飲食業界のキャリアパス設計事例|「店長止まり」を防ぎ、独立・SVへ導く仕組み

飲食業向け

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    「求人を出しても、応募が来ない。来てもすぐに辞めてしまう」
    「30代になった優秀な店長が、『将来が不安だ』と言って異業種に転職してしまう」

    飲食業界の経営者様から寄せられる相談の中で、最も深刻で、かつ解決が難しいのがこの「人」の問題です。
    美味しい料理を提供し、接客レベルを高め、売上を作れるようになっても、それを担う人材がいなければ店舗展開は止まります。無理な拡大は、既存店の崩壊さえ招きます。

    なぜ、飲食業界はこれほどまでに人が集まらないのでしょうか。
    なぜ、ある程度育った中堅社員ほど会社を去っていくのでしょうか。

    その根本原因は、労働環境の厳しさだけではありません。最大の要因は、「その会社で働き続けた先の『未来』が見えないこと」にあります。

    「店長まではイメージできる。でも、その先は? 40代、50代になっても現場で走り回れるのか? 給料は頭打ちになるのではないか?」
    この問いに対して、明確な答え(キャリアパス)を用意できていない企業が多すぎます。

    本稿では、数多くの飲食企業の組織改革を支援してきた人事コンサルタントの視点から、社員が「この会社で長く働き続けたい」と思えるキャリアパスの設計手法と、採用競争力を劇的に高めるための仕組みづくりについて解説します。

    目次

    【課題】「飲食=ブラック・将来性がない」というイメージをどう払拭するか

    採用活動において、飲食業界は極めて厳しいハンデを背負っています。世間一般に浸透してしまった「飲食=ブラック」「使い捨て」「若いうちしか働けない」というネガティブなイメージです。まずはこの誤解を解き、現実的な未来を示す必要があります。

    若手が「店長になりたくない」本当の理由

    かつては「一国一城の主」として憧れの対象だった店長職ですが、今の若手社員にとっては「罰ゲーム」のように映っていることがあります。
    彼らが現場で目撃しているのは、休日にシフトの穴埋めで出勤し、クレーム対応に追われ、上層部からは数字を詰められ、それでも給料はそこそこという、疲弊しきった店長の姿だからです。

    ロールモデルの不在が招く「将来への絶望」

    さらに深刻なのは、「その先の姿」が見えないことです。
    エリアマネージャーやSV(スーパーバイザー)のポストは限られています。本部に行けるのはほんの一握り。そうなると、「ずっと店長」か「独立」か「退職」かの三択しかありません。

    30代で結婚し、子供が生まれたとき、土日も休めず夜も遅い生活を続けられるのか。体力的に現場に立ち続けられるのか。
    社内に、いきいきと働く40代、50代のロールモデルが不在であること。これこそが、若手が「店長になりたくない(=昇進したくない)」と考える最大の理由であり、早期離職の引き金となっています。

    採用競合は「他の飲食店」ではない

    経営者が認識すべき重要な事実は、採用におけるライバルは近隣の飲食店だけではないということです。
    働き方改革が進んだ現在、IT業界、物流業界、介護業界など、他業界も必死で人材を取り合っています。
    「うちは飲食だから、休みが少なくて当たり前」「給料が安くて当たり前」という甘えは通用しません。

    選ばれるために必要な「構造改革」

    求職者は、スマホ一つで企業の待遇を横並びで比較します。

    • 完全週休2日制(年間休日110日以上)
    • 明確な昇給制度
    • 長期的なキャリアプラン

    これらが整備されていない飲食企業は、比較検討の土俵にすら上がれません。
    「やりがい」や「夢」を語る前に、まずは企業としての「足腰(制度)」を整える。これが採用力強化の絶対条件です。

    【仕組み】評価制度と連動した「複線型キャリアパス」の設計論

    では、具体的にどのようなキャリアパスを描けばよいのでしょうか。
    正解は一つではありませんが、成功している飲食企業に共通しているのは、「店長一択」からの脱却、すなわち「複線型キャリアパス」の導入です。

    「店長一択」からの脱却:3つのコース設計

    社員の適性や志向は様々です。「人の上に立ちたい人」もいれば、「現場でお客様と接し続けたい人」も、「自分の店を持ちたい人」もいます。
    これら全ての受け皿を用意することで、離職を防ぎ、多様な人材の定着を図ることができます。

