【薬局M&A】買収後の大量離職を防ぐ「人事制度統合」の教科書|給与・評価のPMI実務

M&Aによる規模拡大が進む調剤薬局業界において、買収後の経営リスクとして浮上しているのが「人事制度の不整合」です。

異なる給与体系、異なる役職基準、異なる評価文化を持つ2つの組織を、いつ、どのようにして一つの仕組みに統合すべきか。この判断を誤ると、薬剤師のモチベーション低下や大量離職を招き、M&Aの投資対効果(ROI)を著しく毀損することになります。

本コラムでは、薬局M&Aにおいて最も難易度が高いとされる「人事制度統合(PMI)」について、表面的な統合論ではなく、等級・賃金・評価の各論に踏み込んで解説します。

目次

なぜ「制度統合」を先送りにしてはいけないのか

M&A直後は、現場の混乱を避けるため、買収された側(売り手企業)の給与規定や就業規則を一時的に維持するケースが少なくありません。しかし、この「二重基準」の状態を長く放置することは、組織運営上、極めて危険です。

同じ店舗で働き、同じ業務をこなしている薬剤師同士なのに、出身企業が違うだけで「基本給が違う」「賞与の算出式が違う」「休日の日数が違う」という状況は、従業員に強烈な不公平感を植え付けます。
「あっちの会社出身の人は優遇されている」という不満は、やがて「旧A社派 vs 旧B社派」といった派閥対立を生み、組織の一体化を阻害する最大の要因となります。

遅くとも数年以内には、統一された「新・人事制度」への移行が不可欠です。

難所1:【等級制度】役職名ではなく「役割」で定義し直す

制度統合の第一歩は、社員の序列を決める「等級(グレード)」の統一です。ここで陥りやすい罠が、役職名の読み替えだけで済ませようとすることです。

例えば、買い手企業の「薬局長」と、売り手企業の「店舗管理者」は、果たして同格でしょうか。
片や「管理薬剤師業務のみを行うプレイングマネージャー」、片や「エリア全体の収益責任を持つ経営幹部候補」であった場合、同じ「店長クラス」として処遇するのは不適切です。

統合にあたっては、役職名というラベルを一度剥がし、「どのような責任と権限を負っているか」という職務定義(ジョブ・ディスクリプション)に基づいた格付けを行う必要があります。

  • 専門職コース(スペシャリスト): 高度な薬学知識やかかりつけ機能に特化
  • 管理職コース(マネジメント): 店舗運営、人材育成、数値管理に特化

このように複線型のコース設計を行い、両社の社員を納得感のあるグレードに再配置することが、統合の土台となります。

難所2:【賃金制度】「総額」だけで見ない給与テーブル設計

最もデリケートなのがお金の問題です。単純に「年収総額」を合わせるだけでは、解決しない問題が山積しています。

基本給と手当のバランス

A社は「基本給が高く賞与が少ない」、B社は「基本給を抑えて手当と賞与で還元する」という体系だった場合、単純統合は困難です。
基本給の定義(年齢給か、能力給か、職務給か)を根本から見直し、新しい賃金テーブル(号棒表)への移行シミュレーションを繰り返す必要があります。

属人給の処理

小規模な薬局では、経営者の裁量で決められた「根拠不明な手当」が存在することがあります。新制度への移行時にこれをどう扱うかが重要です。
一律にカットすれば離職に繋がります。新制度の給与額が旧制度を下回る場合は、その差額を「調整給」として支給し、数年かけて段階的に解消していく「激変緩和措置」の設計が必須です。

難所3:【評価制度】「好き嫌い」から「育成型」への転換

評価制度は、統合後の新会社が「何を大切にするか」というメッセージそのものです。

買収された側の企業では、明確な評価シートが存在せず、経営者の「鉛筆なめなめ(主観)」で賞与が決まっていたケースも多々あります。ここに急激に成果主義的なKPI(処方箋枚数や加算算定件数など)を持ち込むと、現場は疲弊し、心が離れてしまいます。

重要なのは、評価を「査定の道具」にするのではなく、「社員の成長を支援するツール」として再定義することです。
具体的な行動目標を定め、定期的な面談を通じてフィードバックを行う。このプロセスを通じて、出身企業の異なる社員に対し、新会社のビジョンや期待役割を浸透させていくことが、PMIの真の目的です。

外部パートナーに求められる「現場対応力」

これら制度設計の統合は、社内の担当者だけで完結させるにはあまりに負荷が高く、利害関係の調整も困難です。そこで外部コンサルタントの活用が一般的ですが、パートナー選びには注意が必要です。

私たち有限会社ヒューマンリソースコンサルタント(HRC)は、以下の3つの強みを持って、薬局M&Aの人事統合を支援しています。

1. パッケージではない「完全オリジナル」の統合設計

世の中にある一般的な制度や、単なる大手企業のモノマネ制度を導入しても、現場では機能しません。
私たちは、貴社の経営ビジョンと、買収先企業の風土の双方を深く理解した上で、貴社だけの「完全オリジナル」の人事制度を構築します。
統合によって失われがちな「良き企業文化」を残しつつ、時代に即した新しい仕組みを作り上げます。

2. コストが見える「完全請負制」

制度統合の議論は複雑化しやすく、コンサルティング期間が延びがちです。一般的な時間課金制では、費用が青天井になるリスクがあります。
HRCは、契約時の提示金額以外に追加請求が発生しない「完全請負制」です。何度打ち合わせを重ねても、納得いくまで議論を尽くすことができ、M&A後の予算管理も容易になります。

3. 「作って終わり」にしない運用保証

新しい賃金表や評価シートができても、現場の管理者が使いこなせなければ意味がありません。
私たちは制度完成後「2年間」をサポート期間とし、評価者研修や運用のモニタリングを実施します。実際に運用してみなければ分からない不具合や現場の戸惑いを解消し、制度が文化として定着するまで伴走し続けます。

M&A検討段階からのご相談も

M&Aにおける人事リスクは、デューデリジェンスの段階である程度予測が可能です。
「この給与体系の会社を買収して、自社の制度と統合できるだろうか?」
そのような疑問をお持ちの段階からでも、ぜひご相談ください。

また、薬局のM&A案件をお探しの方、あるいは譲渡をご検討の方は、薬局業界に特化した信頼できるプラットフォームを選ぶことが重要です。

この度、薬局特化型M&A総合サイト『AUNARA(アウナラ)』において、M&A後の組織統合を支援する専門家として弊社が紹介されました。
『AUNARA』は、薬局経営の実情に精通したアドバイザーが、最適なマッチングから成約までをサポートするサービスです。

■ 薬局特化型M&A総合サイト『AUNARA(アウナラ)』

https://aunara.jp/


薬局M&Aの人事統合に関するよくある質問

Q. M&A後の給与統合はいつ行うべきですか?
A. 買収直後は現場の混乱を避けるため旧制度を維持し、1〜3年程度の移行期間を設けて統合するのが一般的です。その間に詳細なシミュレーションと激変緩和措置を設計します。
Q. 薬剤師の離職を防ぐポイントは?
A. 単なる条件変更の通知ではなく、新会社のビジョンと「なぜ変わるのか」を丁寧に説明することです。また、評価基準を明確にし、キャリアの将来像を示すことが定着につながります。

「人が辞めない」M&Aを実現するために

人事制度は、企業の背骨です。
M&Aという大きな変化の時だからこそ、揺るぎない背骨を構築し、社員が安心して働ける環境を整えることが、経営者の責務です。

全国対応のオンラインコンサルティングで、貴社の組織統合を全力でサポートいたします。

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