広島から県外への転職を防ぐ!「ここで長く働きたい」と思わせる中小企業向け「ポイント制退職金」の秘密

若手の離職を防ぐ「ポイント制退職金」とは?中小企業のための移行・導入マニュアル

「広島には魅力的な技術や製品を持つ良い企業がたくさんあるのに、なぜ優秀な若者は東京や大阪へ出ていってしまうのか」。これは、私が広島県内で活動する中で、中小企業経営者の皆様から最も多く寄せられる切実なご相談の一つです。

賃金をベースアップし、福利厚生を整え、働きやすい環境作りに尽力しても、入社から3年、5年と経つうちに、手塩にかけて育てた若手から「県外の企業で自分の力を試したい」と辞表を提出されてしまう。この背景には、単なる目先の給与水準の差だけではない、より根深い問題が潜んでいます。それは、将来に対する「目に見える安心感」と、自分の努力に対する「正当な評価への納得感」の圧倒的な不足です。

そこで今、優秀な人材の流出を防ぐ強力な人事戦略の切り札として注目を集めているのが「ポイント制退職金制度」です。従来の退職金制度は「ただ長く居れば得をする」という年功序列の色彩が極めて強く、現代の若手にとっては「30年後の自分」を想像しにくい、現実味のない制度に成り下がっていました。ポイント制は「今年の頑張りが、将来の退職金という資産に直結する」という、極めて透明性の高い仕組みです。

本記事では、地方の中小企業が直面している「旧態依然とした退職金制度」の限界と経営的リスクを指摘し、社員が「この会社で長く働くことこそが、自分の未来への確実な投資になる」と確信できるポイント制退職金のメカニズムを徹底解説します。優秀な社員を県外へ逃がさないための、攻めの制度設計について共に考えていきましょう。

1. 人材引き留めの切り札「退職金」。なぜ旧態依然の制度は逆効果なのか

退職金は本来、長年の功労に報い、老後の生活を保障するための重要な福利厚生です。それにもかかわらず、多くの若手社員にとって自社の退職金制度が「魅力」として映っていないのには明確な理由があります。

「最終給与連動型」が抱える構造的な欠陥

広島県内をはじめ、日本の多くの中小企業では、いまだに「退職時の基本給 × 勤続年数 × 自己都合・会社都合による支給率」という計算式で退職金を算出しています。これを「最終給与連動型退職金」と呼びます。計算式がシンプルで運用しやすい反面、現代の「キャリアの自律」を重視する層には、以下のようなネガティブなメッセージを与えてしまっています。

  • 「将来、会社があるかどうか分からない」という不安: 30年、40年先の退職時給与をベースにした約束をされても、産業構造の変化が激しい現代において、若手には全くリアリティがありません。
  • 「若い頃の頑張りは無意味なのか?」という不信感: 20代、30代でどれだけ高い成果を上げ、会社に多大な利益をもたらしたとしても、退職金の額を決めるのはあくまで「退職する直前の給与」です。過去の努力が蓄積されない構造に、優秀な人材ほど虚しさを覚えます。
  • 「ぶら下がり社員」が得をする不公平感: 成果を出さずとも、ただ長く在籍して年功序列で基本給が上がれば、自動的に高い退職金がもらえる。このようなフリーライダー(ただ乗りする社員)が得をする仕組みを、現場で汗をかく優秀な若手は敏感に察知し、組織に対する失望感を深めます。

経営上の時限爆弾:膨らみ続ける「退職給付債務」

この旧来型の制度は、労働者側だけでなく、経営者側にも深刻なリスクをもたらします。退職時の給与が計算のベースになるため、将来支払うべき退職金の総額(退職給付債務)が確定せず、雪だるま式に膨れ上がっていく性質を持っています。

ベースアップ(基本給の引き上げ)を実施しようとした際、「基本給を上げると、将来支払う退職金まで連動して跳ね上がってしまう」という財務的リスクが経営者の頭をよぎり、結果として思い切った賃上げの決断を鈍らせる要因となっています。賃上げができない企業からは、ますます人が離れていくという悪循環に陥るのです。

2. 会社への「貢献度」がダイレクトに反映されるポイント制退職金とは

これらの課題を一挙に解決する手法として導入が進んでいるのが「ポイント制退職金」です。

ポイント制退職金の基本メカニズム

ポイント制退職金とは、毎年の社員の働きや役割に対して「ポイント」を付与し、退職時にその「累積ポイント × ポイント単価(1ポイントあたりの金額)」を退職金として支給する仕組みです。