    マネジメントコース(幹部候補):組織を動かす

    従来の出世コースです。
    店長 → エリアマネージャー → 統括部長 → 役員 とステップアップします。
    数値管理能力、人材育成能力、戦略立案能力が求められます。
    このコースの肝は、ポスト不足を解消するための「役職の細分化」です。単に「SV」とするのではなく、「ジュニアSV(3店舗管理)」「シニアSV(10店舗管理)」のように段階を設け、昇進の機会を増やします。

    スペシャリストコース(職人・専門職):技を極める

    マネジメントは苦手だが、調理技術や接客スキルは超一流。そんな職人肌の社員を評価するコースです。
    「総料理長」「マイスター」「トップソムリエ」「サービス・トレーナー」といった役職を用意します。

    重要なのは、「部下を持たなくても、部長クラスの給与が得られる」という賃金設計です。
    「現場を極めれば、ここまで稼げる」という道を示すことで、現場志向の優秀な人材を繋ぎ止めることができます。

    独立支援コース(暖簾分け・FCオーナー):経営者になる

    「いつか自分の店を持ちたい」という野心ある社員向けのコースです。
    従来のような「なんとなく応援する」レベルではなく、制度として確立させます。

    • 社内暖簾分け制度: 既存の黒字店舗を、屋号ごと譲渡または運営委託する。
    • FC独立制度: フランチャイズオーナーとして独立を支援し、加盟金免除などの優遇を行う。

    会社としては、優秀な社員が競合になるのではなく、パートナー(加盟店オーナー)としてグループに残ってくれるため、Win-Winの関係を築けます。

    キャリアパスを絵に描いた餅にしないための「要件定義」

    コースを作っても、昇格基準が曖昧では機能しません。「どうすればそのコースに行けるのか」を可視化する必要があります。

    各ステップに必要なスキルと評価基準の明確化

    各コース、各等級に求められる要件(コンピテンシー)を定義します。

    • SVになるには: 「担当店舗の昨対比売上105%達成」「店長を2名輩出」「FLコスト管理テスト合格」など。
    • マイスターになるには: 「社内調理コンテスト優勝」「新人研修講師を10回担当」など。

    これらを「キャリアマップ」として全社員に公開します。自分の現在地と、次に行くために必要な切符(スキル)が明確になることで、社員の学習意欲に火がつきます。

    飛び級やコース変更の柔軟性

    人の考え方は変わります。「若い頃は独立したかったが、結婚して安定したSVになりたくなった」「現場を離れたが、やっぱりお客様と接したい」というケースは多々あります。
    年に1回、「キャリア申告制度」を設け、コース変更を可能にする柔軟性を持たせてください。一度レールに乗ったら降りられない硬直的な制度は、逆に閉塞感を生みます。

    【事例】「見える化」が採用を変える:年収モデルと退職金制度

    キャリアパスという「道」を作ったら、次はその道を進んだ先に得られる「果実(報酬)」を明確にします。ここを隠さずオープンにすることが、採用における最強の武器になります。

    求職者が一番知りたい「生涯賃金」の提示

    求人票に「月給25万円〜」とだけ書いても、誰も応募してきません。求職者が知りたいのは、「入社して5年後、10年後、自分はどうなっているか」という具体的な未来図です。

    具体的なモデル年収の公開(25歳、35歳、45歳)

    採用HPや会社案内で、実在の社員のモデル年収を公開します。

    • 入社3年目(25歳・店長): 年収420万円
    • 入社8年目(30歳・SV): 年収550万円
    • 入社15年目(40歳・部長): 年収700万円

    このように年齢と役職、そして年収をセットで提示します。
    特に重要なのは、「40代以上のモデル」を見せることです。「この会社なら、歳をとっても家族を養えるだけの給与が得られる」という安心感こそが、親御さんや配偶者からのブロック(反対)を突破する鍵となります。

    夢を見せるための「トップ層」の報酬設計

    現実的な安心感と同時に、「夢」も必要です。
    「成果を出せば、飲食業界でも年収1,000万円は可能だ」ということを制度として示してください。
    例えば、営業利益の一部をインセンティブとして還元する仕組みや、前述の独立制度によるオーナー収入の実績などです。
    トップ層が高い報酬を得ている事実は、若手社員にとっての強烈なモチベーションとなります。

    飲食業界の常識を覆す「退職金制度」の導入効果

    「飲食店に退職金なんてあるわけない」
    この業界常識を逆手に取ることが、採用での差別化ポイントになります。HRCが推奨する最大の定着施策の一つが、この退職金制度の導入です。

