【2025年9月度】リスキリング助成金75%拡充!「人への投資」が経営を左右する人事ニュース5選
2025年9月は、企業の「人への投資」の姿勢が、これまで以上に経営を左右することを強く印象付けるニュースが相次ぎました。深刻化する人手不足の中、リスキリング助成金の大幅な拡充や、人的資本経営への注目が集まっています。
この記事では、2025年9月に公表された人事関連の重要ニュースの中から、特に中小企業の経営者・人事担当者の皆様が押さえるべき5つのトピックを厳選。実務的な3つのポイントと併せて詳しく解説します。
この記事でわかること
- リスキリング助成金が中小企業向けに最大75%に拡充された内容と、DX人材を「内部育成」するメリット。
- 中小企業こそ「人的資本経営」に取り組むべき理由と、金融機関の評価軸の変化。
- 男性育休取得率40%超えの裏にある「代替要員」問題と、現場の不満を防ぐための具体的な対策。
- 副業・兼業人材を活用する上での「労働時間通算ルール」のリスクと、安全な「業務委託契約」のポイント。
- 新卒採用のトレンド「推し活採用」から学ぶ、スペックでは見えない「熱量」を評価する面接術。
1. 2025年版リスキリング助成金、中小企業の助成率が最大75%に拡充
公表日時: 2025年9月15日 (関連報道)
ニュース概要の抜粋:
深刻化する人手不足とDX推進を背景に、政府は従業員の学び直し(リスキリング)を支援する助成金制度を2025年度版として大幅に拡充しました。特に注目されるのが、厚生労働省の「人材開発支援助成金」です。
今回の改正で、中小企業がDX関連や高度なデジタル人材を育成するための訓練(「事業展開等リスキリング支援コース」など)を実施した場合、経費助成率が最大75%(従来は最大60%程度)へと大幅に引き上げられました。また、訓練中の賃金助成(1人1時間あたり最大960円)も引き続き利用可能です。
これまでは企業単位での申請が中心でしたが、経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」では、従業員個人が直接申請できるキャリア相談や受講費用への補助も強化されており、企業任せにしない学び直しの環境整備が進んでいます。
中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:「人への投資」コストを大幅に軽減できる好機
解説:「研修費用が高い」「研修中の人手が足りない」という理由で人材育成を後回しにしてきた中小企業にとって、これは絶好の機会です。助成率75%(4分の3)が補助されるということは、実質4分の1のコストで従業員に高度な教育を受けさせられることを意味します。人手不足の今こそ、既存の従業員のスキルを高め、生産性を向上させることが最も現実的な解決策です。
- ポイント2:「DX人材=採用」ではなく「育成」という視点
解説:DX人材を外部から採用するのは、採用コストも人件費も高騰しており非常に困難です。本助成金は、外部採用ではなく「内部育成」を強力に後押しするものです。現場の業務を熟知している既存従業員に、新しいITツールやデジタルマーケティングの知識を学んでもらう方が、よほど即戦力となります。まずは自社の課題を洗い出し、どのスキルが必要かを明確にしましょう。
- ポイント3:助成金活用のための「計画」と「申請」の準備
解説:人材開発支援助成金は、研修計画の策定や申請書類の準備が必要です。「研修が終わってから申請」はできません。まずは「どのような人材を育てたいか」という年間職業能力開発計画を立てることがスタートです。申請プロセスが複雑に感じる場合は、助成金申請に強い社会保険労務士などの専門家と連携し、利用できる制度を漏れなく活用することをお勧めします。
2. 中小企業における「人的資本経営」の取り組み、未だ3割未満
公表日時: 2025年9月28日 (関連調査発表)
ニュース概要の抜粋:
株式会社フォーバルが2025年9月28日に発表した調査によると、中小企業における「人的資本経営」(従業員のスキルや経験を「資本」と捉え、投資することで企業価値向上につなげる経営手法)について、「内容を認知している」と回答した企業は37.4%、「実際に取り組んでいる」と回答した企業は27.2%に留まることが明らかになりました。
大企業では情報開示が義務化されるなど対応が進む一方で、中小企業においてはその重要性の認識や具体的な取り組みが遅れている実態が浮き彫りとなっています。
また、同調査では「ビジネスと人権」(取引先での強制労働の有無の確認など)について認知している企業も27.3%と低水準であり、サプライチェーン全体での人権尊重への対応も今後の課題とされています。
