【2026年上半期まとめ】中小企業に影響大の人事・労働法ニュース7選
2026年上半期(1月〜6月)に公表された人事制度・労働法関連の重要ニュースから、特に中小企業へ影響の大きい7つのテーマを厳選し、関連法規に基づいた解説とともにまとめました。
1. 連合「2026年春闘」最終集計、中小企業の賃上げ率は4.69%にとどまり「6%目標」に2年連続届かず
- 公表日時: 2026年4月3日(第3回集計)/2026年7月3日(最終集計)
- ニュース概要:
2026年4月3日、日本労働組合総連合会(連合)は、2026年春季生活闘争(春闘)の第3回回答集計結果を公表しました。この時点で全体の賃上げ率は加重平均で5.09%、300人未満の中小組合でも5.00%と、3年連続で5%超の高水準を維持していました。しかし、2026年7月3日に公表された最終(第7回)回答集計では、300人未満の中小組合の賃上げ率は4.69%(前年の4.65%からわずか0.04ポイント増)にとどまる結果となりました。連合は2025年から中小企業の賃上げ率について「6%以上」を目標に掲げていましたが、2年連続でこれに届かず、大企業との賃上げ格差や、原材料費・労務費の価格転嫁の遅れが引き続き課題として浮き彫りになっています。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:大企業との賃上げ格差と人材流出リスクへの向き合い方
解説:大企業を中心に3年連続で5%を超える高い賃上げ率が記録される一方、中小企業の最終的な賃上げ率は4.69%にとどまり、大企業との実額の差は依然として大きい状況です。労働市場における自社の採用競争力を維持するためには、単に他社の動向に合わせるだけでなく、自社の支払い能力に応じた計画的なベースアップや定期昇給の実施が求められます。賃上げを行わない場合、現有社員のモチベーション低下や離職率の上昇を招くため、経営陣は人件費を「コスト」ではなく「投資」として捉え、中長期的な人材確保戦略を再構築する必要があります。
- ポイント2:労務費の適切な価格転嫁と下請代金支払遅延防止法等の遵守
解説:賃上げ原資を確保するためには、取引先への適切な価格転嫁が不可欠です。政府は「労務費の適切な転嫁のための指針」を公表しており、発注側企業が合理的な理由なく価格交渉を拒むことは、独占禁止法や下請代金支払遅延防止法に抵触する可能性があります。中小企業の人事・経営担当者は、自社の賃上げ実績や今後の計画、原材料費だけでなく労務費の上昇分を明確に算出し、根拠を持って価格交渉に臨む必要があります。取引先との交渉プロセスを記録し、書面で残すことも法的なリスクマネジメントとして重要です。適正な価格転嫁の実現こそが、持続可能な人事制度と賃上げを支える基盤となります。
- ポイント3:定期昇給制度の見直しと職務給・業績連動型への移行
解説:一律のベースアップ(ベア)を続けることは、固定費の増大を招き中小企業の財務を圧迫します。そのため、労働基準法に準拠した就業規則(給与規程)の改定を行い、能力や職務成果をダイレクトに反映する「職務給」や「業績連動型賞与」へのシフトを検討すべきです。法規上、不利益変更の禁止(労働契約法第10条)に留意する必要があるため、変更の必要性や合理性を従業員に丁寧に説明し、同意を得るプロセスが必須です。一律の年功序列型から、成果に応じた処遇体系へと人事制度を柔軟に改定することで、限られた総人件費の枠内で高いパフォーマンスを発揮した社員に報いることが可能となります。
- ポイント1:大企業との賃上げ格差と人材流出リスクへの向き合い方
賃上げは「原資があるかどうか」だけで判断すると後手に回ります。まずは自社の損益構造の中で人件費をどこまで引き上げられるか、粗利ベースでシミュレーションすることをお勧めします。そのうえで、全社一律のベースアップではなく、勤続年数や成果に応じたメリハリのある配分に切り替えることで、限られた原資でも定着効果の高い人材に重点投資できます。また、取引先への価格転嫁は「言い出しにくい」という心理的ハードルが最大の障壁です。労務費上昇分を数値化した資料を用意し、交渉の場に臨む体制を整えることが、賃上げの持続可能性を左右します。人事制度の設計と価格転嫁戦略は表裏一体である、という認識を経営層と共有することが第一歩です。
