保育士の離職を防ぐ人事評価制度とは?若手が辞める「不公平感」を解消する3つのポイント

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    「給与は上げたはずなのに、なぜか若手が辞めていく」
    「人間関係のトラブルが絶えず、中堅層が育つ前に退職してしまう」

    多くの保育園経営者様から、このような切実なご相談をいただきます。
    昨今、行政による処遇改善等加算の拡充により、保育士の給与水準は確実に向上してきました。しかし、それでもなお離職率が下がらない園と、定着率が劇的に改善する園。この二極化が進んでいるのが現状です。

    結論から申し上げますと、その差は「給与の額」ではありません。「評価の納得感」にあります。

    本記事では、多くの保育園の組織改革に携わってきたコンサルタントの視点から、若手保育士が抱える「辞めたい理由」の深層心理を解き明かし、それを解消するための具体的な「人事評価制度」の構築・運用手法について詳しく解説します。

    目次

    なぜ、待遇を改善しても若手は辞めるのか?

    給与額そのものより「納得感」の欠如が離職のトリガーである

    保育業界において、長年課題とされてきた「低賃金」の問題は、処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの活用により、一定の改善が見え始めています。しかし、給与明細の額面が増えても、職員の不満が解消されないケースが後を絶ちません。

    なぜでしょうか。それは、人間が報酬に対して「絶対的な金額」よりも「他者との比較における公平性」を重視する生き物だからです。

    例えば、月給が1万円上がったとしても、隣で「自分より働かない」と思われている先輩職員の給与がさらに高かったり、その差の根拠が不明確だったりする場合、若手職員は感謝するどころか、強い不公平感を抱きます。

    「どれだけ頑張っても、結局は年功序列」「園長先生のお気に入りだけが得をする」

    こうした諦めの感情こそが、早期離職の最大のトリガーとなっているのです。

    コミュニケーション不足と片付けられがちな構造的問題

    多くの園長先生は、職員が辞める際に「人間関係が辛くて」という退職理由を聞かされます。そのため、「もっと懇親会を増やそう」「面談で話を聞いてあげよう」といったコミュニケーション施策に走りがちです。

    確かにコミュニケーションは重要ですが、それだけでは根本解決になりません。人間関係が悪化する背景には、業務分担の偏りや、責任と報酬の不一致といった「構造的な歪み」が存在するからです。この歪みを正さずに会話だけを増やしても、不満のガス抜きにしかならず、いずれ限界が訪れます。

    必要なのは、感情的なケアと並行して、誰もが納得できる「評価の物差し」を用意することなのです。

    【現状分析】現場で起きている「評価のミスマッチ」

    経験年数だけで給与が決まることへの若手の不満

    従来の保育業界では、経験年数に応じて自動的に基本給が上がる「年功序列型」の賃金テーブルが一般的でした。この仕組みは、終身雇用が前提の時代には機能していましたが、人材の流動性が高い現代においては、若手のモチベーションを削ぐ要因になりかねません。

    現代の若手保育士は、ITツールの活用や新しい保育指針への適応など、ベテランとは異なる強みを持っています。入社3年目でクラスリーダーを任され、実質的に現場を回している職員も少なくありません。

    しかし、給与規定が「勤続年数」に偏重していると、どれだけ成果を上げても、給与は「入社10年目の先輩」を絶対に超えられません。
    「仕事量は私のほうが倍なのに、給与は先輩のほうが高い」。この矛盾に気づいた瞬間、優秀な若手ほど「ここでは未来がない」と判断し、他園や異業種へと流出してしまうのです。

    「頑張っている人」が報われない悪平等な分配の実態

    処遇改善等加算の配分方法においても、多くの園で課題が見受けられます。
    配分計算の手間を省くため、あるいは職員間の波風を立てないために、「全員一律配分」や「一律手当」として支給しているケースです。

    一見、平等で平和的な方法に見えますが、これは「頑張っても頑張らなくても貰える金額は同じ」という強烈なメッセージを職員に送ることと同義です。
    これでは、熱意を持って行事の企画や後輩指導に取り組む職員(ハイパフォーマー)の意欲を削ぎます。一方で、必要最低限の業務しかこなさない職員(ローパフォーマー)にとっては居心地の良い環境となり、組織にぶら下がる人材が増えていく結果を招きます。

