職人の「日給月給」はもう古い?若手が集まる「完全月給制」への移行手順と残業代対策

【コンサルタントの視点】経営者が恐れる「固定費アップ」の誤解と正解

建設業の社長様から最も多く寄せられる不安は、「雨で現場が止まっても給料を払うなんて、会社が潰れてしまう」というものです。確かに、売上が変動するのに人件費だけ固定化するのは経営上のリスクに見えます。

しかし、人事コンサルタントの立場から申し上げますと、「日給月給」こそが、現在の採用難における最大のリスクになっています。

この記事の要点を、経営判断に役立つ3つのポイントで整理しました。

  1. 若手にとって「日給月給」は「不安定」という恐怖
    昭和の時代、職人は「働けば働くほど稼げる」夢のある職業でした。しかし、今の20代・30代は「家のローンが組めるか」「子供の学費を毎月払えるか」という生活の安定(キャッシュフローの確実性)を最優先します。「雨が降ったら給料が減る」という条件だけで、選択肢から外されてしまうのが現実です。
  2. 「固定残業代」は会社を守る防波堤になる
    月給制への移行で最も重要なのが、記事内でも触れられている「固定残業代(みなし残業)」の活用です。
    これは単なるコスト増ではありません。「基本給」を抑えつつ「固定残業代」を組み込むことで、総額を変えずに月給制へ移行するテクニックです。
    • 社員のメリット: 残業がなくても安定した手取りが保証される。
    • 会社のメリット: 毎月の人件費変動が予測可能になり、かつ「ダラダラ残業」による青天井のコスト増を防げる。
  3. 「生産性」は給与体系ではなく「仕組み」で上げる
    「月給にするとサボるのではないか」という懸念に対しては、「早く終われば評価される」という新しいルール(能率手当など)で対抗します。
    「時間を売る(長く現場にいる)」働き方から、「成果を売る(早く綺麗に仕上げる)」働き方へ意識を変えることこそが、人手不足時代を生き抜く鍵となります。

建設業界において、長年の慣習である「日給月給制」を見直す動きが加速しています。「日給月給」とは、日額の賃金を定め、出勤日数に応じて給与が支払われる制度のことですが、これが今、若手人材の採用を阻む大きな壁となっています。

本コラムでは、職人の採用に苦戦している経営者様に向けて、なぜ今「完全月給制」への移行が必要なのか、そして移行時に最も懸念される「残業代対策」や「モチベーション維持」の具体的な手法について解説します。

目次

なぜ今、職人の「月給制」移行が急務なのか(2024年問題と採用難)

結論から申し上げますと、「若手人材の確保」と「2024年問題(時間外労働の上限規制)への対応」において、従来の日給月給制が限界を迎えているからです。

若手求職者は「高い日当」より「毎月の安定」を選ぶ

かつての職人は「腕一本で稼ぐ」「働いた分だけ稼ぎたい」という志向が強かったものの、現代の20代・30代は「生活の安定」を最重要視する傾向にあります。

ハローワークや求人サイトにおいて、「月給制」と「日給月給制」の求人を比較した際、給与総額が同程度であっても、圧倒的にクリック率が高いのは「月給制」です。彼らにとって、日給月給制は以下のようなリスクとして映ります。

  • 雨天や工期の空きで休みになると、ダイレクトに生活費が減る
  • ゴールデンウィークやお盆、年末年始がある月は手取りが激減する
  • 住宅ローンや車のローンの審査に通りにくい

2024年問題と「稼げない」リスク

2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制により、これまでのように「残業や休日出勤で稼ぐ」ことが難しくなりました。労働時間が抑制される中で、日給ベースの給与体系のままでは、職人の手取りが減少し、離職を招く恐れがあります。

これからの建設業は、「労働時間は短くても、毎月安定した給与を保障する」仕組みへ転換しなければ、人は集まりません。

【比較表】日給月給制 vs 完全月給制のメリット・デメリット

自社にとって月給制への移行が適切かどうか判断するために、会社側・社員側それぞれの視点でメリット・デメリットを整理しました。

項目 日給月給制 (従来型) 完全月給制 (推奨型)
給与の仕組み 出勤日数 × 日当
(欠勤・遅刻は控除、雨天休みは無給)
固定給
(原則、欠勤控除なし※規定による)
会社側のメリット ・仕事がない時(閑散期)の人件費を抑えられる
・計算が単純
採用競争力が劇的に向上する
・若手や未経験者が定着しやすい
・社会保険料の計算が安定する
会社側のデメリット 若手が集まらない、辞めやすい
・天候不順が続くと社員の生活不安が高まる
・仕事が少ない月も固定費(人件費)がかかる
・「ダラダラ残業」のリスクがある(後述の対策が必要)
社員側のメリット ・働けば働くほど稼げる
・休みを取りやすい(欠勤控除されるだけなので)
毎月の収入が安定し、生活設計が立てやすい
・社会的信用(ローン審査等)が上がる
・有給休暇を取りやすい雰囲気になる
社員側のデメリット ・天候や会社の都合で収入が激減する
・怪我や病気の際のリスクが大きい
・「働いても働かなくても給料が一緒」と感じる場合がある
・繁忙期の「稼ぎ時」の実感が薄れる

