医療機関向け
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近年、経団連や大手メディアがこぞって「ジョブ型雇用への転換」を提唱しています。日立製作所や富士通といった日本を代表する大企業が導入を決め、その波は確実に医療業界にも押し寄せています。
私の元にも、理事長や事務長からこのような相談が急増しています。
「当院もそろそろジョブ型を入れるべきか」
「年功序列を廃止して、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を作るべきではないか」
しかし、結論から申し上げます。一般企業で流行している「完全なジョブ型雇用」を、そのまま日本の病院に導入することは推奨しません。安易な導入は、日本が世界に誇る「チーム医療」の現場を崩壊させる危険性を孕んでいるからです。
では、旧態依然とした「年功序列」のままで良いのかと言えば、それも否です。
本稿では、人事コンサルタントの視点から、医療機関における「ジョブ型」の功罪を整理し、医療現場のリアリティに即した最適解である「役割等級制度(ミッション・グレード)」と、看護師の指標である「クリニカルラダー」をどう賃金に連動させるか、その設計論を深掘りします。
1. 【結論】なぜ完全な「ジョブ型雇用」は日本の医療現場に馴染まないのか
まず、「ジョブ型雇用」の正体を正確に把握する必要があります。これは「仕事(職務)」に人を割り当てる方式です。「あなたの仕事はこの範囲です」と契約でガチガチに固め、それ以外の業務を行う義務はありません。
これが病院組織、特に病棟業務においてなぜ機能不全を起こすのか、理由は明白です。
💡 コンサルタントの視点:導入が危険な3つの理由
- 余白の喪失:急変時や欠員時に「契約外の業務」を互いにカバーし合えなくなる。
- サイロ化:「それは私の仕事ではない」という姿勢が助長され、多職種連携が阻害される。
- 雇用の流動性:欧米のような解雇や転職が前提の社会システムと、日本の医療現場は異なる。
1-1. 医療現場に不可欠な「余白(のりしろ)」の喪失
医療の現場、特に急性期病院や救急の現場は、不確実性の塊です。
想定外の急変、緊急入院、機材トラブル、感染症のパンデミック。こうした事態に対し、日本の医療従事者は「自分の担当範囲」を超えて、互いにカバーし合うことで医療崩壊を防いできました。
もし、完全なジョブ型を導入し、職務記述書(JD)に「点滴業務とバイタルチェックのみを行う」と記載された看護師がいたとします。その隣で、他の患者が嘔吐し、清掃が必要な状況が発生した場合、ジョブ型の論理ではこうなります。
「私のJDには清掃業務は記載されていません。それは看護助手または清掃スタッフの仕事です」
これが契約上の正義となります。しかし、一分一秒を争う医療現場で、このような分断が許されるでしょうか。「お互い様」の精神で埋められていた業務の「余白」が消滅した瞬間、現場のオペレーションは破綻します。
1-2. チーム医療を阻害する「サイロ化」のリスク
チーム医療の本質は、多職種が専門性を持ち寄り、オーバーラップしながら患者を支えることにあります。
完全なジョブ型は、業務の境界線を明確にするあまり、組織の縦割り(サイロ化)を加速させます。
「リハビリの効果が出ていないようだが、それはPT(理学療法士)の責任領域だから、看護師の私は口を出さない」
このような消極的な姿勢が助長されれば、患者の全体像を見る視点が失われます。日本看護協会が推進する「地域包括ケア」や「多職種連携」の流れとも逆行するのです。
1-3. 資格ビジネスとジョブ型の「似て非なる」関係
「医師や看護師は、もともと資格に基づいた仕事なのだから、ジョブ型ではないか」という意見があります。確かに、資格というライセンスに守られた「メンバーシップ(職能)」と「ジョブ」の中間的な性質を持っています。
しかし、病院組織が求めているのは、単に「注射が打てる人」ではありません。「当院の理念を理解し、当院のチームの一員として動ける人」です。
欧米のような「雇用の流動性(クビにしやすく、辞めやすい)」が前提の社会システムではない日本において、一般企業のジョブ型モデルを模倣することは、単に「使い勝手の悪い組織」を作るだけに終わる可能性が高いのです。
2. 【比較】崩壊する「職能資格制度(年功序列)」とジョブ型のメリット・デメリット
ジョブ型が危険だとしても、従来の「職能資格制度」が限界を迎えている事実は変わりません。多くの病院が抱える「人とコストの歪み」を直視する必要があります。