2. 厚生労働省、2026年度の在職老齢年金支給停止調整額を「65万円」へ引き上げ
- 公表日時: 2026年1月26日
- ニュース概要:
厚生労働省は2026年1月26日、2026年度の年金額改定を公表しました。賃金や物価の上昇を反映し、国民年金(基礎年金)は1.9%、厚生年金(報酬比例部分)は2.0%の引き上げとなり、老齢基礎年金の満額は月額70,608円と初めて7万円を超えました。これに伴い、働く高齢者の年金が減額される「在職老齢年金制度」の支給停止調整額について、従来の51万円から「月額65万円」へと大幅に引き上げられることが決定しました。この調整額の変更は、高年齢者雇用安定法に基づく65歳までの雇用確保義務や、70歳までの就業機会確保措置の努力義務化に対応するものであり、シニア層の就業意欲を削ぐことなく、労働環境での活躍を促す目的があります。これにより、給与と年金の合計額が65万円までは年金が全額支給されることになり、シニア労働者の働き方や企業の賃金設計に大きな影響を与えることになります。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:シニア層の就業抑制(働き控え)の解消と労働力確保
解説:従来の支給停止調整額(51万円)では、給与が高くなると年金がカットされるため、高齢従業員が意図的に勤務時間や基本給を抑える「働き控え」が発生していました。今回の改正により基準が65万円に引き上げられたため、シニア層が年金の減額を気にせずにフルタイムや高賃金で働ける環境が整いました。中小企業の人事担当者は、この法改正の内容を社内のシニア従業員に正確に周知し、より長い時間や高い責任を伴う業務への就業を促すチャンスと捉えるべきです。深刻な人手不足に悩む中小企業にとって、豊富な経験を持つシニア人材の就業時間を拡大し、労働力を最大化するための強力な追い風となります。
- ポイント2:高年齢者雇用安定法に基づくシニア向け賃金・評価制度の再設計
解説:在職老齢年金の基準緩和を受け、企業はシニア層の賃金制度を見直す必要があります。従来、多くの企業では定年再雇用後の給与を一律で大幅に引き下げ、年金で補填する設計がなされていましたが、今後は能力や役割に応じた適正な処遇(ジョブ型等)への変更が求められます。高年齢者雇用安定法では、希望者全員の65歳までの雇用が義務付けられており、70歳までの就業機会確保も努力義務化されています。年齢のみを理由とした一律の減額ではなく、正社員との同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法第8条)の観点からも、業務内容と責任に見合った納得感のある評価・報酬制度を構築することが法的なトラブル防止につながります。
- ポイント3:社会保険料負担のシミュレーションと給与計算の実務対応
解説:シニア層の就業時間や給与が増加する場合、健康保険や厚生年金保険の標準報酬月額が上昇し、企業側の社会保険料の法定福利費負担も増加します。人事担当者は、シニア従業員の労働契約変更に伴う人件費の増減を正確にシミュレーションしておく必要があります。また、給与計算実務においては、標準報酬月額の定時決定(算定基礎届)や随時改定(月変)の手続きを適切に行う必要があります。さらに、高齢任意加入被保険者や在職老齢年金受給者の給与変更に伴う年金事務所への各種届出など、実務上の手続き漏れがないよう、関係法規の定めに従って正確に処理できる体制を整えておくことが求められます。
- ポイント1:シニア層の就業抑制(働き控え)の解消と労働力確保
今回の基準緩和は、シニア人材を「戦力」として本格活用する好機です。まずは再雇用者の給与テーブルを点検し、「年金で補うから安い」という旧来の発想から、職務内容・責任範囲に見合った処遇へ切り替えることをお勧めします。特に、豊富な経験を持つ社員にフルタイムや専門業務を任せたい場合、年金カットを気にせず働ける今回の制度変更は強力な後押しになります。同時に、賃金アップに伴う社会保険料負担の増加分も忘れずに試算し、来期の人件費予算に反映してください。「働き控え」をしていた人材ほど、意欲の掘り起こしによる戦力化の余地が大きいという点は、人手不足対策として積極的に社内周知していただきたいポイントです。
3. 改正女性活躍推進法が施行、男女間賃金差異の公表義務が「101人以上企業」へ拡大
