人的資本経営とは?意味・背景と人的資本開示・人的資本ROIとの違い

人事制度や労務管理に関する最新トレンドを分かりやすく解説しています。

人的資本経営とは?意味と人的資本開示・人的資本ROIとの違いをわかりやすく解説

人的資本経営とは、従業員を単なる「コスト」ではなく「資本」として捉え、人材への投資を通じてその価値を引き出し、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方です。法令上の制度ではなく、経済産業省が提唱してきた経営に関する考え方です。

情報確認日:2026年8月17日

目次

人的資本経営が注目される背景

人的資本経営という考え方は、経済産業省が2020年に公表した「人材版伊藤レポート」、2022年に公表した「人材版伊藤レポート2.0」等を通じて広く紹介されてきました。これらは、企業が持続的に成長するためには、人材を管理・削減の対象とするのではなく、投資によって価値を高める「資本」として位置付ける必要があるという問題意識に基づいた考え方として紹介されています。あわせて、上場企業等を対象に有価証券報告書での人的資本に関する情報開示が求められるようになったことも、人的資本経営という言葉が社会的に注目される一因となっています。ただし、人的資本経営という考え方自体は特定の法令に基づく制度ではありません。開示義務の有無にかかわらず、企業規模を問わず参考にできる経営の考え方として位置付けられています。

人的資本経営の制度・仕組み・構成要素

人的資本経営は、単一の制度ではなく、人材に関する複数の取り組みを経営戦略と結び付けて捉える考え方です。一般的に紹介されている構成要素には、次のようなものがあります。

  • 経営戦略と人材戦略の連動:事業の方向性に合わせて、必要な人材像や人員体制を検討すること
  • 人材の把握と可視化:従業員のスキル、経験、意欲などの状態を把握する仕組みを持つこと
  • 人材への投資:採用、育成、処遇改善などを、コストではなく将来の企業価値につながる投資として位置付けること
  • 多様な人材の活躍:年齢、性別、経験などにとらわれず、多様な人材が力を発揮できる環境を整えること
  • 情報開示・説明:社内外に対して、人材に関する方針や取り組みを説明できる状態にしておくこと

類似用語との違い(人的資本開示・人的資本ROI)

「人的資本経営」「人的資本開示」「人的資本ROI」は関連する言葉ですが、指している範囲が異なります。人的資本経営が最も広い概念であり、人的資本開示はその一部である情報開示の制度、人的資本ROIは投資効果を測る指標という関係にあります。

用語意味主な利用場面
人的資本経営人材を資本として捉え、その価値を引き出す経営全体の考え方経営戦略・人事制度全体の方向性を検討するとき
人的資本開示有価証券報告書等で人的資本に関する情報を外部に開示する制度主に上場企業等が開示対応を検討するとき
人的資本ROI人材への投資に対して得られた効果を測定する指標研修・処遇改善等の投資効果を振り返るとき

詳しい内容は、用語集記事「人的資本開示とは」「人的資本ROI(投資収益率)とは」もあわせてご確認ください。

人事労務上のメリット

  • 採用活動において、人材への投資姿勢を対外的に説明しやすくなる
  • 評価・処遇・育成の各制度を、経営戦略と一貫性を持たせて設計しやすくなる
  • 従業員が自社の人材育成方針を理解しやすくなり、定着につながりやすくなる
  • 人材に関する課題を経営会議等で議論する際の共通言語として活用できる

実務上の課題・注意点

  • 「人的資本経営」という言葉が抽象的で、具体的に何から着手すればよいかわかりにくい
  • 従業員のスキルや経験を把握する仕組みが整っておらず、現状把握から始める必要がある
  • 評価制度・賃金制度が旧来のまま残っており、人材への投資効果を処遇に反映しにくい
  • 担当者が限られる中小企業では、専任の推進体制を確保しにくい

これらの課題は、人事制度そのものの見直しと合わせて検討することで、段階的に解消できる場合があります。

中小企業における活用方法

人的資本開示の法的義務は、金融商品取引法上の有価証券報告書提出義務がある企業、主に上場企業等を対象とする制度であり、非上場の中小企業には法的な開示義務がないと考えられます(この整理は一般的な考え方であり、個別の該当性は専門家への確認が必要です)。一方で、人的資本経営という考え方自体には開示義務の有無にかかわらず活用できる部分があります。中小企業においては、外部への開示を目的とするのではなく、次のような形で自社の人事制度の見直しに活かす活用方法が考えられます。

  • 採用・定着・育成といった自社の人事課題を、人材への投資という観点から整理し直す
  • 評価制度・等級制度・賃金制度が、人材への投資を処遇に反映できる設計になっているか確認する
  • 従業員に対して、自社がどのような人材育成方針を持っているかを説明できる状態を整える

導入・対応手順

  1. 自社の経営課題と人材面の課題を整理する(現状の制度分析)
  2. 経営戦略と人材戦略のつながりを整理し、目指す人材像を明確にする
  3. 評価制度・等級制度・賃金制度など、人材への投資を反映できる制度を設計する
  4. 制度を導入し、従業員への説明・運用ルールの整備を行う
  5. 運用状況を振り返り、必要に応じて制度を見直す

実務チェックリスト

チェック項目確認ポイント
経営戦略と人材活用方針のつながり自社の事業計画に沿った人材像や体制を検討できているか
人材の把握従業員のスキル・経験・意欲を把握する仕組みがあるか
制度への反映評価・等級・賃金制度が人材への投資を処遇に反映できる設計か
投資効果の振り返り研修や処遇改善の効果を確認する場を設けているか
説明できる状態か開示義務がなくても、社内外に人材戦略を説明できる状態か

よくある質問

人的資本経営は中小企業にも関係ありますか?

人的資本開示の法的義務は主に上場企業等を対象とする制度ですが、人的資本経営という考え方自体は企業規模を問わず参考にできます。中小企業においても、人材を資本として捉え、評価・処遇・育成の制度を見直す取り組みは行われています。

人的資本経営に取り組むと、法令上の義務が生じますか?

人的資本経営そのものは法令上の制度ではなく、取り組みを行うこと自体に法的な義務はありません。ただし、人的資本開示など関連する開示制度の対象となるかどうかは、自社の状況に応じて別途確認が必要です。

人的資本経営と人材育成は同じ意味ですか?

同じ意味ではありません。人材育成は人的資本経営を実現するための取り組みの一つであり、人的資本経営は採用・評価・処遇・育成・組織風土づくりなど、人材に関する取り組み全体を経営戦略として捉える、より広い考え方です。

まとめ

人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を引き出すことで中長期的な企業価値の向上を目指す経営のあり方です。人的資本開示はその一部である情報開示の制度、人的資本ROIは投資効果を測る指標であり、それぞれ役割が異なります。人的資本開示の法的義務は主に上場企業等が対象ですが、人的資本経営という考え方自体は、開示義務の有無にかかわらず、自社の人事制度を見直す際の視点として中小企業でも活用できます。

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