【役職別評価基準】執行役員の評価基準づくりのポイントと注意点

【役職別評価基準】執行役員の評価基準づくりのポイントと注意点

この記事で分かること

  • 執行役員の評価基準を「経営目標達成への貢献」「リーダーシップと組織運営」「企業文化と価値観の浸透」の3つの柱で整理する方法
  • 5段階評価で「3=期待水準」とする考え方と、「部門間の調整」の記述例、四半期ごとの評価の進め方
  • 執行役員の法的な位置付け(会社法上の役員との違い、雇用型・委任型の違い)と評価に伴う注意点

執行役員は、取締役会などで決めた経営方針を受けて、担当する事業や部門の業務執行を担う職位です。中小企業では、経営者の右腕として戦略を現場に落とし込み、組織を動かす役割を期待されることが多く、その評価の仕方が経営の実行力に直結します。

本記事では、役職別評価基準シリーズの一つとして、執行役員の役割、法的な位置付け、評価基準の3つの柱、評価段階の書き方、運用上の注意点を、人事制度の設計・運用に携わってきた立場から解説します。

目次

執行役員に求められる役割と責任

執行役員に求められるのは、経営戦略を実行に移し、経営層と現場をつなぐことです。戦略を描くだけでも、現場を管理するだけでもなく、その両方を結びつけて成果につなげる役割を担います。

主な職務と責任

執行役員の中心となる職務は、経営戦略の実行と事業の推進です。担当領域に応じて、マーケティング戦略の立案、営業活動の統括、製造や供給体制の管理などを指揮します。あわせて、社内会議や日々のコミュニケーションを通じて会社の価値観を伝え、社員の仕事への意欲を高めることも求められます。

中小企業における独自の役割

中小企業の執行役員には、経営と現場の橋渡し役としての期待が特に大きくなります。経営戦略を現場で実行できる形に落とし込み、具体的な指示として示すこと、新しい事業の進め方の導入や業務プロセスの効率化、社員の意欲を高める施策など、組織改革を先頭に立って進めることが求められます。

この章のポイント

  • 執行役員の役割は、経営戦略を実行に移し、経営層と現場をつなぐこと
  • 中小企業では、戦略の具体化と組織改革の推進役として期待される

執行役員の法的な位置付け

執行役員は会社法上の役員ではなく、会社が任意に設ける職位です。会社法上の役員は取締役・会計参与・監査役であり、執行役員は(取締役が兼務する場合を除き)これに含まれません。また、指名委員会等設置会社の「執行役」とも異なります。

執行役員には、会社との契約の形によって「雇用型」と「委任型」があり、適用されるルールや、評価に伴って報酬や処遇を変える際の扱いが異なります。評価基準をつくる前に、自社の執行役員がどちらの契約区分に当たるかを確認しておく必要があります。

区分契約適用されるルール評価に伴う降格・減給
雇用型会社との労働契約労働基準法・労働契約法などが適用される。役職名が「役員」でも労働者に当たる就業規則・契約上の根拠と合理性が必要。一方的な不利益変更はできない
委任型会社との委任契約報酬・任期は委任契約と社内規程に従う。ただし勤務の実態によっては労働者と判断される場合がある委任契約と社内規程に従い、決定手続きを明確にしておく

この章のポイント

  • 執行役員は会社法上の役員ではなく、会社が任意に設ける職位
  • 雇用型は労働者として労働基準法・労働契約法が適用され、降格・減給には根拠と合理性が必要
  • 委任型は委任契約と社内規程に従うが、実態によっては労働者と判断される場合がある

執行役員の評価基準設定のポイント

執行役員の評価基準は、「経営目標達成への貢献」「リーダーシップと組織運営」「企業文化と価値観の浸透」の3つの柱で整理します。数値で測れる経営指標と、組織を動かす行動の両面から評価するのがポイントです。

1経営目標達成への貢献

戦略目標の実現度

担当する事業や部門で、売上高・利益率・成長率など数値で示された戦略目標をどの程度実現したかを評価します。新規事業の立ち上げを担当した場合であれば、事業計画に沿って売上を立ち上げられたかが着眼点になります。

収益性向上とコスト管理

売上を伸ばすだけでなく、利益を生む体質をつくれたかも重要です。売上高、営業利益率、自己資本利益率(ROE)などの指標を用いて評価します。製造工程を見直し、材料費の削減と品質の向上を両立させる取り組みなどが、この着眼点に当たります。

