多店舗展開の壁「30店舗・50店舗」を突破するSVの役割と評価制度|小売業の人事戦略

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    「5店舗までは私の目が行き届いていた。10店舗までは気合でなんとかなった。しかし、20店舗を超えたあたりから、何かがおかしくなり始めた」

    順調に店舗数を拡大してきた経営者様から、このようなご相談をいただくタイミングには明確な法則があります。それが、小売・サービス業界で古くから言われる「30店舗の壁」、そして「50店舗の壁」です。

    店舗数が増えれば、売上の絶対額は伸びます。しかし、ある分岐点を超えた瞬間、利益率が急激に悪化し、現場の疲弊感がピークに達し、離職が止まらなくなる。まるで成長そのものが組織を破壊しているかのような現象が起きます。

    この「成長の壁」を突破できる企業と、ここで踊り場を迎えてしまう(あるいは衰退する)企業の違いはどこにあるのでしょうか。

    答えは明確です。それは「社長の分身」を作ろうとするのをやめ、「仕組みで回す組織」へと脱皮できたかどうか。そして、その鍵を握るのが、現場と経営をつなぐ結節点である「スーパーバイザー(SV)」や「エリアマネージャー」の機能不全を解消することにあります。

    本コラムでは、多店舗展開を目指す企業が必ず直面する「SVの役割定義」と「評価制度」の在り方について、成長痛を乗り越えるための具体的な設計図を提示します。

    目次

    名ばかり管理職になっていないか? SVの正しい役割定義

    30店舗の壁にぶつかる企業の共通点。それは、SV(スーパーバイザー)やエリアマネージャーという役職者が、「名ばかり管理職」になっていることです。

    彼らは決して能力が低いわけではありません。多くの場合、社内で最も優秀な店長だった人材が抜擢されます。しかし、彼らは「何をするのが仕事か」を正しく定義されないまま辞令を受け、結果として「高給取りの便利屋」になってしまっています。

    「御用聞き」と「穴埋め要員」からの脱却

    機能していないSVの典型的な行動パターンは2つあります。

    一つは「伝書鳩(メッセンジャー)」です。
    本部の指示を店舗に伝え、店舗の不満を本部に持ち帰る。単なる情報のパイプ役になってしまっている状態です。これでは付加価値はゼロであり、チャットツールやグループウェアがあれば彼らの存在意義はありません。

    もう一つ、より深刻なのが「欠員穴埋め要員」です。
    「A店でスタッフがインフルエンザで全滅しました」「B店の店長が飛んでしまいました」
    こうしたSOSが入るたび、SVが自ら店舗に入り、レジを打ち、品出しをする。優秀な元店長ですから、現場に入れば誰よりも戦力になります。店長たちは喜び、頼りにするでしょう。

    しかし、SVが現場作業に埋没している間、本来やるべき「エリア全体の数値分析」や「店長教育」はすべてストップします。SVがプレイヤーとして動けば動くほど、組織全体のマネジメント機能は麻痺し、問題の根本解決が先送りされます。これは、経営者にとって最も投資対効果の悪い人件費の使い方です。

    SVのミッションは「再現性」の担保にある

    では、SVの本来の役割とは何か。
    それは「標準化(Standardization)」と「再現性」の担保です。

    社長が一人で見ていた頃は、社長の感性やカリスマ性で店舗のクオリティが保たれていました。しかし、50店舗になれば、社長のカリスマ性は末端まで届きません。
    どの店舗に行っても、誰が店長であっても、一定以上のQSC(品質・サービス・清潔さ)が保たれ、本部が決定した戦略が寸分違わず実行される状態を作る。これがチェーンストア経営の根幹であり、SVの唯一のミッションです。

    SVは「店長の上位互換」ではありません。「経営の代行者」です。
    「いい店を作る」のが店長の仕事なら、「いい店長を育てる」のがSVの仕事。「売上を上げる」のが店長の仕事なら、「売上が上がる仕組みが回っているか監査する」のがSVの仕事。この視点の切り替え(パラダイムシフト)を、評価制度を通じて強制的に行わせる必要があります。

