【製造業向け】再雇用者を「技術指導役」として評価する|高年齢者活躍企業コンテストの製造業事例から考える、中小工場の処遇と技能承継の設計

熟練技能者の再雇用を検討する中小製造業の経営者・工場長向け。高年齢者活躍企業コンテストの事例をもとに、再雇用者の役割・評価・賃金・退職金の整え方を、手順と計算例つきで解説します。実務の流れも整理します。

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    再雇用者を「技術指導役」として評価する|高年齢者活躍企業コンテストの製造業事例から考える、中小工場の処遇と技能承継の設計

    情報基準日:2026年10月1日時点(厚生労働省等の公表資料は2026年9月30日までに確認できたものです)

    目次

    はじめに

    「定年後の再雇用者には、そのまま現場で働いてもらえれば十分」。そうお考えの工場は少なくありません。しかし、熟練の技能者が再雇用後に「評価もされず、役割もはっきりしない」と感じると、意欲が下がり、技能承継も進みにくくなります。

    2026年9月16日、厚生労働省は令和8年度「高年齢者活躍企業コンテスト」の入賞企業を公表しました。その中には、調速機制御盤装置や精密板金加工品を作る従業員25名の製造業や、輸送用機械器具を製造する企業が含まれています。また、10月は「中小企業退職金共済制度」の加入促進強化月間でもあります。

    本記事では、この公表内容をきっかけに、再雇用者を評価の対象とし、技術指導役として位置づける方法を整理します。対象は、機械加工、板金・溶接、組立て・検査など、熟練者の技能が製品品質を支える中小製造業です。あわせて、退職金制度との整合も考えます。

    この記事の要点

    要点
    • 入賞した製造業の事例には、「再雇用者も人事評価の対象にして給与へ反映する」「ペアで働いて技術を継承する」といった取組がありました。
    • 65歳までの雇用確保措置は、ほぼすべての企業が実施済みです。今後の差は「働く場を用意するか」ではなく「役割と評価を整えるか」に表れます。
    • 再雇用者の役割を「技術指導役」として文書にし、評価項目を安全・品質・指導に置くと、処遇の納得感が高まります。
    • 退職金は、再雇用期間の扱いを含めて見直す余地があります。制度の選択は専門家や機構への確認が必要です。

    再雇用者の役割や評価項目をどう書き分けるかは、評価シートのサンプルで具体的に確認できます。自社の再雇用者の現状と見比べてご覧ください。

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    1.公表内容の概要:入賞事例・雇用状況・退職金共済

    結論として、今回の公表は「再雇用者を戦力として評価し、処遇し、技能を引き継ぐ」取組が、中小製造業でも実践されていることを示しています。

    令和8年度「高年齢者活躍企業コンテスト」(2026年9月16日公表)

    厚生労働省と独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の共催で、高年齢者雇用の理解を促すために毎年開催されています。厚生労働省が公表した事例概要によると、製造業の入賞企業は次の2社です。

    表1 入賞した製造業2社の取組(厚生労働省「事例概要」による。公表資料の要約)
    項目株式会社三吉電器(茨城県日立市)株式会社鵜飼(岐阜県各務原市)
    受賞厚生労働大臣表彰 優秀賞厚生労働大臣表彰 特別賞
    業種調速機制御盤装置製造・精密板金加工品製造輸送用機械器具製造
    従業員数25名(60歳以上9名、36.0%)131名(60歳以上27名、20.6%)
    定年・再雇用定年70歳、80歳まで再雇用定年65歳、年齢上限なく再雇用
    評価・処遇に関する取組再雇用者も人事評価の対象とし、結果を給与に反映。定年後の役職登用も実施。健康お祝い金制度、退職金の選択支給制度を導入「パートタイム従業員雇用・継続審査表」により年1回面談を実施
    技能承継・身体負担への取組(本稿で確認できた範囲では記載なし)ペア就労による技術継承。溶接ロボット化で身体的な負担を軽減

    鵜飼は131名の企業です。スタッフ100名以下の工場がそのまま真似るのではなく、ペア就労や年1回の面談といった部分を取り入れる形が現実的です。

    高年齢者雇用状況等報告(令和7年、2025年12月19日公表)

    対象は常時雇用する労働者が21人以上の企業237,739社で、基準日は2025年6月1日です。65歳までの雇用確保措置を実施している企業は99.9%、70歳までの就業確保措置を実施している企業は34.8%(中小企業35.2%、大企業29.5%)、65歳以上定年の企業は34.9%でした。なお、70歳までの就業確保措置は事業主の努力義務です。

    中小企業退職金共済制度の加入促進強化月間(2026年10月)

