介護職員が辞めない処遇改善加算の配分法|人事評価・賃金制度ガイド

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    2024年(令和6年)度の介護報酬改定は、介護業界にとって過去最大級の転換点となりました。最大の目玉である「処遇改善加算の一本化」。国は介護職員の処遇を改善し、他産業への人材流出を食い止めようと必死です。

    しかし、現場の最前線に立つ経営者や施設長の実感はどうでしょうか。「加算額は増えたはずなのに、職員の定着率は変わらない」「賃上げしたのに、むしろ不満の声が聞こえてくる」。そんな矛盾に頭を抱えているケースが後を絶ちません。

    なぜ、給料を上げても人は辞めるのか。答えはシンプルです。「配り方」に戦略がないからです。

    本稿では、新・処遇改善加算を単なるコストアップ要因にせず、組織を強くするための原資に変えるための「賃金制度」と「人事評価制度」の設計論を、実務レベルまで落とし込んで解説します。これは、教科書的な制度論ではなく、数多の介護現場で「人が定着する組織」への変革を支援してきたコンサルタントとしての実践知です。

    目次

    第1章:なぜ「処遇改善加算」が離職の引き金になるのか?

    「お金を配れば職員は喜ぶ」。この思い込みこそが、組織崩壊の第一歩です。加算の拡充は、適切に扱わなければ劇薬となります。現場で起きている「意図せぬ副作用」を直視することから始めましょう。

    1. 現場を凍り付かせる「給与の逆転現象」

    処遇改善加算の要件は複雑化していますが、多くの事業所が陥りやすいのが「一律配分」「手当への上乗せ」による対応です。計算の手間を惜しみ、全職員に同額の処遇改善手当を支給する。あるいは、夜勤回数の多い職員に厚く配分する。

    この結果、何が起きるか。入社1年目の新人職員の手取り額が、10年選手のベテランリーダーや、責任の重い役職者の給与に肉薄してしまうのです。場合によっては、新人の給与が上回る「逆転現象」すら発生します。

    ユニットリーダーは、日々のケアに加え、シフト作成、新人指導、家族対応、事故報告書の作成など、重圧のかかる業務を背負っています。「責任ばかり重くて、給料は新人と同じ。これなら平社員に戻って夜勤だけしていた方がマシだ」。そう感じた瞬間、組織の要であるミドル層のモチベーションは完全に折れます。彼らの離職は、現場の崩壊を意味します。

    2. 「手当」依存が生む将来不安

    基本給には手を付けず、加算分をすべて「処遇改善手当」として支給する手法も一般的です。経営側からすれば、加算が減額された際のリスクヘッジになります。

    しかし、受け取る職員側はどう捉えるでしょうか。「基本給が低いままだと、賞与も退職金も上がらない」「加算制度が変わったら、給料が下がるかもしれない」。手当という名称がついている限り、それは「おまけ」であり、生活給としての安心感には繋がりません。

    住宅ローンを組み、子供を育てようとする若手・中堅層にとって、将来設計が見えない賃金体系は、転職を検討する十分な理由になります。

    3. 「やったもん損」の悪平等

    「みんな仲良く一律評価」。聞こえは良いですが、これは「頑張らない人」を守り、「頑張る人」を搾取する仕組みになりかねません。

    どれだけ丁寧にケアをしても、どれだけ業務改善を提案しても、評価も給与も変わらない。一方で、頻繁に遅刻し、ケアが雑な職員も同じ処遇を受ける。この状況下では、高い志を持った職員ほどバカらしくなり、去っていきます。残るのは、現状維持を望む変化に弱い職員ばかり。これでは、サービスの質が向上するはずがありません。

    第2章:【完全解説】新・処遇改善加算に対応した「勝てる賃金制度」の設計図

    では、どうすればよいのか。正解は、加算を原資として活用しつつ、法人の持ち出しリスクをコントロールできる「戦略的な賃金制度」への組み換えです。

    キャリアパス要件を「現場の地図」に変える

    処遇改善加算を取得するための「キャリアパス要件」。これを単なる書類上の規定で終わらせてはいけません。職員が「この会社でどう成長すれば、どう給与が上がるのか」をイメージできる、具体的なロードマップにする必要があります。

    まず、職員を能力や役割に応じて等級分けします。「1等級:定型業務ができる」「2等級:後輩指導ができる」「3等級:チーム運営ができる」といった具合です。重要なのは、各等級に求められる要件を、誰が見ても分かる言葉で定義することです。

    その上で、新加算の配分をこの等級制度に連動させます。上位等級ほど配分を手厚くし、キャリアアップへのインセンティブを働かせる。これにより、「長く働けば給料が上がる」という年功序列ではなく、「役割を果たせば給料が上がる」という健全な競争原理が働きます。