    数値責任とプロセス責任のバランス設計

    役割定義を明確にするためには、彼らが負うべき「責任(Accountability)」を再定義します。

    • 数値責任(Result):
      担当エリアの予算達成率、昨対売上高、人件費率、営業利益額。これは当然の指標です。
    • プロセス責任(Action):
      ここが重要です。数値結果だけでなく、そこに至るプロセスをどう管理したか。「店舗巡回数」といった単純な指標ではなく、「店長との面談実施率」「重点商品の展開率100%達成」「QSC監査の平均点数向上」など、本部が決めた戦略を徹底させたかどうかを評価します。
    • 人材育成責任(Development):
      「担当エリアから何人の次期店長候補を輩出したか」「店長の昇格試験合格率」など、人を育てた実績を数値化して責任を持たせます。

    これらの責任を明文化し、辞令交付のタイミングで「君の仕事はレジに入ることではない。レジに入らなくても回る店を作ることだ」と、経営者自身の口から繰り返し伝えることがスタートラインとなります。

    店舗間格差をなくす評価の仕組み(横串を通す)

    多店舗展開が進むと、どうしても店舗ごとの「格差」が広がります。
    「駅前のA店は黙っていても売れるが、ロードサイドのB店は集客に苦戦している」
    「C店長はベテランで安心だが、D店長は新任でミスが多い」

    このような条件下で、SVや店長を公平に評価することは至難の業です。結果(売上)だけで評価すれば、条件の悪い店舗を担当した社員は腐り、条件の良い店舗の社員は慢心します。
    この不公平感が、組織の遠心力となり、優秀な人材から順に流出していきます。

    コンピテンシー(行動特性)による「横串」の導入

    条件の異なる店舗を公平に評価するためには、売上という「結果」の手前にある「行動(コンピテンシー)」に共通のモノサシ(横串)を通す必要があります。

    立地が悪くても、競合が強くても、「やるべきこと」は変わりません。

    • クリンリネスは徹底されているか。
    • スタッフへの挨拶指導はできているか。
    • 本部推奨のキャンペーンポスターは正しい位置に掲示されているか。
    • 在庫の適正管理(発注精度)は保たれているか。

    これらは、環境に依存せず、店長とSVの努力だけで100点を取れる項目です。
    評価制度の中に、こうした「店舗運営基準書(オペレーション・マニュアル)」に基づいたチェックリスト(店舗監査点数)を大幅に組み込みます。

    例えば、評価ウェイトの50%を「予算達成率」にし、残りの50%を「店舗監査点数」にします。こうすれば、売上が厳しい店舗でも、運営レベルが高ければ一定の評価が得られ、モチベーションを維持できます。逆に、売上が良くても店が汚い(運営レベルが低い)場合は評価が下がり、「売れているからいいだろう」という慢心を防ぐことができます。

    エリア特性(個店事情)をどう評価で調整するか

    とはいえ、数値目標に対する納得感も必要です。ここでSVの手腕が問われます。
    本部が一律に「全店昨対105%」という目標を降ろすのは、マネジメントの放棄です。

    SVの重要な役割は、担当する各店舗の商圏分析を行い、現実的かつ挑戦的な目標(Budget)を店長と握ることです。
    「君の店は近くに大型競合店ができたから、売上維持(100%)でもS評価に値する」
    「この店は改装したばかりだから、110%を目指さないと投資回収できない」

    このように、個店事情を加味した目標設定(ハンディキャップ設定)を行い、その設定根拠を本部人事とすり合わせる。この「調整力」こそを、SVの評価項目に含めるべきです。
    店長は「SVは自分の店の事情を分かってくれている」と感じて初めて、信頼を寄せます。画一的な数字の押し付けではなく、納得解を導き出すプロセスを評価制度に組み込むことで、組織の一体感は保たれます。

    ブラックボックス化を防ぐ「多面評価」の導入

    SVが特定の店長と癒着する、あるいは特定の店長を嫌って不当に評価を下げる。こうした「SVの王国化」も、多店舗展開のリスクです。社長の目が届かないエリアで、SVが独裁者になってしまうのです。

    これを防ぐためには、評価の視点を複数確保する「多面評価」が有効です。

    • 上司評価: 本部の営業部長による評価。
    • 数値評価: システムから弾き出される定量データ。
    • 部下評価(店長サーベイ): 担当する店長たちからの無記名アンケート。