中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:「人的資本経営」=「従業員を大切にする経営」の可視化
解説:言葉は難しく聞こえますが、要は「社員の成長=会社の成長」という考え方です。多くの中小企業経営者が実践してきた「従業員を家族のように大切にする経営」を、現代風に可視化・仕組み化することに他なりません。「研修制度を整えた」「資格取得を支援した」といった取り組みを、単なるコストではなく「投資」として捉え、採用サイトなどで積極的に発信することが重要です。
- ポイント2:銀行融資(金融機関)の評価軸の変化
解説:今、金融機関(特に地方銀行や信用金庫)は、企業の財務諸表(B/SやP/L)だけでなく、「非財務情報」も融資判断の材料にし始めています。「従業員の定着率は高いか?」「スキルアップ支援をしているか?」といった「人への投資」姿勢が、企業の持続的な成長力として評価され、融資条件に影響を与える時代になりつつあります。
- ポイント3:「取引先(サプライチェーン)の人権」への意識
解説:今後は、大企業から取引先(サプライヤー)である中小企業に対し、「貴社では不当な長時間労働やハラスメントはありませんか?」といった「人権デューデリジェンス(人権尊重の取り組み)」に関する調査票が送られてくるケースが増加します。対応ができていないと、取引を停止されるリスクさえあります。まずは自社の労務管理が適切か、足元から点検することが第一歩です。
3. 男性の育休取得率40%超え、焦点は「期間」と「代替要員」へ
公表日時: 2025年9月5日、9月16日 (関連報道)
ニュース概要の抜粋:
2024年度の男性育児休業取得率が40.5%(前年比+10.4ポイント)と過去最高を記録した(2025年7月末厚労省発表)ことを受け、9月にはこの「量」から「質」への転換を問う議論が活発化しました。
取得率自体は「産後パパ育休(出生時育児休業)」の創設などで大幅に上昇したものの、その取得期間は「2週間未満」が半数以上を占めています。「取っただけ」の形式的な育休ではなく、いかに中身のある育児参画につなげるかが課題となっています。
また、ニッセイ基礎研究所のレポート(9月16日公表)では、中小企業・小規模事業所において男性育休が進まない最大の理由として「代替要員の確保の困難さ」が指摘されており、同僚への業務負担の偏りをどう解消するかが、今後の制度定着の鍵となります。
中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:「男性育休=当たり前」の採用ブランディング
解説:男性育休取得率40.5%という数字は、学生や若手求職者にとって「当たり前の基準」になりつつあります。採用面接で「男性の育休取得実績はありますか?」と聞かれた際に、実績ゼロでは「時代遅れの会社」と見なされ、採用競争で不利になります。中小企業こそ、たとえ短期間でも取得実績を作り、社内外に発信することが、若手人材確保のための重要な戦略となります。
- ポイント2:「代替要員確保」の課題を「業務見直し」の好機に
解説:中小企業で「代替要員がいない」のは事実です。しかし、これを「だから無理」と諦めるのではなく、「誰かが休んでも回る仕組み」を作るチャンスと捉えましょう。育休取得をきっかけに、属人化している業務を棚卸し、マニュアル化や標準化を進めることで、組織全体の業務効率化とリスク分散につなげることができます。
- ポイント3:「育休中の同僚」への手当・評価を明確化
解説:育休取得者の業務をカバーするのは、現場の同僚です。その同僚が「なぜ自分だけ負担が増えるのか」と不満を持てば、職場の雰囲気は悪化します。そうさせないために、業務をカバーした同僚に対しては、賞与(ボーナス)での明確な評価(プラス査定)や、臨時的な「サポート手当」を支給するなど、経営者が「頑張り」に報いる姿勢を明確に示すことが不可欠です。
4. 副業・兼業促進の壁、「労働時間の通算ルール」緩和の議論が本格化
公表日時: 2025年9月4日 (労働政策審議会 議事録公開)
ニュース概要の抜粋:
厚生労働省の労働政策審議会(2025年9月4日開催)において、副業・兼業を促進するための規制緩和が本格的に議論されました。現在の大きな課題は、労働基準法における「労働時間の通算規定」です。
この規定により、企業は、自社で雇用する従業員が他社(副業先)でも働く場合、両社の労働時間を「通算」して管理する義務を負います。例えば、本業(A社)で週40時間働いた従業員が、副業(B社)で週5時間働いた場合、B社は通算45時間目から割増賃金(残業代)を支払う義務が生じます。
