労働基準法の”大改正”は本当に見送られた?中小企業は今、何を準備すべき?
情報確認日:2026年8月29日時点の公表・報道情報に基づいています。
この記事でわかること
- 労働基準法の”大改正”がどのような経緯で検討され、なぜ見送られたのか
- 検討されていた主な7つの論点の内容と、現時点での状況
- 「見送り」と「検討中」「施行」の違い
- 中小企業が今のうちに準備しておくべき実務対応
- 制度を見直す際にHRCへ相談すべきタイミング
結論
労働基準法の大改正は、2026年の通常国会への法案提出が見送られたと報じられています。ただし検討されていた連続労働日数の上限規制や勤務間インターバルなど7つの論点は撤回されたわけではなく、規制強化と緩和の両面から改めて議論される見通しです。中小企業は「見送り=対応不要」と考えず、現行制度の点検を進めておくことが重要です。
労働基準法の”大改正”とは何か、なぜ見送られたのか
2024年、厚生労働省のもとに「労働基準関係法制研究会」が設置され、働き方の多様化を踏まえた労働基準法制のあり方について検討が行われました。この研究会は2025年1月に報告書を公表し、これをもとに厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会において、法改正に向けた具体的な検討が進められてきたとされています。
検討の対象とされていた主な論点は、次の7点です。
- 連続労働日数の上限規制(14日を超える連続勤務の禁止)
- 法定休日の特定を義務化する仕組み
- 勤務間インターバル(休息時間、目安11時間)の努力義務化
- 有給休暇取得時の賃金計算方法の統一
- 「つながらない権利」(既存用語集)に関するガイドライン整備
- 副業・兼業をしている労働者の残業代(割増賃金)計算ルールの整理
- 週44時間労働の特例(一部業種における例外規定)の見直し・廃止
こうした検討が進む一方で、2025年11月、高市首相が労働時間規制について「緩和」の観点も含めて検討するよう厚生労働省に指示したと報じられています。この方針転換を受け、2025年12月には、2026年の通常国会への労働基準法改正法案の提出が見送られたと報じられました。本記事作成時点(2026年8月)において、上記7論点はいずれも法改正には至っておらず、施行された制度は一つもありません。今後は規制強化と規制緩和の両方の観点を含めて、改めて検討が行われる見通しとされています。
なぜ中小企業の実務で重要なのか
「大改正が見送られた」というニュースだけを見ると、労働時間管理の見直しは不要だと考えてしまう経営者や人事担当者も少なくありません。しかし、検討されていた論点の多くは、人手不足が続く中小企業の労務管理と直結するテーマです。連続勤務や休息時間の確保、副業・兼業者の労働時間管理、休日の運用などは、法改正の有無にかかわらず、従業員の健康確保や離職防止の観点からすでに実務上の課題になっている企業が多くあります。
また、法案提出が見送られたとしても、検討そのものが終了したわけではありません。次の国会で改めて法案化された場合、就業規則や労働時間管理の仕組みを短期間で見直す必要が生じる可能性があります。動向を把握しないまま放置すると、制度改正のタイミングで対応が後手に回るリスクがあります。
実務で起こりやすい誤解と課題
誤解1:見送り=当面は何もしなくてよい
「見送り」は法案が国会に提出されなかったという事実であり、論点そのものが撤回されたわけではありません。今後の国会で改めて法案化される可能性がある以上、現状を「保留」ではなく「準備期間」ととらえる必要があります。
誤解2:いつ検討が再開されるか分からず、対応が後回しになる
再開時期や法案の内容が確定していないため、多くの中小企業では優先順位が下がりがちです。しかし、勤務間インターバルや連続勤務の管理は、法制化を待たなくても自社の判断で導入・改善できる取り組みです。
誤解3:規制強化と規制緩和が同時に検討されていることを理解していない
2025年11月以降は、規制を新設する方向だけでなく、既存の規制(週44時間労働の特例など)を緩和する方向の議論も含まれています。強化・緩和のどちらの結論になっても対応できるよう、両方の可能性を踏まえておく必要があります。
