度にどう反映すべきか
  • 取引先との価格交渉を賃上げにつなげるための実務ポイント

結論

中小企業庁は毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と位置づけ、中小企業が取引先との価格交渉を行いやすい環境づくりを進めています。あわせて公正取引委員会・内閣官房は「労務費の適正な転嫁のための価格交渉に関する指針」を2025年12月26日に改正しており、労務費上昇分を取引価格に反映させ、その原資を賃上げに充てる流れが制度的に後押しされています。中小企業は、価格交渉で得た原資を賃金制度にどう組み込むかをあわせて検討する必要があります。

価格交渉促進月間・労務費転嫁指針とはどのような取り組みか

価格交渉促進月間は、中小企業庁が2021年から実施している取り組みで、毎年3月と9月に、中小企業が取引先(発注側企業)との間で原材料費・エネルギー価格・労務費等の上昇分について価格交渉を行いやすい環境をつくることを目的としています。あわせて、実施後にはフォローアップ調査が行われ、価格交渉・価格転嫁の状況が公表される運用となっています。

「労務費の適正な転嫁のための価格交渉に関する指針」は、内閣官房・公正取引委員会が2023年に策定した指針で、発注企業・受注企業の双方が労務費(人件費)の上昇分を取引価格にどう反映すべきかの考え方を示すものです。2025年12月26日には、労務費転嫁の実施事例の追加や、中小受託取引適正化法(2026年1月1日施行)との整合を図る改正が行われています。

なぜ中小企業の実務で重要なのか

最低賃金の引き上げや人材確保競争の激化により、多くの中小企業が賃上げの必要性に迫られています。一方で、原材料費や労務費が上昇しても、それを取引価格に反映できなければ、賃上げの原資を自社の利益を削ることでしか確保できません。価格交渉促進月間や労務費転嫁指針は、労務費上昇分を「コストとして取引価格に反映させてよい」という考え方を後押しする制度的な枠組みであり、これを活用できるかどうかが、持続的な賃上げを実現できるかどうかに直結します。

実務上起こりやすい課題

  • 労務費が上昇していても、それを取引先にどう説明し、価格交渉に臨めばよいか分からない
  • 価格交渉によって得られた原資を、賃上げにどの程度・どのように配分すべきか方針が定まっていない
  • 自社の労務費上昇の根拠(賃金水準・法定福利費等)を数値で示せる資料が整っていない
  • 価格交渉促進月間の存在自体を把握しておらず、交渉のタイミングを逃してしまう

課題別の対応策

自社の労務費上昇分の可視化

最低賃金の引き上げ、社会保険料率の変動、賃上げの実施状況等を踏まえ、自社の労務費がどの程度上昇しているかを数値で整理します。取引先への説明資料として活用できる形にまとめることが重要です。

価格交渉のタイミングの活用

3月・9月の価格交渉促進月間にあわせて、取引先との価格交渉の機会を計画的に設けます。指針が示す考え方(労務費上昇分を交渉のテーブルに乗せること自体は正当な行為であること)を踏まえ、交渉に臨みます。

価格転嫁分の賃金制度への反映方針の検討

価格交渉によって得られた原資を、ベースアップに充てるのか、賞与に反映するのか、あるいは等級別・職種別に配分するのかを、自社の賃金制度の設計方針として整理します。

具体的な対応ステップ

  1. 自社の労務費上昇の実態(最低賃金・社会保険料率・賃上げ実施状況等)を確認する
  2. 労務費上昇分を数値で示す資料を準備する
  3. 価格交渉促進月間(3月・9月)にあわせて、主要取引先との価格交渉の機会を設ける
  4. 価格交渉の結果を踏まえ、賃上げの原資として確保できる金額を見積もる
  5. 確保した原資を、ベースアップ・賞与・手当等、自社の賃金制度のどこに反映するかを検討する
  6. 従業員へ、賃上げの背景・考え方を説明する

取り組みの全体像

取り組み主体内容
価格交渉促進月間中小企業庁毎年3月・9月に価格交渉を行いやすい環境を整備。実施後にフォローアップ調査を公表
労務費の適正な転嫁のための価格交渉に関する指針内閣官房・公正取引委員会労務費上昇分の取引価格への反映の考え方を提示。2025年12月26日改正
賃金制度への反映自社確保した原資をベースアップ・賞与・手当等にどう配分するかを設計

注意点・法的リスク

労務費の適正な転嫁のための価格交渉に関する指針は、発注企業・受注企業双方の望ましい行動を示す指針であり、価格転嫁そのものを法的に義務付けるものではありません。ただし、優越的地位の濫用など独占禁止法・下請法上の問題となる取引慣行がある場合は、別途、公正取引委員会・中小企業庁への相談窓口が用意されています。また、取引先との価格交渉が難航した場合の対応や、独占禁止法・下請法上の論点については、個別の状況に応じて弁護士・中小企業庁の相談窓口にご確認いただくことをおすすめします。

中小企業ならではの対応方法

専任の購買・経理担当者を置いていない中小企業では、労務費上昇分を数値で整理し、取引先に説明する準備が後回しになりがちです。まずは自社の人件費の推移を簡単な資料にまとめておくだけでも、価格交渉促進月間にあわせた交渉に臨みやすくなります。また、価格交渉の成果を賃上げに確実につなげるためには、賃金制度そのものが「原資が確保できたときにどう配分するか」を想定した設計になっているかどうかも重要です。

まとめ

9月は中小企業庁が実施する価格交渉促進月間にあたり、あわせて労務費の適正な転嫁のための価格交渉に関する指針も2025年12月に改正されています。中小企業は、自社の労務費上昇分を可視化して価格交渉に臨むとともに、得られた原資を賃金制度にどう反映するかをあわせて検討することが重要です。

HRCへの相談案内

価格交渉によって賃上げの原資を確保できたとしても、それを従業員にどう配分するかという賃金制度の設計が伴っていなければ、従業員の納得感や人材の定着にはつながりにくいものです。等級別・職種別にどう配分するか、ベースアップと賞与のどちらに重点を置くかは、自社だけで判断するのが難しい場合があります。

まずは自社の賃金制度の現状を確認する「制度分析」から始めるのか、賃金テーブルそのものを設計し直す「制度設計」から着手するのかは、企業ごとの状況によって異なります。有限会社ヒューマンリソースコンサルタントでは、中小企業の賃金制度の設計を支援しています。自社の状況に合わせた進め方について相談したい場合は、お問い合わせページよりご連絡ください。

関連するよくある質問

価格交渉促進月間は誰でも参加できますか。

特定の申込手続きが必要な制度ではなく、中小企業庁がこの期間にあわせて価格交渉を行いやすい環境づくりを進める取り組みです。取引先との交渉は、自社のタイミングで進めることができます。

労務費の値上げ分を価格に反映しないと違法になりますか。

指針は望ましい行動を示すものであり、転嫁しないこと自体に直接の罰則があるわけではないとされています。ただし、取引上の優越的地位を利用した不当な買いたたき等が疑われる場合は、独占禁止法・下請法上の問題となる可能性があります。個別の判断は公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口にご確認ください。

価格交渉で得た原資は必ず賃上げに使わなければなりませんか。

法律上の義務ではありませんが、指針の趣旨は労務費上昇分を適正に転嫁し、賃上げの原資として活用することを想定しています。自社の経営判断として、原資の配分方針を検討することが望まれます。

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公的情報源・参考資料

本記事の情報確認日:2026年9月18日。

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