保育園の指導監査で指摘されやすい「人事・労務」の不備とは?規定整備で防ぐトラブル対策

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    「うちは家族的な経営だから、労務トラブルなんて起きない」
    「長年このやり方でやってきたから、監査も大丈夫だろう」

    もし、理事長先生や園長先生が心のどこかでそう思われているとしたら、黄色信号、いえ赤信号が灯っているかもしれません。
    ここ数年、保育業界を取り巻く労務環境は激変しました。働き方改革関連法の施行、処遇改善等加算の複雑化、そして何より、働く職員の「権利意識」の変化。これらに対応できていない園は、行政による指導監査で手痛い指摘を受けるだけでなく、未払い残業代請求や不当解雇訴訟といった、経営を揺るがすトラブルに巻き込まれるリスクが高まっています。

    「子供たちのために」という想いで運営していても、法律は待ってくれません。
    本記事では、数多くの保育園の労務監査や制度再構築に携わってきた専門家の視点から、指導監査で指摘されやすい具体的な不備事例と、それらを防ぐための「守りの人事制度」構築について詳しく解説します。

    目次

    保育園経営における「労務リスク」の高まり

    働き方改革関連法の適用と行政監査の厳格化

    かつて保育業界では、「サービス残業は当たり前」「持ち帰り仕事は熱意の証」といった風潮が少なからず存在しました。しかし、2019年から順次施行された「働き方改革関連法」により、その常識は完全に過去のものとなりました。
    時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、同一労働同一賃金。これらの法改正は、一般企業だけでなく、もちろん保育園にも厳格に適用されます。

    これに伴い、自治体による指導監査の目も厳しくなっています。
    以前の監査は、定員や保育士配置基準といった「保育の質・安全」に関わる部分が中心でした。しかし近年は、「労働関係法令が遵守されているか」「処遇改善加算が適切に賃金に反映されているか」という「ヒト・カネ」の部分が重点的にチェックされる傾向にあります。
    監査担当者は、タイムカード、賃金台帳、就業規則、雇用契約書を突き合わせ、矛盾があれば容赦なく指摘します。場合によっては、過去に遡っての是正勧告や、加算の返還命令が出されるケースも増えているのです。

    「性善説」の経営が通用しなくなっている現実

    法律以上に怖いのが、職員とのトラブルです。
    SNSやインターネットで誰もが簡単に労働法の知識を得られる現代において、「園長先生が良い人だから」という理由だけで、劣悪な労働条件を我慢してくれる職員はいません。

    • 退職した職員が、弁護士やユニオン(労働組合)を通じて、過去2年分(法改正により当面3年分)の未払い残業代を請求してくる。
    • 問題行動のある職員を注意したら「パワハラだ」と訴えられる。

    こうした事例は、決して対岸の火事ではありません。信頼関係を築いているつもりでも、労務管理の不備(=隙)があれば、そこを突かれるリスクは常に存在します。
    経営を守るためには、性善説ではなく「性弱説」に立ち、誰が見ても文句のつけようがないルール(規程)を整備しておく必要があります。

    指導監査で狙われる!よくある指摘事項・トラブル事例3選

    では、具体的にどのような点が監査で指摘されやすく、労務トラブルの火種となるのでしょうか。保育園特有の事情を踏まえた、代表的な3つの事例を紹介します。

    【事例1】固定残業代(手当)の運用ミスと未払いリスク

    金額と時間の明示だけでは不十分

    「残業代の計算が面倒だから」あるいは「処遇改善手当の中に残業代も含めているつもりだから」として、固定残業代(みなし残業)を導入している園は少なくありません。
    しかし、この運用には極めて高いリスクが潜んでいます。

    よくある間違いが、給与規定や雇用契約書に「手当:3万円(残業代含む)」としか記載していないケースです。これでは固定残業代として認められません。法的に有効とするためには、以下の要件を満たす必要があります。

    1. 通常の賃金部分と残業代部分が明確に区分されていること。
    2. その金額が「何時間分の残業代」に相当するのか明示されていること。
    3. 設定した時間を超えて残業した場合は、差額を追加支給する規定があること。

    もし、「処遇改善手当に残業代も含んでいる」と口頭で説明していても、規定に明記されていなければ、処遇改善手当は「基礎賃金」とみなされます。その結果、残業代は1円も支払われていないことになり、未払い残業代に加えて、基礎賃金が上がったことによる割増賃金の再計算まで求められるという、二重の支払いを命じられる可能性があります。
    「うちは手当を出しているから大丈夫」という思い込みが、数百万円規模の支払い命令につながるのです。

    【事例2】変形労働時間制とシフト管理の不整合

    「1ヶ月単位」の変形労働制、正しく運用できていますか?

