製造業向けコンピテンシー評価の設計・導入マニュアル|有限会社ヒューマンリソースコンサルタント

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    製造業向けコンピテンシー評価の設計・導入マニュアル|技術継承と生産性向上を実現する人事評価

    日本の製造業はいま、歴史上類を見ないほど巨大な転換期の只中に置かれています。急激な労働人口の減少に伴う現場の深刻な人手不足、IoTやAIを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の容赦ない波、そして為替変動や原材料高騰を背景としたグローバル競争の激化。これら複雑に絡み合う課題を前に、多くの企業が生き残りをかけた変革を迫られています。

    こうした過酷な経営環境下において、昭和から平成にかけて機能してきた「親方の背中を見て技を盗め」といった徒弟制度的な教育や、単なる勤続年数や年齢に基づいた曖昧な年功序列型の評価制度は、もはや完全に限界を迎えています。現代の若手社員は、不透明な評価基準に対して極めて敏感であり、「なぜ自分がこの評価なのか」「どうすれば給与が上がるのか」が論理的に説明されない職場からは、早々に見切りをつけて離職してしまいます。

    特に製造現場の管理者や工場長からは、「個人の技術レベルは高いはずなのに、なぜか突発的な設備トラブルや不良品が一向に減らない」「個々のスキルは高いが、自分の持ち場を守ることに精一杯で、部門をまたいだ組織的な改善活動が全く進まない」といった切実な悩みが数多く噴出しています。これは、「技術力(スキル)」と「組織で成果を出す力」が必ずしもイコールではないことを明確に示しています。

    この根深い課題を突破し、組織の活力を根本から蘇らせる切り札として現在、業界内で急速に注目を集めているマネジメント手法が「コンピテンシー評価」です。本稿では、製造現場特有の泥臭い実態や部門間の壁(セクショナリズム)に深く寄り添ったコンピテンシー評価の設計プロセスから、導入、そして運用定着にいたるまでの要点を、人事コンサルタントの専門的な視点から圧倒的なボリュームで徹底的に解説します。いかにして「自律的に考え、改善し、成果を出し続ける強靭な組織」を作るのか。その具体策を共に紐解いていきましょう。

    1. 製造業における「コンピテンシー」の本質とは何か

    人事制度の再構築に着手する前に、「コンピテンシー(Competency)」という言葉の正確な意味合いを現場レベルでしっかりと理解しておく必要があります。一般的にコンピテンシーとは「継続的に高い業績(成果)を上げる人物に共通して見られる行動特性」と定義されます。

    「スキルマップ」だけでは現場の課題が解決しない理由

    製造業において従業員の「能力」を管理・評価する際、多くの企業がISO9001などの品質マネジメントシステムと連動した「スキルマップ(力量管理表)」を活用しています。これは「TIG溶接が一人でできる」「5軸マシニングセンタのプログラムが組める」「マイクロメーターによる精密測定ができる」といった、技術的な習熟度を星取り表などで可視化したものです。当然ながら、モノづくりの現場において技術(スキル)は生命線であり、スキルマップの運用自体は不可欠です。

    しかし、スキルマップだけでは測れない、成果を左右する広大な領域が存在します。スキルとはあくまで「何ができるか(知識・技能という潜在能力)」を指します。一方、コンピテンシーとは「そのスキルを駆使して成果を出すために、実際の現場でどのような判断を下し、どう行動しているか(実践的な行動特性)」を指します。

    【具体例】熟練工における「行動」の違い

    同等の技能検定1級を持ち、加工スピードも正確性もほぼ同じ二人のベテラン職人がいたとします。

    • Aさん:図面通りに完璧な品物を仕上げるが、自分の作業に没頭するあまり周囲の遅れや若手のミスには無関心。前工程から不良品が流れてきても「自分の責任ではない」とそのまま加工してしまう。
    • Bさん:自分の作業をこなしながらも、常に「後工程はお客様」という意識を持ち、組み立てやすいようにバリ取りをひと手間加える。若手が機械の異常音に気づかず操作しているのを見れば、直ちに駆け寄って機械を止め、なぜその音が危険なのかを論理的に指導する。