この複雑な管理義務が、特に人事体制の弱い中小企業にとって副業・兼業人材の受け入れを阻害する最大の要因となっており、審議会では労使の合意を前提とした通算規定の緩和・撤廃を求める意見が上がっています。
中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:人手不足解消の切り札「副業人材」
解説:正社員採用が困難な中、高い専門スキルを持つ「副業・兼業人材」の活用は、人手不足解消の切り札です。例えば、「経理のプロに週1日だけ来てもらう」「Webマーケティングの専門家に業務委託で関わってもらう」など、必要なスキルを必要なだけ活用する形態は、中小企業の経営効率を大幅に高めます。
- ポイント2:現行ルールのリスク(割増賃金)を理解する
解説:上記の規制緩和はまだ「議論の段階」です。現時点(2025年)では、副業・兼業で人を雇用(アルバイト等)する場合、企業はその他社の労働時間を把握し、通算して割増賃金を計算する義務があります。これを怠り、後で未払い残業代を請求されるリスクがあることを、経営者・人事担当者は正確に理解しておく必要があります。
- ポイント3:「雇用契約」ではなく「業務委託契約」という選択肢
解説:この複雑な労働時間通算を回避する現実的な方法が、「雇用契約」ではなく「業務委託契約」や「請負契約」で副業人材に業務を依頼することです。ただし、形式上「業務委託」でも、実態が「労働者(指揮命令下にある)」と判断されれば労働基準法が適用されます。契約内容や実際の働き方について、専門家に相談しながら慎重に進めることが重要です。
5. 新卒採用戦線に異変、「推し活採用」などユニークな選考手法が台頭
公表日時: 2025年9月9日 (関連報道)
ニュース概要の抜粋:
2026年卒の新卒採用活動が早期化する中、従来型の「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」や自己PRだけでは学生の個性や本質を見抜きにくくなっているという課題が浮上しています。
こうした中、2025年9月9日、株式会社マーキュリーが2026年卒採用において、従来の自己PRに代えて「推し活トーク」を取り入れる新たな採用手法「推し活採用」を開始したことが報じられました。
これは、学生が夢中になっている「推し」(アイドル、アニメ、ゲーム、スポーツ選手など)について語ってもらうことで、その対象に注ぐ「情熱の深さ」「論理的な説明能力」「継続力」といった、従来の面接では見えにくい潜在的な能力や人柄を評価しようとする試みです。人手不足を背景に、画一的な物差しではない採用手法が広がりを見せています。
中小企業向け・3つのポイントと解説
- ポイント1:自社の「採用物差し」のアップデート
解説:「リーダー経験」や「サークル活動」といった画一的な「ガクチカ」だけで学生を評価していませんか? 「推し活採用」の事例は、学生が持つ「熱量」や「探求心」を評価軸に加えることの重要性を示しています。中小企業こそ、学歴やアルバイト経験といった「スペック」ではなく、自社の理念や仕事内容に「本気で熱中してくれそうか」という「カルチャーフィット」を測る物差しを持つべきです。
- ポイント2:「好き」を語らせる面接の導入
解説:中小企業の面接で、学生が用意してきた「模範解答」を聞くだけでは時間の無駄です。「あなたの『推し』は何ですか?」「最近一番ハマっていることは?」といった、学生が本音で語れる質問を投げかけてみましょう。その対象になぜ惹かれ、どのように情報を収集し、どう行動したかを聞くことで、その学生の「思考の癖」や「行動特性」が明確に見えてきます。
- ポイント3:採用広報への「遊び心」の活用
解説:このニュースは、採用活動自体が企業のブランディングになることも示しています。「推し活採用」というキャッチーな言葉は、学生の注目を集め、SNSで拡散される効果もあります。中小企業も、例えば「社長と行く釣り採用」「自社製品の“推しポイント”プレゼン採用」など、自社の事業内容や社風に合わせたユニークな切り口の採用イベントを企画することで、大手企業に埋もれない存在感を示すことができます。
まとめ:「人への投資」こそが、中小企業の未来を創る
2025年9月の人事業界は、深刻な人手不足を背景に、もはや「人」をコストではなく「資本」として捉え、いかに投資(育成・環境整備)していくかが問われる月となりました。リスキリング助成金の拡充は、その最大のチャンスです。
また、男性育休や副業、新しい採用の形など、働き手の価値観も多様化しています。これらの変化に柔軟に対応し、従業員に選ばれる企業になるための第一歩として、本記事のポイントをご活用ください。具体的な助成金申請や制度設計でお困りの際は、ぜひ専門家にご相談ください。

