コラム:中小企業向け賃金動向・春闘・初任給レポート
「今年のベースアップはどうすべきか」「採用競争に勝つための初任給はいくらが妥当か」など、経営者や人事担当者が直面する給与設定の悩みをデータに基づき紐解きます。本連載コラムでは、最新の賃金動向や春闘の結果、初任給の相場について、中小企業向けに分かりやすく解説します。自社の賃金水準の見直しや採用戦略の立案にぜひお役立てください。
コラムを読む2026年度の最低賃金引き上げに、中小企業はどう賃金制度を見直すべき?
この記事でわかること
- 2026年度の最低賃金引き上げの見通しと、政府目標(全国平均1,500円)の背景
- 月給制・年俸制でも必要な「時給換算チェック」の考え方
- 賃金テーブル・等級制度を見直す具体的な4ステップ
- 就業規則の改定手続きと、活用できる助成金・支援制度
結論:2026年度も大幅引き上げが確実視されており、「今年いくら上がるか」ではなく「数年後にいくらになるか」を前提に賃金制度全体を組み替える必要があります
2025年度(令和7年度)の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,121円となり、前年から66円(引き上げ率6.3%)という、目安制度が始まった1978年度以降で最大の引き上げ幅を記録しました。政府は「2020年代に全国平均1,500円」という目標を掲げており、2026年度も年70〜100円規模の引き上げが続くと見込まれています。中央最低賃金審議会は2026年2月から2026年度改定の議論を開始しており、正式な目安額は例年どおり7月頃に示され、10月前後に発効する見通しです。
中小企業にとって重要なのは、「今年の引き上げ額にいくら対応するか」という単年度の発想ではなく、「数年後に全国平均1,500円へ到達する」という前提で、賃金体系そのものを設計し直すことです。特に、最低賃金が上昇し続けると、初任給と中堅社員の賃金差が縮小する「賃金の逆転・圧縮現象」が起こりやすく、放置すると若手の不満やベテラン社員のモチベーション低下を招きます。
なぜ今、対応を急ぐべきなのか
最低賃金の引き上げペースが「毎年ちょっとずつ」ではなくなっている
2020年からの5年間で最低賃金は902円から1,121円へと219円(24.3%)上昇しました。今後は政府目標の達成に向けてさらにペースが上がる可能性が高く、仮に2029年に全国平均1,500円が実現すると、フルタイム正社員の月給換算で24万円が最低賃金ラインとなります。現在の初任給が23万円前後の企業では、大卒初任給を28万〜30万円まで引き上げる必要が生じる計算です。
月給制・年俸制でも「時給換算」でのチェックが必須
最低賃金は時給労働者だけの問題ではありません。月給制の社員であっても、月給を月平均所定労働時間で割った「時給換算額」が最低賃金を下回っていないかを毎年確認する必要があります。基本給に加えて、精皆勤手当や通勤手当、家族手当など最低賃金の算定に含まれない手当を除いた「最低賃金の対象となる賃金」で計算することが法律上のルールです。
「価格転嫁」とセットで検討しないと経営が持たない
人件費の高騰を理由とした倒産(いわゆる人件費倒産)は増加傾向にあります。賃上げをコスト増だけで終わらせず、業務効率化(DX化)と価格転嫁(取引価格への反映)をセットで経営陣と協議することが、中小企業庁や公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」でも求められています。
実務対応ステップ
ステップ1:自社の賃金を時給換算し、最低賃金との差額(余力)を可視化する
全従業員(パート・アルバイトを含む)の時給換算額を一覧化し、現行の最低賃金・想定される2026年度の最低賃金それぞれとの差額を計算します。差額が小さい従業員から優先的に対応が必要になります。
ステップ2:賃金テーブル・等級制度全体を「最低賃金からの逆算」で設計し直す
初任給や下位等級の賃金を最低賃金の上昇カーブに合わせて引き上げると同時に、中堅・上位等級の賃金も一定の差額(賃金メリハリ)を維持できるよう、等級間の号俸ピッチを見直します。ここで重要なのは、下位等級だけを上げて上位等級を据え置くと、等級間の賃金差がなくなり「昇格するメリットがない」という不満が生じる点です。
ステップ3:助成金・支援制度を活用する
業務改善助成金(生産性向上のための設備投資等と賃金引き上げをセットで行う場合に活用可能)、働き方改革推進支援センターの無料相談、セーフティネット貸付など、中小企業向けの公的支援を組み合わせて資金負担を軽減します。
ステップ4:就業規則・給与規程の改定と周知
賃金テーブルを変更する場合は、就業規則(給与規程)の変更手続きが必要です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、変更後の就業規則を労働基準監督署へ届け出る義務があります。不利益変更に該当する内容(諸手当の減額等とのセット改定など)が含まれる場合は、合理性の確保と従業員への丁寧な説明が不可欠です。
注意点・リスク
- 最低賃金未満は「未払い賃金」として是正勧告・遡及支払いの対象になります。発効日を勘違いして対応が遅れるケースが多いため、都道府県ごとの発効日を必ず確認してください(2025年度は発効日が2025年10月〜2026年3月末までばらつきました)。
- 社会保険料率も連動して増加します。賃上げは標準報酬月額の上昇を通じて社会保険料の会社負担も増加させるため、資金繰りへの影響を年間ベースで試算しておく必要があります。
- 地域間格差の是正が進んでいる分、複数都道府県に拠点がある企業は都道府県ごとの管理が煩雑になります。給与計算システム側での自動チェック体制の整備をおすすめします。
中小企業ならではの工夫
賃上げの原資を確保できない場合でも、基本給の一律引き上げだけが選択肢ではありません。賞与への配分見直し、食事補助など非課税枠を活用した福利厚生の拡充、業務プロセスの見直しによる残業削減など、「実質的な手取り増」につながる複数の手段を組み合わせることで、資金負担を平準化できます。
まとめ
2026年度以降も最低賃金の大幅な引き上げは避けられない見通しです。単年度の対応に追われるのではなく、数年先を見据えた賃金テーブルの再設計、助成金の活用、就業規則の適正な改定手続きをセットで進めることが、中小企業が人材を確保しながら経営を安定させる鍵になります。制度改定にあたっては、社会保険労務士や弁護士などの外部専門家と連携しながら進めることをおすすめします。
よくある質問
Q. 2026年度の最低賃金は全国でいくらになりますか?
A. 2026年6月時点では正式決定していません。中央最低賃金審議会での議論を経て、目安額は例年どおり2026年7月頃に示され、都道府県ごとの実際の金額は地方最低賃金審議会の答申を経て決定されます。政府は「2020年代に全国平均1,500円」を目標としており、2025年度実績(全国加重平均1,121円)からさらに大きな引き上げが見込まれます。最新の金額は厚生労働省の発表を必ずご確認ください。
Q. 月給制の社員は最低賃金の影響を受けませんか?
A. 影響を受けます。月給を月平均所定労働時間で割った時給換算額が最低賃金を下回っていないか、毎年確認する必要があります。家族手当や通勤手当など一部の手当は最低賃金の算定対象から除外されるため、正しい対象賃金で計算することが重要です。
Q. 賃金テーブルを見直す際に使える公的支援はありますか?
A. 生産性向上の取り組みと賃金引き上げをセットで行う場合に活用できる業務改善助成金のほか、働き方改革推進支援センターの無料相談、日本政策金融公庫等のセーフティネット貸付などが利用できる場合があります。要件は年度によって変更されるため、最新の公募要領をご確認ください。
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