一般的には、以下の3つの要素を組み合わせて毎年のポイントを算出します。

  1. 等級・役職ポイント: その年に就いている役職(課長、部長など)や、人事制度上のスキルレベル(等級)に応じて付与されます。役割の重さを反映します。
  2. 評価ポイント(業績ポイント): その年の人事評価(S、A、B、C評価など)に応じて付与されます。単年度の成果やプロセスをダイレクトに反映します。
  3. 勤続ポイント: 会社に長く在籍してくれたことへの純粋な感謝として、勤続年数に応じて一律で付与されます(※近年は、成果主義を強めるために勤続ポイントを廃止・縮小し、等級や評価ポイントの比重を高める企業が増えています)。

従来型制度とポイント制の比較

比較項目 従来の「最終給与連動型」 「ポイント制退職金」
評価の対象期間 退職時の基本給のみ(最後だけ良ければ有利) 入社から退職までの全期間の貢献度(毎年の積み重ね)
社員から見た透明性 退職直前まで自分がいくらもらえるか不明確 毎年ポイントが通知されるため、自分の資産の累積が明確に分かる
経営リスク(財務) 将来の支払額が基本給の上昇に伴い不規則に変動する 毎年の付与ポイントが決まるため、将来の支払額の予測・管理が極めて容易
基本給との連動性 直結している(基本給アップ=退職金コスト増) 切り離されている(基本給を上げても退職金は跳ね上がらない)

3. なぜポイント制が若手人材の定着(リテンション)に劇的に効くのか

地方の中小企業が人材を確保し続けるためには、「東京の企業に負けない給与」を目指すだけでは限界があります。重要なのは、社員の心に「ここで働き続ける合理的な理由」を植え付けることです。

「見える化」がもたらす強力な心理的効果

ポイント制の最大のメリットは、社員が自分の「退職金という名の資産」を現在進行形で確認できる点にあります。これが若手のモチベーションを劇的に変えます。

【具体例:入社5年目、技術職のAさんの場合】
「今の僕の累積ポイントは500ポイント(1ポイント1,000円なら50万円分)。去年の人事評価が最高ランクのS評価だったから、評価ポイントで一気に100ポイント上乗せされた。あと2年現場で技術を磨いて次の等級に上がれば、等級ポイントの付与率が1.5倍に跳ね上がる設計になっている。このままいけば、30代半ばで地元に家を建てる時の頭金が確実に見えてくるな……。今、目先の給料に釣られて東京の会社に転職してポイントをリセットするよりも、ここでキャリアを積んだ方が自分にとって圧倒的に有利だ」

このように、自分の日々の頑張りが「将来の確実な資産」として着実に積み上がっているという手触り感こそが、外部の誘惑に対する強力な心理的ブレーキ(リテンション効果)として機能するのです。

「定着」を促すベスティング(受給権保護)の活用

さらに定着率を高めるテクニックとして、退職金の「自己都合退職時の支給率(ベスティング)」に戦略的な傾斜をかける方法があります。

例えば、「勤続3年未満の退職はポイント換算額の0%支給(不支給)、5年で50%、10年で100%支給」といったルールを設けます。これにより、企業が最も投資を回収したい「入社3〜5年目の中堅層」の流出に強い歯止めをかけることが可能です。ただし、あまりに厳しすぎる支給制限は、採用時に「ブラック企業」というネガティブな印象を与えかねないため、自社の風土や広島の労働市場の相場に合わせた慎重なバランス調整が必要です。

4. 中小企業向け:ポイント制退職金導入のための具体的ステップ

ポイント制退職金を導入し、「長く働きたい」と思わせる組織を作るためには、単に計算用のExcelシートを作り直すだけでは不十分です。人事評価制度と密接に連動させた制度設計が不可欠です。

ステップ1:等級制度(キャリアパス)の再定義

退職金ポイントの土台となるのは、社員のレベルを示す「等級制度」です。ここで重要なのは、以前のコラムでも解説した「複線型キャリア」の考え方を取り入れることです。

マネジメントの道に進む「管理職」だけでなく、現場で高い技術力を発揮する「スペシャリスト(専門職)」の道を選んだ場合でも、同等の高い等級ポイントが貯まる設計にします。これにより、「出世に興味がないから会社を辞める」という優秀な職人やエンジニアの離職を防ぐことができます。

ステップ2:各ポイントの配分とウェイトの決定

等級ポイント、評価ポイント、勤続ポイントの比率をどうするかで、会社が求める人物像が決まります。現代の中小企業において推奨されるのは、「等級・役職(役割の重さ)」と「評価(成果)」の比重を高く設定する設計です。

「普通に業務をこなしているだけの人」と「会社に革新をもたらすような高い成果を出した人」で、年間の付与ポイントに1.5倍から2倍の差をつけることも珍しくありません。この明確な「差(メリハリ)」こそが、優秀な人材にとっての「この会社で努力する理由」になります。

