定期昇給とベースアップの違いを解説!人事コンサルタントのワンポイントレッスン

コンサル業務日報

人事コンサルタントの実務ノウハウに基づくワンポイントアドバイス

「定期昇給とベースアップは何が違うんでしょう?」

昨年の春先からよく質問をされるようになりました。

そこで、定期昇給とベースアップの違い、定期昇給の種類等を取りまとめた表を作成してみました。

定期昇給とベースアップの違い

区分定期昇給ベースアップ
説明一定の期間ごとに基本給を増額する制度です。
従業員の勤務態度や業績に応じて、給与を見直す機会を設けることが
一般的です。
従業員全体の基本給の水準を引き上げる制度です。
経済状況や市場の賃金水準の変化に応じて、会社全体の給与水準を
見直します。
メリット従業員のモチベーション向上、労働意欲の喚起につながります。
定期的に給与が増加する見込みがあることで、従業員は働く意欲
を持続させやすくなります。
市場競争において優秀な人材を引き付けやすくなります。
また、物価の高騰など、市場環境に対して、従業員の生活水準の保障
など社会的な責任を果たすことにもつながります。
デメリット業績が伸び悩んでいる場合、定期昇給が経営に負担をもたらすことが
あります。
また、全員一律の昇給では、個々の従業員の貢献度に応じた評価が
難しくなる場合があります。
企業の財務状況に大きな影響を与える可能性があります。特に、業績が
安定していない企業では、経営にリスクをもたらすことがあります。
世間の動向を踏まえた対処をしないと従業員からの信頼失墜につながる
こともあります。

定期昇給の種類とメリット、デメリット

区分属人要因評価要因人事要因特殊要因
説明年齢や勤続年数に基づいて給与を決定する方式です。経験やキャリアの積み重ねを給与で反映させます。個々の従業員の業績や貢献度を評価し、それに応じて給与を決定します。昇格や昇進、配置転換などの人事異動に対して、給与を調整する方式です。特別な貢献や功労、優れた業績を上げた従業員に対して、例外的な給与の増額を行う方式です。
メリット長期的なキャリアの継続が評価され、従業員の安定したキャリア形成をサポートすることです。個々の従業員の努力や成果が直接的に給与に反映されるため、モチベーションの向上や公平な評価が期待できます。キャリアアップを目指す従業員にとって明確な目標となり、キャリア形成を促進します。特別な成果を上げた従業員を適切に報酬することで、モチベーションの向上とイノベーションの促進が期待できます。
デメリット実際の業績や能力とは無関係に給与が決定されるため、公平性に欠けるという問題があります。評価基準が曖昧になっていたり、評価結果のフィードバックがされないと不公平感や不満が生じる可能性があります。人事異動が頻繁に行われる場合、給与体系が複雑化し、管理が難しくなることがあります。特殊要因による昇給は、他の従業員に不公平感を与える可能性があります。

昇給制度の見直し

定期的な昇給制度の見直しは、中小企業にとって重要なプロセスです。

これにより、企業は競争力を維持し、従業員の生活水準を保護することができます。

労働市場や企業の業績に応じた昇給検討

市場の賃金水準や経済状況は常に変化しています。

そのため、企業はこれらの変化に応じて、昇給制度を適宜見直す必要があります。

例えば、

業界全体の賃金が上昇している場合   :競争力を維持するために、自社の賃金水準も見直すことが重要

経済状況が悪化している場合            :昇給ペースを市場に合わせて抑制することが重要

これにより、従業員の生活水準を保護し、同時に企業の財務の健全性を維持することができます。

賃金制度の見直しや導入について詳しく知りたい方はこちら

自社の賃金制度が適切に運用されているか自己診断をしてみたい方はこちら

企業業績と連動した昇給予算の設定

企業の業績が良好な場合、従業員に対してその成果を還元することは、彼らのモチベーションを高め、長期的なコミットメントを促進する重要な手段です。

そのため、企業は業績と連動した昇給予算を設定し、従業員の努力を適切に評価することが重要です。

業績が良い年は、従業員への還元を大幅に行い、逆に業績が悪い年は昇給のペースを抑えることが望ましいです。

これにより、企業は財務の健全性を維持しつつ、従業員に対する公平な評価を保つことができます。

昇給予算の配分順位

昇給予算に対して、昇給を実施する順番は

・属人要因

・人事要因

・評価要因

となります。

属人要因を最優先することで、社内の賃金分布や賃金カーブが維持、改善されます。

人事要因は組織編成上の問題と表裏一体のため、優先的に昇給予算を確保することとなります。

評価要因は上記2点を控除した昇給予算を従業員個々人の評価に応じて配分することとなります。

実務ポイント| ベースアップの対象は慎重に検討することが重要です!

例えば、基本給を対象としてベースアップを行う場合、

・基本給の昇給を「率」を基準として計算する方式を採用していると、その後の昇給=人件費にまで影響が及びます。

・基本給を賞与金額の計算基準としている場合、賞与額に影響が及びます。

・基本給を退職金の計算基準としている場合、将来の退職金額に影響が及びます。

ベースアップが中小企業でも行われていた頃であれば、加給や特別給など、昇給や賞与、退職金に影響しない給与明細をもって実施していた企業も多くありますが、平成、令和の時代を経て、そうした賃金明細を廃止し、手当や基本給に統合されたりしているため、検討は慎重に進めていくことが重要です。

投稿者プロフィール

猪基史
猪基史
アパレル会社勤務後、2000年、中小企業診断士資格取得と同時にコンサルタント会社に転職。営業(販促)支援、個別対応型管理者育成、業績管理制度構築・運用といった現場実戦型コンサルティングを中心に中小企業の支援を行う。その活動の中、経営者の方針=想いを実現させるためには従業員がやりがいを持って働ける環境を整備することが不可欠であると痛感し、会社と社員が共存共栄の関係を築ける「人事制度改革」に特化した中小企業支援を自らの専門領域として確立する。