【2025年11月度】冬賞与は「インフレ手当」へ?年末調整の混乱・AIリスクなど重要ニュース5選
2025年11月後半は、年末調整や冬季賞与といった季節業務に関する実務的な課題が浮き彫りになりました。物価高への対応として「インフレ手当」を検討する企業の増加や、デジタル化に伴う現場の混乱など、中小企業が直面する「理想と現実」のギャップがニュースに表れています。
この記事では、2025年11月後半に公表された人事関連の重要ニュースの中から、特に中小企業の経営者・人事担当者の皆様が押さえるべき5つのトピックを厳選。実務で役立つ3つのポイントと併せて詳しく解説します。
この記事でわかること
- 中小企業の冬ボーナスで拡大する「インフレ手当(一時金)」の支給実態と、ベースアップとの使い分け。
- 年末調整のデジタル化で発生している「スマホ申請の壁」と、従業員の負担を減らすサポート体制。
- 外国人材の新制度「育成就労」による転職解禁への対策と、選ばれる職場になるためのポイント。
- 中途採用の失敗を防ぐ「リファレンスチェック」の導入メリットと、法的に正しい実施方法。
- 生成AIの業務利用における「情報漏洩リスク」と、中小企業が最低限定めるべきガイドライン。
1. 2025年冬のボーナス、中小企業で「インフレ手当」としての一時金支給が拡大
- 公表日時: 2025年11月18日 (民間調査機関 調査発表)
- ニュース概要の抜粋:
民間調査機関が11月18日に発表した「2025年冬季賞与(ボーナス)の妥結状況・見通し」によると、大企業では業績連動により高水準の支給が続く一方、中小企業では原材料費の高騰などで原資確保に苦しむ企業が増えています。しかし、物価高による従業員の生活不安を払拭するため、業績連動の賞与とは別に、「インフレ手当(物価高騰対策手当)」という名目で数万~10万円程度の一時金を上乗せ支給する動きが、昨年以上に中小企業で広がっていることが判明しました。基本給を上げる(ベースアップ)と将来の固定費増になるため、一時金で柔軟に対応しつつ、人材流出を防ごうとする企業の苦肉の策とも言えます。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:ベア(基本給アップ)困難時の現実解
- 解説:中小企業にとって、一度上げると下げにくい「基本給」の引き上げは経営リスクを伴います。しかし、何もしなければ従業員は生活苦から離職を検討します。「インフレ手当」や「特別一時金」という形であれば、業績が悪化した際の調整弁を残しつつ、「会社は皆さんの生活を気にかけている」というメッセージを伝えることができます。
- ポイント2:支給基準の「明確化」と「周知」
- 解説:一時金を出す際は、「なぜ出すのか(物価高対策)」「今回限りなのか、継続するのか」を明確に説明することが重要です。ここが曖昧だと、従業員は「来年も貰える」と期待し、翌年支給がない場合にモチベーションダウン(不満)につながります。「今回は特別措置である」ことを社内報や朝礼で丁寧に伝え、恩恵を実感してもらう工夫が必要です。
- ポイント3:賞与への「評価反映」とのバランス
- 解説:生活支援の一時金は「一律支給」が望ましいですが、通常の賞与部分は「成果配分」であるべきです。すべてを一律にしてしまうと、頑張った社員の意欲を削ぎます。「インフレ手当は一律5万円、賞与本体は評価に応じてS~D判定で配分」といったように、生活保障と成果主義を明確に分けた支給設計が、組織の納得感を高めます。
- ポイント1:ベア(基本給アップ)困難時の現実解
2. 年末調整の完全デジタル化、中小企業で「スマホ申請」への移行に壁
- 公表日時: 2025年11月25日 (関連報道)
- ニュース概要の抜粋:
11月下旬より本格化した年末調整シーズンにおいて、政府が進める「年末調整の完全デジタル化(控除証明書の電子データ取込など)」に対し、中小企業の現場で混乱が生じています。大手給与システムベンダーの調査(11月25日発表)によると、従業員向けに「スマホでの年末調整申請」を導入した中小企業は約半数に達しましたが、「操作が分からない」という従業員からの問い合わせが人事担当者に殺到し、かえって業務負担が増したという回答が3割を超えました。ITリテラシーの個人差や、マイナポータル連携の複雑さが障壁となり、結局「紙での提出」に戻すケースも散見されます。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:デジタル化は「導入後のサポート」が9割
