HRC人事制度関連ニュース5選|2026年11月1日号
調査対象:2026年10月16日~10月31日
2026年10月後半、人事制度を見直す中小企業にとって重要な統計と政策情報が相次いで公表されました。 特に注目すべきは、賃金改定率4.4%という厚生労働省の調査結果です。 賃上げの動きが続く一方、新卒社員の早期離職、育児と仕事の両立、採用市場の変化、デジタル人材の育成という課題も浮かび上がっています。
これらのニュースに共通するのは、採用・定着・評価・賃金・教育を別々に考えていては、十分な成果につながりにくいという点です。 採用時の処遇を引き上げても、入社後の成長機会や評価基準が不明確であれば、定着につながらない可能性があります。 一方、教育制度を充実させても、習得した能力や役割の拡大が評価・賃金に反映されなければ、従業員の納得感を高めることは難しくなります。
今回は、2026年10月16日から31日までに公表された5つのニュースを取り上げ、事実関係と中小企業への影響を整理します。 さらに、経営者と人事担当者が具体的に何を確認し、どの順序で改善すべきかを解説します。
- 賃金改定率は4.4%。100~299人規模の企業では3.9%となり、規模別の差も確認されました。
- 2023年3月卒業者の3年以内離職率は大卒31.2%、高卒36.9%。中小企業では定着対策が引き続き重要です。
- 育児休業の取得率だけでなく取得期間や、公正な評価・登用を巡る検討が進められています。
- 9月の有効求人倍率は1.19倍。採用市場を一律に判断せず、地域・職種別の状況を確認する必要があります。
- デジタル人材育成政策の検討会で、スキルの可視化と実践的な教育の取組が紹介されました。
2026年10月後半の人事ニュース5選|重要ポイント一覧
| 順位 | ニュース | 公表・開催日 | 主な人事課題 |
|---|---|---|---|
| 1 | 賃金引上げ等の実態調査 | 10月21日 | 賃金表・昇給・人件費管理 |
| 2 | 新規学卒就職者の離職状況 | 10月23日 | 採用・初期教育・定着 |
| 3 | 仕事と育児の両立支援に関する審議 | 10月26日 | 育休・人事評価・配置 |
| 4 | 9月の一般職業紹介状況 | 10月30日 | 求人条件・採用計画 |
| 5 | デジタル人材育成政策の検討会 | 10月20日 | スキル定義・教育体系・DX |
重要度の順位は、法的な優先順位を示すものではありません。 HRCが、中小企業への影響、実務への応用可能性、経営戦略との関連性を踏まえて整理したものです。 また、統計の公表、審議会での検討、制度の施行は異なる段階です。 今回の育児休業に関するニュースは、制度改正の決定ではなく審議段階の情報として取り扱います。
ニュース1|賃上げ率4.4%、中小企業の賃金制度はどう変えるべきか
2026年10月21日公表|厚生労働省2026年の賃金改定額は1人平均13,926円
厚生労働省は10月21日、「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果を公表しました。 1人平均賃金を引き上げた、または引き上げる企業の割合は92.0%。 1人平均の賃金改定額は13,926円、改定率は4.4%でした。 改定率は前年と同率ですが、改定額は前年の13,601円を上回っています。
この調査は、常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業が対象です。 2026年は3,668社を抽出し、1,862社から有効回答を得ています。 したがって、従業員100人未満の企業を含む全国すべての企業の平均ではありません。 また、改定額には2026年9~12月の予定を含むため、すべてが実施済みの昇給という意味でもありません。
| 企業規模 | 1人平均改定額 | 改定率 |
|---|---|---|