    組織全体として高い利益を生み出し、不良率を下げるのは、間違いなく後者のBさんの行動です。この「周囲を巻き込む」「先を読んで動く」「後工程を思いやる」といった、成果に直結する一連の好ましい振る舞いこそが、製造業におけるコンピテンシーの正体です。

    氷山モデルで読み解く現場作業者の能力構造

    人間の能力を「氷山モデル」に例えると分かりやすくなります。

    • 水面上(見えやすい部分):知識、技能(加工スキル)、保有資格(クレーン、フォークリフト等)。これらは履歴書や実技試験で容易に確認できます。
    • 水面下(見えにくい部分):価値観、責任感、ストレス耐性、探求心、他者への関心。

    従来の評価制度では、水面上のスキルだけで評価するか、あるいは「あいつは協調性がない」「やる気が足りない」といった水面下の曖昧な性格を上司の主観で評価しがちでした。コンピテンシー評価が優れているのは、水面下の資質が引き起こした「具体的な事実としての行動(水面上の振る舞い)」だけを評価対象とする点にあります。
    「責任感がない」と抽象的に叱るのではなく、「納期が逼迫し機械トラブルが起きた際、なぜ直ちに他部署へ応援を要請し、遅延を最小限に食い止める行動をとらなかったのか」という事実ベースで指導を行うため、評価の客観性が担保され、従業員も感情的に反発することなく改善へ取り組めるようになります。

    2. 製造現場がいまコンピテンシー評価を導入すべき4つの理由

    多くの製造企業が、なぜいま急ピッチで従来の評価制度を見直し、コンピテンシーの導入へと舵を切っているのでしょうか。そこには業界が直面する待ったなしの構造的な課題が深く関わっています。

    ① 熟練工の「暗黙知」を言語化し、技術継承を加速させる

    「あのベテランに任せれば難しい加工もすんなり通るが、なぜうまくいくのか誰も論理的に説明できない」。こうした熟練工の「勘」や「コツ」は、長年、属人的な暗黙知として扱われてきました。しかし、団塊世代の引退が迫る中でこれらを若手に受け継ぐには、「背中を見て覚えろ」という指導では時間がかかりすぎます。
    コンピテンシー評価を導入する過程で、ハイパフォーマーの行動を緻密に言語化することは、いわば「仕事ができる人の頭の中の思考回路(段取りの組み方、異常の察知ポイント)」をマニュアル化する作業です。これが明確な辞書(ディクショナリ)となれば、若手の育成スピードは劇的に向上し、技術のブラックボックス化を防ぐことができます。

    ② 全員参加の「改善(カイゼン)活動」を組織文化として定着させる

    日本の製造業の強みは、現場からのボトムアップによる改善活動にあります。しかし、日々の生産ノルマに追われ、人員に余裕がない現在の環境下では、自発的に改善案を出し続けるのは容易ではありません。
    コンピテンシー評価の項目に「現状の作業手順への問題提起」や「歩留まり向上のためのプロセス改善の提案・実行」を明確に組み込むことで、現場の認識が変わります。改善活動が「やらされる余計な仕事」から「自身の給与や昇進に直結する、評価されるべき極めて重要な仕事」へと定義し直され、組織全体にカイゼンのDNAが再び定着します。

    ③ 部門間の壁(セクショナリズム)を打破し、全社最適の視点を育む

    製造、設計、品質保証、生産管理、営業。製造業は工程が分業化されているため、部門ごとに目標数値が異なり、強烈なセクショナリズム(縄張り意識)が発生しがちです。「設計が現場を知らないから作りづらい図面を描く」「営業が無理な納期で仕事を取ってくるから現場が疲弊する」といった不満の応酬は、組織の活力を大きく削ぎます。
    全職種共通のコンピテンシー項目として「他部門への協力と全体最適の追求」や「部門間コンフリクト(対立)の建設的な解消」を設定することで、従業員の視座が「自部署の利益」から「会社全体の利益」へと引き上げられ、職種を超えた一体感を醸成することが可能になります。

