「保育の質」をどう評価する?曖昧な評価をなくすコンピテンシー(行動特性)活用のススメ

保育園向け

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    「先生たちのことは信頼しているけれど、評価をつけるとなると手が止まってしまう」
    「A先生は子供に人気があるけれど書類が苦手。B先生は仕事は早いけれど子供への言葉がきつい。どちらを高く評価すべきなのか」

    保育園経営者、そして園長先生にとって、職員の評価ほど悩ましい業務はありません。営業職のように「売上」という明確な数字がない保育の世界では、どうしても評価基準が曖昧になりがちです。

    結果として、「園長先生のお気に入りだから評価が高い」「私の頑張りは見てもらえていない」といった不満が現場に蓄積し、組織のモチベーションを下げてしまうケースが後を絶ちません。

    保育の質を数値化することは不可能なのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。
    「成果(結果)」が見えにくいのであれば、「成果につながる行動(プロセス)」を評価すればよいのです。

    本記事では、現代の人事評価のスタンダードである「コンピテンシー(行動特性)」の考え方を保育現場に導入し、曖昧な評価を脱却するための具体的な手法を解説します。これを読めば、「好き嫌い」と言われない、公正で納得感のある評価制度の作り方が見えてきます。

    目次

    保育士の評価が「好き嫌い」と言われてしまう原因

    なぜ保育士の評価は「不満」を生みやすいのか

    保育士の仕事は、マルチタスクの極みです。子供の安全管理、生活習慣の指導、保護者対応、行事の企画、書類作成。これら多岐にわたる業務の中で、どの部分を重要視するかは、人によって異なります。

    ある職員は「子供とじっくり関わること」が最重要だと考え、別の職員は「チームワークよく業務を回すこと」が正義だと信じているかもしれません。
    評価基準(ものさし)が統一されていない状態で評価を行うと、評価者と被評価者の間で認識のズレが必ず生じます。

    「私はこんなに子供と向き合っているのに、書類のミスばかり指摘される」

    このズレこそが、評価への不信感の正体です。
    多くの園では、この「ものさし」自体が存在しないか、あっても非常に抽象的な言葉でしか表現されていません。

    「意欲」「協調性」という言葉が持つ危険な罠

    既存の評価シートでよく見かける項目があります。

    • 「協調性を持って仕事に取り組んでいるか」
    • 「意欲的に保育を行っているか」
    • 「責任感を持って行動しているか」

    これらは一見、まともな評価項目に見えます。しかし、評価の実務においては「何も言っていない」に等しい危険な言葉です。
    なぜなら、これらの言葉の定義は、受け取り手の主観に100%委ねられているからです。

    例えば、園長にとっての「協調性」とは、「会議で積極的に意見を出して議論を深めること」かもしれません。
    一方で、ある職員にとっての「協調性」は、「波風を立てず、周りの意見に合わせること」かもしれません。
    この場合、職員は自分なりに「協調性(同調)」を発揮しているつもりでも、園長からは「会議で発言しない消極的な職員(協調性がない)」と評価されてしまいます。

    「一生懸命やっているつもり」が評価されない悲劇。これは職員の能力不足ではなく、評価項目(言葉)の解像度が粗すぎることが原因です。
    この主観の入り込む余地を極限までなくす手法が、今回ご紹介する「コンピテンシー評価」です。

    解決策:「コンピテンシー評価」とは何か

    「成果」が見えにくい保育現場こそ「行動」を見る

    コンピテンシー(Competency)とは、直訳すれば「能力」や「適性」ですが、人事用語としては「高い成果を上げる人に共通して見られる行動特性」と定義されます。

    少し難しく聞こえるかもしれませんが、考え方はシンプルです。
    「仕事ができる先生(ハイパフォーマー)は、普段どんな行動をとっているのか?」
    これを徹底的に観察・分析し、その「行動」自体を評価基準にするのです。

    保育の質という「結果」は数値化しにくくても、そこにたどり着くための「行動」は目に見えます。
    「子供が安心して過ごしている(結果)」ために、「目線を子供の高さに合わせて話している(行動)」という事実があるはずです。
    この「目線を合わせる」という行動を評価項目に設定すれば、誰が見ても「できている/できていない」が客観的に判断できます。

    優秀な保育士の行動を「型」にするアプローチ

    コンピテンシー評価導入の第一歩は、貴園における「理想の保育士像」を具体的な行動レベルで言語化することから始まります。
    例えば、貴園で「素晴らしい」と評価されているA先生を思い浮かべてください。A先生はなぜ素晴らしいのでしょうか。

    「優しいから」ではありません。「気が利くから」でもありません。

    • 「子供が泣いている時、すぐに抱き上げるだけでなく、なぜ泣いているのか理由を代弁している」
    • 「保護者からの相談に対し、解決策を即答せず、まずは共感の言葉を投げかけている」