| 全体 | 13,926円 | 4.4% |
| 100~299人 | 11,279円 | 3.9% |
| 300~999人 | 12,912円 | 4.2% |
| 1,000~4,999人 | 15,402円 | 4.7% |
| 5,000人以上 | 16,680円 | 4.8% |
特に注目したいのは、100~299人規模の改定率が3.9%であることです。 全体平均の4.4%だけを見て自社の賃上げ水準を判断すると、企業規模による違いを見落とします。 さらに、建設業5.5%、製造業4.7%、医療・福祉3.3%、運輸業・郵便業3.0%など、産業別にも差があります。 賃金改定の判断では、地域・業種・職種・企業規模を考慮する必要があります。
賃上げを実施しても人事制度の課題は解決しない
採用競争力を確保するため、初任給や若年層の基本給を引き上げる企業が増えると、既存社員との賃金バランスが問題になることがあります。 例えば、新入社員の基本給を大きく引き上げた結果、数年間勤務して能力を身に付けた社員との賃金差が小さくなるケースです。 こうした状態を放置すると、勤続や成長に対する評価が十分に処遇へ反映されていないと受け止められる可能性があります。
一方、全社員に一律の金額を上乗せする方法にも課題があります。 実施が容易で分かりやすい反面、等級や役割による賃金差が縮小する場合があります。 また、一定率の引上げでは高賃金者の増額が大きくなり、若年層の採用競争力を高める目的と一致しないこともあります。
重要なのは、賃上げの目的を明確にすることです。 最低賃金への対応、採用競争力の強化、既存社員の定着、役割責任に応じた処遇改善では、適切な配分方法が異なります。 賃金原資の総額を決めたうえで、誰に、どのような基準で、いくら配分するかを設計する必要があります。
等級・評価・賃金を連動させる
HRCでは、賃金改定に先立ち、等級別・職種別・年齢別・勤続別の賃金分布を確認することを推奨します。 そのうえで、各等級に求める役割と能力を明確にし、昇格時の賃金上昇、評価結果による昇給差、各等級の賃金上限を整合させます。
例えば、一般社員から中心担当者、係長、管理職へと役割が広がる企業であれば、それぞれの段階で求める成果・判断・人材育成責任を定義します。 その役割に見合った賃金レンジを設ければ、単なる勤続年数だけでなく、成長や貢献と処遇の関係を説明しやすくなります。
中小企業が取り組む3つの対策
- 賃金の現状分析:基本給、諸手当、賞与、年収を等級・職種・年齢・勤続別に整理し、採用時賃金との逆転や圧縮を確認します。
- 改定原資のシミュレーション:一律増額、定率増額、若年層重点配分、等級別配分などを比較し、翌年度以降の人件費も試算します。
- 評価・昇格制度との整合:役割拡大、能力向上、成果をどのように昇給へ反映するかを明文化し、管理職が説明できる状態にします。
賃上げ率4.4%は、すべての企業に求められる法的基準ではありません。 自社の経営状況と市場水準を踏まえ、持続可能で納得感のある賃金制度を設計するための参考指標として活用してください。
ニュース2|新卒3年以内離職率31.2%、中小企業の定着対策を再検討
2026年10月23日公表|厚生労働省大卒31.2%、高卒36.9%という結果
厚生労働省は10月23日、2023年3月に卒業した新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況を公表しました。 大学卒業者の離職率は31.2%で前年度より2.6ポイント低下、高校卒業者は36.9%で1.0ポイント低下しました。 前年度より改善したものの、大卒では約3人に1人、高卒では3人に1人を超える人が、就職後3年以内に最初の勤務先を離れている状況です。
特に中小企業が注目すべきなのは、事業所規模による差です。 大卒者の3年以内離職率は、5人未満の事業所で58.2%、5~29人で50.6%、30~99人で39.7%でした。 一方、1,000人以上の事業所では24.2%です。 この結果は小規模事業所で離職率が高い傾向を示しますが、企業規模そのものが離職の原因であると断定することはできません。
