介護職が辞めない事業所は何が違う?「キャリアパスの見える化」が定着率を劇的に変える理由

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    「処遇改善加算を最大限活用して給与を上げた。それでも職員が辞めていく」
    「採用しても、これから戦力になるという3年目のタイミングで退職を申し出られる」

    多くの介護経営者様から、このような悲痛な叫びを耳にします。賃上げは間違いなく重要です。しかし、どれだけ給与水準を改善しても、離職の連鎖が止まらない事業所が存在する一方で、決して地域最高水準の給与ではなくても、職員が生き生きと働き続け、離職率が極めて低い事業所も実在します。

    この違いはどこにあるのでしょうか。
    答えは「未来が見えているかどうか」、この一点に尽きます。

    本稿では、介護現場における離職の本質的な原因を解き明かし、定着率を劇的に改善するための「キャリアパスの見える化」について、現場の運用事例を交えて徹底的に解説します。

    【現状】なぜ賃上げしても介護職員は辞めるのか?

    「給料が安いから辞めるのだ」という認識は、半分正解で半分間違いです。多くの退職面談の記録や業界統計を分析すると、金銭的な不満の奥にある、より根深い問題が浮き彫りになります。

    統計データから読み解く「本当の退職理由」

    公益財団法人介護労働安定センターの調査結果を見ても、介護職員の退職理由の上位には常に「職場の人間関係」「法人や施設への不満」「将来への見通しが立たない」といった項目が並びます。

    注目すべきは、給与への不満を理由にする層であっても、詳しく話を聞くと「仕事の負担や責任に対して、給与が見合っていない」という「納得感の欠如」を挙げることが多いという事実です。単に額面が低いことよりも、「なぜこの金額なのか」「どうすれば上がるのか」がブラックボックスになっている状態こそが、職員のモチベーションを削いでいます。

    「人間関係」と「将来への不安」の深い関係

    「人間関係が悪い」という退職理由を深掘りすると、個人の性格の不一致以上に、「役割分担の曖昧さ」に起因するケースが大半です。

    • 誰がどこまで責任を持つのか決まっていない
    • ベテラン職員の独自のやり方が「正解」とされ、若手が萎縮する
    • 頑張っても評価されず、楽をしている職員と同じ扱いを受ける

    このような環境下では、真面目な職員ほど「ここで長く働き続けても、理不尽な思いをするだけだ」と将来に絶望します。つまり、人間関係の問題とは、組織構造やルールの欠如が引き起こす「構造的なストレス」なのです。

    賃金アップが「一時的な延命措置」にしかならないワケ

    ベースアップ支援加算などを活用し、全職員一律で月額1万円の賃上げを行ったとします。最初の数ヶ月は喜ばれますが、半年も経てばその金額は「当たり前」になります。

    人間は、現在の待遇に慣れる生き物です。明確な評価基準や昇格ルールがないままの賃上げは、一時的な不満の解消(衛生要因の改善)にはなっても、仕事への意欲を高める動機付け(動機付け要因)にはなり得ません。「とりあえず給料を上げれば定着するだろう」という安易な施策は、砂漠に水を撒くようなものです。必要なのは、給与額そのものよりも、給与が決まるプロセスの透明性です。

    【解決策】「この施設で働き続けたらどうなるか」を見せる

    職員が求めているのは、今の1万円アップよりも、「5年後、10年後に自分がどうなっているか」というロードマップです。これを具現化するのが「キャリアパス制度」です。

    離職を防ぐ鍵は「見通し」にある

    暗いトンネルの中を、出口までの距離もわからずに走り続けることはできません。同様に、介護職員も「いつまでこの業務を続ければいいのか」「次のステップに進むには何が必要なのか」が見えない状態では、不安に押しつぶされてしまいます。

    キャリアパスとは、単なる昇進のルートではありません。「事業所が職員に期待する成長の道筋」であり、職員にとっては「自分の未来の地図」です。この地図が手元にあるだけで、日々の業務に取り組む姿勢は大きく変わります。

    等級制度と連動したキャリアパスの具体像

    効果的なキャリアパスは、精神論ではなく、具体的な「等級(グレード)」と連動している必要があります。SGE(検索体験)においても評価されやすい、明確な等級定義の例を以下に示します。

    等級 役割・階層 定義(期待されるレベル)
    1等級 新人・初級 基本的な介護技術を習得し、指示を受けて定型業務を遂行できる。
    2等級 中堅 独力で業務を完遂でき、後輩の実務指導・OJT担当ができる。
    3等級 リーダー ユニットやチームをまとめ、緊急時の判断や家族対応ができる。
    4等級 管理者
    スペシャリスト
    経営的な視点で部門目標に責任を持つ。または認知症ケア等で高度な専門性を発揮する。