2-1. 多くの病院が抱える「年功序列」の限界と弊害
日本の多くの病院、特に歴史ある病院で採用されているのが「職能資格制度」です。「人の能力は経験年数とともに向上する」という性善説に基づき、毎年自動的に給与が上がり続けます。
この制度が生み出したのは、以下のような悲劇です。
- 高コストな「働かないベテラン」: 最新の医療機器や電子カルテに対応できず、夜勤も免除されているが、基本給は組織内で一番高い層の存在。
- 若手・中堅の離職: 「どれだけ頑張ってラダーを取得しても、仕事の遅い先輩より給料が低い」という不公平感。
- 人件費率の圧迫: 診療報酬(収入)は公定価格で頭打ちであるにもかかわらず、人件費(支出)だけが年齢構成とともに膨張し続ける構造。
病院経営において、人件費率は収益の50〜60%を占めます。このコントロール不能な自動昇給システムは、経営上の最大のリスクファクターとなっています。
2-2. クリニカルラダーが「給与」と連動しない不思議
看護部では「クリニカルラダー(日本看護協会版など)」の導入が進んでいます。しかし、多くの病院で「ラダーの評価結果」と「人事考課(給与・賞与)」が分断されています。
「ラダーレベルⅢに上がりました。研究発表も頑張りました。でも、給与明細の金額は昨年と変わりません」
これでは、ラダーは単なる「自己研鑽の目標」や「教育ツール」に留まり、職員にとっては「課題が増えるだけの負担」と捉えられてしまいます。
教育(ラダー)と人事(処遇)がリンクしていないことこそが、制度が形骸化する最大の要因です。
2-3. ジョブ型から取り入れるべき「役割」の概念
ここで、ジョブ型の良い部分に目を向けます。それは「仕事の難易度や責任の重さに応じて処遇を決める」という思想です。
「誰がやっているか(人)」ではなく「何の役割を担っているか(ポスト)」に値をつけます。
師長という「役割」を担っている間は高い処遇を与え、役職定年などでその役割を降りた場合は、処遇も適正な水準に戻す。この「降給の納得性」を作れる点が、ジョブ型要素を取り入れる最大のメリットです。
3. 【解決策】医療機関に最適な「ハイブリッド型(役割等級制度)」とは?
以上の分析から導き出される最適解。それは、日本的雇用(柔軟性)とジョブ型(合理性)を融合させた「役割等級制度(ミッション・グレード制)」です。
これは、HRCが多くの医療機関で導入し、成果を上げている手法です。
💡 コンサルタントの視点:ハイブリッド型の定義
- 定義:「能力(ラダー)」で任用要件を決め、「役割(ポスト)」で賃金を決める仕組み。
- メリット:チーム医療の柔軟性を残しつつ、役割に応じたメリハリのある処遇が可能。
3-1. 「役割(ミッション)」を等級の定義にする
従来の「能力(〜できる)」ではなく、組織がそのポジションに期待する「役割(〜を成し遂げる)」を等級の定義にします。
- 等級1(初級): 定められた業務を正確に遂行する役割
- 等級2(中級): チームリーダーとして後輩を指導し、業務改善を行う役割
- 等級3(管理): 部門目標を達成し、経営課題を解決する役割
このように定義することで、「能力はあるが、やる気がない(役割を果たしていない)ベテラン」の等級を下げ、給与を適正化することが論理的に可能になります。
3-2. クリニカルラダー(能力)と役割(ポスト)のマトリクス設計
ここで重要なのが、既存のクリニカルラダーを捨てないことです。ラダーは「医療の質」を担保する重要な「能力軸」です。役割等級制度では、この「能力軸」と「役割軸」をマトリクス(掛け合わせ)で評価します。
具体的な接続イメージ:
- ラダーレベルⅠ・Ⅱ ≒ 等級1(スタッフ層): 基礎的な看護能力を習得中の段階。
- ラダーレベルⅢ ≒ 等級2(リーダー層): 一人前の看護実践能力を持ち、かつ現場のリーダーとしての役割を担う段階。
- ラダーレベルⅣ・Ⅴ ≒ 等級3以上(師長・主任層): 卓越した看護能力を持ち、組織管理やスペシャリストとしての役割を担う段階。
「ラダーが上がらなければ、上位の等級(役職)には就けない」という任用要件としてラダーを活用します。これにより、「勉強してラダーを上げる意義」が明確になり、給与への反映ルートが開通します。
3-3. 年功要素を排し、役割が変われば給与も変わる仕組み
役割等級制度の肝は、「役割定義書」の作成です。ジョブ型の「職務記述書(JD)」ほど細かくタスクを限定せず、期待される成果や責任範囲(ミッション)を明文化します。
