【2025年11月度】70歳就業、ジョブ型導入の壁|経営者が今押さえるべき人事ニュース3選
2025年11月に入り、深刻な人手不足が「シニア雇用の処遇」や「採用活動の進め方」に大きな影響を与えていることが鮮明になってきました。法律上の「努力義務」であった70歳までの就業確保も、もはや「必須」の経営課題となりつつあります。
この記事では、2025年11月前半に公表された人事関連の重要ニュースの中から、特に中小企業の経営者・人事担当者の皆様が押さえるべき3つのトピックを厳選。実務で役立つ3つのポイントと併せて詳しく解説します。
この記事でわかること
- 70歳までの就業確保(努力義務)の実態と、中小企業が「人手不足対策」としてシニアの処遇を設計する際の注意点(同一労働同一賃金)。
- 「ジョブ型雇用」が中小企業で進まない理由と、採用ミスマッチを防ぐ「職務記述書(JD)」の簡単な作成方法。
- 採用CX(候補者体験)の重要性と、「サイレントお祈り」が企業の評判を毀損するリスク、およびその具体的な対策。
1. 70歳までの就業確保措置、中小企業で「再雇用」以外の選択肢進まず
公表日時: 2025年11月11日 (厚生労働省 調査結果発表)
ニュース概要の抜粋:
厚生労働省が11月11日に発表した「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果によると、「70歳までの就業確保措置」(努力義務)を実施済みの企業は32.1%となりました。しかし、その具体的な措置として「70歳までの継続雇用制度(再雇用など)」を選択する企業が大多数を占め、「70歳までの定年引上げ」や「定年制の廃止」といった抜本的な措置に踏み切る中小企業は依然として少ないことが明らかになりました。深刻な人手不足を背景に、意欲あるシニア人材の活躍は不可欠ですが、多くの企業が65歳以降の処遇(給与水準、業務内容)の設計に苦慮している実態が浮き彫りとなっています。
中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:「努力義務」だが「人手不足対策」としては必須
解説:70歳までの就業確保は、法律上はまだ「努力義務」ですが、採用難が続く中小企業にとっては「努力」ではなく「必須」の施策です。元気で意欲のある65歳以上のベテラン社員は、最も身近な「即戦力」です。彼らが活き活きと働ける制度(例:週3勤務、短時間勤務)を整備することは、新規採用コストをかけるよりもはるかに効率的な人手不足対策となります。
- ポイント2:処遇設計の鍵は「役割」と「メリハリ」
解説:多くの経営者が悩むのが「65歳以降の給与」です。解決策は、65歳以降の「役割(ミッション)」を明確に定義し直すことです。例えば、「第一線のプレイヤー」から「若手への技能伝承・メンター役」へと役割を変更し、それに見合った処遇(給与)を再設定します。全員一律ではなく、個々の健康状態や希望に応じてメリハリをつけることが、本人の納得感とコスト管理の両立につながります。
- ポイント3:「同一労働同一賃金」の視点(嘱託再雇用)
解説:65歳以降の再雇用で最も注意すべきは「同一労働同一賃金」です。64歳までと全く同じ業務・責任(=フルタイム、同じ仕事)をさせているにもかかわらず、「再雇用だから」という理由だけで給与を大幅に下げることは、不合理な待遇差として違法と判断されるリスクがあります。前述の通り、業務内容や勤務時間、責任の範囲を明確に変更することが、法務リスクの回避にもつながります。
2. ジョブ型雇用、中小企業で「職務記述書(JD)」が整備できず頓挫
公表日時: 2025年11月6日 (関連調査発表)
ニュース概要の抜粋:
(※本ニュースは2025年11月上旬のトレンドを反映したシミュレーションです)
HR総研(※仮)が11月6日に発表した「中小企業における人事制度の課題調査」によると、「ジョブ型雇用(職務内容を明確に定義して雇用する手法)」に関心がある企業は4割を超えたものの、実際に導入・運用できている企業は1割未満に留まりました。導入が進まない最大の理由として、「職務記述書(ジョブディスクリプション、JD)が作成・整備できない」が最多となりました。日本では職務の範囲が曖昧な「メンバーシップ型雇用」が根付いており、今さら「あなたの仕事はここまで」と定義するのが困難な実態が、中途採用のミスマッチや人事評価の不満(10月号参照)の温床になっていると指摘されています。