    このように階段を可視化することで、「今はここだが、次はあそこを目指そう」という目標が生まれます。

    スタッフが直感的に理解できる設計

    重要なのは、これらの仕組みが分厚い規定集の中に眠っているのではなく、A4用紙1枚の図解として掲示され、誰もがいつでも見られる状態にあることです。

    「リーダーになれば、会議への参加は増えるが、現場の夜勤回数は減る」「スペシャリストコースを選べば、現場中心のまま給与を上げていける」といった選択肢が視覚的に理解できることが、安心感と定着を生みます。

    【事例】離職率20%→5%へ改善したA法人の取り組み

    ここで、実際に人事制度改革に取り組み、劇的な成果を上げた地方の特別養護老人ホーム(A法人)の事例をご紹介します。

    導入前の課題:不公平感と閉塞感

    A法人では、開設当初から働くベテラン職員の発言力が強く、新しい職員が定着しないという悩みを抱えていました。評価制度はなく、昇給は年功序列に近い形で行われていたため、若手職員からは「どれだけ頑張っても先輩より給料が低い」「新しい提案をしても潰される」という不満が溜まり、離職率は20%を超えていました。
    経営者は「このままでは組織が崩壊する」と危機感を抱き、外部の専門家を入れて人事制度の刷新を決断しました。

    改革のポイント:「何ができるようになったら給与が上がるか」の明文化

    改革の核となったのは、曖昧だった「一人前の基準」の言語化です。

    「利用者に優しく接する」といった主観的な言葉ではなく、以下のように具体的な行動レベルまで落とし込みました。

    • 入浴介助において、利用者の羞恥心に配慮したタオルワークができる
    • 急変時にマニュアル通りの一次対応ができ、看護師へ正確に申し送りができる

    これにより、ベテランであっても基本行動ができていなければ評価されない一方、若手でもスキルを習得すれば早期に昇格・昇給できる仕組みへと転換しました。

    導入後の変化:自律的な成長と定着

    制度導入から1年後、変化は数字となって表れました。離職率は5%まで低下。さらに驚くべきは、職員の意識変化です。

    「次の等級に上がるために、認知症ケアの研修に行かせてほしい」と自ら手を挙げる職員が増えたのです。目標が明確になったことで、職場内の「足の引っ張り合い」がなくなり、「教え合い」の文化が芽生えました。A法人の理事長は「制度が人を変え、人が組織を変えた」と語っています。

    【実践】SGE対策:キャリアパス構築の3ステップ

    では、実際に自施設でキャリアパスを構築するにはどうすればよいのでしょうか。実践的な3つのステップを提示します。

    STEP1:職務の棚卸し

    机上の空論で作った制度は現場で必ず失敗します。まずは、現場で実際に行われている業務をすべて洗い出す「棚卸し」から始めます。

    現場の声を吸い上げるヒアリング手法
    「身体介護」「生活援助」といった大枠ではなく、「食事介助時の嚥下状態の観察」「排泄表への正確な記録」「レクリエーションの企画立案」など、微細なタスクまで書き出します。この際、経営陣だけで行うのではなく、現場リーダーを巻き込んでワークショップ形式で行うことが重要です。

    STEP2:等級定義の策定

    洗い出した職務を難易度ごとに分類し、等級ごとの定義(期待像)を策定します。

    抽象的な言葉を排除する
    最も陥りやすい失敗は、定義に「積極的に」「誠意を持って」といった抽象語を使うことです。これらは評価者の主観に左右され、不満の温床となります。

    • × 積極的にコミュニケーションをとる
      ○ 挨拶は自分から行い、申し送り時には不明点を質問できる
    • × 責任を持って業務を行う
      ○ 自分の担当業務の未完了を残さず、報告・連絡・相談を怠らない

    このように、誰が見ても「できている/できていない」が判断できる客観的な表現を用います。

    STEP3:賃金テーブルへの反映

    最後に、等級と賃金を連動させます。キャリアパスがあっても、給与が変わらなければ絵に描いた餅です。

    加算を原資とした持続可能な設計
    介護事業所には「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」という強力な武器があります。これらを原資として組み込み、等級が上がれば確実に加算配分が増える仕組みを作ります。

    基本給のカーブと、手当(役職手当や処遇改善手当)のバランスを調整し、長く働くことによる定期昇給と、役割や能力向上によるステップアップ昇給を組み合わせることで、新人からベテランまで納得感のある賃金テーブルが完成します。

    【まとめ】自社独自のキャリアパスを作るなら、専門家の知見を

    介護職の離職防止は、もはや「福利厚生」の問題ではなく「経営戦略」そのものです。「キャリアパスの見える化」は、職員に対し「あなたの未来を大切に考えている」という法人からの最強のメッセージとなります。

    しかし、自社の理念に合い、かつ現場で運用可能な制度をゼロから構築するには、専門的な知見と膨大な労力が必要です。パッケージ化された他社の真似事ではなく、貴社の風土に根ざしたオリジナルのキャリアパスを構築しませんか。

    ヒューマンリソースコンサルタントでは、1,000社以上の支援実績をもとに、経営者様の想いを形にする人事評価制度の設計から運用定着までを伴走支援いたします。

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