    ④ 多能工化(マルチスキル化)を推進し、環境変化に強い現場を作る

    特定の製品の需要変動や、従業員の突然の欠勤に柔軟に対応するためには、一人で複数の工程を担当できる「多能工化」が不可欠です。しかし、新しい仕事を覚えることは現場にとって負担であり、「今の仕事だけで手一杯だ」と抵抗されることも少なくありません。
    コンピテンシー評価の中に「自己研鑽による担当業務の拡大(多能工化への貢献)」という行動指標を設けることで、新しい技術の習得に前向きに挑戦する姿勢そのものを高く評価し、変化に強いしなやかな生産体制を構築することができます。

    3. 失敗しないコンピテンシー評価設計の5ステップ

    制度を形骸化させないための最大の秘訣は、外部のコンサルタントが持ってきた他業界の一般的なテンプレートを安易に流用しないことです。自社の「理想の社員像」と「泥臭い現場の実態」を色濃く反映させた、オーダーメイドの設計プロセスが不可欠です。

    【ステップ1】自社の理念を体現する「ハイパフォーマー」の特定

    まずは各部署(加工、組立、検査等)で「あの人がいると現場の空気が締まり、歩留まりが良い」「突発的な設備トラブルへの初動対応が常に的確だ」と誰もが認める職員をピックアップします。必ずしも職長や班長である必要はありません。入社数年目の若手であっても、整理整頓(5S)の意識が異常に高く、常に次工程の準備を先回りして行っている職員がいれば、その人が立派なロールモデルとなります。

    【ステップ2】行動特性の深掘りヒアリング(コンピテンシー・インタビュー)

    特定したハイパフォーマーに対し、過去に成果を出した具体的なプロジェクトや、重大な不良を未然に防いだエピソードを題材にして深いヒアリング(行動事象面接)を実施します。

    • 「あの新製品の立ち上げ時、不良率が跳ね上がった際、一番最初に機械のどこを疑い、誰に相談しましたか?」
    • 「納期が絶望的に遅れそうになった時、前工程と後工程のメンバーをどのように説得してリカバリーの段取りを組んだのですか?」

    こうした執拗な問いを通じて、彼らが無意識のレベルで行っている「成果を引き寄せるための判断基準と行動パターン」を可視化・言語化していきます。

    【ステップ3】評価項目の抽出とカテゴリー化

    ヒアリングから得られた膨大なキーワードやエピソードを整理し、自社の経営戦略に合わせた評価項目にまとめます。製造業であれば、概ね以下の4つのカテゴリーに分類すると現場の理解を得やすくなります。

    1. 業務遂行・効率化:段取り力、正確性とスピード、納期意識、多能工化への挑戦
    2. 思考・改善力:問題発見力、根本原因の追求(なぜなぜ分析)、創造的な改善提案
    3. 規律・安全・品質:5Sの徹底、ルール遵守、危険予知(KY)、品質へのこだわり
    4. 対人・チームワーク:後輩の技術指導、他部署との連携・情報共有、リーダーシップ

    【ステップ4】等級別の「行動指標(ディクショナリ)」の作成

    抽出した各項目に対し、職位や経験年数(等級)に応じて期待される行動のレベル(ラダー)を設定します。これを「コンピテンシー・ディクショナリ」と呼びます。抽象的な表現を避け、現場の日常用語を使って「誰が見てもできているか判断できる事実」で記述します。

    • レベル1(新人層):指示された標準作業手順書(SOP)や安全ルールを厳格に遵守し、異常を感じた際は勝手に判断せず直ちに上司に報告(ホウレンソウ)している。
    • レベル2(中堅層):図面や作業指示書から数歩先の工程を読み取り、自発的に治具の準備や段取り替えを効率的に行い、軽微な設備トラブルであれば自ら原因を特定し復旧できる。
    • レベル3(リーダー層):自部署だけでなく前後工程の進捗や負荷状況を俯瞰し、ボトルネックが発生する前に人員配置の変更を提案・実行し、ライン全体の生産性を最大化している。

    【ステップ5】賃金・昇進制度との連動および運用シミュレーション

    策定した評価シートを用いて、実際の職員を評価してみるシミュレーション(プレ評価)を行います。特定の職員の点数が極端に偏らないか、項目の文言が現場の感覚とズレていないかを検証します。
    その上で、評価結果が基本給の昇給、賞与の査定、あるいは班長や職長への昇格にどのように連動するかのルールを明確に定めます。個人の行動変容が「自身の豊かな生活(処遇向上)」に直結するという確かな実感が、制度を動かす最大のエネルギーとなります。