課題別の対応策
連続勤務・休息時間に関する課題への対応
連続労働日数の上限や勤務間インターバルは、法制化前でも自社の就業規則やシフト運用の中で先行して基準を設けることができます。まずは自社の勤務実態を洗い出し、連続勤務日数や勤務間隔がどの程度になっているかを把握することが出発点になります。
副業・兼業者の労働時間管理に関する課題への対応
副業・兼業の労働時間通算ルール(既存用語集)に基づき、現行制度上どこまでの管理が求められているかを確認したうえで、届出制の整備や労働時間の申告フローを見直しておくと、将来のルール変更にも対応しやすくなります。
法定休日の特定・つながらない権利に関する課題への対応
法定休日をあらかじめ特定していない企業や、始業前・終業後・休日の連絡対応が慣習化している企業は、就業規則や社内ルールの明文化を進めておくことで、今後のガイドライン整備にも対応しやすくなります。
具体的な対応ステップ
- 検討されていた7つの論点について、自社の現状(該当の有無、リスクの大きさ)を整理する
- 就業規則、勤務シフト、労働時間管理の運用実態を点検し、現行法令上すでに求められている対応に漏れがないか確認する
- 厚生労働省や労働政策審議会の公表情報を定期的に確認し、検討状況の変化を把握する体制を社内に作る
- 連続勤務日数や休息時間など、法制化を待たずに自社の判断で改善できる項目から着手する
- 制度改正の動きが具体化した段階で、就業規則の改定や運用フローの見直しを迅速に行えるよう、外部の専門家に相談できる体制を整えておく
検討されていた7つの論点と現状
| 論点 | 検討されていた内容(概要) | 2026年8月時点の状況 | 中小企業が今できること |
|---|---|---|---|
| 連続労働日数の上限規制 | 14日を超える連続勤務の禁止 | 検討中・未施行(法案提出見送り) | シフト表で連続勤務日数を可視化し、実態を把握する |
| 法定休日の特定義務化 | 法定休日をあらかじめ特定することを義務化 | 検討中・未施行 | 就業規則に法定休日を明記できているか点検する |
| 勤務間インターバル | 休息時間(目安11時間)の努力義務化 | 検討中・未施行(現行制度は努力義務の位置付けの議論段階) | 先行して社内基準を設け、就業規則への反映を検討する |
| 有給休暇の賃金計算方法 | 計算方法の統一 | 検討中・未施行 | 現行の計算方法(平均賃金・通常賃金等)の運用を確認する |
| つながらない権利 | 勤務時間外の連絡対応に関するガイドライン整備 | 検討中・未施行 | 時間外の連絡ルールを社内で明文化する |
| 副業・兼業者の割増賃金 | 労働時間通算・残業代計算ルールの整理 | 検討中・未施行 | 副業・兼業の届出制と労働時間申告の仕組みを整える |
| 週44時間労働の特例 | 一部業種における例外規定の見直し・廃止 | 検討中・未施行(緩和の観点も含め再検討の見通し) | 自社が特例の対象業種に該当するか確認しておく |
注意点・法的リスク
上記7論点は、いずれも本記事作成時点で法改正されておらず、施行されている制度ではありません。「検討中」の内容を、あたかも義務化されたかのように社内周知したり、就業規則に施行済みの制度として盛り込んだりすることのないよう注意が必要です。一方で、現行の労働基準法においてすでに義務付けられている労働時間管理、休憩・休日の付与、有給休暇の時季指定義務などは、今回の見送りとは関係なく引き続き遵守が必要です。「大改正が見送られたから労務管理全般を後回しにしてよい」という判断は誤りであり、既存の法令遵守と、将来の制度変更への備えは分けて考える必要があります。
中小企業ならではの対応方法
中小企業では、人事労務の専任担当者がいない、あるいは総務担当者が兼務しているケースが多く、法改正の動向を継続的に追いかけることが難しい実情があります。そのため、すべての論点に自社だけで対応しようとするのではなく、自社の業種・実態に照らして影響が大きい論点から優先順位をつけることが現実的です。例えば、シフト制で連続勤務が発生しやすい業種では連続労働日数の管理を、副業・兼業を認めている企業では労働時間の通算管理を優先するなど、自社の課題に応じたメリハリのある準備が求められます。