| 事業所規模 | 離職率 |
|---|---|
| 5人未満 | 58.2% |
| 5~29人 | 50.6% |
| 30~99人 | 39.7% |
| 100~499人 | 31.7% |
| 500~999人 | 29.0% |
| 1,000人以上 | 24.2% |
採用の成功を入社人数だけで判断しない
新卒採用では、応募者数、内定者数、入社人数に注目が集まりやすくなります。 しかし、入社後に早期離職が発生すれば、採用費用だけでなく、教育に費やした時間や現場の負担も大きくなります。 そのため、採用活動の評価には、入社後の定着と育成の状況を含める必要があります。
特に専任の教育担当者を配置しにくい中小企業では、現場の先輩社員に新人教育を任せきりにすることがあります。 教える人によって指導内容が異なったり、繁忙期には教育時間を確保できなかったりすると、新人が自分の成長を実感しにくくなる可能性があります。
また、採用時に説明した仕事内容と実際の担当業務が異なる場合、入社後の期待のずれにつながります。 仕事の難しさや繁忙期の状況も含め、採用段階で具体的な情報を伝えることが重要です。 良い面だけを強調するよりも、入社後にどのような支援を受けながら仕事を覚えるのかを示す方が、相互理解を深めやすくなります。
等級制度を新人教育に活用する
HRCでは、等級制度を昇格や賃金決定だけでなく、教育計画にも活用することを推奨します。 例えば、新人段階では指示に基づく基本業務の遂行、次の段階では担当業務の自立、その次では改善や後輩指導といった役割を設定します。
この役割の違いを具体的な業務と結び付ければ、本人は何を習得すれば成長したと認められるのかを理解しやすくなります。 上司も、単に「もっと頑張ってほしい」と伝えるのではなく、次に身に付ける技能や行動を示せます。
中小企業が取り組む3つの対策
- 入社前の期待調整:求人票、面接、内定者説明で仕事内容、配属、育成方法、評価基準を具体的に共有します。
- 入社後の教育体系化:入社1か月、3か月、6か月、1年の習得目標を設定し、担当者と確認方法を決めます。
- 早期離職の原因分析:離職者だけでなく定着している社員の声も把握し、配属、業務負荷、上司との関係、成長機会を検証します。
離職率の低下だけを目的とするのではなく、従業員が能力を発揮し、将来のキャリアを描ける組織をつくることが重要です。 本人の適性や希望による転職もあるため、すべての離職を企業側の失敗として扱わず、改善可能な要因を見極めてください。
ニュース3|男性育休は取得率から取得期間・公正な評価へ
2026年10月26日開催|労働政策審議会仕事と育児の両立支援を巡る新たな検討
10月26日、厚生労働省の第93回労働政策審議会雇用環境・均等分科会が開催され、仕事と育児の両立支援について検討が行われました。 配付資料には、男性育児休業の取得促進、くるみん等の認定基準、育児休業の取得期間に関する情報公表、短時間勤務制度等の利用者の公正な評価などが検討項目として示されています。
注目したいのは、育児休業を取得した人数や割合だけでなく、取得期間や復職後の働き方にも目を向けていることです。 取得率が上がっても、業務の引継ぎが不十分であったり、休業取得者が昇格・登用で不利益を感じたりする状況があれば、制度を安心して利用できる職場とは言えません。
資料では、くるみん等の認定基準について、男性育休取得率の基準引上げ、取得期間に関する基準の導入、中小企業特例の見直しなどが論点とされています。 また、常時雇用する労働者数1,000人超の企業について、男性育休の取得率に加え、取得期間を公表項目に追加することも検討されています。