    厚生労働省は2026年9月18日に、10月1日〜31日を強化月間とすると公表しました。2026年6月末時点で約55万の中小企業が加入しています。加入できる範囲は、製造業などの一般業種で常用従業員300人以下または資本金・出資金3億円以下とされています。

    2.主な対象業種・工程・職種と、中小製造業への影響

    特に影響が大きいのは、熟練者の「勘どころ」が製品品質を左右する工程です。具体的には、機械加工の段取りと治具の調整、板金の曲げ・溶接、塗装、表面処理、組立て・検査、設備保全などが該当します。

    なお、入賞企業には警備業や建設業も含まれますが、取組をそのまま製造業に当てはめることはできません。「役割を決める」「ペアで教える」「体力面の負担を減らす」という考え方だけが応用できます。

    影響は、三つに整理できます。一つ目は、技能承継のペースです。再雇用者が持つ暗黙知を、若手・中堅が受け取れないまま引退すると、特定の製品や工程が回らなくなります。二つ目は、処遇の納得感です。再雇用後に一律で賃金が下がり、評価も行われないと、意欲低下を招きます。三つ目は、若手への波及です。再雇用者の姿は、若手にとって将来の自分の姿でもあります。再雇用者が報われない職場には、若手も将来を描きにくくなります。

    3.経営・人事・製造現場で起こりやすい課題

    • 役割の不明確さ:再雇用後も現場の作業者として働き、指導や記録の役割が明文化されていません。
    • 評価の空白:再雇用者は評価の対象外で、昇給も賞与も「一律」になっています。
    • 年下の評価者:評価者が年下の班長・職長で、面談が気まずく行われません。
    • 指導の属人化:「背中を見て覚えろ」のままで、標準作業や作業手順書に技能が落とし込まれていません。
    • 身体的な負担と安全:重量物の取扱いや夜勤、高所・高温作業が続き、事故や健康面の不安が増します。
    • 退職金との関係:再雇用期間を退職金の計算にどう扱うか決まっておらず、説明できません。

    再雇用後の賃金を定年前より下げること自体は、直ちに違法となるわけではありません。ただし、同じ職場の正社員との間で、職務の内容などに照らして不合理な待遇差を設けることは、パートタイム・有期雇用労働法で禁じられています。最高裁の判断にも、事案ごとに結論が分かれた例があります。具体的な設計は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。

    4.等級・評価・賃金・採用・育成・退職金への反映方法

    考え方の軸は、「再雇用者の役割を決める→その役割で評価する→評価を処遇に反映する」の3段階です。

    役割:再雇用者を「技術指導役」として文書にする

    再雇用後の役割を、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)として文書にします。例えば「若手に段取り替えの手順を教える」「作業手順書の改訂を担当する」「異常時の判断を助言する」といった内容です。ただし、指示命令の権限や安全上の責任は、資格・教育を修了した管理者にあることを明確にしてください。

    評価:結果よりも安全・品質・指導のプロセスを見る

    再雇用者の評価項目は、体力に依存しない観点で組み立てます。安全行動の模範、標準作業の遵守、不良の未然防止、後輩への指導と記録、手順書づくりなどです。生産数量で比べると、体力や設備の条件で不利になることがあるため、数量は補助的に扱います。

    賃金:固定部分と評価連動部分を分ける

    三吉電器の事例のように、再雇用者の評価結果を給与に反映する方法があります。中小企業では、基本となる月給を安定的に決め、役割手当(技術指導手当など)と賞与の一部を評価に連動させる形が運用しやすいと考えられます。原資は、労働分配率の枠内で決めます。

    退職金:再雇用期間の扱いを決める

    退職金は、定年時に支給するのか、再雇用の終了時まで算定を続けるのかを、就業規則や退職金規程で明確にします。自社制度のほか、中小企業退職金共済(中退共)を使う方法もあります。三吉電器は「退職金選択支給制度」を導入していると公表されていますが、制度の内容や自社への適用は個別に確認が必要です。

    あわせて、関連するHRCの既存コラムもご覧ください。製造業の定年再雇用と給与改定|シニアのモチベーションを高める人件費最適化ガイドでは給与改定の考え方を、製造業の複線型人事制度|管理職以外のエース人材を活かすマイスター制度設計では専門職としての処遇を解説しています。