- 解説:システムを導入すれば自動的に楽になるわけではありません。特に高年齢層やITに不慣れな従業員が多い中小企業では、「ログインできない」「連携方法が分からない」といった問い合わせ対応に人事担当者が忙殺されます。導入初年度は、あらかじめ「操作説明会」を実施するか、各部署に「IT推進役」を置いてサポート体制を組むことが、定着の必須条件です。
- ポイント2:マイナポータル連携のメリットを提示
- 解説:従業員にとって、新しい操作を覚えるのは面倒です。動いてもらうにはメリットの提示が必要です。「マイナポータル連携をすれば、保険料控除ハガキを探して手入力する手間がゼロになる」「計算ミスでの再提出がなくなる」といった、従業員側の具体的なメリット(ラクになること)を強調して周知することが、デジタル移行を促す鍵となります。
- ポイント3:アウトソーシング(BPO)の検討
- 解説:どうしても社内リソースで対応しきれない場合、11月~12月の年末調整業務だけを外部委託(BPO)するのも有効な経営判断です。人事担当者が年末のコア業務(来期の採用計画や評価調整)に集中できるよう、定型業務である年末調整をプロに任せることで、組織全体の生産性を高めることができます。
- ポイント1:デジタル化は「導入後のサポート」が9割
3. 外国人材の新制度「育成就労」、転職制限の緩和に中小企業が警戒感
- 公表日時: 2025年11月28日 (政府方針の報道)
- ニュース概要の抜粋:
従来の「技能実習制度」に代わり、2027年頃の本格始動を目指す新制度「育成就労制度」について、政府は2025年11月下旬、制度の詳細設計に関するガイドライン案を示しました。最大の焦点は、外国人労働者の「転籍(転職)」の要件緩和です。従来の実習制度では原則禁止されていた転籍が、新制度では「同一業務分野」であれば、一定期間(1~2年)就労した後に可能となる方向です。これに対し、採用コストをかけて育成した人材が、より賃金の高い都市部の企業へ流出することを懸念する地方・中小企業からは、警戒と支援策を求める声が高まっています。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:「選ばれる職場」への転換が急務
- 解説:これまでの技能実習生は「転職できない」ことが前提でしたが、これからは「嫌なら辞められる(転職できる)」制度に変わります。日本人社員と同様に、外国人材からも「選ばれる職場」にならなければ定着しません。給与水準だけでなく、住環境の整備、日本語学習の支援、日本人社員との交流など、居心地の良さ(心理的安全性)を高める努力が不可欠です。
- ポイント2:キャリアパス(特定技能への道)の提示
- 解説:新制度「育成就労」は、長期就労が可能な「特定技能」への移行(人材育成)を目的としています。外国人材に対し、「うちの会社で3年頑張れば、特定技能1号・2号としてリーダーになれる」「将来は母国の工場長を任せたい」といった長期的なキャリアパスを見せることで、目先の時給差による転職を防ぎ、エンゲージメントを高めることができます。
- ポイント3:日本人社員への異文化理解教育
- 解説:外国人材が離職する最大の理由は「職場の人間関係(孤立)」です。受け入れる側の日本人社員に対し、異文化理解や「やさしい日本語」でのコミュニケーション研修を行うことが重要です。「言葉が通じない」と放置するのではなく、チームの一員として対等に接する風土を作ることが、結果として最強のリテンション(引き留め)策となります。
- ポイント1:「選ばれる職場」への転換が急務
4. 中途採用で「リファレンスチェック」導入加速、経歴詐称・ミスマッチ防止へ
- 公表日時: 2025年11月22日 (HRTech企業 調査レポート)
- ニュース概要の抜粋:
中途採用市場の活況に伴い、候補者の前職での働きぶりや人物像を第三者(元上司や同僚)に確認する「リファレンスチェック」を導入する中小企業が急増しています。11月22日の調査レポートによると、導入企業の約半数が「従業員100名以下」でした。背景には、短時間の面接だけでは見抜けない「経歴の誇張」や「勤怠トラブル」「パワハラ気質」などを事前に把握し、採用ミスマッチを防ぐ狙いがあります。オンラインで完結する安価なサービスの登場により、外資系や大手だけでなく、中小企業でも当たり前の選考プロセスになりつつあります。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:採用の「失敗コスト」を最小化する