    基本給の「ベースアップ」への転換

    国は現在、加算分の一部を月額賃金(基本給など)に充てることを強く推奨しています(ベースアップ等支援加算の統合など)。経営者にとっては固定費増となるため勇気のいる決断ですが、採用競争力を高めるには避けて通れません。

    ここで活用すべきなのが、綿密な「賃金シミュレーション」です。

    • 現在の収支構造
    • 加算の受給見込み額
    • 職員の年齢構成と昇給予測
    • 社会保険料の法人負担増

    これらを今後5年、10年のスパンで試算します。「ここまでなら基本給に乗せても経営は揺るがない」という損益分岐点を見極めること。勘や度胸ではなく、数字に基づいた経営判断こそが、職員に安心できる給与を提示するための土台となります。

    モデル賃金の公開が採用を変える

    ハローワークや求人サイトに載せる給与欄。「月給20万円~25万円」という表記だけでは、求職者の心には響きません。

    整備した賃金制度に基づき、「入社3年目・介護福祉士・リーダー職:年収〇〇万円」「入社5年目・ケアマネジャー:年収〇〇万円」という具体的なモデル賃金を提示します。キャリアパスと連動した「未来の年収」を見せることで、目先の時給だけでなく、将来の安定を求める質の高い層からの応募期待値を高めることができます。

    第3章:現場が納得する「介護特化型」人事評価制度の作り方

    賃金制度という「ハード」を整えたら、それを運用する「ソフト」、すなわち人事評価制度が必要です。介護現場における評価は、営業職のように「売上」という明確な数字が出ないため、非常に繊細な設計が求められます。

    「好き嫌い評価」からの脱却

    評価制度導入で最も現場が恐れるのが、「施設長のお気に入りが評価される」ことです。この不信感を払拭しない限り、どんな立派なシートを作っても運用は失敗します。

    公平性を担保する鍵は、「評価項目の具体化」にあります。「積極性がある」「協調性がある」といった曖昧な言葉は排除しましょう。解釈の幅が広すぎるからです。

    × 協調性がある
    〇 会議や申し送りで、自らの意見を発言している
    〇 欠勤者が出た際、シフト調整に協力的な姿勢を見せている

    × 利用者に寄り添っている
    〇 利用者の体調変化に気づき、看護職員へ速やかに報告している
    〇 認知症利用者の拒否に対し、否定せず受容的な対応ができている

    このように、誰が見ても「できている/できていない」が判断できる「行動事実(コンピテンシー)」を評価基準に据えます。これが「行動評価」です。

    職種別の評価ポイント具体例

    介護事業所には多様な職種が混在しています。画一的な評価シートではなく、職種ごとの専門性を尊重した項目設定が、職員の納得感(エンゲージメント)を高めます。

    1. 介護職員(ヘルパー)
    身体介助の技術だけでなく、「気づき」と「報告」を重視します。ヒヤリハットの提出数や、事故防止への取り組み、多職種との情報共有がスムーズかどうかがポイントです。
    2. 看護職員
    医療的ケアのスキルに加え、介護職員への「指導力」や「連携姿勢」を評価します。医療の視点を押し付けるのではなく、生活の場としての介護現場を理解し、チームケアに貢献しているかを見ます。
    3. ケアマネジャー・相談員
    稼働率への貢献(営業数値)も大切ですが、利用者・家族との信頼関係構築、クレーム対応、書類作成の正確性や期限遵守といった実務遂行能力をバランスよく評価します。

    「マイナス評価」ではなく「育成」のために

    評価制度を「給料を下げるための道具」と勘違いしている職員は多いものです。導入時には、「これは皆さんの給料を減らすためではなく、頑張っている人が報われるため、そして何より皆さんが成長するための地図だ」というメッセージを、経営トップの言葉で繰り返し伝える必要があります。

    評価結果が悪かったとしても、それは「能力がない」のではなく、「今の等級に求められる行動が不足している」という事実確認に過ぎません。「次はここを意識すれば評価が上がる」という具体的な目標設定につなげること。これこそが、人材育成の本質です。

    第4章:制度を「絵に描いた餅」にしない運用の鉄則

    立派な制度を作っても、運用されなければ意味がありません。多くの事業所が、導入後1年以内に運用を形骸化させてしまいます。その原因と対策を知っておくことが、成功への近道です。

    運用負荷を減らす工夫

    現場は常に人手不足で多忙です。A4用紙5枚にも及ぶ詳細すぎる評価シートや、複雑な計算式が必要な評価ルールは、現場の負担にしかなりません。

    • 評価項目は必要最小限に絞る(1職種あたり20項目程度など)。
    • スマホやタブレットで入力できるシステムを導入する。
    • 評価期間を繁忙期(年末年始など)とずらす。