ただし、これらは2026年10月26日時点の検討事項であり、改正法令として決定・施行されたものではありません。 現行制度では、常時雇用する労働者が300人を超える企業に、男性の育児休業等取得状況の年1回の公表義務があります。 現行の義務と将来の検討事項を混同しないことが重要です。
育休取得とキャリア形成を両立させる
中小企業では、少人数で業務を担当しているため、育児休業を取得する社員が出ると、周囲の業務負担が増える場合があります。 この問題を解決するためには、休業者本人への対応だけでなく、業務の標準化、複数担当制、代替要員の確保、管理職による仕事の再配分が必要です。
人事評価においても注意が必要です。 休業や短時間勤務によって勤務できなかった期間を、能力や意欲の低さと同一視してはいけません。 実際に担当した業務、評価対象期間、成果目標、役割責任などを適切に整理し、公正な評価を行うことが重要です。
例えば、短時間勤務者にフルタイム社員と同じ業務量をそのまま求めれば、達成が難しくなる可能性があります。 一方、短時間勤務であることだけを理由に、本人の能力に見合う仕事や成長機会を与えないことも望ましくありません。 業務量と期待成果を調整しながら、能力発揮とキャリア形成を支援する視点が必要です。
中小企業が取り組む3つの対策
- 休業取得時の業務設計:担当業務の棚卸し、引継ぎ、代替体制、管理職の調整責任を明確にします。
- 評価基準の点検:育休・短時間勤務等の利用者について、勤務実績と能力評価を適切に区別し、不利益な取扱いを防ぎます。
- 復職後の面談と配置:本人の意向、業務量、勤務条件、成長機会を確認し、定期的に見直します。
制度を利用しやすい職場づくりは、育児中の社員だけでなく、介護や治療と仕事を両立する社員にも応用できます。 働き方の違いにかかわらず、役割と成果を適切に評価できる制度が、長期的な定着につながります。
ニュース4|有効求人倍率1.19倍、採用市場をどう読むか
2026年10月30日公表|厚生労働省・総務省9月の有効求人倍率は1.19倍
厚生労働省が10月30日に公表した2026年9月分の一般職業紹介状況によると、有効求人倍率は季節調整値で1.19倍となり、前月から0.01ポイント上昇しました。 新規求人倍率は2.19倍で前月から0.13ポイント上昇し、正社員有効求人倍率は1.01倍でした。
同日に公表された総務省の労働力調査では、2026年9月の完全失業率は季節調整値で2.4%となり、前月より0.1ポイント低下しました。 就業者数は6,896万人で、前年同月より33万人増加しています。
有効求人倍率の上昇は、求人が増えたことだけを意味しません。 今回は有効求人数が前月比横ばいであった一方、有効求職者数が1.4%減少しています。 企業が採用計画を立てる際には、倍率の変化だけでなく、求人と求職の内訳を確認する必要があります。
職種・業種による採用環境の違い
9月の新規求人を前年同月と比較すると、製造業では8.2%増、情報通信業では5.9%増となった一方、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業ではそれぞれ6.3%減でした。 この数値は新規求人の前年同月比であり、各業界の採用難易度そのものを直接示すものではありません。
例えば、製造業で求人が増えているからといって、すべての製造職種で採用が難しくなったと断定することはできません。 必要な技能、勤務地、勤務形態、賃金水準によって応募状況は異なります。 同じ地域でも、未経験者向けの製造職と経験者向けの生産技術職では、採用対象者が異なるためです。
採用条件と人事制度を連動させる
中小企業が採用競争力を高めるには、賃金だけでなく、仕事内容、成長機会、働き方、評価・昇格の仕組みを具体的に伝えることが重要です。 特に中途採用では、入社時の賃金を市場水準に合わせて決める一方、既存社員との処遇差を十分に説明できないことがあります。