    再雇用者を技術指導役として位置づけ、役割・評価・処遇をそろえる設計は、製造業向けのご相談で具体的に検討できます。現在の再雇用者の処遇をお聞かせください。

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    5.実務対応の手順

    1. 対象者を把握する:60歳以上の社員の人数、担当工程、今後5年の定年・再雇用の予定を一覧にします。
    2. 承継したい技能を棚卸しする:工程ごとに「その人にしかできない作業」を洗い出します。ここでスキルマップが役立ちます。
    3. 本人の意向と体力面を確認する:希望する働き方、勤務日数、夜勤の可否、健康面の配慮点を面談で聞きます。
    4. 役割と評価項目を決める:技術指導役の職務記述書と、評価項目・基準を作ります。
    5. 処遇を設計する:基本月給、役割手当、賞与の評価連動部分、退職金の扱いを決めます。
    6. ペア就労・指導の仕組みを作る:若手と再雇用者をペアにし、教える内容と期間を決めます。資格・特別教育が必要な作業は、修了者だけが担当します。
    7. 年1回以上、面談と評価会議を行う:評価者を年下の管理者だけに任せず、経営者や工場長も同席する場を設けます。

    6.比較表・チェックリスト・計算例

    表2 再雇用者の役割別・評価項目の例(人事コンサルタントの提案。実施には就業規則等の整備が必要)
    役割の例主な評価項目(プロセス)補助的に見る結果注意点
    技術指導役(機械加工・板金・組立て等)安全行動の模範、標準作業の指導、手順書の作成・改訂、後輩の習熟度向上への関与指導した後輩の工程習熟度、不良の未然防止後輩の成績を個人の責任としない
    品質・検査の助言役異常の発見・報告、検査基準の伝達、記録の正確さ流出防止への貢献品質判定の最終責任者を明確にする
    設備保全の補助役点検の正確さ、故障予兆の共有、保全記録の整備設備停止の減少への貢献資格が必要な作業は有資格者が担当

    自社点検チェックリスト

    • □ 60歳以上の社員の担当工程と、今後5年の定年予定を把握している
    • □ 再雇用者の役割を、職務記述書として書面にしている
    • □ 再雇用者も、年1回以上の評価・面談の対象にしている
    • □ 評価項目に、安全・品質・指導のプロセスが入っている
    • □ 若手とのペア就労や、手順書づくりの仕組みがある
    • □ 退職金の算定で、再雇用期間の扱いが決まっている
    • □ 体力面・健康面の配慮点を、本人と共有している

    計算例(架空のモデルによる考え方の説明)

    以下は説明用に作った架空の数値です。実在の企業や統計を示すものではありません。

    従業員30名の板金加工工場で、定年前の月給が30万円の熟練者が再雇用されるとします。再雇用後の基本月給を24万円とし、技術指導役の手当を月2万円、評価に応じた賞与の一部を年間で最大12万円と設計すると、月額は26万円、年間の固定分は312万円、評価連動分は最大12万円です。合計で年間最大324万円となり、定年前の年収360万円の9割です。もし指導や手順書づくりの成果が出ていれば、評価連動分を通じて処遇へ反映されます。このように、「基本は安定させ、役割と貢献で差をつける」形にすると、社員にも説明しやすくなります。

    人事コンサルタントからのアドバイス

    まず確認していただきたいのは、数字と人です。売上、付加価値、限界利益、人件費、労働分配率のほか、品質・納期の実績、スキルマップ、再雇用者の勤務実態、そして本人と若手双方の声を見てください。再雇用者の人件費は「コスト」ではなく、技能承継への投資として位置づけられるかが判断の分かれ目です。

    優先順位は、①承継したい技能の特定、②役割の文書化、③評価項目の設計、④賃金・退職金の整理、の順をおすすめします。賃金から先に変えると、役割が曖昧なまま金額だけが動き、社員の納得を得にくくなります。

    交替制や多職種が混在する現場では、再雇用者だけを特別扱いしないことも大切です。同じ職場の正社員や若手と、評価の考え方を共通にしておくと、不公平感が出にくくなります。また、熟練者への敬意を示すことと、安全・品質の基準を守ることは両立します。

    再雇用後の賃金、退職金規程、就業規則の変更、助成金の活用は、社会保険労務士、JEEDの窓口、都道府県労働局などで最新の制度を確認してください。自社だけで判断しにくいときは、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。