    これを私は「悪平等」と呼んでいます。この悪平等を断ち切らない限り、組織の新陳代謝は進まず、保育の質の向上も望めません。

    解決策:定着率を高める評価制度 3つの鉄則

    では、具体的にどのような制度を構築すればよいのでしょうか。若手の納得感を醸成し、定着率を高めるためには、以下の3つの鉄則を押さえる必要があります。

    ① 評価基準の「見える化」(何を頑張れば評価されるか明確にする)

    抽象的な言葉を排除し「行動」を定義する

    評価制度を作る際、多くの園でやりがちな失敗が、「協調性がある」「責任感がある」「明るく振る舞っている」といった抽象的な項目ばかりを並べてしまうことです。これでは評価者の主観が入り込みやすく、「園長先生の好みで決まる」という誤解を生みます。

    納得感を高めるには、これらの項目を具体的な「行動事実(コンピテンシー)」に落とし込む必要があります。

    • × 悪い例: 保護者対応が良い
    • 〇 良い例: お迎え時、その日の子どもの様子を必ず一言以上エピソードを添えて伝えている
    • × 悪い例: 協調性がある
    • 〇 良い例: 会議の際、他者の意見を否定せず最後まで聞き、建設的な提案を行っている

    このように、「どのような行動をとれば評価されるのか」が可視化されていれば、若手職員は迷いなく努力の方向性を定めることができます。また、評価する側にとっても、事実に基づいた判定が可能となり、フィードバックの説得力が増します。

    キャリアパス(等級制度)の整備

    「行動」の定義と同時に、キャリアの階段(等級)を明確にすることも不可欠です。
    「初級(1~3年目)」「中級(職務分野別リーダー)」「上級(副主任・専門リーダー)」「管理職(主任・園長)」といった階層を設け、それぞれの段階で求められる役割とスキルを明文化します。

    自分が今どの位置にいて、何を習得すれば次のステップ(昇給・昇格)に進めるのか。この道筋が見えているだけで、将来への不安は大きく軽減されます。

    ② フィードバックの定例化(見てくれているという安心感)

    年1回の査定面談では遅すぎる

    評価制度を導入しても運用で失敗する最大の要因は、「やりっぱなし」です。年に1回、賞与や昇給の時期にだけ結果を通達するような運用では、人材育成の効果は期待できません。
    若手が求めているのは、結果だけでなく「プロセス(過程)」を見てくれることです。

    推奨するのは、少なくとも年に2回、できれば四半期に1回の頻度で面談の場を設けることです。

    • 期首:目標設定(何を頑張るか握り合う)
    • 中間:進捗確認(困っていることはないかサポートする)
    • 期末:評価フィードバック(事実に基づいて称賛・指導する)

    このサイクルを回すことで、職員は「自分のことを見てくれている」という安心感を得ます。評価結果がたとえ期待通りでなかったとしても、途中の対話が十分に重ねられていれば、結果に対する納得感は格段に高まります。

    1on1ミーティングによる心理的安全性の確保

    評価面談とは別に、月1回程度の短い「1on1ミーティング」の導入も効果的です。
    これは評価を下す場ではなく、業務上の悩みやキャリアの相談を聞くための時間です。上司と部下の信頼関係(ラポール)が築かれていれば、離職のサインを早期に察知し、対策を打つことも可能になります。

    ③ 処遇改善加算の配分ロジックの透明化

    加算Ⅱ・Ⅲを等級制度と連動させる

    処遇改善等加算Ⅱ(副主任・専門リーダー等)およびⅢ(全職員のベースアップ等)の配分は、非常に複雑かつセンシティブな問題です。これをブラックボックス化せず、ガラス張りにすることが信頼獲得の鍵となります。

    具体的には、前述の「キャリアパス(等級制度)」と加算の支給対象を明確にリンクさせます。
    「この等級に上がり、指定の研修を受講すれば、月額〇万円の手当が付く」というルールを規程化し、全職員に周知します。

    「なぜあの人が?」をなくす説明責任

    特定の職員に高額な手当が付く場合、周囲への説明がつかなければ不協和音が生じます。
    しかし、「A先生はキャリアアップ研修のマネジメント分野を修了し、今年度は行事リーダーとしてこの成果を出したため、副主任手当を支給しています」と、制度に基づいた合理的な説明ができれば、周囲の不満は「次は私も頑張ろう」という目標に変わります。
    お金の話を隠すのではなく、ルールの下でオープンにする。これが現代の組織運営におけるスタンダードです。