こうした問題を防ぐためには、職種別・等級別の役割定義を基に入社時格付けを行い、入社後の評価基準も明確にしておく必要があります。 採用時に期待する能力と、入社後に評価する能力が一致していれば、採用後の認識のずれを減らしやすくなります。
中小企業が取り組む3つの対策
- 採用市場の分析:全国平均ではなく、地域・職種別の求人条件と自社の応募実績を確認します。
- 求人票の改善:担当業務、必要能力、教育体制、評価・昇格、賃金決定の考え方を具体的に示します。
- 採用後の効果検証:応募率、選考通過率、内定承諾率、入社後の定着率を確認し、募集条件と受入体制を見直します。
採用人数だけを目標とするのではなく、必要な人材が入社し、能力を発揮し、定着するまでを採用戦略として設計することが重要です。
ニュース5|デジタル人材育成はスキルの可視化と実践へ
2026年10月20日開催|デジタル庁デジタル人材育成政策の検討会が開催
10月20日、デジタル庁の「今後のデジタル人材育成政策に関する検討会(第2回)」が開催されました。 文部科学省、厚生労働省、経済産業省・情報処理推進機構(IPA)から、デジタル人材育成に関する取組が紹介されました。
経済産業省・IPAの説明資料では、企業のDX・AX推進とデジタル人材育成を両輪で進める重要性が示されています。 デジタルスキル標準、学習コンテンツ、資格・試験、実践的な教育プログラムなどを組み合わせる考え方です。
また、スキルを可視化し、学習やキャリア形成につなげるデジタル人材スキルプラットフォームの構築も紹介されています。 ただし、検討会で紹介された今後の取組や構想について、すべてが導入済み・確定済みであると理解してはいけません。
中小企業のDXは担当者任せにしない
中小企業がデジタル化を進める際、特定の社員にシステム導入やAI活用を任せきりにすることがあります。 しかし、導入目的や業務改善の目標が明確でなければ、ツールを使うこと自体が目的になりかねません。
例えば、製造業であれば工程進捗の可視化や品質情報の分析、卸売業であれば受発注や在庫管理、医療・介護では記録や情報共有など、業種によって優先すべき課題が異なります。 まず経営課題と業務課題を明確にし、その解決に必要なスキルを整理することが重要です。
経済産業省・IPAの資料では、学習コンテンツを提供する「マナビDX」や、ケーススタディ、地域企業との協働によって実践的な課題解決を学ぶ「マナビDXクエスト」も紹介されています。 知識の習得だけでなく、現場の問題を発見し、改善策を考え、実行する能力が重視されています。
教育体系と人事評価を連動させる
デジタル人材の育成を進める際、すべての社員に同じ専門教育を実施する必要はありません。 一般社員には基本的なデジタルリテラシー、業務改善担当者にはデータ活用や課題解決、専門担当者には高度な技術知識など、役割に応じて必要な能力を整理することが有効です。
HRCでは、職種別の主要業務と等級別の役割定義を基に、必要なデジタルスキルを設定することを推奨します。 そのうえで、研修受講の有無だけでなく、学んだ知識を実際の業務改善に活用できたかを評価する仕組みを整えます。
例えば、Excelや業務システムの操作習得を新人段階の目標とし、次の段階ではデータの集計・分析、さらに上位等級では部門の業務改善や後輩への展開を求める方法が考えられます。 これにより、教育体系と評価基準がつながり、社員が学習の目的を理解しやすくなります。
中小企業が取り組む3つの対策
- 必要スキルの定義:経営課題と業務課題を整理し、職種・等級別に必要なデジタル能力を明確にします。
- 学習と実践の組合せ:研修、OJT、改善活動を連動させ、現場で使う機会を確保します。
- 成果の評価:作業時間、ミスの削減、情報共有の改善など、業務上の変化を確認します。
人材開発支援助成金等を活用する場合には、対象となる訓練、事業主、労働者、申請時期などの要件を最新の公的資料で確認してください。 検討会資料に掲載された助成率や制度の説明だけで、個別企業の受給可否が決まるものではありません。