    早番、遅番、土曜保育などがある保育園では、通常の「1日8時間・週40時間」の労働時間管理が難しいため、「1ヶ月単位の変形労働時間制」を採用するのが一般的です。
    これにより、特定の週が40時間を超えても、月全体で平均して週40時間以内なら残業代が発生しない運用が可能になります。

    しかし、監査ではここが狙われます。
    変形労働時間制を適用するには、単に就業規則に書くだけでは足りません。
    「事前にシフト(勤務割)を作成し、周知すること」が絶対条件です。

    よくある指摘事例:

    • シフトの作成が遅い: 月が始まってからシフトを組んでいる。
    • 勝手な変更: 園側の都合で、前日に急にシフトを変更している。
    • 36協定の不備: 変形期間の上限時間を超える残業をさせているのに、特別条項付きの36協定を締結していない。

    これらが発覚すると、変形労働時間制自体が無効と判断される場合があります。そうなると、1日8時間を超えたすべての時間が「残業」扱いとなり、莫大な未払い賃金が発生します。
    シフト作成は単なる予定表作りではありません。法的な効力を持つ「労働契約の特定」作業であることを認識しなければなりません。

    【事例3】就業規則と実態の乖離(古い規定の放置)

    「休憩時間」が取れていないという致命的な不備

    「就業規則は10年前に社労士さんに作ってもらったまま、金庫に入っています」
    このような園は非常に危険です。法改正に対応できていないだけでなく、実態と乖離している記述がトラブルの元凶になります。

    特に深刻なのが「休憩時間」の問題です。
    就業規則には「休憩60分」と書いてあるのに、実際は午睡(お昼寝)の見守りをしながら連絡帳を書いている。これは労働基準法上の「休憩」ではなく「手待時間(労働時間)」とみなされます。
    監査や裁判では、「労働から完全に解放されているか」が問われます。
    「子供が起きたら対応しなければならない状態」は休憩ではありません。

    この実態に対し、監査では「休憩を与えていない=違法」と指摘されますし、職員からは「休憩中の賃金が未払いである」と請求されるリスクがあります。
    休憩を別室で交代で取る運用に変えるか、それが無理なら休憩が取れない分を「残業」として計上し賃金を支払うか。実態に即した規定への書き換えが急務です。

    単なる評価ではない!人事評価制度が「身を守る」ツールになる理由

    ここまで労務リスクの話をしてきましたが、実は「人事評価制度」を整備することが、これらのリスクを防ぐ最強のツールになります。
    人事評価制度は、単に「ボーナスを決めるためのもの」ではありません。それは「園と職員との約束事(契約)」を明確にし、トラブルを未然に防ぐ防波堤としての機能を持っています。

    労働条件の明示と合意形成のプロセスとして機能する

    労務トラブルの多くは、「言った・言わない」の認識のズレから生じます。
    「こんなに働かされるとは聞いていない」「手当の条件が違う」
    こうした不満は、入職時や昇進時の条件提示が曖昧だから発生します。

    人事評価制度(等級制度)があれば、「どの等級の職員には、どのような役割(責任)があり、いくらの賃金(基本給・手当)が支払われるか」が一覧化されています。
    例えば、「リーダー等級には固定残業代〇〇円が含まれ、その対価としてシフト作成業務と若手指導を行う責任がある」と定義されていれば、職員は自分の責任と報酬の関係を納得して業務にあたることができます。
    定期的な評価面談を通じて、この「契約内容の確認」を繰り返すことで、認識のズレを最小限に抑えることができるのです。