    用語集

    継続雇用制度
    定年を迎えた社員を、本人が希望すれば引き続き雇用する制度です。再雇用制度や勤務延長制度が含まれます。高年齢者雇用安定法が定める65歳までの雇用確保措置の一つで、労働条件は改めて本人と合意して決めます。
    高年齢者就業確保措置
    70歳までの就業機会を確保するため、事業主が講ずる努力義務の措置です。定年引上げや継続雇用のほか、業務委託契約などの選択肢もあります。いずれも努力義務で、本人の意向を踏まえて検討します。
    技術指導役
    本記事では、再雇用者などの熟練者が、若手・中堅に技能や作業の考え方を教える役割を指します。安全上の指揮命令の責任は、有資格の管理者が担います。役割は職務記述書で明確にします。
    退職金制度(DC/DB)
    退職金の積立・給付の仕組みです。自社で積み立てる方法のほか、中小企業退職金共済や企業型確定拠出年金のように、外部で積み立てる方法もあります。導入前に制度の違いを確認します。
    ジョブ・ディスクリプション
    職務の内容、範囲、必要なスキル、責任、求められる成果を記載した文書で、職務記述書とも呼ばれます。採用や評価に使えます。再雇用者の役割を文書にする際にも役立ちます。
    シニア・リスキリング
    50代後半から60代以上のベテラン社員が、新しい業務知識やデジタルスキルを学び直し、第一線で活躍できるよう支援する取り組みです。本人の意欲と体力に合わせ、無理のない範囲で進めます。
    同一労働同一賃金
    正規雇用と非正規雇用の間の不合理な待遇差をなくす考え方です。全く同じ賃金にするのではなく、職務内容などの違いに応じたバランスを求めます。再雇用者の待遇を決める際にも参考になります。

    よくある質問(FAQ)

    Q1.再雇用者にも、人事評価を行う必要がありますか。
    法律で一律に義務づけられているわけではありませんが、行うことをおすすめします。役割に応じた評価があると、処遇の根拠を説明しやすくなり、意欲の維持にもつながります。三吉電器のように、評価結果を給与に反映している事例もあります。まずは年1回の面談から始めてください。評価者が年下の場合は、工場長等が同席すると進めやすくなります。
    Q2.再雇用後の賃金を下げても問題ありませんか。
    賃金を下げること自体が直ちに違法となるわけではありません。ただし、同じ職場の正社員との間で、職務の内容などに照らして不合理な待遇差を設けることは禁じられています。役割、責任、勤務の実態を整理し、説明できる設計にしてください。個別の判断は専門家に確認してください。再雇用契約の更新時に、賃金の根拠を書面で示すと誤解を防げます。
    Q3.定年を延長するか、再雇用にするか、どちらがよいですか。
    65歳までは、定年の廃止・引上げ・継続雇用制度のいずれかが義務です。どれがよいかは、人件費、人員構成、技能承継の計画で決まります。再雇用であっても、役割と評価を整えれば機能します。段階的に対象や年齢を広げる進め方もあります。まずは現状の再雇用者の人数と意向を確認してください。
    Q4.再雇用者の体力面や安全面は、どう配慮すべきですか。
    勤務日数や夜勤、重量物の取扱いを本人と面談で確認し、作業内容を調整してください。鵜飼は、溶接ロボット化で身体負担を減らしていると公表されています。必要な資格や特別教育の修了を確認し、危険作業を無理に任せないことが前提です。定期健康診断の結果も踏まえ、産業医や医療機関への確認を行ってください。
    Q5.中退共は、自社の退職金制度の代わりになりますか。
    製造業は常用従業員300人以下または資本金3億円以下が加入の目安です。掛金の一部に国の助成があるとされていますが、給付額は掛金と運用で決まるため、自社の退職金規程との関係を整理する必要があります。詳細は勤労者退職金共済機構や専門家に確認してください。加入後の掛金の設定も重要です。

    出典・参考情報/留意事項

    留意事項:事例は公表資料の要約であり、制度の細部や効果を保証するものではありません。計算例は架空の数値です。再雇用の賃金、退職金規程、就業規則の変更、助成金の個別判断は、社会保険労務士、弁護士、JEED、勤労者退職金共済機構、管轄の労働局等へご確認ください。

    まとめ

    2026年9月に公表された高年齢者活躍企業コンテストの入賞事例には、再雇用者も人事評価の対象とし、結果を給与へ反映する製造業の取組や、ペア就労で技術を継承する取組がありました。65歳までの雇用確保措置はほぼ全企業が実施済みで、今後は、再雇用者の役割と評価、処遇をどう整えるかが問われます。中小製造業では、承継したい技能を棚卸しし、再雇用者を技術指導役として文書化し、安全・品質・指導のプロセスで評価し、基本給と役割手当、賞与の一部を評価に連動させる形が現実的です。退職金も、再雇用期間の扱いを含めて見直しましょう。ただし、規模や業種、生産形態によって最適な設計は異なり、段階的な導入が現実的です。HRCでは、再雇用者を技術指導役として位置づける制度設計を含め、製造業向けに評価・賃金・退職金を一体で支援しています。再雇用者の処遇を考える第一歩として、まずは評価シートのサンプルをご覧ください。具体的な課題がある場合は、無料相談もご活用いただけます。制度は面談と評価会議を通じて少しずつ整えていくものです。

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