    4. 【職種別】製造現場に即したコンピテンシー項目の具体例

    製造業は職種の専門性が高いため、全社共通の項目だけでなく、職種ごとの特性を考慮した実践的なコンピテンシー項目を設定することが重要です。主要な3職種の事例を提示します。

    ① 製造・技能職(現場オペレーター):品質・安全・効率を支える行動

    現場のオペレーターに求められるのは、単に機械のボタンを押すことではなく、常に五感を研ぎ澄ませた「気づき」と、歩留まりを上げるための「改善思考」です。

    カテゴリー・項目 行動指標の具体例(レベル3:リーダー層の期待行動)
    思考・改善力
    (根本原因の追及)
    製品に寸法不良や傷が発生した際、単に削り直す等の応急処置で終わらせず、「なぜなぜ分析」を用いて刃物の摩耗、切削油の濃度、クランプの緩みなど複数の視点から根本原因を突き止め、再発防止の標準手順を確立している。
    規律・安全
    (安全文化の強力な醸成)
    自身の安全確保はもちろん、同僚の「ヒヤリハット」や不安全行動(保護具の未着用など)を決して見逃さず、相手が年上であってもその場で毅然と指摘を行うとともに、月例の安全会議で具体的な設備改善案(センサー追加等)を提示している。
    業務遂行
    (多能工化への貢献)
    自身の持ち場の作業に固執せず、他工程の機械操作や検査業務も積極的に習得しようと努め、突発的な欠勤者が出た際や進捗の遅れている工程に対して、自発的にフォローに入り、ライン全体の生産バランスを最適化している。

    ② 設計・開発職(エンジニア):付加価値を生み出す全体最適の思考

    設計・開発職には、技術的な深掘りやスペックの追求だけでなく、市場のニーズや自社の「製造現場のリアル」を強烈に意識した「全体最適」の視点が求められます。

    カテゴリー・項目 行動指標の具体例(レベル3:リーダー層の期待行動)
    業務遂行
    (現場を意識した設計:DFM)
    カタログスペックの高い性能を追求するだけでなく、現場での実際の「作りやすさ(加工性・組立性・部品の調達容易性)」を深く考慮した図面を作成し、試作段階での製造部門からのクレームや手戻りを最小限に抑え込んでいる。
    思考・改善力
    (技術トレンドの翻訳と応用)
    展示会や文献から最新のテクノロジー情報(AI、新素材等)を収集するだけでなく、それを単なる知識として終わらせず、自社の既存製品のコストダウンや性能向上にどう転用できるかという視点で企画案をまとめ、関連部署を説得している。
    対人・チームワーク
    (テクニカル・コミュニケーション)
    営業や購買といった専門外の人間に対して技術的な制約やリスクを説明する際、専門用語を羅列せず、図解や具体的な数値を駆使して相手のレベルに合わせて分かりやすく説明し、迅速な意思決定を引き出している。

    ③ 生産管理・品質保証職:組織を円滑に回す調整力とレジリエンス

    生産管理や品質保証といった間接部門は、工場全体の「頭脳」であり「心臓」です。数値管理の正確性と、予期せぬ変化に対する柔軟でタフな「調整力」が評価の鍵となります。

    カテゴリー・項目 行動指標の具体例(レベル3:リーダー層の期待行動)
    業務遂行
    (状況変化への即応性:レジリエンス)
    海外からの部品供給の突発的な遅延や、営業からの急な短納期での増産依頼に対し、パニックにならず冷静に在庫状況と人員リソースを再計算し、製造現場への負荷(過度な残業等)を最小限に抑えつつ顧客要求を満たす現実的な代替案(納期分割等)を提示している。
    思考・改善力
    (データの戦略的活用)
    生産実績や不良率の単なるエクセル集計に留まらず、稼働率の推移や歩留まりの傾向から「来月起こりうる重大なボトルネック」を先回りして予測し、未然に人員配置の変更や設備保全の手を打つための根拠ある情報を工場長に提供している。
    対人・チームワーク
    (部門間コンフリクトの解消)
    「納期を優先したい営業」と「品質と工数を守りたい製造」の間で意見が激しく対立した際、どちらか一方に加担することなく中立的な立場で全社利益を優先した着地点を見出し、双方が納得感を持って業務を継続できる調整の場を作っている。