- 公表日時: 2026年4月1日
- ニュース概要:
2026年4月1日、改正女性活躍推進法が施行されました。これにより、これまで労働者数301人以上の企業に義務付けられていた「男女の賃金の差異」の公表対象が、労働者数101人以上300人以下の企業へと一気に拡大されました。さらに、同規模の企業において「女性管理職比率」の情報公表も同時に義務化され、100人以下の企業については努力義務に留まっています。この改正は、女性活躍・ハラスメント・多様な働き方支援を強化するための「労働施策総合推進法等改正法」の一環として行われたものです。対象となる企業は、直近の事業年度終了後おおむね3カ月以内に、自社のウェブサイトや厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」などを通じて、定められた算出方法に基づき、小数点第1位までデータを公表することが義務付けられます。対応を怠った場合、行政指導の対象となるリスクがあります。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:女性活躍推進法に基づくデータ算出と公表の法的義務への対応
解説:労働者数101人以上の中小企業は、事業年度終了後速やかに「男女の賃金の差異」および「女性管理職比率」を算出し、公表する法的義務を負います。賃金差異の算出にあたっては、全労働者だけでなく「正社員」「パート・有期社員」などの雇用区分ごとに男女の平均年間賃金を比較する必要があります。算出ルールは厚生労働省のガイドラインに厳格に準拠しなければならず、曖昧な基準での公表は許されません。人事担当者は、給与データや就業形態のデータを正確に集計・整理できるシステムを整備し、公表期日(一般的に決算後3カ月以内)に遅れることのないよう、計画的に実務を推進する必要があります。
- ポイント2:公表データが採用活動や企業ブランドに与える影響と要因分析
解説:公表された男女間賃金差異や女性管理職比率は、求職者や取引先、金融機関から厳しくチェックされます。数値が著しく低い場合、採用活動において「ジェンダー平準化が進んでいない企業」と見なされ、応募者が減少するなどの不利益を被る可能性があります。ただし、差異が生じる主因が「女性の勤続年数が短い」「管理職に男性が多い」といった構造的要因である場合は、公表の際に対策や背景を補足説明として付記することが認められています。単に数字を出すだけでなく、自社の現状を客観的に分析し、是正に向けた行動計画(一般事業主行動計画)とリンクさせて発信することが、企業イメージの維持・向上に役立ちます。
- ポイント3:評価・昇格運用の見直しと同一労働同一賃金の徹底
解説:男女間の賃金差異を根本的に解消するためには、人事評価制度や昇格運用の客観性と透明性を高める必要があります。性別による直接的な差別は労働基準法第4条で禁止されていますが、配置転換や昇格の機会、各種手当の適用において、無意識の偏見や旧来の慣行が残っているケースが散見されます。中小企業においては、職務内容や責任の重さに応じた公平な評価基準を明確にし、パートタイム・有期雇用労働法が定める「同一労働同一賃金」の原則を徹底することが重要です。ライフイベント(育児・介護)とキャリア形成を両立できる人事制度への改定が、長期的な差異縮小につながります。
- ポイント1:女性活躍推進法に基づくデータ算出と公表の法的義務への対応
101人以上の企業様は、まず「公表義務があるかどうか」を確認したうえで、決算期から逆算した公表スケジュールを早めに立てることが肝心です。賃金差異は集計してみて初めて実態が見えることが多く、想定より差が大きい場合に慌てて対策を打つのでは印象を悪くしかねません。差異の背景(勤続年数、職種構成、管理職比率など)を分析したうえで、単なる数値の公表にとどめず、行動計画とセットで発信することをお勧めします。特に採用市場では、数値の高低そのものより「課題を認識し改善に取り組んでいる姿勢」が評価される傾向にあります。評価・昇格プロセスの透明化は、賃金差異の是正だけでなく、全社員の納得感向上にも直結する投資と捉えてください。
4. 改正労働安全衛生法が施行、「高年齢労働者の労災防止措置」が企業の努力義務に
- 公表日時: 2026年4月1日