2リーダーシップと組織運営

部門間の調整と連携

部門ごとの目標がぶつかる場面で、全社の視点から調整し、協力体制をつくれたかを評価します。製造部門と営業部門の目標を調整し直し、品質とコストのバランスを取る、といった行動が着眼点です。

人材育成と後継者育成

部下の技能向上やキャリア開発の進み具合、後継者育成計画の進捗を評価します。リーダー研修や任せる仕事を通じて、次の経営幹部候補を計画的に育てる取り組みが評価の対象になります。

3企業文化と価値観の浸透

コミュニケーションと価値観の共有

社内ミーティングや社内報などを通じて会社の価値観を伝え、社員に浸透させる取り組みを評価します。社員の仕事への意欲を高める施策を導入し、その浸透状況を確かめながら改善する、といった行動が着眼点です。

社会的責任と持続可能な経営

社会的責任に関する取り組みや、環境に配慮した経営方針の導入を推進しているかも評価の視点です。環境への負荷を減らす製造工程を導入し、コスト面と社会からの評価の両方に配慮する、といった取り組みが当たります。

3つの柱と着眼点を、評価項目と指標・行動例に整理すると次のようになります。指標や行動例は一般的な例であり、自社の事業や担当領域に合わせて書き換えて使います。

評価の柱着眼点評価項目指標・行動例
経営目標達成への貢献戦略目標の実現度戦略目標の達成【指標】売上高、利益率、成長率
【行動】事業計画に沿って新規事業や重点施策を立ち上げ、進捗を管理している
収益性向上とコスト管理収益性の向上【指標】売上高、営業利益率、自己資本利益率(ROE)
【行動】工程や業務を見直し、コスト削減と品質向上を両立させている
リーダーシップと組織運営部門間の調整と連携部門間の調整【行動】部門ごとの目標を全社の視点で調整し、協力体制をつくっている
人材育成と後継者育成後継者育成【指標】後継者育成計画の進捗
【行動】研修や任せる仕事を通じて次の経営幹部候補を育てている
企業文化と価値観の浸透コミュニケーションと価値観の共有価値観の浸透【行動】社内ミーティングや社内報で価値観を伝え、浸透状況を確かめて施策を改善している
社会的責任と持続可能な経営社会的責任への取り組み【行動】環境に配慮した方針や工程の導入など、社会的責任に関する取り組みを推進している

この章のポイント

  • 3つの柱×2つの着眼点=6つの着眼点で評価項目を整理する
  • 売上高・営業利益率・自己資本利益率(ROE)などの指標と、組織を動かす行動を組み合わせる
  • 指標や行動例は自社の事業・担当領域に合わせて書き換える

5段階評価基準の記述例(項目「部門間の調整」)

執行役員の評価でも、各段階で「どのような行動が見られたか」を書き分けると、評価する側の判断がぶれにくくなります。ここでは、全社の視点が問われる「部門間の調整」を例に、3を期待水準とした5段階の記述例を示します。

評価項目:部門間の調整(執行役員の例)
5
部門間の調整の場を全社の仕組みとして定着させ、複数の重要課題を解決した
4
部門間の対立を早期に把握し、双方が納得する解決策で目標を両立させた
3(期待水準)
担当する部門間の目標を調整し、計画どおりに連携して業務を進めた
2
調整が遅れ、経営層の介入を要する場面があった
1
部門間の対立を放置し、業績に影響が出た

※説明のための例です。実際の評価基準は、自社の職務内容に合わせて設定してください。

執行役員の段階は、担当範囲の調整(3)から、対立の早期解決(4)、全社の仕組みづくり(5)へと、影響の範囲が広がる形で書き分けています。管理職の「部下の育成」などと同じ5段階の枠組みを使うことで、等級をまたいだ評価の一貫性も保てます。

執行役員の評価基準設定の際の注意点

執行役員の評価基準は、客観性と具体性、透明性と一貫性、四半期ごとのフィードバックと見直しの3点をそろえて運用することが大切です。あわせて、取締役の報酬とは別の仕組みとして扱い、評価の決定手続きを定めておきます。

客観性と具体性

執行役員の評価は、経営者の印象に左右されやすい面があります。売上高や営業利益率など数値で示せる指標を用い、数値の結果に加えて、その成果を生んだ具体的な取り組みを記録して評価します。定量的なデータと具体的な行動の両方を確かめることで、評価の根拠が明確になります。