    問題社員への指導記録としての評価シートの役割

    解雇トラブルにおける「正当性」の証明

    経営者として最も頭を悩ませるのが、遅刻を繰り返す、子供に不適切な関わりをする、協調性がないといった「問題社員」への対応です。
    改善が見込めない場合、最終的には退職勧奨や解雇を検討することになりますが、日本の法律では解雇のハードルは極めて高く設定されています。
    もし、いきなり解雇を通告すれば、「不当解雇」として訴えられ、園側が負ける(多額の解決金を支払う)可能性が非常に高いのが現実です。

    ここで身を守ってくれるのが、過去の「評価シート」と「面談記録」です。

    • 「〇年〇月の面談で、遅刻について注意し、改善目標を設定した」
    • 「半年後の評価で改善が見られず、再度具体的な指導を行い、本人も署名した」
    • 「それでも改善されなかったため、降格処分を行った」

    このように、段階を踏んで指導・教育を行ったという客観的な記録(証拠)が残っていれば、園側の処分の「正当性」を主張できます。
    人事評価制度を運用することは、職員を育てるだけでなく、万が一の時に園を守るための「指導履歴の蓄積」でもあるのです。

    なぜ、顧問社労士や人事コンサルタントが必要なのか

    「就業規則くらい、ネットのひな形で作れるだろう」
    そう思われるかもしれません。しかし、保育業界特有の複雑な加算制度やシフト制勤務を考慮した規定は、一般的なひな形では対応しきれません。
    労務管理をプロに任せるべき理由は明確です。

    頻繁な法改正への追従とリスクの先回り

    労働法制は毎年のように変わります。育児介護休業法の改正、社会保険の適用拡大、ハラスメント防止法の強化…。これらを園長先生一人が追いかけ、就業規則をアップデートし続けるのは不可能です。
    保育のプロである園長先生は、保育と園運営に集中すべきです。
    法律のプロである社労士や人事コンサルタントを入れることで、「気づかないうちに法違反をしていた」という事態を防げます。
    我々は、法改正の情報をいち早くキャッチし、「来年の4月からこの規定を変えないとリスクがありますよ」と先回りして提案します。

    「第三者視点」が職員の納得感を生む

    また、外部の専門家が入ることは、職員に対する説明責任を果たす上でも有効です。
    園長先生が直接「来月から給与体系を変える」と言うと、職員は「園長先生が人件費を削ろうとしているのではないか」と警戒しがちです。

    そこで、我々のような第三者が間に入り、「法律が変わり、このままだと皆さんが損をしてしまう可能性があるため、このように制度を整えましょう」と説明することで、職員は冷静に受け止めてくれます。
    「専門家が監修した適正なルールである」という事実は、職員に安心感を与え、不要な労使対立を防ぐ緩衝材となるのです。

    まとめ:労務リスクをゼロにするために今すぐできること

    保育園における労務トラブルは、起きてから対処するのでは遅すぎます。
    数百万の未払い賃金、行政からの勧告、そして職員の離反。これらは一度起きれば、園の社会的信用と財政基盤を一瞬で崩壊させかねません。

    しかし、恐れる必要はありません。
    実態に即した就業規則を整備し、公平な人事評価制度を運用することで、これらのリスクは限りなくゼロに近づけることができます。
    人事制度の構築は、単なる「事務作業」ではなく、園と職員、そして子供たちの未来を守るための「危機管理(リスクマネジメント)」そのものです。

    「うちの就業規則、もう何年も見直していない…」
    「固定残業代の計算、本当に合っているか不安になってきた」
    「問題のある職員への対応で困っている」

    少しでも不安を感じられたなら、まずは専門家の診断を受けてみることをお勧めします。
    株式会社ヒューマンリソースコンサルタント(HRC)では、保育業界に特化した人事・労務のプロフェッショナルが、貴園の規程や運用実態をチェックし、監査に耐えうる盤石な体制づくりをサポートします。

    制度の不備が見つかることは、恥ずかしいことではありません。見ないふりをして放置することこそが、最大のリスクです。
    貴園が安心して保育に専念できる環境を整えるために、私たちが全力で伴走いたします。

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