- ニュース概要:
2026年4月1日、改正労働安全衛生法が施行され、企業に対して「高年齢労働者の特性に配慮した労働災害防止措置」を講じることが新たに努力義務化されました。また、同法改正により、混在作業場所において労働災害を防止するための(特定)元方事業者の措置義務や、機械・建築物を他の事業者に貸与する者の措置義務が、個人事業者等に対しても拡大されています。近年、労働市場におけるシニア層の割合が増加する一方で、高年齢労働者の転倒や墜落・転落といった労働災害の発生件数が高止まりしていることが背景にあります。厚生労働省は「高年齢労働者の安全と健康の確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を提示しており、企業には身体機能の低下に応じた作業環境の改善や、安全衛生教育の徹底が強く求められることになります。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:安全衛生委員会等の活用による職場環境の改善と設備投資
解説:労働安全衛生法に基づき、企業は高年齢労働者が安全に働けるよう職場環境の点検・改善を行う必要があります。具体的には、作業通路の段差解消、照度の確保、滑りにくい床材への変更といった物理的な対策や、重量物を取り扱う作業の自動化・軽減などが挙げられます。労働者数50人以上の事業場では衛生委員会の設置が義務付けられており、同委員会での議題として高齢者の労災防止対策を定期的に取り上げ、労使で課題を共有することが推奨されます。また、国が実施している「エイジフレンドリー補助金」などの公的支援制度を活用し、中小企業の財務負担を軽減しながら計画的に安全設備への投資を進めることが実務上有効です。
- ポイント2:身体機能低下に着目した健康管理とストレスチェックの実施
解説:高年齢労働者は、視力・聴力・平衡感覚などの身体機能が自然に低下するため、これに配慮した健康管理体制の構築が求められます。定期健康診断の確実な実施(労働安全衛生法第66条)はもちろんのこと、医師の意見聴取に基づき、必要に応じて就業場所の変更や労働時間の短縮などの適切な事後措置を講じなければなりません。また、シニア層特有の健康不安や職責の変化による精神的負荷を軽減するため、産業医との連携を強化し、日常的な健康相談窓口を機能させることが重要です。労働者の健康状態を客観的に把握し、無理のない業務割当てを行う人事管理が、深刻な労災事故の未然防止へとつながります。
- ポイント3:労災発生時における企業の法的責任(安全配慮義務)のリスク管理
解説:今回の法改正は努力義務ですが、万が一、高年齢労働者が職場で転倒などの労災事故を起こした場合、企業が「安全配慮義務(労働契約法第5条)」を怠っていたと判断されれば、民法上の損害賠償請求(民法第709条、第415条)を受ける法的リスクがあります。裁判においては、厚生労働省のガイドライン等に沿った対策を講じていたかどうかが過失の有無の判断材料となります。人事・労務担当者は、高年齢労働者向けの安全作業マニュアルを策定し、定期的な安全衛生教育を確実に実施・記録しておく必要があります。対策の「実施ログ」を残すことこそが、企業の法的リスクを回避するための最大の防衛策となります。
- ポイント1:安全衛生委員会等の活用による職場環境の改善と設備投資
「努力義務だから後回しでよい」という判断は禁物です。実務上は、努力義務であっても労災発生時の民事責任(安全配慮義務違反)の判断材料として使われるため、対応の有無が損害賠償リスクを大きく左右します。まずは現場を巡回し、段差・照明・床材といった転倒リスクの高い箇所を洗い出すことから始めてください。設備投資が難しい場合は、エイジフレンドリー補助金など公的支援の活用も検討の価値があります。あわせて重要なのが「対策を講じた記録を残す」ことです。安全衛生教育の実施記録やマニュアルの整備は、万一の労災発生時に企業を守る証拠にもなります。高齢従業員が多い現場ほど、早めの着手をお勧めします。
5. 改正労働施策総合推進法が施行、「治療と仕事の両立支援」に関する措置が努力義務化
- 公表日時: 2026年4月1日
- ニュース概要:
2026年4月1日より、改正労働施策総合推進法が施行され、職場における「治療と仕事の両立を促進するための措置」を講じることが、事業主の努力義務として新たに明記されました。この法改正は、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病などの精神・身体的疾病を抱えながらも、適切な医療を受けつつ就業を継続したいと望む労働者を支援することを目的としています。あわせて、同法改正では、求職者やインターン生に対するセクシャルハラスメント防止措置や、社会問題化しているカスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置の義務化(2026年10月施行予定)も盛り込まれており、包括的な労働環境の是正が進められています。企業は、病気になった労働者が不利益な取扱いを受けることなく、安心して適切な配慮を受けられる社内制度や相談窓口の整備を推進することが求められています。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:両立支援に関する社内規程(病気休職・短時間勤務等)の整備
解説:治療と仕事の両立を促すため、中小企業は就業規則や内規を見直し、柔軟な勤務制度を創設する必要があります。具体的には、時間単位の年次有給休暇制度、傷病休職制度の柔軟な運用、時差出勤やテレワーク(在宅勤務)の導入、短時間勤務措置などが考えられます。労働基準法等に抵触しないよう、これらの制度を導入する際は要件や手続き、期間中の賃金の取扱いを明確に規定し、労働基準監督署への届出を行う必要があります。規程として明文化しておくことで、従業員が疾病に罹患した際、迅速に手続きを進めることができ、貴重な熟練人材が「病気を理由とする離職」に追い込まれるリスクを防ぐことができます。
- ポイント2:産業医や主治医との連携体制および両立支援コーディネーターの活用
解説:適切な両立支援を行うには、医学的見地に基づく判断が不可欠です。労働安全衛生法に定める産業医(50人未満の事業場では地域産業保健センター)を活用し、主治医が作成した「就業指示書」や「診断書」をもとに、復職や就業継続の可否、必要な配慮(残業免除、業務負担軽減など)を検討するプロセスを構築する必要があります。また、厚生労働省が推奨する「両立支援コーディネーター」の研修を人事担当者が受講し、医療機関と企業、労働者の間の調整役を担わせることも有効です。個人情報の保護(個人情報保護法)を徹底しつつ、本人の同意の下で適切な情報連携を行う体制を整えることが実務上の要諦です。
- ポイント3:不利益取扱いの禁止と職場における理解促進(ハラスメント防止)
解説:疾病や治療を理由として、一律に降格や減給、解雇などの不利益な取扱いを行うことは、労働契約法第16条(解雇権の濫用)や公序良俗に反し、法的に無効となる可能性が極めて高いです。人事担当者は、管理職や現場従業員に対して、治療中の労働者に対する正しい理解を促す研修を実施する必要があります。周囲の負担増加に対する不満から「マタハラ」や「ケアハラ」に類する職場内ハラスメント(パワーハラスメント等)が発生しないよう、相談窓口の機能を強化し、ハラスメント防止指針に疾病への配慮を含む旨を明記するなど、コンプライアンス体制を強固にすることが求められます。
- ポイント1:両立支援に関する社内規程(病気休職・短時間勤務等)の整備
治療と仕事の両立支援は、制度を作るだけでは機能しません。実務で最も重要なのは「本人が安心して相談できる窓口」の存在です。相談窓口を人事部内に一本化し、担当者を明確にすることで、従業員は病状を職場に伝えやすくなります。また、産業医との連携フローをあらかじめ整備しておくことで、いざという時に迅速な対応が可能になります。あわせて2026年10月に義務化されるカスハラ対策・求職者等セクハラ対策も見据え、就業規則や相談窓口の整備は一体的に進めることをお勧めします。健康上の理由で優秀な人材を手放すことは企業にとって大きな損失です。柔軟な勤務制度の整備は、人材の定着とコンプライアンス強化の両面で投資効果の高い取り組みといえます。
6. 厚生労働省、2026年10月施行の「パート・有期雇用労働者に関するルール変更」を公表
- 公表日時: 2026年上半期(各メディアで2026年6月頃に広く報道)
- ニュース概要:
厚生労働省は、2026年10月1日から「パートタイム・有期雇用労働法」関係の省令および指針が改正されることに伴い、企業向けの周知リーフレット等を公表しました。今回の改正の最大のポイントは、パートタイム労働者や有期雇用労働者を雇い入れる際、または契約を更新する際に交付する「労働条件通知書(雇用契約書)」の明示事項が追加される点です。新たに、通常の労働者(正社員)との「待遇の相違の内容や理由等について、会社に説明を求めることができる旨」の記載が義務化されます。これは「同一労働同一賃金」の実効性を担保し、労働者の権利を明確化するための措置です。会社は、労働者から説明を求められた場合、賞与、退職金、各種手当、福利厚生などの待遇差について、合理的な理由を説明する義務を負い、対応を怠ると法的なトラブルや行政指導の対象となります。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:労働条件通知書(雇用契約書)のフォーマット変更と法的義務の遵守
解説:2026年10月1日以降にパート・有期雇用労働者を雇い入れる、あるいは労働契約を更新する際、従来の書面をそのまま使用すると労働基準法第15条およびパートタイム・有期雇用労働法第6条違反となります。新たな書面には、「通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由等について、説明を求めることができる」という文言と、円滑な申し出を促すための「相談・申出窓口」を必ず明示しなければなりません。人事担当者は施行日までに、自社で使用している労働条件通知書や雇用契約書のひな形を厚生労働省の最新のモデル様式に準拠させて改訂し、実務担当者へのオペレーションの周知を徹底しておく法的義務があります。
- ポイント2:正社員との待遇差異(手当・賞与等)の総点検と不合理性の排除
解説:今回の改正は単に書類に文言を追加すれば済むものではありません。明示義務化により、従業員から「なぜ正社員にある手当が自分にはないのか」と説明を求められる機会が格段に増加します。パートタイム・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇差の禁止)に基づき、最高裁判所の判例等を踏まえ、通勤手当、皆勤手当、家族手当、賞与、退職金などのすべての項目について、支給目的や職務内容の違いに応じた合理的な説明ができるか総点検する必要があります。説明がつかない不合理な格差がある場合は、速やかに給与規程を改定し、待遇の均衡・均等を図る人事制度の見直しが急務です。
- ポイント3:社内説明体制の整備と説明要求に対する不利益取扱いの禁止
解説:従業員から待遇差に関する説明を求められた場合、会社は拒否することはできず、口頭または書面で客観的かつ合理的に説明を尽くす法的義務(同法第14条)があります。人事・労務担当者は、現場の店長や管理職が不用意な回答をしてトラブルを拡大させないよう、説明の回答窓口を人事部に一本化し、想定問答集(FAQ)を作成するなどの社内体制を整備すべきです。また、同法第14条第3項では、労働者が説明を求めたことを理由として、解雇や減給、雇止めなどの不利益な取扱いを行うことを厳格に禁じています。この法規に違反した場合、民事上の損害賠償請求や不当解雇の訴えを起こされる重大なリスクとなります。
- ポイント1:労働条件通知書(雇用契約書)のフォーマット変更と法的義務の遵守
労働条件通知書の様式変更は施行までに必ず対応すべき事項ですが、本質的に重要なのは「説明を求められたときに答えられる状態」を作ることです。まずは自社のパート・有期社員と正社員との間で、手当・賞与・退職金にどのような違いがあるかを一覧化し、それぞれの支給目的に照らして合理的な説明ができるか点検してください。説明がつかない項目があれば、施行前に規程改定を検討する余地があります。あわせて、現場責任者が場当たり的に回答してトラブルにならないよう、回答窓口を人事部に一本化し、想定問答集を用意しておくと安心です。待遇差の説明対応は、同一労働同一賃金の実効性を高める良い機会と捉え、前向きに準備を進めましょう。
7. 障害者法定雇用率「2.7%」への引き上げに伴い、中小企業の対象拡大への準備が本格化
- 公表日時: 2026年上半期(2026年7月1日の引き上げに向け、各労働局等が随時公表)
- ニュース概要:
2026年7月1日より、障害者雇用促進法に基づく民間企業の障害者法定雇用率が現行の2.5%から「2.7%」へと引き上げられます。これに伴い、障害者を最低1人以上雇用しなければならない義務が生じる企業の範囲が、これまでの「常用労働者数40.0人以上」から「37.5人以上」の企業へと拡大されることが、2026年上半期を通じて各行政機関や労務メディアで広く注意喚起され、準備が本格化しています。法定雇用率が未達成の場合、常用労働者101人以上の企業には障害者雇用納付金(不足1人につき月額5万円)の徴収義務が課されるほか、行政による雇入れ計画書の提出命令や指導、最終的には企業名の公表という社会的信用に関わるペナルティのリスクがあります。中小企業においては、対象拡大への適応に向けた採用活動や受け入れ体制の整備が急務となっています。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:自社の常用労働者数の正確な算定と雇用義務の有無の確認
解説:障害者雇用促進法における「常用労働者」の定義は、単に正社員の数だけを指すのではありません。週の所定労働時間が30時間以上の労働者は1人、20時間以上30時間未満の短時間労働者は0.5人としてカウントされます(障害者雇用促進法施行規則)。人事担当者は、自社の労働者の契約内容を精査し、算定した常用労働者数が「37.5人」を超えているか否かを正確に把握する義務があります。法改正の施行日である2026年7月1日時点で37.5人以上となる場合は、直ちに障害者1人以上の雇用義務が発生するため、現状で障害者雇用がゼロの企業は、法制上の未達成状態を回避するために、上半期中に速やかに採用・配置計画を策定しなければなりません。
- ポイント2:ハローワークや専門機関との連携による採用活動と職務の切り出し
解説:中小企業にとって障害者の採用は容易ではなく、他社との獲得競争も激化しています。そのため、自社単独での募集ではなく、ハローワークの障害者専門窓口や、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなどの公的専門機関と早期に連携することが実務上極めて有効です。採用にあたっては、既存の業務の中から障害者の特性に合わせて従事可能な業務を細分化して抽出する「職務の切り出し」が成功の鍵となります。事務補助や軽作業、清掃、データ入力など、切り出した職務内容を明確にした求人票を作成し、マッチングの精度を高めることで、定着率の向上と法定義務の確実な履行を両立させることができます。
- ポイント3:合理的配慮の提供義務の遵守と職場定着のための環境整備
解説:障害者雇用促進法第36条の2に基づき、企業は雇用する障害者に対して、その障害の特性に応じた「合理的配慮」を明確に提供する法的義務を負います。例えば、車椅子利用のための通路確保、視覚・聴覚障害に応じた指示方法の工夫、精神障害に対する勤務時間の柔軟化や休憩室の設置などが挙げられます。これらは企業の過重な負担にならない範囲で行う必要がありますが、本人の意向を聴取し、双方が話し合って決定するプロセスが法的に求められます。また、採用後の離職を防ぐため、社内での障害理解を促す研修を実施し、メンターを配置するなど、安心して長く働ける職場環境(合理的配慮の定着)を構築することが安定運用の要です。
- ポイント1:自社の常用労働者数の正確な算定と雇用義務の有無の確認
まず着手すべきは、自社の常用労働者数を正確にカウントし、37.5人以上に該当するかを確認することです。ボーダーライン付近の企業様は「知らないうちに義務化されていた」という事態を避けるため、早急な確認をお勧めします。採用にあたっては、いきなりフルタイムでの受け入れを目指すのではなく、既存業務を細かく切り出して「障害特性に合った業務」を明確化することが定着の近道です。ハローワークや障害者就業・生活支援センターとの連携は、採用だけでなく定着支援の面でも心強い存在になります。法定雇用率の達成は義務であると同時に、多様な人材を活かす組織づくりの好機でもあります。早めの体制整備が、行政指導や企業名公表のリスク回避にもつながります。
貴社の企業規模や現在の就業規則の整備状況に応じて、優先度の高い法改正から順次、実務対応を進めるための参考資料としてご活用ください。

