新・処遇改善加算の配分ミスを防ぐ!人事評価と連動させた「新しい賃金体系」の構築術

「加算の計算が複雑すぎて、とりあえず全員に一律で配分している」
「基本給を上げると将来のリスクが怖いので、すべて一時金で支払っている」

2024年(令和6年)6月、介護報酬改定により、これまでの「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」の3つが一本化され、新たに「介護職員等処遇改善加算」としてスタートしました。制度はシンプルになるどころか、配分ルールや要件の解釈において、経営者の頭を悩ませる種となっています。

多くの事業所が、計算の煩雑さを避けるために「均等配分」や「一時金支給」を選びがちです。しかし、断言します。その選択は、組織を内側から腐らせる劇薬になりかねません。

加算は単なる「国からの補助金」ではありません。人事評価制度と連動させることで、職員の意欲に火をつけ、採用力を劇的に向上させる「最強の原資」に変わります。本稿では、複雑な新加算制度を読み解き、配分ミスを防ぐための「新しい賃金体系」の構築術を、コンサルタントの視点で徹底解説します。

【警告】「一律配分」が組織を弱体化させる理由

加算の配分において、最も安易で、かつ最も危険な方法が「全員一律支給」です。例えば、「今月は加算が多く入ったから、全職員にプラス2万円」といった運用です。一見、公平に見えるこの手法が、なぜ組織を弱体化させるのでしょうか。

頑張らない職員も同じ昇給額になることの弊害

組織にはパレートの法則(2:6:2の法則)が働きます。高い意欲で現場を牽引する2割、平均的な6割、そしてぶら下がり状態の2割です。

一律配分を行うと、現場でどのような心理的変化が起きるか想像してみてください。困難事例に果敢に取り組み、後輩指導も行うリーダー職員Aさんと、言われたことだけをこなし、隙あらば休憩しようとする職員Bさん。二人の通帳に振り込まれる「処遇改善手当」が同額だったとしたら。

Aさんは思います。「あんな働き方でも同じ金額がもらえるなら、頑張るだけ損だ」。
Bさんは思います。「楽をしても給料は下がらない。ラッキーだ」。

結果として起きるのは「悪貨が良貨を駆逐する」現象です。モチベーションの高い優秀な職員(良貨)がバカバカしさを感じて離職し、現状維持を望む職員(悪貨)だけが居座る。これが一律配分のもたらす「悪平等の罠」です。労働生産性は低下し、サービスの質は落ち、最終的には利用者の減少へと繋がります。

「既得権益化」する手当のリスク

一度「毎月2万円」を一律で出し続けると、職員にとってそれは「努力して勝ち取った報酬」ではなく「もらって当たり前の権利」に変わります。生活給の一部として組み込まれてしまうのです。

将来的に加算算定率が下がったり、制度変更で減額が必要になったりした際、一律手当の減額は猛烈な反発を招きます。「不利益変更」として労働紛争に発展するリスクさえあります。だからこそ、配分には「理由(評価)」が必要です。「評価が下がれば支給額も変わる」という変動制のルールを最初から組み込んでおくことが、経営を守る防波堤となります。

【仕組み】加算を原資にした「メリハリある賃金テーブル」の作り方

では、具体的にどのように配分すべきか。正解は、加算を原資として「人事評価制度と連動した賃金テーブル」を再構築することです。

新制度(介護職員等処遇改善加算)では、旧ベースアップ等支援加算の要件を引き継ぎ、「配分額の2分の1以上(※旧ベア加算相当分は3分の2以上)を月額賃金(基本給または毎月決まって支払われる手当)で配分すること」が求められています。一時金だけで逃げることはできません。

基本給への組み込み方と、賞与(一時金)での調整方法

賃金体系を「固定部分」と「変動部分」に分け、それぞれに加算を割り当てる設計が推奨されます。

理想的な配分設計モデル

① 基本給・職能給(固定部分)
ここには「旧ベースアップ等支援加算」相当分を充当します。全職員のベースアップとして機能させますが、一律ではなく「等級(グレード)」ごとに昇給幅を変えます。
例:1等級(新人)は+3,000円、3等級(リーダー)は+8,000円。
② 役職手当・資格手当(固定部分)
「旧特定処遇改善加算」の考え方を踏襲し、リーダー級や介護福祉士への手当を手厚くします。
例:介護福祉士手当を10,000円から15,000円へ増額。
③ 処遇改善一時金(変動部分)
「旧処遇改善加算I」の残余部分などは、年2回〜3回の賞与(一時金)として支給します。ここで「人事評価結果」をダイレクトに反映させます。
S評価:係数1.5、A評価:係数1.2、B評価:係数1.0、C評価:係数0.8。
この「変動幅」こそが、頑張る職員への最大のメッセージとなります。