5つのニュースに共通する中小企業の人事戦略課題
1.賃金の外部競争力と内部公平性を両立する
賃上げ率と求人市場の情報は、採用競争力を考えるうえで重要です。 しかし、外部市場の水準に合わせて新規採用者の給与を引き上げるだけでは、既存社員との均衡が崩れる可能性があります。
自社の賃金制度を点検する際には、職種別の市場水準と、等級・能力・役割・成果による社内の処遇差を両方確認する必要があります。 どちらか一方だけを重視すると、採用または定着のどちらかに課題が残りやすくなります。
2.定着対策を教育と評価の仕組みに組み込む
新卒3年以内離職率の結果からは、入社後の定着支援が引き続き重要であることが分かります。 そのためには、職場の雰囲気を改善するだけでなく、何を習得すれば次の役割へ進めるのかを示す必要があります。
等級定義、職種別主要業務、評価基準、教育計画を連動させれば、本人と上司が成長目標を共有しやすくなります。 評価面談を過去の成果判定だけで終わらせず、次期の育成目標を確認する機会として活用することが重要です。
3.多様な働き方でも能力を発揮できる制度を整える
育児休業に関する審議では、取得率だけでなく取得期間や公正な評価・登用が論点となっています。 働き方が異なる社員について、業務量、期待成果、評価対象期間を適切に整理することは、今後の人材活用において重要な視点です。
ただし、制度利用者への配慮を管理職の個人的な努力だけに委ねるべきではありません。 会社として、代替体制、業務の標準化、柔軟な配置、情報共有の仕組みを整えることが必要です。
4.人材育成を経営課題の解決に結び付ける
デジタル人材育成の動向は、研修を実施すること自体ではなく、必要なスキルを明確にして業務改善へ結び付ける重要性を示しています。 研修受講人数や資格取得者数だけを成果指標にすると、実際の生産性向上との関係が見えにくくなります。
経営方針から必要な人材像を設定し、職種・等級別の能力要件を定め、教育と評価で確認することが有効です。 これはデジタル分野に限らず、製造技能、施工管理、営業、医療・介護、管理事務などにも共通する考え方です。
経営者・人事担当者向け|優先順位付き実務チェックリスト
| 優先度 | 確認・対応内容 | 担当例 | 時期の目安 |
|---|---|---|---|
| 高 | 等級・職種別の賃金分布と採用時賃金を分析 | 経営・人事 | 11月中 |
| 高 | 新卒・若手社員の定着状況と教育体制を確認 | 人事・部門長 | 11月中 |
| 高 | 現行の育児・介護休業制度と運用状況を点検 | 人事・総務 | 11月中 |
| 中 | 求人条件と入社時格付け基準を見直す | 採用・人事 | 次回募集前 |
| 中 | 職種・等級別のデジタルスキルを整理 | 部門長・教育担当 | 次期教育計画策定時 |
| 中 | 評価項目と教育・昇格基準の整合性を確認 | 経営・人事 | 次期評価制度改定時 |
上記はHRCが推奨する実施時期の例であり、法定期限ではありません。 まずは現行法令への対応状況を確認し、そのうえで経営課題に応じた改善の優先順位を決めてください。
実行管理では、対応項目ごとに担当者、必要資料、判断期限、従業員への説明方法、完了条件を設定することが重要です。 規程や評価シートを変更するだけでなく、管理職が新しいルールを理解し、実際の面談や給与決定で活用できているかまで確認します。
FAQ|2026年10月後半の人事ニュースに関するよくある質問
Q1.賃金改定率4.4%は、中小企業も必ず実施すべき水準ですか?
いいえ。4.4%は厚生労働省の調査結果であり、すべての企業に適用される法的な昇給基準ではありません。 調査対象は常用労働者100人以上の会社組織の民営企業です。 自社の賃金改定では、最低賃金等の法令を遵守したうえで、業績、地域・職種の市場水準、人件費原資、既存社員との均衡を踏まえて判断します。
Q2.新卒3年以内離職率31.2%は、すべての企業に共通する数値ですか?
