役職別賃金格差の決め方|客観的データから妥当性を判断する

コンサル業務日報

役職別賃金格差の決め方をレクチャー

はじめに

今回のワンポイントレッスンは「役職別賃金格差の決め方」です。
管理職に登用したときの賃金設定について相談されることがよくあります。そこで、公表されているデータを利用しながら、妥当性を判断するポイントについて解説していきます。

役職別賃金格差をデータから知る

役職別の賃金格差について公表されているデータを調べてみました。

令和4年度賃金構造基本統計調査
(役職第2表 _ 役職、年齢階級、勤続年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額)

こちらのデータは企業規模別に各役職の給与データがとりまとめられています。

役職別総支給一覧:所定内給与額

役職10人以上勤続年数計10-99人勤続年数計
部長職586,200円478,300円
課長職486,900円392,600円
係長職369,000円328,800円
職長職339,600円323,000円
一般職281,600円262,500円

役職別総支給一覧:年収

役職10人以上勤続年数計10-99人勤続年数計
部長職9,023,600円6,880,600円
課長職7,685,600円5,794,000円
係長職5,748,500円4,846,100円
職長職5,305,400円4,716,500円
一般職4,141,200円3,641,900円

実際には地域による格差を考慮するために、上表の金額に地域指数などを乗じて各都道府県の金額を検討することも必要かもしれません。
その際に利用できるデータとして、厚生労働省が公表している「職業安定業務統計による地域指数」があります。
こちらのデータは派遣労働者の賃金設計をする際にも利用されているため、根拠として利用するデータとして妥当ではないでしょうか。
地域指数のダウンロードはこちらから → 地域指数

自社の給与額の問題点を把握したい方はこちらから → 賃金分析サービス

自社の賃金制度を見直したい方はこちらから → 賃金制度設計サービス

役職別手当格差をデータから知る

役職別の手当格差について公表されているデータを調べてみました。

令和5年度中小企業の賃金事情
(集計表 _ 第2表 賃金制度、賞与・諸手当)

こちらのデータは支給形式別に各役職の手当データがとりまとめられています。

同一役職の支給額が同じ場合

手当区分役職者平均部長職平均課長職平均係長職平均
調査産業計53,845円 /平均年齢47.183,916円 /平均年齢51.357,621円 /平均年齢47.326,165円 /平均年齢43.6
10名~49名47,850円 /平均年齢47.673,443円 /平均年齢51.146,620円 /平均年齢47.525,443円 /平均年齢44.3
50名~99名48,949円 /平均年齢46.580,724円 /平均年齢51.150,252円 /平均年齢46.625,438円 /平均年齢43.2
100名~299名71,559円 /平均年齢47.2111,675円 /平均年齢51.986,985円 /平均年齢47.928,345円 /平均年齢43.4

同一役職でも支給額が異なる場合

手当区分役職者平均部長職平均課長職平均係長職平均
調査産業計60,208円 /平均年齢46.5101,933円 /平均年齢50.656,848円 /平均年齢46.823,816円 /平均年齢42.6
10名~49名56,314円 /平均年齢47.290,851円 /平均年齢50.352,143円 /平均年齢47.327,828円 /平均年齢43.7
50名~99名59,866円 /平均年齢46.4107,998円 /平均年齢50.754,670円 /平均年齢46.415,911円 /平均年齢42.5
100名~299名70,883円 /平均年齢45.3126,224円 /平均年齢51.570,007円 /平均年齢46.223,143円 /平均年齢41.0

実際には自社の時間外実績を考慮し、課長職以上の手当額は検討するなど、上表の金額を参考としながら決定することとなります。
また、本表と同形式で「産業別の役職手当額」も公表されていますので、そちらのデータを活用することで、業界特性を考慮した手当額の検討が可能となります。
産業別手当支給額のダウンロードはこちらから → 手当支給状況

役職別賃金格差の根拠とは

役職別賃金格差をどの程度の金額とするか?
設定する根拠は以下の観点から検討していくと良いでしょう。

役職に求める役割

給与の基本となる考え方は「ノーワークノーペイ」
つまり、仕事に対して給与を支払っているのです。
「求める成果と責任の大きさの違い」が給与格差となるのです。
一般的に係長職と課長職で格差が大きく設定される理由は「プレイヤー」から「マネージャー」へと役割が変化し、求める成果と責任の領域が大きくなるからです。
主任職や係長職にどの程度の手当を支給するか、給与額を設定するかは、どの程度の成果や役割を与えるかによって決まります。
つまり、
役割や責任が曖昧なまま、給与だけ引き上げたとしても、結果的に社員は成長しないし、責任感や自覚も芽生えません。
結果的に給与と役職だけ変わって、成長が伴わない、、、といった悪循環を招きます。
「求める成果と責任」をしっかりと明確にしたうえで、給与格差を決定しましょう。

コンプライアンス

一般的に、管理職になると管理監督者として時間外勤務や休日勤務の対象としない会社が多いのではないでしょうか。
しかしながら、逆転現象が生じ、管理者からの不満や昇進拒否、最悪は監督署からの指導といった問題に発展している会社もあります。
年収ベースで解消することも考慮すべきではありますが、固定費である月次給与での解消が最優先です。
そのため、管理職の役職手当や給与水準を決定する際には、過去の割増賃金の実績から役職手当の支給格差を考慮しましょう。

また、残業時間や休日出勤が多発しており割増賃金の額そのものに問題のある場合もあります。
その場合は、業務改善に着手し、労働生産性を高めることが先決です。

まとめ

管理職に登用する人材は各社のエース級人材です。
そうした役職は社内でも花形的ポジションとなるように設定し、社員が「上を目指して頑張ってみよう!」と思える処遇設計を目指しましょう。
そのためには、
各役職に求める成果と責任を明確にする
昇格昇進要件を厳格に運用する
自社の賃金分布や実態を分析する
といった取り組みをしたうえで、社外データを考慮しながら格差を決定していきます。

当社では、賃金制度の見直しの際に、賃金分析を行うことで、役職間の妥当性判断や業界平均との比較による高低確認など、客観的なデータ分析から新制度の方向性を決めています。
賃金制度の見直しをする前に、自社の賃金課題がどこにあるのかを把握してみてはいかがでしょうか。

投稿者プロフィール

猪基史
猪基史
アパレル会社勤務後、2000年、中小企業診断士資格取得と同時にコンサルタント会社に転職。営業(販促)支援、個別対応型管理者育成、業績管理制度構築・運用といった現場実戦型コンサルティングを中心に中小企業の支援を行う。その活動の中、経営者の方針=想いを実現させるためには従業員がやりがいを持って働ける環境を整備することが不可欠であると痛感し、会社と社員が共存共栄の関係を築ける「人事制度改革」に特化した中小企業支援を自らの専門領域として確立する。