    こうした具体的な行動の積み重ねが、A先生の評価を形作っているはずです。
    このA先生の「良い行動」をリスト化(モデル化)し、他の職員にも真似してもらう。
    これがコンピテンシー活用の本質です。才能やセンスに頼るのではなく、良い行動を「型」として共有し、全員でその型を実践することで、園全体の保育の質を底上げする人材育成の手法なのです。

    性格ではなく「観察できる事実」に変換する技術

    従来の評価が「性格(情意)」を評価していたのに対し、コンピテンシーは「行動(事実)」を評価します。

    • 性格評価(従来): 「積極性がある」
      • 評価者の主観:なんとなく元気があるから5点。
      • フィードバック:「もっと積極的にやってね」(どうすればいいかわからない)
    • 行動評価(コンピテンシー): 「会議や打ち合わせの際、自ら手を挙げて提案を行っている」
      • 評価者の判断:今期は3回提案していたから5点。(事実)
      • フィードバック:「次は提案だけでなく、実行プランまで落とし込めるといいね」(具体的)

    このように、評価項目を「観察できる事実」に変換することで、評価者の負担は減り、被評価者の納得感は高まります。好き嫌いが入り込む隙間がなくなるからです。

    具体例で解説:抽象的な項目を行動レベルに落とし込む

    では、実際によくある抽象的な評価項目を、コンピテンシー(行動ベース)に変換するプロセスを見ていきましょう。貴園の評価シートを見直す際のヒントにしてください。

    ケーススタディ1:「保護者対応が良い」を分解する

    「保護者対応」という大項目だけでは、挨拶の声の大きさなのか、クレーム対応力なのか分かりません。これをいくつかの具体的な行動に分解します。

    【コンピテンシー変換例】

    1. 受け入れ・引き渡し時の対話
      • 単に挨拶をするだけでなく、その日の子供の様子(エピソード)を必ず一つ以上、具体的に伝えている。
      • 保護者の表情や体調の変化に気づき、「お疲れではないですか」等の労いの言葉をかけている。
    2. 信頼関係の構築
      • 保護者からの要望や相談に対し、否定せず一度受け止めた上で、園の方針を丁寧に説明している。
      • 連絡帳の記述において、定型文ではなく、個々の子供の成長がわかる具体的な記述をしている。

    ここまで具体的になれば、若手職員は「笑顔で挨拶するだけじゃダメなんだ、エピソードを伝えないといけないんだ」と、目指すべきレベルを理解できます。

    ケーススタディ2:「協調性がある」を分解する

    最もトラブルになりやすい「協調性」も、行動に落とし込めば明確なスキルになります。

    【コンピテンシー変換例】

    1. 情報共有と報告・連絡・相談
      • クラス内で起きたヒヤリハットやトラブルを、隠さず速やかに主任・園長へ報告している。
      • シフト交代や業務のお願いをする際、相手の状況を配慮した依頼の仕方ができている。
    2. チームワークへの貢献
      • 自分の担当業務が終わった際、「何か手伝うことはありますか」と周囲に声をかけている。
      • 会議において、他者の意見を最後まで聞き、批判ではなく建設的な代案を出している。
      • 行事準備などで意見が対立した際、感情的にならず、目的(子供のため)に立ち返って調整を行っている。

    「仲良くする」ことではなく、「組織として成果を出すための行動をとる」ことを協調性と定義し直すことが重要です。

    ケーススタディ3:「子供への関わり」を理念と紐づける

    ここは各園の「保育理念」が最も色濃く出る部分です。
    例えば、「子供の主体性を大切にする」という理念を掲げている園であれば、以下のような項目になります。

    【コンピテンシー変換例】

    • 活動の切り替え時、一方的に指示を出すのではなく、子供自身が次の行動に気づけるような言葉がけ(問いかけ)をしている。
    • 子供同士の喧嘩の際、すぐに仲裁に入らず、見守るべき場面と介入すべき場面を適切に判断している。
    • 子供の「やりたい」という興味・関心を見逃さず、それを広げる環境設定(コーナー保育の工夫など)を行っている。

    評価項目を見れば、その園がどんな保育を目指しているかがわかる。それが理想的な評価制度の姿です。

    【職層別】保育園におけるコンピテンシーモデルの作り方

    全職員に同じ行動を求めるのは無理があります。経験年数や役割(等級)に応じて、求めるレベルを段階的に引き上げていく設計が必要です。これを「コンピテンシーモデル」と呼びます。

    新人・若手層(1~3年目):基本動作の徹底

    この層に求めるのは、高度なテクニックではなく「社会人・保育士としての基礎」を確実に身につけることです。

    【期待される行動例】

    • 規律性: 時間を守り、挨拶や身だしなみを整え、欠勤・遅刻の連絡をルール通り行っている。
    • 安全性: マニュアルに基づき、清掃・消毒・検温などの衛生管理業務を正確に遂行している。
    • 学ぶ姿勢: 先輩からの指導・助言を素直に受け入れ、メモを取り、同じミスを繰り返さないよう行動を修正している。
    • 保育実践: 子供の名前を呼び、目線を合わせて笑顔で関わっている。