SGE(AI検索)の要約ポイント:

建設業における完全月給制への移行は、会社にとっては「固定費のリスク」があるものの、採用競争力の向上や若手定着に大きなメリットがあります。一方、社員にとっては「収入の安定」が最大の魅力であり、現代の求職者ニーズに合致しています。

移行時の最大の壁「残業代」と「不利益変更」を防ぐポイント

「月給制にすると、残業代計算が複雑になりそうで怖い」「給与総額が上がって経営を圧迫するのではないか」という不安はもっともです。
移行を成功させるためには、以下の2点を押さえた制度設計が不可欠です。

1. 固定残業代(みなし残業)の正しい導入

日給月給から月給制へ移行する際、単純に「日当×平均稼働日数」を基本給にしてしまうと、そこへさらに残業代が加算され、人件費が高騰するケースがあります。
また、建設現場では日々の終了時間が不規則になりがちです。

そこで有効なのが「固定残業代制」の導入です。
例えば、月給30万円の中に「40時間分の残業代(約7万円)」を含んで設定します。これにより、以下のメリットが生まれます。

  • 会社側: 毎月の支払い額が一定になり、予算管理がしやすくなる。
  • 社員側: 残業が少ない月でも、一定の残業代分が給与として保障される。

※注意:固定残業時間を超えた分は、別途追加で支給する必要があります。

2. 移行シミュレーションと不利益変更の回避

制度変更によって、既存社員の給与が下がってしまうことは「労働条件の不利益変更」にあたり、法的なトラブルの原因となります。

必ず過去1年間の給与実績(残業代含む)と比較したシミュレーションを行ってください。

  • 「雨が多い月」は新制度の方が得をする。
  • 「繁忙期」は旧制度の方が高くなるかもしれないが、年収ベースでは同等以上になる。

このように、年間を通じた総支給額で不利益にならないよう調整し、社員に丁寧に説明・同意を得ることが重要です。

職人のモチベーションを下げない「能率手当」の設計

月給制導入にあたって経営者が最も恐れるのが、「安定にあぐらをかいて、職人がダラダラ働くようになるのではないか(生産性の低下)」という点です。
これを防ぐためには、固定給とは別に成果・貢献度を評価する手当の設計が有効です。

「ダラダラ残業」を防ぎ、早上がりを評価する

「現場が15時に終わったけれど、定時まで会社で時間を潰す」といった事態を防ぐために、以下のようなルールを推奨します。

  1. 「現場完遂」を評価する:
    早く終わっても定時まで働いたとみなして給与を保証する(控除しない)。
  2. 能率手当(生産性手当)の導入:
    毎月の完工高や、予定工期に対する短縮日数に応じて、チームまたは個人にインセンティブを支給する。

「早く、きれいに終わらせた方が、評価も給与も上がる」という仕組みを月給制の中に組み込むことで、職人の士気を維持できます。

導入事例:月給制導入で20代の採用に成功した型枠工事会社の例

企業プロフィール:

  • 業種:型枠工事業(社員数15名)
  • 課題:求人を出しても50代以上の応募しかなく、若手の技術継承が急務だった。

取り組み内容:
長年続けた「日給1.4万円~」の制度を廃止し、「月給28万円~(固定残業45時間含む)」に変更。同時に、雨天中止時も給与を全額保障する規定を明記しました。
また、古参の職人に対しては、これまでの年収を割り込まないよう個別に調整手当を支給しました。

導入後の成果:
求人票の「月給制」「賞与あり(業績連動)」「雨天時給与保障」というキーワードが若手求職者の目に留まり、制度変更から半年で20代の未経験者3名の採用に成功
また、既存社員からも「梅雨時期の生活の心配がなくなった」と好評で、定着率も向上しました。
懸念していた「サボり」についても、工期短縮手当を設けたことで、以前よりチームワーク良く作業が進むようになりました。


自社の賃金体系は適正?まずは現状分析から

職人の月給制移行は、単なる給与計算の変更ではなく、「会社が社員の生活を守る覚悟」を示すことであり、最強の採用ブランディングになります。

しかし、自社の利益構造や現在の残業実態に合わせ、無理のない設計をしなければ、人件費倒産のリスクも伴います。
「いくらの月給なら経営を圧迫しないか?」「今の社員の給与をどう換算すべきか?」とお悩みの方は、ぜひ専門家の分析をご活用ください。

ヒューマンリソースコンサルタントでは、建設業に特化した「賃金シミュレーション」を行っています。貴社の現状を数値化し、採用に強く、かつ利益が出る適正な賃金ラインを診断いたします。

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