    コンサルタントの視点:制度は「導入」がゴールではない

    人事コンサルタントとして数多くの現場を見てきましたが、立派な評価シートや賃金規定を作っただけで満足してしまうケースが散見されます。しかし、断言します。制度は「運用」されて初めて命が吹き込まれます。

    園長・主任の「評価者スキル」がカギを握る

    どれほど精緻な評価基準を作っても、それを使う評価者(園長や主任)のスキルが未熟であれば、制度は凶器になります。
    「厳しすぎる評価」で意欲を折ることもあれば、「甘すぎる評価」で成長を止めることもあります。また、面談での不用意な一言が、決定的な亀裂を生むこともあります。

    そのため、私たちHRCがコンサルティングを行う際は、制度設計と同じくらい「評価者トレーニング」に時間を割きます。
    「事実と主観を分ける訓練」「やる気を引き出すフィードバックの話法」「目標設定の導き方」。これらをロールプレイングを通じて体得していただくことで、初めて制度が機能し始めます。
    人事評価制度とは、単に給与を決める計算機ではありません。園が目指す保育のビジョンを職員と共有し、共に成長していくための「コミュニケーションツール」なのです。

    成功事例:離職率20%の園が5%以下に改善した軌跡

    実際に、HRCの支援により組織風土が一変したA保育園(定員90名)の事例をご紹介します。

    導入前の課題

    A園では、新卒採用は順調だったものの、3年目前後で退職する職員が後を絶たず、常に離職率が20%前後で推移していました。園長は「最近の若者は忍耐力がない」と嘆いていましたが、職員へのヒアリングを実施すると、別の真実が見えてきました。
    「どれだけ頑張って行事や指導をしても、何もしていないベテラン職員よりボーナスが低い」「評価の基準がわからず、将来が見えない」という声が噴出したのです。

    実施した施策

    1. キャリアパスの策定: 1年目から園長までの7段階の等級を作成し、各段階で必要なスキルと研修要件を定義。
    2. 評価項目の刷新: 「情意評価(やる気)」のウェイトを下げ、「行動評価」と「役割遂行度」を重視した項目に変更。
    3. 加算配分の見直し: 一律支給をやめ、等級と評価ランクに応じた傾斜配分へ移行(シミュレーションを重ね、原資総額は変えずにメリハリをつけた)。
    4. 評価者研修の実施: 園長・主任に対し、全3回の評価者トレーニングを実施。

    導入後の成果

    制度導入から2年後、離職率は5%以下へと劇的に改善しました。
    若手職員からは「次の目標が明確になったので頑張れる」「面談で自分の強みを認めてもらえて嬉しかった」という声が上がり始めました。
    驚くべきことに、以前は変化を嫌っていたベテラン層からも、「役割が明確になったことで、若手に仕事を任せやすくなった」という好意的な反応が得られました。
    結果として、採用コストは大幅に削減され、その浮いたコストをさらなる処遇改善に回すという好循環が生まれています。

    まとめ

    保育士の離職を防ぐために必要なのは、情に訴える引き留めではありません。誰もが公平にチャンスを与えられ、努力が正当に報われる「仕組み(人事評価制度)」です。

    「うちは小規模だから制度なんて必要ない」
    「忙しくて制度を作る時間がない」

    そう思われている園長先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、不透明な評価による不信感は、静かに、確実に組織を蝕んでいきます。職員が辞めてから慌てるのではなく、今こそ足元の制度を見直すべきタイミングではないでしょうか。

    貴園の離職原因は制度にあるかもしれません

    株式会社ヒューマンリソースコンサルタント(HRC)では、保育業界に特化した人事制度の構築・運用を支援しています。
    行政監査に対応した規程の整備から、現場で使える評価シートの作成、そして園長先生向けの評価者研修まで、貴園の実情に合わせたオーダーメイドの解決策をご提案します。

    「現在の賃金規定にリスクがないか知りたい」
    「処遇改善加算の配分シミュレーションをしてほしい」

    まずは、現状のお悩みをお聞かせください。初回相談は無料にて承っております。以下のリンクより、お気軽にお問い合わせください。

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