    なぜ飲食店に退職金が必要なのか(親御さんブロック対策)

    新卒採用や若手の中途採用において、最終的な決定権を持っているのは実は本人ではなく、その親や配偶者であるケースが少なくありません。
    「飲食なんて不安定な仕事、やめておきなさい」
    そう言われたとき、本人が反論できる材料を会社が用意してあげる必要があります。
    「この会社はしっかりしていて、退職金制度もあるんだよ」という事実は、企業の「永続性」と「社員を大切にする姿勢」の証明となり、周囲の理解を得るための強力なカードになります。

    勤続年数×貢献度で積み上げる「ポイント制退職金」の仕組み

    とはいえ、中小企業で大企業のような多額の退職金を用意するのは困難です。
    そこでおすすめしているのが、「ポイント制退職金」です。
    単に長く勤めれば増えるのではなく、

    • 勤続ポイント(1年で10ポイント)
    • 評価ポイント(S評価なら50ポイント、A評価なら30ポイント)
    • 役職ポイント(店長なら30ポイント)

    このように、毎年の貢献度をポイント換算して積み立てていく仕組みです。
    「若いうちから頑張って成果を出せば、将来これだけの退職金になる」ということがシミュレーションできるため、若手の定着とモチベーションアップに直結します。

    成功事例:採用コストが半減し、定着率が倍増したA社の取り組み

    実際にある地方の飲食チェーン(50店舗規模)の事例です。
    以前は「店長止まり」のキャリアしかなく、30代中盤での離職が相次いでいました。採用費に年間数千万円をかけても穴の空いたバケツ状態でした。

    そこで、以下の改革を行いました。

    1. 複線型コースの導入: 「SVコース」と「独立コース」を新設。
    2. 退職金制度の導入: ポイント制退職金を導入し、採用サイトで大々的にPR。
    3. 評価制度の刷新: キャリアパスと連動した明確な等級制度を構築。

    制度導入前後の変化と具体的な数値

    導入から2年後、劇的な変化が起きました。

    • 離職率: 25% → 8% に激減。
    • 採用単価: 応募者が増えたことで媒体ランクを下げても集まるようになり、一人当たりの採用コストが50万円から25万円に半減。
    • 社員の意識: 「どうせ辞めるから」という空気が消え、「どうすれば上のランクに行けるか」という前向きな会話が増えた。

    制度を変えることは、単なるルールの変更ではなく、会社の「文化」を変えることと同義です。

    会社を魅力的に見せるための「制度設計」という投資

    キャリアパスや退職金制度の構築は、決して安い買い物ではありません。時間も労力も、コストもかかります。
    しかし、毎年数百万円、数千万円を採用費に消えさせていくコストに比べれば、遥かに安上がりで、かつ資産として残る「投資」です。

    キャリアパスは企業の意思表示

    求職者は敏感です。
    「とりあえず人手が欲しいから募集している会社」と、「社員の人生を本気で考えている会社」の違いを、制度の端々から感じ取ります。
    魅力的なキャリアパスを提示することは、「私たちはあなたを使い捨てにしない。一緒に成長していこう」という企業からの強力なメッセージです。

    独自制度の構築ならHRCへ

    とはいえ、自社だけでゼロからキャリアパスを作り、賃金規定を変更し、退職金原資をシミュレーションするのは至難の業です。
    パッケージ化された一般的な人事制度では、飲食業界特有の働き方やキャリア観に対応できません。

    私たちヒューマンリソースコンサルタント(HRC)は、飲食業界に特化した人事制度構築のプロフェッショナルです。

    • 貴社の理念やビジョンに合わせたオリジナルキャリアパスの設計
    • 経営を圧迫しない、現実的な退職金制度のシミュレーション
    • 求職者に響く、採用HPへの見せ方・打ち出し方のアドバイス

    これらをトータルでサポートし、「人が辞めない、人が集まる」強い会社作りをお手伝いします。

    「今の会社の規模で、退職金なんて導入できるのか?」
    「独立支援制度を作りたいが、トラブルが怖い」

    そのような疑問や不安をお持ちの経営者様は、ぜひ一度無料相談をご利用ください。
    他社の成功事例を交えながら、貴社に最適なプランをご提案させていただきます。

    未来が見える会社には、未来ある人材が集まります。
    今の苦しい採用スパイラルから抜け出す第一歩を、ここから踏み出しましょう。

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