いいえ。31.2%は2023年3月卒の新規大卒就職者について、就職後3年以内の離職状況を集計した結果です。 事業所規模や業種によって数値は異なります。 自社の改善には、入社年度別の離職率、離職時期、職種、配属、教育状況などを分析することが重要です。
Q3.男性育休の取得期間の公表は、すでに義務化されていますか?
2026年10月26日の審議会資料に示された取得期間の公表項目追加は検討段階です。 現行制度では、常時雇用する労働者が300人を超える企業に、男性の育児休業等取得状況の年1回の公表義務があります。 今後の制度変更については、正式な法令改正や行政発表を確認してください。
Q4.有効求人倍率が上がったら、すべての職種で採用が難しくなりますか?
そのようには判断できません。 有効求人倍率はハローワークで取り扱う求人と求職の関係を示す指標であり、地域・職種・雇用形態によって状況が異なります。 自社の採用活動では、募集職種に近い市場情報と、応募数、内定承諾率、採用後の定着率を合わせて確認することが有効です。
Q5.デジタル人材育成では、全社員に同じ研修を受けさせるべきですか?
必ずしも同じ研修が適切とは限りません。 一般社員、業務改善担当者、専門担当者、管理職では必要な能力が異なります。 職種・等級別の役割に応じてスキルを定義し、研修と実務経験を組み合わせ、業務改善への活用状況を評価することが重要です。
関連用語集|今回のニュースを理解するための8つのキーワード
- 1.賃金改定率
- 企業が従業員の賃金を改定した際の増減率を示す指標です。 厚生労働省の賃金引上げ等の実態に関する調査では、所定内賃金を基に1人平均の改定額と改定率を集計しています。 定期昇給やベースアップなどを含むため、個別企業の基本給引上げ率や春季労使交渉の回答率と必ずしも一致しません。 比較する際は対象企業、賃金の定義、予定を含むかどうかを確認する必要があります。
- 2.ベースアップ
- 賃金表や基本給の水準そのものを引き上げることを指します。 勤続や年齢、評価などに応じて既存の賃金表に沿って昇給する定期昇給とは区別されます。 ベースアップを行うと、今後の昇給や賞与、人件費に継続的な影響が生じる場合があります。 そのため、単年度の原資だけでなく、中期的な人件費と賃金カーブへの影響を確認することが重要です。
- 3.新規学卒就職者の3年以内離職率
- 学校を卒業して就職した人のうち、就職後3年以内に最初の勤務先を離れた人の割合を示します。 厚生労働省は雇用保険関係の届出等を基に集計しています。 事業所規模や産業別の違いを確認できますが、離職の理由や転職後の状況まで直接示すものではありません。 企業では自社の入社年度別の離職状況と比較し、採用時の説明、教育、配属、職場環境の改善に活用します。
- 4.オンボーディング
- 新入社員や中途採用者が組織に適応し、必要な知識や技能を身に付け、能力を発揮できるように支援する取組です。 入社時の手続きや集合研修だけでなく、職場でのOJT、上司との面談、仕事の期待値の共有、社内の人間関係づくりなどを含みます。 入社後の一定期間に計画的に実施し、本人の習熟状況と課題を確認することで、早期の戦力化と定着を支援します。
- 5.育児休業取得率
- 一定期間に育児休業等を取得した労働者の割合を示す指標です。 集計対象、分母・分子の定義、対象年度によって数値が異なるため、比較する際には算出方法の確認が必要です。 企業の公表制度では、法令に定められた方法に沿って取得状況を算出します。 取得率だけでは休業期間や復職後の働き方までは分からないため、制度の利用しやすさを確認するには複数の指標が必要です。
- 6.有効求人倍率
- 有効求人数を有効求職者数で割って求める指標です。 1倍を上回る場合は、ハローワークで取り扱う求職者数より求人数が多い状態を示します。 求人の増減だけでなく求職者の増減によっても変化するため、倍率だけで採用市場の状況を判断することは適切ではありません。 地域、職種、雇用形態、募集条件などの違いを踏まえ、自社の採用実績と併せて活用することが重要です。
- 7.デジタルスキル標準