    特に「部下評価」は強烈な抑止力になります。「SVは相談に乗ってくれるか」「店舗の問題解決に動いてくれるか」「高圧的な態度を取っていないか」。これらを店長に回答させ、その結果をSVの評価に反映させます。
    もちろん、人気投票になってはいけませんが、「現場から支持されないSV」があぶり出される仕組みを持っておくことは、組織の自浄作用として不可欠です。

    未来の幹部を育てるキャリアステップ

    「SVになったら、その先がない」
    これは、多くの中堅小売チェーンで聞かれる社員の嘆きです。

    店長からSVへの昇格は、現場スタッフにとって一つのゴールです。しかし、SVになった瞬間、激務に追われ、休日も電話が鳴り止まず、かといって役員になれるわけでもない。
    「SVは損な役回りだ」「万年SVのまま歳を取るのは怖い」
    そう感じた瞬間に、最も脂の乗った30代・40代の中核人材が競合他社へ転職してしまいます。

    30店舗・50店舗を超えて、100店舗を目指す企業に必要なのは、SVの「その先」を見せるキャリアパス設計です。

    「店長あがり」だけではない専門職への道

    SVの次は「営業部長」しかポストがない、というピラミッド構造が閉塞感の原因です。ポストが詰まっていれば、昇格のチャンスはありません。

    組織図を拡張し、多様なキャリアの受け皿を用意する必要があります。

    • ゾーンマネージャー(統括): 複数のエリア(SV)を束ねる経営幹部候補。
    • 大型店店長・旗艦店店長: SVにならず、現場のスペシャリストとして高収入を得る「スーパー店長」コース。
    • 本部専門職: 現場経験を活かした「バイヤー(MD)」「販促企画」「人事教育」「店舗開発」。

    「現場を知る人間」が本部の中枢にいることは、チェーンストアにとって最強の強みになります。SVを経験した後、その適性に合わせて「現場の将軍」を目指すのか、「本部の参謀」を目指すのか、複線型のキャリアパスを提示することで、将来への希望をつなぎ止めます。

    SVの報酬設計(インセンティブ)

    SVの給与は、店長よりも明確に高く設定しなければなりません。
    「責任は増えたのに、残業代がつかなくなって手取りが減った」という逆転現象は、絶対に避けるべきです。

    基本給のベースアップはもちろんですが、成果に連動したインセンティブ(賞与)の比率を高めることを推奨します。
    担当エリアの予算達成時に支給されるインセンティブに加え、「不採算店の黒字化賞与」や「新規出店成功賞与」など、プロジェクト単位での報酬を用意します。

    「SVになれば、自分の腕次第で年収〇〇万円が狙える」
    この夢がなければ、誰も火中の栗を拾おうとはしません。厳しい役割には、それに見合う報酬とステータスを用意する。これが資本主義の原則であり、成長企業の鉄則です。


    組織図を書き換える勇気を持つ

    10店舗の時の組織図のまま、50店舗を運営することは不可能です。
    人間の身体が大きくなれば、心臓も血管も太く丈夫にならなければ血液は回りません。組織図とは、企業の血管網そのものです。

    「30店舗の壁」とは、社長が全店長を直接評価する限界点です。
    「50店舗の壁」とは、SVがプレイングマネージャーとして振る舞える限界点です。

    この壁の前で足踏みをしている企業は、今まさに「人」の問題ではなく「仕組み」の問題に直面しています。個人の頑張りに依存するのではなく、誰がやっても成果が出る評価制度と組織構造へと、メスを入れなければなりません。

    成長フェーズに合わせた人事制度の「アップデート」

    ヒューマンリソースコンサルタント(HRC)は、小売・流通業界の現場を知り尽くした専門家集団です。
    私たちは、教科書的な人事制度を押し付けることはありません。

    • 創業期の熱量を残しつつ、管理体制を整えたい。
    • 古参の幹部と若手のSVの意識ギャップを埋めたい。
    • 急拡大に耐えうる、拡張性(スケーラビリティ)のある等級制度を作りたい。

    貴社が今、どの成長フェーズにあり、どの壁にぶつかっているのか。まずはそこから紐解いていきます。
    多店舗展開の成功は、優れた戦略だけでなく、それを実行させる「強固な組織基盤」にかかっています。次の100店舗への切符を手に入れるために、今こそ人事制度というエンジンの載せ替えを検討しませんか。

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