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2024年度の診療報酬改定において、医療機関経営に最も大きなインパクトを与えたのが「ベースアップ評価料(看護職員等処遇改善評価料等の再編)」の新設です。
多くの事務長や理事長が、「算定要件を満たすこと」に注力されています。しかし、人事コンサルタントの視点から申し上げますと、真の難所は算定の後に待ち受けています。それが「配分設計」です。
入ってきた収益を、どの職種に、どのような名目で、いくら分配するのか。この設計を一歩間違えれば、将来的な人件費の固定化による経営圧迫や、職員間の深刻な不公平感(モラールダウン)を招きかねません。
本稿では、制度の概略ではなく、「実務上の配分ミスを防ぐための具体的なシミュレーション手法」と「賃金規定への落とし込み方」について、現場の事例を交えて徹底解説します。
1. ベースアップ評価料を「ただ配る」だけでは危険な理由
「国からのお金だから、そのまま職員に渡せば良い」と考えているのであれば、今すぐその方針を見直すべきです。この評価料は、補助金のような一時的なものではなく、「恒久的な賃上げ」を求めている点に最大のリスクが潜んでいるからです。
💡 コンサルタントの視点:3つのリスク
- 基本給への組み込み:賞与や退職金へ連動し、将来下げられない「固定費」となるリスク。
- 一律手当支給:経験年数や貢献度が無視され、中堅層のモチベーション低下を招くリスク。
- 法定福利費の考慮漏れ:会社負担分の社会保険料を計算せず配分し、病院が赤字になるリスク。
1-1. 「基本給」への組み込みが招く固定費リスク
厚生労働省の指針では、ベースアップ評価料を用いた賃上げにおいて「基本給(または毎月支払われる手当)による引き上げ」を推奨しています。特に、対象額の3分の2以上はベースアップ(ベア)等に充てることが要件化されています。
ここで安易に「基本給そのもの」を一律に引き上げる選択をすると、以下のような連鎖的なコスト増が発生します。
- 賞与への跳ね返り: 多くの病院では、賞与を「基本給×〇ヶ月分」で計算します。基本給を上げれば、評価料でカバーできない賞与支払い分まで自動的に増額されます。
- 退職金への影響: 退職金算定基礎額が基本給連動型の場合、将来の退職金債務が膨張します。
- 残業単価の上昇: 時間外労働の算出単価(基礎賃金)が上がります。
評価料はあくまで「その時点での患者数・稼働」に基づいて支払われる変動的な原資です。一方、一度上げた基本給を下げることは、労働契約法の「不利益変更」に抵触する可能性が高く、極めて困難です。
将来、患者数が減少して評価料収入が減った場合でも、上がってしまった基本給は戻せません。これが、経営を圧迫する「固定費化」の罠です。
1-2. 「手当」で支給する場合の落とし穴
リスク回避のために「処遇改善手当」として別枠支給する方法が一般的ですが、ここにも注意が必要です。
「一律定額(例:全員一律1万円)」で支給してしまうと、経験年数や貢献度との整合性が取れなくなります。新人もベテランも同額の昇給となれば、中堅層のモチベーション低下を招きかねません。
逆に「基本給の〇%」として手当を設定する場合、今度は計算事務が煩雑になり、給与計算ミスの温床となります。
1-3. 社会保険料(法定福利費)の計算漏れ
最も多い失敗事例の一つが、「法定福利費の会社負担分」を考慮せずに原資を使い切ってしまうことです。
職員に1万円を支給する場合、病院が負担すべきコストは約1万1500円〜1万2000円(社会保険料の事業主負担分を含む)になります。評価料として入金された額をそのまま額面給与として配分してしまうと、会社負担分の社会保険料が病院の持ち出しとなり、完全な赤字になります。
配分シミュレーションを行う際は、必ず「法定福利費率(約15〜16%程度)」を差し引いた金額を原資として設定しなければなりません。
2. 不公平感を生まない「配分ルール」と対象職種の選定
ベースアップ評価料のもう一つの難しい点は、「対象職種」と「対象外職種」の線引きです。
2-1. 「対象外職種」への配慮と病院持ち出しの判断
制度上、ベースアップ評価料の対象は看護師、薬剤師、コメディカル等が中心であり、原則として「事務職」や「医師(一部除く)」は対象外です。
しかし、現場ではチーム医療が行われています。「隣の看護師は給料が上がったのに、受付の事務員は据え置き」という状況は、組織内に深刻な亀裂を生みます。
これを防ぐためには、以下の2つのアプローチが必要です。
- 評価料の対象範囲内での調整:
制度上認められる範囲内で、可能な限り多くのコメディカル(看護補助者、理学療法士等)を対象に含める。 - 病院の自己資金(持ち出し)による補填:
事務職等の対象外職種に対しても、病院の一般財源から同等、あるいは一定比率の賃上げを行う。
多くの支援先医療機関では、組織の融和を守るために、事務職に対しても何らかのベースアップを実施しています。その際、「どこまで病院が持ち出しに耐えられるか」という財務シミュレーションが不可欠となります。
2-2. 職種ごとの配分傾斜(ラダー連動)
全員一律ではなく、「貢献度の高い職員」に厚く配分する設計が、人材定着の観点から有効です。
例えば、既存の「クリニカルラダー(能力等級制度)」や「人事評価」と連動させる手法です。
- ラダーレベルⅠ:月額 5,000円アップ
- ラダーレベルⅡ:月額 8,000円アップ
- ラダーレベルⅢ:月額 12,000円アップ
このように差をつけることで、「頑張って能力を上げれば給料が上がる」というメッセージになり、単なる「バラマキ」ではなく「投資」としての賃上げ機能を持たせることが可能になります。
2-3. パート・非常勤職員への対応