ステップ3:ポイント単価の決定と総額シミュレーション

1ポイントをいくらに設定するか(ポイント単価)を決定します。1ポイント=1,000円、あるいは10,000円など、計算しやすい切りの良い数字にするのが一般的です。
単価が決まったら、現在の全社員が定年まで働いた場合の「将来の退職金支払総額」をシミュレーションします。この総額が企業の財務体力を圧迫しないか、税理士や専門のコンサルタントを交えて慎重に検証する必要があります。

5. 制度移行時の最大の壁「不利益変更」をどう乗り越えるか

既存の退職金制度からポイント制へ移行する際、経営者が直面する最大のハードルが、労働契約法第9条・10条で定められている「不利益変更の禁止」です。会社都合で一方的に社員の既得権を奪い、退職金の見込額を下げることは法律で禁じられています。

既得権の保護(過去分の凍結)

不利益変更を回避するための鉄則は、「これまでに発生している退職金(過去分)は手厚く保護し、制度変更日以降の未来分から新しいルールを適用する」ことです。

具体的には、制度変更日の前日において、全社員が自己都合退職したと仮定した場合の退職金額を計算します。これを「移行時要支給額」として確定(凍結)させます。社員には「これまでのあなたの退職金は1円も減らさずに確保してあります。明日からは、新しいポイント制でさらに加算されていきます」と説明することで、法的なリスクをクリアしつつ、社員の納得感を得ることができます。

丁寧な説明会と個別面談の実施

制度の変更は、社員の将来設計に直結する重大事項です。経営トップ自らが全社員に向けて説明会を開き、「なぜ制度を変えるのか」「会社は将来どうなりたいのか」というビジョンを語ることが不可欠です。さらに、社員一人ひとりに対して、「あなたの場合は移行時の金額が〇〇円で、今後のシミュレーションはこのようになります」という個別明細書を提示し、誠実に同意(合意書への署名)を取り付けるプロセスを踏まなければなりません。

6. 確定拠出年金(企業型DC)とのハイブリッド運用のすすめ

ポイント制退職金をさらに進化させる手法として、企業型確定拠出年金(DC)との組み合わせ(ハイブリッド型)が注目されています。

例えば、毎年の付与ポイントのうち、半分を従来の「退職一時金」として会社で積み立て、残り半分を「企業型DCの掛金」として社員個人の口座に拠出する形です。これにより、社員は掛金を非課税で自分自身で運用して老後資金を増やすチャンスを得られます。会社側にとっても、DCに拠出した分は毎年の費用として処理できるため、将来の退職給付債務を劇的に圧縮できるという強力な財務的メリットがあります。金融リテラシーが高まっている今の若手層にとって、DC制度の有無は企業選びの重要な基準の一つになっています。

7. 経営者様へ:退職金制度の刷新は社員への「未来の約束」である

「退職金制度を変えるのは、専門的な計算が必要で難しそうだし、社員から反発が出そうで怖い」。そう感じて足踏みされる経営者様のお気持ちは痛いほど分かります。しかし、旧態依然とした制度を放置することは、水面下で若手のエンゲージメントを削り、ある日突然の離職という形で経営に大きなダメージを与えます。

退職金制度の設計は、単なる数字のパズルではありません。経営者から社員に対する「君たちの今の頑張りを、会社は一生忘れない。その証として、毎年のポイントを刻んでいく。10年後、20年後、この広島で君たちが幸せな人生を送れるように、この制度を作ったんだ」という、熱を帯びた「未来への約束」であり、強力なメッセージです。

東京の大企業には真似できない、経営者と社員の距離の近さを活かした「血の通った制度」と「安心感の提供」こそが、究極の人材流出防止策となるのです。

用語集

  • ポイント制退職金: 社員の役職、人事評価、勤続年数などを毎年度ポイント化し、その累積にポイント単価を乗じて退職金額を決定する制度。
  • 最終給与連動型退職金: 退職時の基本給をベースに退職金を計算する、日本で長らく一般的であった旧来型の制度。
  • 退職給付債務: 企業が将来、従業員に対して支払うべき退職金や企業年金の総額を、現時点の価値に割り引いて計算した負債のこと。
  • 不利益変更: 企業が労働条件(賃金や退職金など)を、労働者にとって不利益になるように一方的に変更すること。労働契約法により原則として禁止されている。
  • ベスティング(受給権): 一定期間の勤務を経ることで、従業員が退職金を受け取る権利を確定させる仕組み。
  • 企業型確定拠出年金(企業型DC): 企業が掛金を拠出し、従業員自身が金融商品を選択して運用する年金制度。将来の受取額は運用成績によって変動する。

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