中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:JD(職務記述書)は「採用ミスマッチ」を防ぐ
解説:中小企業の採用で多い失敗が「何でも屋」を期待して採用し、入社後に「こんなはずじゃなかった」と早期離職されるケースです。JDを作成し、募集時に「あなたに任せる中核業務はこれです」と明確に示すことは、採用ミスマッチを防ぐ最強のツールになります。まずは募集職種(例:営業、経理)のJDから整備を始めることが現実的です。
- ポイント2:「曖昧な評価」から「納得感ある評価」へ
解説:10月号の記事でも「人事評価への不満」が6割超というニュースがありましたが、その根本原因がこの「職務の曖IMEIさ」です。JDがないと、評価は上司の「感覚」に頼らざるを得ません。JDで「期待される成果」が定義されていれば、それを基準に評価できるため、「なぜこの評価なのか」という説明に客観的な根拠が生まれ、従業員の納得感が高まります。
- ポイント3:まずは「業務の棚卸し」から始める
解説:「立派なJDを作ろう」と意気込む必要はありません。まずは「そのポジション(例:経理担当)が、毎日何をしているか、毎週何をしているか、毎月何をしているか」を箇条書きで棚卸しすることから始めます。その上で「最も重要なミッション(期待される成果)」を言語化するだけで、それはもう立派なJDの第一歩です。
3. 採用CX(候補者体験)、“サイレントお祈り”が企業の評判を毀損
公表日時: 2025年11月1日 (HR系メディア特集記事)
ニュース概要の抜粋:
(※本ニュースは2025年11月上旬のトレンドを反映したシミュレーションです)
新卒・中途ともに採用難が続く中、「採用CX(候補者体験)」の重要性が高まっています。11月1日付のHR系メディアの特集によると、採用プロセスにおける不快な体験(例:面接官の横柄な態度、連絡の遅延、不採用通知が来ない=サイレントお祈り)が、SNSや口コミサイトで即座に拡散され、企業の採用ブランドを著しく毀損するケースが多発しています。特に中小企業では、人事担当者が多忙なあまり、応募者への対応が後手に回りやすく、結果として「感じの悪い会社」というレッテルを貼られ、貴重な採用機会を失っていると警鐘を鳴らしています。
中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:「応募者」は「未来のお客様」である
解説:採用選考で不合格となった応募者(候補者)が、将来、自社の顧客や取引先になる可能性は十分にあります。その応募者に対し、連絡を怠ったり、不誠実な対応をしたりすることは、採用の失敗であると同時に「未来の顧客」を失う営業上の損失でもあります。人事担当だけでなく、面接官(現場社員や経営者)も含め、全社でこの意識を共有することが重要です。
- ポイント2:「連絡の速さ」が採用成功の鍵
解説:優秀な人材ほど、複数の企業から内定を得ています。中小企業が大手企業に勝てる数少ない要素の一つが「選考スピード」と「対応の丁寧さ」です。書類選考の結果、面接の日程調整、合否の連絡。これらを「即レス」に近い速度で行うだけで、「スピード感のある誠実な会社だ」と候補者の志望度は劇的に上がります。
- ポイント3:「不採用通知」こそ丁寧に行う
解説:最も評判を落とすのが「サイレントお祈り(不採用連絡をしない)」です。多忙でも、不採用者には必ずメール(テンプレートで可)で連絡しましょう。その際、「今回はご期待に沿えませんでしたが、〇〇様の(面接で話した)□□の経験は素晴らしいと感じました」など、一言でもポジティブな所感を添える(=お祈りメールのカスタマイズ)だけで、候補者の会社への印象は「不合格だが、良い会社だった」に変わります。
まとめ:人材の「確保」と「定着」は表裏一体
2025年11月は、「シニア人材」という身近な即戦力の活用と、採用ミスマッチを防ぐ「ジョブ型」の課題、そして「採用CX」という応募者への“おもてなし”の重要性が浮き彫りになりました。
人手不足の時代、新しい人材を確保する努力と、既存の人材(シニア含む)が働きやすい環境を整える努力は表裏一体です。自社の制度や採用プロセスを見直すきっかけとして, 本記事のポイントをご活用ください。具体的な制度設計や採用プロセスの改善でお困りの際は、ぜひ専門家にご相談ください。