    5. 製造業が陥りやすい「導入の失敗」と具体的な回避策

    コンピテンシー評価は組織を変革する強力なツールですが、製造業特有の風土ゆえに、導入方法を誤ると現場の猛反発を招き、むしろ士気を下げてしまう深刻なリスクが存在します。

    失敗①:評価項目が複雑すぎて、現場の管理監督者が「評価疲れ」を起こす

    ISOの認証取得などに慣れている真面目な製造企業ほど、評価の精度を完璧にしようとして、評価項目が30も40も並ぶ極めて複雑なシートを作ってしまうケースがあります。日中は現場を走り回り、夕方から日報処理に追われる多忙な職長や班長にとって、これは絶望的な業務負担となります。結果として、期末にまとめて「全員オール3(真ん中)」の点数をつけるという、制度の完全な形骸化を招きます。

    【回避策】コア・コンピテンシーへの大胆な絞り込み

    評価項目は、職位や階層ごとに「最重要」とされる5〜10項目程度に大胆に絞り込みます。あれもこれもと欲張らず、「この項目に書かれている行動さえ実践できていれば、わが社の誇るプロフェッショナルである」と断言できる本質的な要素に集中させることが、現場の負担を減らし運用の継続性を高めます。

    失敗②:評価基準が「結局は主観」になり、職場の不満が溜まる

    「A課長は評価が厳しいが、B課長はいつも甘い」という評価者による目線のブレです。「積極性がある」「コミュニケーションが良好である」といった抽象的な表現のままでは、結局は評価者の「好み」や「印象」で点数が左右され、不公平感が蔓延します。

    【回避策】徹底した評価者訓練(キャリブレーション)の実施

    具体的な行動事例(行動指標)を、誰もがイメージできる言葉で定義することは当然として、導入前に必ず管理職を集めて「評価者訓練(キャリブレーション会議)」を実施します。実際の部下の行動事例を用いて、「この行動はレベル2か、レベル3か」を議論し合う目線合わせのワークショップを行うことで、組織全体で統一された評価基準を確立します。

    失敗③:既存のスキルマップ(力量管理表)との重複による現場の混乱

    「スキルマップで溶接技術を評価されているのに、コンピテンシー評価でも作業の正確性を評価される。一体どちらの評価で給料が決まるのか?」という現場の混乱です。技術力評価と行動評価の線引きが曖昧だと、従業員は何を目指して努力すればいいか分からなくなります。

    【回避策】スキルとコンピテンシーの役割の明確な分離

    「スキルマップ=技術の広さと深さ(何ができるか)」、「コンピテンシー=仕事の進め方と組織への貢献姿勢(どう行動しているか)」と明確に役割を分けます。技術は神業のように高いが行動が伴わない「孤高の職人」と、技術は平均的だが周囲を巻き込む改善力に優れた「チームの牽引役」を、それぞれ別軸で正当に評価・処遇できる仕組み(例:専門職コースとマネジメントコースの分離など)を構築してください。

    6. 制度を形骸化させない「運用」の成功ポイント

    新しい人事制度を「単なる人事部の書類作業」から「現場の生きた文化」へと昇華させるためには、導入してからの1〜2年間における日々の運用の工夫が勝負を決します。

    フィードバック面談を「査定の伝達」から「育成のためのコーチング」へ変える

    期末に行う評価結果のフィードバック面談が、上司から部下への「説教の場」や「ダメ出しの場」になってはいけません。結果を一方的に突きつけられた職人は心を閉ざしてしまいます。面談では、まず本人がこの半年間で工夫したこと、改善に取り組んだ行動(事実)をしっかりと承認し、ねぎらうことが大前提です。
    その上で、「さらに上の等級に進むためには、今後どのような行動を増やしていけばよいか」を共に考えるコーチングの姿勢が求められます。「なぜあの時、ああいう判断をしたのか?」「次はどうすればもっとスムーズにいくと思う?」という対話の積み重ねが、従業員の自己効力感を高め、次なる成長意欲を強烈に刺激します。