パート職員への配分も忘れてはなりません。労働施策総合推進法(同一労働同一賃金)の観点から、正職員のみを優遇する合理的な理由がない限り、パート職員へも時給アップ等の形で還元する必要があります。
計算式としては、「正職員の平均昇給率」を算出し、それを現在の時給に乗じて加算額を決定するのが一般的かつ公平な手法です。
3. 実務手順:賃金規定改定と届出の3ステップ
方針が決まれば、それを規定等の「文書」に落とし込み、法的な手続きを行う必要があります。
💡 コンサルタントの視点:実務のチェックポイント
- Step 1 原資確定:過去3年間の「最低稼働率」をベースに保守的に見積もる。
- Step 2 規定改定:将来の減額・廃止リスクに対応する条文を必ず入れる。
- Step 3 届出:賃金改善計画書を作成し、昇給分と評価料分を明確に区分する。
3-1. 【Step 1】現状分析と原資の確定
まず、自院の算定見込み額を算出します。
- 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ): 初診・再診回数 × 点数
- 入院ベースアップ評価料(Ⅱ): 延べ入院患者数 × 点数
ここから、前述の「法定福利費(事業主負担分)」を控除した額が、職員に支給できる純粋な原資(パイ)となります。
ポイント: 患者数は季節変動します。昨年の実績をそのまま当てはめるのではなく、過去3年間の最低稼働率ベースで試算するなど、「保守的な見積もり」を行うことが、将来の未払いリスクを防ぐ鉄則です。
3-2. 【Step 2】就業規則(賃金規定)の改定条文
新たな手当を新設する場合、賃金規定の変更が必要です。
条文例(処遇改善手当の場合):
(処遇改善手当)
第〇条 病院は、診療報酬におけるベースアップ評価料を原資として、対象職員に対し処遇改善手当を支給する。
2 支給額は、毎年度の評価料収益および各人の評価ランクに基づき決定し、辞令等により通知する。
3 診療報酬制度の改定により評価料が廃止または減額された場合、本手当の支給額を減額または支給を停止することがある。
重要: 第3項のように、「制度変更時の減額・廃止の可能性」を明文化しておくことが極めて重要です。これを記載していないと、将来評価料がなくなった際にも、既得権益として手当を支払い続けなければならなくなる(不利益変更の禁止に抵触する)リスクがあります。
3-3. 【Step 3】労使協定の締結と届出
賃金規定を変更したら、労働者代表の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。
同時に、地方厚生局に対して「賃金改善計画書」を提出する必要があります。
厚生局への報告では、「対象職員の給与総額が、前年と比較してどれだけ上がったか(ベースアップしたか)」が厳密に問われます。定期昇給分とベースアップ評価料分を明確に区分けして管理できる給与台帳の整備も求められます。
4. 2026年以降を見据えた「運用」の重要性
制度導入はゴールではありません。ベースアップ評価料は、毎年の報告と実績管理が求められる「運用」の制度です。
4-1. 年次報告とPDCAサイクル
毎年、計画通りに賃金改善が行われたかを厚生局に報告しなければなりません。もし、患者減などで算定額が計画を下回った場合、または配分額が不足していた場合、翌年度の調整が必要になることもあります。
事務部門は、毎月のレセプト請求額と給与支給実績を突合し、「配分率」が適正範囲(概ね収入の100%〜)に収まっているかをモニタリングし続ける必要があります。
4-2. 評価制度との一体運用こそが本質
本制度の究極の目的は「医療従事者の処遇改善による人材確保」です。
単に評価料を右から左へ流すだけでは、職員は「国のおかげで上がった」としか思わず、病院(経営者)へのエンゲージメントは高まりません。
「当院は、あなたのこの働きを評価するから、この金額を上乗せする」
このように、病院独自の「人事評価制度」とリンクさせて支給することで初めて、この評価料は「人材育成の原資」へと変わります。
5. 複雑なシミュレーションと制度設計はプロにお任せください
ここまで解説した通り、ベースアップ評価料の対応には、以下の複合的な専門知識が求められます。
- 医事・経営: 診療報酬の算定予測と収益シミュレーション
- 人事・労務: 賃金規定の法的整合性と、不利益変更リスクの回避
- 財務: 社会保険料や将来債務を含めたコスト管理
これらを、多忙な事務長や少人数の事務スタッフだけで完璧に行うのは至難の業です。特に、「固定費化のリスク」や「他職種とのバランス」といったデリケートな問題は、外部の専門家の知見を入れることでスムーズに解決するケースが多々あります。
HRCの「賃金シミュレーション・制度構築」支援
私たちヒューマンリソースコンサルタント(HRC)では、医療機関に特化した人事制度設計のプロフェッショナルとして、以下のサポートを提供しています。
- 詳細な収支シミュレーション:
過去の患者数データと昇給実績をもとに、5年後、10年後を見据えた無理のない配分額を算出します。 - リスクヘッジ型の規定作成:
将来の制度変更にも柔軟に対応できる、堅牢な賃金規定・雇用契約書の雛形を提供・作成します。 - 評価制度との連動設計:
単なるベアではなく、職員のモチベーションを高める「等級制度」「評価制度」と一体となった賃金テーブルを構築します。 - 運用保証と修正対応:
導入後、実際に運用してみて発生した課題に対しても、契約期間内であれば何度でも制度の微調整や修正を行います。
「今の計算で本当に合っているのか不安だ」「職員から不公平だと不満が出ている」
そのようなお悩みをお持ちの経営者様、事務長様は、ぜひ一度ご相談ください。貴院の実情に合わせた最適な配分プランをご提案いたします。
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