- デジタル技術を活用するために必要な知識や能力を整理した指針です。 一般的なビジネスパーソンに必要なリテラシーから、DXを推進する人材に求められる専門的な能力まで、役割に応じた学習や人材育成に活用できます。 企業では自社の業務内容と照合し、職種・等級別の能力要件、研修計画、評価基準を具体化する際の参考とすることが有効です。
- 8.リスキリング
- 事業環境や技術の変化に対応するため、新しい職務や業務に必要な知識・技能を習得することです。 単に研修を受講することではなく、習得した能力を仕事に活用し、業務改善や新しい役割への対応につなげることが重要です。 企業が取り組む場合には、経営戦略から必要な能力を明確にし、教育機会、実践の場、評価・配置、処遇を連動させることで、継続的な人材育成の仕組みを構築できます。
まとめ|賃上げ・採用・定着・育成を一体的に見直す
2026年10月後半のニュースでは、賃金改定率4.4%という結果に加え、新卒社員の早期離職、育児と仕事の両立、採用市場、デジタル人材育成に関する重要な情報が示されました。 いずれも中小企業の人材確保と組織運営に関係する課題です。
賃金水準を引き上げることは、採用競争力や従業員の生活を支えるうえで重要です。 しかし、それだけで人材が定着するとは限りません。 仕事の内容や期待される役割、能力を高める機会、評価と処遇の関係が明確であることも必要です。
また、育児などの事情に応じて働き方が変わっても、公正に評価され、能力を発揮できる環境づくりが求められます。 デジタル化についても、特定の担当者だけの課題にせず、組織全体の業務改善と人材育成の一部として位置付けることが重要です。
HRCでは、経営戦略と人事戦略を連動させ、等級・評価・賃金・教育・採用・定着を一体的に考えることを推奨しています。 制度を作ること自体を目的とせず、現場で運用し、成果を確認しながら改善することが、持続的な企業成長につながります。
人事制度の検討に役立つHRCの関連情報
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- 評定会議への同席・アドバイス: 評価のブレをプロの目線で補正します。
- 昇給・賞与検討用資料の作成支援: 経営を圧迫しない適正な配分をアドバイスします。
- 制度メンテナンス・微修正: 運用で見えた課題を随時調整します。
※上記を超える実務作業(評価シートの全面改訂、新たな研修の企画・代行登壇など)が発生する場合は、必ず事前にお見積りをご提示し、ご納得いただいた上での対応となります。
制度設計サポート(はじめての人事制度)
社員数50名以下の中小企業様へ。本サービスでは、評価制度と賃金制度をトータルで設計し、一貫性のある「はじめての人事制度づくり」を支援します。何をどうすれば評価され、処遇に反映されるのかが一目瞭然となる、シンプルで分かりやすい仕組みを構築。採用に強い賃金表や、社員の強みを活かすキャリアコースの設計を通じ、人材の定着と育成を後押しします。
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制度運用サポート(はじめての人事制度)
「制度を作ったものの、正しく運用できるか不安…」そんなお悩みを解決します。本サービスでは、評価のバラつきを防ぎ、部下の育成につなげる「評価者研修」と、評価集計から昇給・賞与の資料作成までを丸ごと任せられる「運用アウトソーシング」の2本柱で手厚くサポート。人事担当者の負担を大幅に削減しながら、納得感の高い制度の定着を実現します。
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【業種別】コンサルティング事例一覧
「同業他社はどのような人事・評価制度を導入しているのか?」そんな経営者様の疑問にお答えします。本ページでは、製造業から医療機関、小売・サービス業、IT企業まで、各業界特有の課題を解決したコンサルティング事例を公開。企業規模や実情に合わせた最適な等級・評価・賃金制度の設計と、定着までのリアルな成功ストーリーをご紹介します。
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