    期中における「行動の記録(事実のメモ)」を管理監督者に習慣化させる

    半年に一度の評価時期になってから、慌てて「この半年間、あの部下はどんな行動をしていたかな?」と思い出そうとしても、人間の記憶には限界があり、直近の出来事(特にネガティブな機械の破損ミスなど)に評価が引っ張られがちです。
    これを防ぐため、現場の管理者は、日々の巡回や朝礼の中で部下の良い行動(素晴らしい改善提案など)や課題となる行動が見られた際に、手帳やスマートフォンに簡単なメモを残しておく「行動記録(ログ)」の習慣をつけます。この客観的な事実の記録こそが、面談時において「会社はお前のことを見ているぞ」という説得力のある最強の根拠となります。

    経営トップからの継続的なメッセージ発信

    コンピテンシー評価を導入した背景には、「これからの激動の時代を生き抜くために、こういう強靭な組織でありたい」という経営陣の強い願いと覚悟があるはずです。この制度を単なる事務的な手続きとして現場に丸投げするのではなく、「わが社の未来のモノづくりを支えるのは、君たち一人ひとりのこうした行動である」という熱いメッセージを、社長自らが全社会議や朝礼の場で、何度も繰り返し発信し続けることが不可欠です。

    7. まとめ:コンピテンシー評価は製造業の「未来を創る」最強の投資

    製造業における人事評価制度の再構築は、単に「ボーナスの査定基準」を変えるための表面的な作業ではありません。それは、自社が長年培ってきた技術のDNAを次世代に確実に繋ぎ、予測不可能な環境変化にも柔軟に対応できる強靭な組織を作るための「最も重要な教育基盤への投資」そのものです。

    コンピテンシー評価を導入し、組織の成果につながる望ましい行動を明確に可視化することは、従業員一人ひとりの持つ無限の可能性を信じ、その人間的な成長を会社として本気で後押しすることを意味します。
    現場のオペレーターから設計開発のエンジニアまで、全従業員が自律的に考え、日々改善案を出し合い、互いの技術を高め合う。そんな「モノづくりへの情熱が溢れる組織」へと変貌を遂げた時、貴社の競争力は他社の追随を許さない、真の意味で盤石なものとなるでしょう。

    専門コンサルタントからのアドバイス

    有限会社ヒューマンリソースコンサルタントの人事コンサルタントとして、私はこれまで数多くの製造業の現場に足を運び、経営陣と現場スタッフの間にある深い葛藤を目の当たりにしてきました。

    長年培われてきた職人気質の風土、部門間にそびえ立つ見えない壁、そして日々の生産ノルマに追われる多忙なスケジュール。こうした環境下で、新しい人事制度を導入し根付かせるのは並大抵のことではありません。しかし、私はこれまで多くの企業様をご支援してきて、自信を持って断言できることがあります。それは「納得感のある評価基準と対話の仕組みは、人を、そして工場の空気を劇的に変える」ということです。

    私たちヒューマンリソースコンサルタントは、冷暖房の効いた本社事務所で一般企業のテンプレートを切り貼りするような、机上の空論の制度設計を強く否定します。私たちは、実際にヘルメットを被り、油の匂いがする現場へ足を運びます。貴社のハイパフォーマーが日々の業務の中で何に悩み、どうやって困難な加工やトラブルを乗り越えてきたのかを丁寧に紐解き、貴社独自の「勝てる行動指標」を、現場の言葉で共に作り上げます。

    「現在の評価制度が完全に形骸化しており、若手の離職が止まらない」「ベテランの技術をどうやって若手に継承させればいいか頭を抱えている」と深い危機感を抱かれている経営者様、工場長様。まずは一度立ち止まって、組織の土台である「人」の評価軸を根本から見直してみませんか。

    私たちは、単なる評価シートを納品して終わることはいたしません。現場の管理監督者への丁寧な説明から、実践的な評価者訓練、そして制度が組織の文化として深く定着するまで、泥臭く伴走いたします。組織の未来を変え、日本のモノづくりの誇りを次世代へ繋ぐ力強い一歩を、ぜひ私たちと共に踏み出しましょう。

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    人事制度を構築する際には、膨大な時間と議論が必要となります。そのため、完成までの打合せ回数が契約上の回数を超える場合もありますが、契約時の条件に基づき、人事制度が完成するまで責任を持って取り組ませていただきます。

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