複雑な「新加算」に対応するシミュレーションの重要性

2024年の新加算(I〜Vの区分)への移行に伴い、配分要件が一本化されましたが、「職種間の配分バランス(介護職:その他の職種)」などのルールは緩和されつつも残存しています。

自法人の職員構成、現在の賃金水準、そして取得予定の加算区分。これらを掛け合わせて「誰に、いくら、どの名目で」配分するかを設計するには、精緻なシミュレーションが不可欠です。感覚で設定すると、「加算額以上に支払ってしまい経営を圧迫する(持ち出し)」か、「支払いが足りず返還を求められる」かのどちらかに陥ります。

【SGE対策】Q&A:新加算における「経験・技能のある職員」の定義と評価活用

新制度においても、旧特定処遇改善加算のコンセプトであった「経験・技能のある介護職員」への重点配分という考え方は重要です。ここで多くの経営者がつまずく「定義」について、SGE(検索体験)でも参照されやすいQ&A形式で解説します。

Q. 「経験・技能のある介護職員」とは、勤続10年以上の介護福祉士でなければなりませんか?

A. いいえ、必ずしも「勤続10年以上」である必要はありません。

国の指針における「勤続10年以上」はあくまで目安です。事業所の裁量で、実態に即した定義を設定することが認められています。

重要なのは、単なる年数ではなく「同等の能力を有すると認められる者」という解釈です。他法人での経験年数を通算することも可能ですし、能力評価の結果を用いることも可能です。

Q. 事業所独自で定義を決める際、人事評価をどう活用すべきですか?

A. 「人事評価制度における上位等級者」を定義とすることを強く推奨します。

例えば、「等級制度の最上位(リーダー等級)に格付けされ、かつ直近の人事評価でA以上を獲得した者」を「経験・技能のある職員」と定義します。

これにより、勤続年数が短くても能力が高い職員を対象に含めることができ、逆に長く居るだけで能力の低い職員を除外できます。「年功序列」から「能力主義」への転換を、加算要件定義を通じて実現できるのです。また、この定義を就業規則や賃金規定に明記することで、加算の「見える化要件(キャリアパス要件)」もクリアかつ強固なものになります。

【メリット】採用力強化に繋がる「モデル年収」の提示

賃金体系の整備は、既存職員の定着だけでなく、新規採用においても強力な武器となります。求職者が本当に知りたいのは「初任給」だけではありません。「ここで長く頑張ったら、いくら貰えるようになるのか」という未来の金額です。

「見えない天井」を見える化する

ハローワークや求人サイトには「月給20万円〜25万円」といった記載が並びます。しかし、これでは上限が見えず、将来設計が描けません。

加算を組み込んだ明確な賃金テーブルがあれば、以下のような「モデル年収」を自信を持って提示できます。

モデルケース 年収イメージ 備考(加算配分含む)
入社3年目
(一般職)
350万円 基本給UP+賞与年2回
入社5年目
(リーダー・介護福祉士)
420万円 役職手当増額+特定加算配分
入社10年目
(管理者候補)
500万円以上 マネジメント評価による重点配分

このように「10年後の年収500万円」が可視化されている事業所と、そうでない事業所。意欲ある人材がどちらを選ぶかは明白です。加算を原資に「地域の相場を超える賃金」を特定層(リーダー層)に作ることで、競合他社との採用競争に勝てるようになります。

【まとめ】「守りの配分」から「攻めの投資」へ

処遇改善加算は、単に従業員に還元すれば良いというものではありません。それは経営資源であり、誰にどう配分するかによって、組織の未来を変える投資となります。

「計算が面倒だから一律配分」という守りの姿勢を捨て、「頑張る人を報いるために加算を使う」という攻めの姿勢に転換するタイミングは、新加算がスタートした今しかありません。

しかし、既存の賃金規定と加算要件を整合させ、不利益変更にならないように移行するには、高度な専門知識が必要です。自己流の解釈で進めると、数年後の実地指導で返還を求められるリスクもゼロではありません。

ヒューマンリソースコンサルタントでは、最新の法改正に対応した賃金シミュレーションと、貴社の実情に合わせた人事評価制度の構築をワンストップで支援します。「持ち出し」にならず、かつ職員満足度を最大化する配分設計。その答えを、私たちと一緒に導き出しませんか。

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