    中堅・リーダー層:後輩指導と周囲への影響力

    クラスリーダーや職務分野別リーダーを担うこの層には、自分のことだけでなく、クラス全体や後輩への影響力が求められます。

    【期待される行動例】

    • 育成指導: 後輩職員に対し、やってみせ、説明し、フィードバックを行うという手順でOJTを実施している。
    • 課題解決: クラス運営上の課題(噛みつきが多い、準備が遅れる等)に対し、原因を分析し、改善策を立案・実行している。
    • 保護者対応: 保護者からの軽微なクレームや複雑な相談に対し、一次対応を適切に行い、信頼関係を維持している。
    • 連携: 他クラスや給食室・看護師と連携し、スムーズな園運営のための調整を行っている。

    主任・管理職層:園全体の課題解決と組織運営

    主任や副園長クラスには、園長の補佐として、園全体のマネジメント視点が求められます。

    【期待される行動例】

    • 組織運営: 園の方針や理念を噛み砕いて職員に伝え、浸透させるための働きかけを行っている。
    • リスク管理: 重大な事故やクレーム発生時、冷静に状況を判断し、園長への報告と事後対応の指揮を執っている。
    • 人材マネジメント: 職員一人ひとりの適性やキャリア希望を把握し、モチベーションを高めるための面談や配置提案を行っている。
    • 地域連携: 行政や地域住民、関係機関と良好な関係を築き、園の評判を高める行動をとっている。

    このように階層別に行動を定義することで、職員は「自分が次にどのような行動をとれるようになれば昇給・昇格するのか」というキャリアの道筋(キャリアパス)が明確になります。

    コンピテンシー導入がもたらす経営上のメリット

    手間をかけてコンピテンシー評価を導入することは、単に評価がしやすくなる以上の、大きな経営的メリットをもたらします。

    職員自身が「次に何をすればいいか」迷わなくなる

    離職理由の上位に常に挙がるのが「成長実感がない」「この園にいても将来が見えない」という悩みです。
    具体的な行動基準が示されていれば、職員は日々の業務の中で「あ、今自分はレベル3の行動ができたな」と成長を自覚できます。
    評価面談においても、「あなたはここがダメ」という人格否定ではなく、「次はレベル4のこの行動にチャレンジしよう」という建設的な目標設定が可能になります。
    「何をすれば評価されるか」がクリアになっている組織では、職員は安心して業務に没頭できます。これが定着率向上への最短ルートです。

    園の理念が「お題目」から「日々の行動」へ変わる

    多くの園では、立派な保育理念が額縁に飾られているだけで、現場の行動に反映されていません。
    コンピテンシー項目の作成とは、理念を翻訳作業することそのものです。
    「思いやりのある子を育てる」という理念があるなら、評価項目に「職員自身が相手を思いやる言葉遣い(ふわふわ言葉)を使っている」と入れる。
    評価制度を通じて、理念を強制的に意識させる仕組みを作ることができます。
    評価される行動が変われば、職員の意識が変わり、やがて園の文化が変わります。コンピテンシー導入は、最強の理念浸透プロジェクトなのです。

    採用面接での見極めにも活用できる

    作成したコンピテンシーモデルは、採用活動でも威力を発揮します。
    面接の際、「あなたの長所は?」と聞く代わりに、「前の職場で、意見が対立した時にどのような行動をとって解決しましたか?」と行動事実を問う質問(コンピテンシー面接)ができます。
    自園で活躍している職員の行動特性と照らし合わせることで、入職後のミスマッチを大幅に減らすことが可能です。

    まとめ

    「保育の質」は目に見えません。しかし、その質を生み出している「職員の行動」は目に見えます。
    曖昧な「やる気」や「人柄」で評価することをやめ、具体的な「行動」に焦点を当てること。それが、職員の納得感を高め、園全体の保育レベルを向上させる唯一の道です。

    コンピテンシー評価の導入は、決して簡単な作業ではありません。
    「うちの園らしい行動ってなんだろう?」
    「項目を細かくしすぎると運用が大変にならないか?」
    こうした悩みにつきあたり、途中で挫折してしまう園も少なくありません。
    導入を成功させるには、現場の負担にならない適切な粒度設計と、プロによる客観的な視点が不可欠です。

    貴園独自の評価基準を作成します

    株式会社ヒューマンリソースコンサルタント(HRC)では、既存のテンプレートを当てはめるのではなく、貴園の理念や大切にしている価値観をヒアリングし、オーダーメイドで評価項目(コンピテンシー辞書)を設計いたします。

    • 現状分析: 今の評価制度の問題点を洗い出します。
    • ハイパフォーマー分析: 貴園で活躍する職員へのインタビューを通じ、評価されるべき行動特性を抽出します。
    • 評価シート作成: 現場が使いやすく、納得感の高い評価シートに落とし込みます。

    「今の評価制度がしっくりきていない」
    「職員に行動を変えてほしいが、どう伝えればいいかわからない」

    そうお感じの理事長先生、園長先生。まずは貴園の「理想の職員像」をお聞かせください。私たちがそれを「評価できる形」に翻訳いたします。

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