    「現場が回る」ことを最優先に設計しなければ、制度は確実に頓挫します。

    評価者(管理者)への教育投資

    制度運用のキーマンは、実際に評価を行う施設長やリーダーたちです。しかし、彼らは「ケアのプロ」であっても「評価のプロ」ではありません。部下を正しく評価し、面談でモチベーションを上げるスキルは、先天的なものではなくトレーニングで身につけるものです。

    評価者研修(考課者訓練)を実施し、「評価エラー(ハロー効果や中心化傾向など)」の知識や、面談での傾聴スキルを学ばせる機会を設けてください。評価者が自信を持って制度を運用できるようになること、それが組織の信頼感を醸成します。

    フィードバック面談は「対話」の場

    評価結果を紙で渡して終わり、では何の効果もありません。必ず面談を行い、「なぜこの評価になったのか」を説明し、本人の言い分にも耳を傾けるプロセスが不可欠です。

    この面談は、上司が一方的に説教をする場ではありません。「今後どうなりたいか」「どんな仕事に挑戦したいか」という未来の話を共有する場です。たった15分の面談でも、自分のことを見てくれているという実感があれば、職員の帰属意識は大きく向上します。

    第5章:よくある質問とトラブルシューティング

    ここで、人事制度改革を検討中の経営者様からよく寄せられる疑問について、Q&A形式で回答します。

    Q. 職員数20名以下の小規模な事業所ですが、本格的な制度は必要ですか?

    A. 必要です。小規模だからこそ、経営者や管理者の「属人的な評価」が目立ちやすく、不満の温床になります。むしろ、小規模な組織ほど、シンプルなルールを導入することで風通しが良くなり、一体感が生まれる効果が高いといえます。

    Q. パート職員も評価の対象にすべきですか?

    A. はい、対象にすべきです。新加算や同一労働同一賃金の観点からも、パート職員の戦力化は不可欠です。正社員と同じ項目である必要はありませんが、シフト貢献度やスキルに応じた時給アップのルールを設けることで、定着率は劇的に改善します。

    Q. コンサルタントに頼むメリットは何ですか?

    A. 自社だけで制度を作ると、どうしても「手前味噌」になりがちで、法的な整合性(就業規則との連動など)や、市場相場とのズレを見落とします。また、職員に対して「第三者の専門家が入って作った公平な制度だ」と説明できることは、納得感を醸成する上で非常に大きな武器になります。

    第6章:専門家と共に創る「人が辞めない」未来

    処遇改善加算への対応は、面倒な事務作業ではありません。貴社の組織を筋肉質に変え、選ばれる事業所へと進化させる絶好のチャンスです。

    しかし、賃金制度と評価制度の構築は、経営戦略、財務、労務管理、そして現場心理への深い理解を必要とする総力戦です。日常業務に追われる経営者様や事務長様だけで完遂するのは、あまりにハードルが高いのが現実です。

    「制度を作ったが、現場から総スカンを食らった」
    「賃金シミュレーションが甘く、経営を圧迫してしまった」

    このような失敗を避けるために、私たちヒューマンリソースコンサルタント(HRC)が存在します。

    私たちは、パッケージ型の制度を押し付けることはしません。貴社の理念、地域性、職員の顔ぶれを深く理解し、現場が「これなら納得できる」と思えるオーダーメイドの制度を設計します。

    HRCのコンサルティングの特徴は以下の3点です。

    1. 徹底的な現状分析とシミュレーション
      近隣競合との賃金比較、加算配分の最適化を数値で可視化し、経営の安全性を担保します。
    2. 現場負担を考慮した運用設計
      忙しい現場でも回せるシンプルな評価フローと、ITツールの活用を提案します。
    3. 「作りっぱなし」にしない運用保証
      制度導入後2年間、評価会議への同席やエラー修正を行い、制度が文化として定着するまで伴走し続けます。

    「人が辞めない、人が育つ、利益が出る」。そんな好循環を生み出す人事制度を、私たちと一緒に作り上げませんか。

    現状の賃金バランスが適正かどうかの診断からでも構いません。まずは貴社の悩みをお聞かせください。プロフェッショナルとして、解決への道筋を明確に提示いたします。

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    貴社の賃金体系は、新加算に対応できていますか? 現在の離職原因がどこにあるのか、客観的なデータで分析します。

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    • 加算配分のルールが決まっておらず、場当たり的な対応になっている
    • 職員の定着率が悪く、採用コストがかさんでいる
    • 評価制度はあるが、形骸化しており機能していない

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      慢性的な人材不足や複雑な処遇改善加算への対応など、介護業界特有の課題を解決する人事戦略を公開。職員のモチベーションを高め、離職を防ぐための公平な評価制度やキャリアパスの構築法とは?加算要件を確実に満たしつつ、経営と現場の双方が納得できる賃金体系の設計について、数多くの施設を支援してきた専門コンサルタントが実例を交えて解説します。

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