- 解説:中小企業にとって、1人の採用失敗(早期離職やトラブルメーカーの入社)のダメージは計り知れません。月額数万円や1件数万円で利用できるリファレンスチェックは、この巨大な「失敗コスト」を防ぐための安価な保険と言えます。「面接では完璧だったが、実は…」というリスクを排除するため、最終面接前のステップとして導入を検討すべきです。
- ポイント2:候補者の「承諾」が必須(法適合性)
- 解説:リファレンスチェックを行うには、個人情報保護法の観点から、必ず候補者本人の同意が必要です。「内緒で前職に電話する」行為は違法となり、トラブルの元です。サービスを利用する場合は、システム上で候補者が同意し、候補者自身が推薦者(元上司など)に依頼するフローが一般的であるため、法的な安全性も担保されています。
- ポイント3:ネガティブチェックではなく「活躍のヒント」
- 解説:リファレンスチェックの目的は「あら探し」だけではありません。「どのような環境なら彼は力を発揮するか」「マネジメントする上で気をつけるべき点は何か」といった、入社後のオンボーディング(定着・戦力化)に役立つ情報を得ることが真の目的です。元上司からの「彼は褒めて伸びるタイプ」といった情報は、配属後の上司にとって貴重なマニュアルになります。
- ポイント1:採用の「失敗コスト」を最小化する
5. 生成AIの業務利用、中小企業の6割が「ガイドラインなし」のリスク
- 公表日時: 2025年11月20日 (ITセキュリティ企業 調査発表)
- ニュース概要の抜粋:
ChatGPTなどの生成AIが業務に浸透する中、11月20日に発表された調査で、生成AIを業務利用している中小企業のうち約6割が「社内ガイドライン(利用規定)を定めていない」ことが判明しました。現場の社員が個人の判断でAIを利用しており、顧客の個人情報や社外秘の技術情報をAIに入力してしまう「情報漏洩リスク」が高まっています。一方で、一律に禁止すれば業務効率化のチャンスを逃すことになります。安全に活用するための最低限のルール作りと、従業員への教育が急務となっています。
- 中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:最低限のルール「入力禁止事項」を定める
- 解説:分厚い規定を作る必要はありません。まずは「A4用紙1枚」で良いので、「個人名や電話番号は入力しない」「未公開の製品情報は入力しない」といったNG事項(入力禁止データ)を明確化し、全社員に周知してください。これがあるだけで、万が一の事故の際に会社の管理責任を果たしていた証明にもなります。
- ポイント2:「有料版」の利用検討(データ学習の回避)
- 解説:無料版の生成AIは、入力したデータがAIの学習に使われ、他への回答として流出する可能性があります。ビジネス利用であれば、入力データが学習に使われない設定(オプトアウト)が可能な「法人向けプラン」や「有料版」を会社経費で契約し、従業員に使わせることが、セキュリティ対策の基本です。
- ポイント3:禁止ではなく「活用事例」の共有を
- 解説:リスクを恐れて「AI禁止」にすると、こっそり使う「シャドーIT」が横行するか、生産性が向上せず他社に置いていかれます。ルールを決めた上で、「日報の下書き作成」「メールの文面推敲」など、安全で効果的な使い方の事例を社内で共有し合うことが、DX推進とリスク管理を両立させる最良の方法です。
- ポイント1:最低限のルール「入力禁止事項」を定める
まとめ:年末の実務と未来のリスク管理を両立させる
2025年11月後半は、冬のボーナスや年末調整といった目の前の実務課題と、AIやリファレンスチェックといった新しい技術・手法への対応が同時に求められる時期となりました。
「インフレ手当」で従業員の生活を守りつつ、「デジタル化」や「ガイドライン策定」で業務の効率化と安全性を高めていく。このバランス感覚こそが、来期の成長につながります。自社の賞与設計や採用プロセス、AIルールの見直しなどでお困りの際は、ぜひ専門家にご相談ください。