まとめ
労働基準法の大改正は、2026年通常国会への法案提出が見送られたと報じられていますが、検討されていた7つの論点自体がなくなったわけではありません。中小企業は「見送り=対応不要」と誤解せず、現行制度の点検と、将来の制度変更に備えた社内体制の整備を並行して進めることが重要です。
HRCへの相談案内
勤務間インターバルや連続勤務の管理、副業・兼業者の労働時間通算など、今回取り上げた論点は、就業規則や評価・賃金制度と密接に関わるため、自社の担当者だけで判断が難しい場合があります。特に「どこから手をつければよいか分からない」「現行制度のどこにリスクがあるか把握できていない」という状態のまま制度変更を待ってしまうと、いざ法改正が具体化した際に対応が遅れる可能性があります。
まずは自社の労働時間管理や就業規則の現状を確認する「制度分析」から始めるのか、規程や運用フローを整える「制度設計」から着手するのか、あるいはすでにある制度の運用面を見直す「制度運用」の支援が必要なのかによって、取るべき対応は異なります。どこから着手すべきか判断に迷う場合は、有限会社ヒューマンリソースコンサルタントへご相談ください。自社の状況を一緒に整理しながら、無理のない準備の進め方を検討します。お問い合わせはお問い合わせフォームよりご連絡ください。
関連するよくある質問
労働基準法の大改正は完全になくなったのですか。
完全に撤回されたわけではありません。2026年通常国会への法案提出が見送られたと報じられていますが、検討されていた論点は今後、規制強化と緩和の両面から改めて議論される見通しとされています。
今すぐ就業規則を改定する必要はありますか。
現時点では、今回の7論点に関する法改正は行われていないため、これらを理由に就業規則を直ちに改定する法的な義務はありません。ただし、現行法令上すでに求められている労働時間・休日管理に不備がないかは、この機会に点検しておくことをおすすめします。
勤務間インターバル制度は今、導入すべきですか。
勤務間インターバル制度は現時点で努力義務の位置付けが議論されている段階であり、法的な導入義務はありません。ただし、従業員の健康確保や人材定着の観点から、先行して導入する企業もあります。導入する場合の就業規則への記載方法は、既存FAQ記事もあわせてご確認ください。
週44時間労働の特例は自社に関係がありますか。
週44時間労働の特例は、商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業のうち常時10人未満の労働者を使用する事業場など、一部の業種・規模の事業場に適用される例外規定です。自社が対象に該当するかどうかは、現行の労働基準法および関連通達に基づいて個別に確認する必要があります。
関連記事・関連サービス
- つながらない権利とは(用語集)
- 勤務間インターバル制度とは(用語集)
- 勤務間インターバル制度を導入する際の就業規則記載方法(FAQ)
- 副業・兼業の労働時間通算ルール(用語集)
- 制度設計サービスの詳細
- 制度運用サービスの詳細
- 用語集「労働基準法の”大改正”とは?検討されている主な論点を整理」(新設・両記事の公開後にリンクを設定予定)
公的情報源・参考資料
本記事は、以下の一次情報および報道情報をもとに作成しています。個別の条文・施行状況は今後変更される可能性があるため、最新情報は厚生労働省および労働政策審議会の公式発表でご確認ください。
- 厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書(2025年1月公表とされる)
- 厚生労働省 労働政策審議会 労働条件分科会における検討状況(各種報道に基づく、2025年時点の情報)
- 2025年11月の労働時間規制の見直し方針に関する報道
- 2025年12月の労働基準法改正法案提出見送りに関する報道
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