透明性と一貫性

評価基準は文書化して執行役員に共有し、評価の手順も説明しておきます。そのうえで、同じ契約区分の執行役員には同じ基準を適用します。雇用型と委任型では適用されるルールが異なるため、契約区分を混ぜて同じ扱いをすると、処遇の変更時に問題が生じるおそれがあります。

四半期ごとのフィードバックと見直し

執行役員の評価期間は四半期とします。経営目標の進捗を早い段階でつかみ、計画の修正につなげるためです。四半期ごとに評価基準の適用状況を確認し、評価後には面談で結果を伝えて、次の四半期の行動計画を確認します。評価基準そのものも、経営方針や事業環境の変化に合わせて定期的に見直します。

注意:取締役の報酬との区別、評価の決定手続き

  • 取締役の報酬は、定款または株主総会の決議によって定める仕組み(会社法第361条)であり、執行役員の評価基準とは別に扱います。
  • 執行役員の評価を取締役会や経営会議で決定する場合は、決定の手続きと記録の方法を定めておきます。

※2026年10月1日時点の法令に基づく一般的な解説です。個別の取り扱いは、弁護士・社会保険労務士などの専門家にご確認ください。

この章のポイント

  • 数値の指標と具体的な取り組みの両方で評価の根拠を示す
  • 同じ契約区分の執行役員には同じ基準を適用する
  • 評価期間は四半期。取締役の報酬とは別に扱い、決定手続きを定める

評価基準づくりでつまずきやすいポイントと対策

執行役員の評価基準づくりでつまずきやすいのは、「基準があいまい」「階層ごとに基準がばらつく」「評価プロセスが不透明」の3点です。いずれも、文書化と周知、役割に応じた書き分けと全社での一貫性、定期的な見直しという3つの原則で防ぐことができます。

つまずき原因対策
評価基準があいまい経営者の印象や業績の数字だけで評価が決まり、何をすれば期待水準なのかが示されていない3つの柱ごとに指標と行動例を書き、5段階の各段階を行動で書き分ける
階層ごとに基準がばらつく管理職の基準との違いが整理されず、契約区分の違いも考慮されていない管理職との役割の違いを先に定め、全社で同じ5段階の枠組みを使う。同じ契約区分の執行役員には同じ基準を適用する
評価プロセスが不透明誰がどの会議で評価を決めるのかが定まっておらず、結果だけが伝えられる評価の決定手続きと記録の方法を定め、四半期ごとの面談で評価の根拠と次の行動計画を伝える。基準は定期的に見直す

まとめ

執行役員の評価基準づくりの要点

  • 執行役員は会社法上の役員ではなく、会社が任意に設ける職位。雇用型と委任型で適用されるルールが異なる
  • 経営目標達成への貢献・リーダーシップと組織運営・企業文化と価値観の浸透の3つの柱で、指標と行動を組み合わせて評価する
  • 評価は5段階とし、「3」を期待水準として各段階を行動で書き分ける
  • 評価期間は四半期とし、取締役の報酬とは別に扱って評価の決定手続きを定める

執行役員の評価基準は、経営者が執行役員に何を任せるのかを明らかにするものです。法的な位置付けを確認したうえで、四半期ごとの評価と面談を重ねることで、経営戦略を現場の成果につなげる流れをつくることができます。

よくある質問

Q1. 執行役員は会社法上の役員ですか?

会社法上の役員(取締役・会計参与・監査役)ではなく、会社が任意に設ける職位です。会社との契約の形によって雇用型と委任型があり、適用されるルールが異なります。

Q2. 執行役員の評価結果で報酬を下げられますか?

雇用型の執行役員は労働者に当たるため、評価に伴う降格・減給には就業規則・契約上の根拠と合理性が必要で、一方的な不利益変更はできません。委任型の場合は、委任契約と社内規程に従って決定します。

Q3. 執行役員の評価期間はどう設定しますか?

経営目標の進捗を早い段階でつかみ、計画の修正につなげるため、四半期が目安です。四半期ごとに面談で評価結果を伝え、次の行動計画を確認します。

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参考資料

  • 会社法(e-Gov法令検索)
  • 労働基準法(e-Gov法令検索)
  • 労働契約法(e-Gov法令検索)

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