「あなたは今年、この役割(等級)です」と合意し、その役割を果たせたかどうかを期末に評価します。
もし、加齢や家庭の事情で「今年はリーダー業務を降りて、一スタッフとして働きたい」と希望した場合は、等級を下げます。等級が下がれば、賃金テーブルも下位のもの適用されます。
「給料は下がるが、責任も軽くなる」
このトレードオフが明確であれば、職員も納得して働き続けることができます。これが、硬直化した組織を流動化させる鍵となります。
4. 【運用】ラダーが上がっても給料が上がらない問題をどう解くか
制度の枠組みだけでなく、具体的な「お金(賃金テーブル)」の設計におけるテクニカルなポイントを解説します。
4-1. 賃金テーブルの接続方法(号俸制からの脱却)
公務員準拠の病院でよくある「1号俸〜100号俸」まで続く長い階段状の賃金表は廃止します。代わりに、等級ごとに上限(キャップ)と下限(ボトム)を設定した「範囲給(レンジレート)」または「ゾーン給」を採用します。
- 等級1のレンジ: 20万円 〜 28万円
- 等級2のレンジ: 26万円 〜 35万円
等級1のままでは、どれだけ長く勤めても28万円で昇給が止まります。「これ以上給与を上げたければ、ラダーを上げて等級2(リーダー)に挑戦してください」というメッセージを制度に埋め込むのです。
4-2. 評価結果の「昇給」と「賞与」への反映ロジック
「頑張った人」に報いるためには、昇給と賞与の使い分けが重要です。
- 昇給(基本給)への反映: 「役割行動評価(コンピテンシー)」を用います。ラダーの要件を満たす行動が取れているかを評価し、積み上げ型の基本給に反映します。
- 賞与(ボーナス)への反映: 「業績評価(MBO)」を用います。その年度に立てた目標(例:病棟稼働率、委員会活動、研究発表など)の達成度を評価し、一時金として還元します。
若手層には行動評価のウェイトを高く、管理職層には業績評価のウェイトを高く設定することで、職位に応じた公平な評価が可能になります。
4-3. 認定看護師・専門看護師の処遇(手当か、等級か)
専門性が高い「認定看護師」等の処遇も課題です。
手当(例:月額5,000円)でお茶を濁すケースが多いですが、HRCでは彼らを「スペシャリストコース(専門職等級)」として、管理職と同等の等級に格付けすることを推奨しています。
「管理職にはなりたくないが、現場のスペシャリストとして貢献したい」というキャリアパスを用意することで、優秀な人材の流出を防ぐことができます。これはまさに、ジョブ型のメリットを部分的に取り入れたハイブリッド型の強みです。
5. 医療現場の実態に即した「生きた制度」を作るために
最後に、制度改定を成功させるための心構えをお伝えします。
5-1. 一般企業のコピー&ペーストが招く失敗
書店に並ぶ「人事制度の作り方」や、一般企業向けコンサルタントが持ってくるパッケージをそのまま導入しないでください。
「生産性」「売上」といった指標をそのまま医療現場に持ち込むと、「手のかかる患者を避ける」「早期退院ばかり優先する」といったモラルハザードを引き起こしかねません。
医療の質(Quality)と経営の効率(Economy)のバランス、そして何より「専門職のプライド」を尊重した言葉選びと制度設計が必要です。
5-2. 導入後の「運用」こそがコンサルタントの腕の見せ所
人事制度は、作った日がスタート地点です。最も難しいのは、現場の師長や事務長が、新しい評価シートを使って部下と面談し、納得感のある評価を下せるようになるまでの「定着フェーズ」です。
私たちヒューマンリソースコンサルタント(HRC)は、単なる制度設計屋ではありません。
「2年間の運用保証」を掲げ、実際に評価会議に同席し、評価の甘辛調整や、フィードバックの仕方を現場の管理者と一緒に悩み、指導します。
医療機関の現場を知り尽くした私たちだからこそ、机上の空論ではない、泥臭くも確実な「組織改革」を支援できるのです。
「今のラダーと給与制度がバラバラで困っている」「ジョブ型に興味はあるが、失敗したくない」
そのようなお悩みをお持ちの理事長様、事務長様は、ぜひ一度ご相談ください。貴院の歴史と風土を尊重しながら、次世代に対応できるハイブリッドな人事制度をご提案いたします。
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- 中小企業の経営者に向けて、人事制度に関する役立つ記事を発信しています。
